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都市伝説と呼ばれて  作者: 松虫 大
第四章 伝説のはじまり
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28 第二次タカマの戦い(3)

『わぁぁぁぁぁ・・・・』


 喊声を上げながら愛馬に拍車をあて、両軍は突撃を開始した。

 両軍とも騎馬隊を中心とした編成だ。

 高原の中央付近で衝突した両軍は、開始当初は戦力に勝る反乱軍が優勢に進めていた。

 特に正規軍二五〇〇名に対して倍の五〇〇〇名を擁するヴィクトルの勢いは凄まじく、一気に陣形の半分近くまで蹂躙していた。


「行け! 一気に蹴散らせ!」


 ヴィクトルは自ら馬を駆り、リーディアに引導を渡すべく声を張り上げ進む。


「はっ、所詮妹が率いる軍勢などこのようなものよ。このまま妹の首を手土産にしてトゥーレに突き出してやるわ!」


 勢いづいたヴィクトルは、ザオラルから奪った父の形見である白く輝くグレイブを手に、敵陣深くまで切り込んで行くのだった。

 一方で反乱軍から見た右翼側もトルスター軍と真っ向から衝突していた。

 反乱軍八〇〇〇名に対してトルスター軍は五〇〇〇名とこちらも兵力的には優勢だったが、これまで出番のなかった右翼大隊(しろぐみ)の士気は高かった。そのため兵力の優位を活かせず、ここまでは互角の戦いを繰り広げていた。


「ええい、ヴィクトル様に遅れているぞ!」


「敵に騎馬の戦いとはどういうものか見せてやれ!」


 ユッシとフベルトはこれまでの汚名を返上とばかりに兵を叱咤しつつ、それぞれの軍勢を率いていく。

 ヴィクトルのように倍とまではいかないものの、敵とはそれに近い兵力差だ。

 しかも散々煮え湯を飲まされてきた厄介な火器を使う兵力は、今のところ温存しているのか前線には出てきてはいない。魔砲弾への対策に不安を抱えていたが、いざ戦いが始まってみるとオモロウで散々な目にあった相手ではなく、目の前に出てきたのは同じ騎馬部隊だったのだ。

 反乱軍は騎馬での戦いで負ける筈はないと意気軒昂(いきけんこう)に軍勢を進めていく。


「ヘルベルトとケビが敵を受け止めている内にアダルベルトに左から回り込ませろ!」


軍勢の最後方で指揮を執るクラウスが矢継ぎ早に指示を送ったあと、後ろに控える男に振り向いた。


「デモルバ殿」


「クラウス様、私はもうトルスター軍に身を置いております。()()は不要でお願いします」


 デモルバは苦笑を浮かべ、自分のことをいまだに殿付けで呼ぶクラウスを軽く睨んだ。彼は一隊を率いる将の立場ではあるが、編成上の最高位はもちろんクラウスで、彼はその麾下に入っている。

 この場には二人以外にも二人の側近や伝令たちもいるのだ。いつまでも客人のように扱えば周りにも示しがつかないし、右翼大隊隊長としての威厳にも関わってくる。


「すまん。どうも慣れなくてな」


 直接干戈(かんか)を交えたことはないが、長く敵同士だった二人だ。味方になったからと言って、急に態度や言葉遣いを変えることは難しかった。

 デモルバもそれはわかっているのだろう。それ以上を苦言を呈することはなく、軽く頷いただけだった。


「それで、私は右より回り込めばよろしいですか?」


デモルバがそう問うとクラウスは静かに首を振った。


「そこは殆ど道がない。下手をすればヴィクトルの兵と挟撃される恐れがある」


 高原の中央部分は特に起伏が激しく、ほとんど行軍に適した路はなかった。また二手に分かれた軍勢の間を進むことになる。道を探しながら進む内にヴィクトルの軍勢に補足される可能性もあり、そうなれば左右から挟撃されるかも知れない。

 そもそも起伏が激しいために二手に分けたのだ。意表を突くことができるかも知れないが、姿を隠す場所が殆どないことを考えると中央を進むのは悪手でしかないだろう。


「それではどこに?」


 先ほどデモルバの名を呼んだのは、わざわざ話し相手を求めた訳ではない筈だ。


「貴殿には敵後方に回り込んで貰いたい」


「後方・・・・!?」


「この戦いは我らが勝つ。恐らくヴィクトル殿は高い確率でレボルト方面へ逃走をはかる筈だ。貴殿にはその退路を絶ってもらいたい」


 クラウスのその言葉にデモルバは思わず息を飲んだ。

 戦いが始まってまだ殆ど時間が経っておらず、戦果がまだどちらに零れ落ちるかもわからない状況だ。むしろ緒戦は反乱軍の勢いに押されているようにも見える。ただでさえ不利な兵力差だ。そのような状況の中でのクラウスの判断に、彼は疑問を抱かずにはいられなかった。


「退路を絶つ、ですか?」


 クラウスは長年、寡兵のトルスター軍を支え続けてきた実力者だ。

 まだそれほどの付き合いではないが、希望や推測で作戦を決めるような人物ではないことは、デモルバはその短い付き合いの中でも理解していた。ましてやイグナーツのような選民思想の持ち主でもなければ、人物の好き嫌いで態度を変えるような人物ではない。そのため新参者であるデモルバを遠ざける意図ではないことは明らかだった。


「信じられぬのも無理はない。正直言えば私もまだ半信半疑なのだ」


 疑問の目を向けるデモルバに、クラウスはそう言うと肩を竦めた。


「もしかして、例の『勘』とかいうやつですか?」


 そう問うとクラウスは苦笑を浮かべた。

 どうやら噂に聞くトゥーレの勘が早くも発動したらしい。

 先年の戦いでは、戦いの分水嶺(ぶんすいれい)となったドーグラスの行方を突き止め、討ち取るきっかけを作ったと言われている。

 任意に発動させる事やいつでも発動する事はできないそうだが、ここぞという時に発動し、数々の危機を救ってきたそうだ。


「今まではドーグラス殿の居場所とか危機的状況を回避するためだとかが多かったのだが、今回は戦いの前から発動したらしい。油断につながっては元も子もないため、流石に兵に告げることはできないが、私とユーリの二人にだけはこっそり教えてくれたのだ」


 その勘によればある時点で戦況が大きく動き、反乱軍が総崩れになるのだという。

 流石に細かいところまでは予知できないようだが、今まで勘が発動して外れた事は殆どない事から、クラウスとしても信じない訳にはいかないという。


「ヴィクトル殿はトゥーレ様にとってもリーディア様にとっても因縁の深い相手だ。この機会を逃せば次何時巡って来るかわからんからな。半信半疑のところ申し訳ないが、貴殿にはこっそり高原を出て街道沿いに待機してしてもらいたいのだ」


 正規軍にとってはダニエル政権が崩壊するきっかけとなった相手であり、トルスター軍にとっても前領主ザオラルの仇でもある。ヴィクトルを捕らえることができれば、タカマでの戦いは大勝利となるだろう。

 クラウスははっきりと口にしなかったが、新参者であるデモルバにヴィクトル捕縛の手柄を上げる機会を与える意図もあるのだろう。


「承知した。必ず敗走させてくださいね」


「もちろんだ。トゥーレ様の勘に頼らずとも端から負けるつもりはないわ!」


 そう言うと自信ありげに口角を上げて笑った。

 それからしばらく後、デモルバは五〇〇騎の手勢を率いて、ひっそりとタカマ高原を跡にするのだった。

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