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都市伝説と呼ばれて  作者: 松虫 大
第四章 伝説のはじまり
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20 オモロウ海戦(1)

 ネアン官邸の小広間で軍議が開かれていた。

 今回トゥーレに招集されたのは左翼大隊隊長の三名だ。

 すなわちユーリにルーベルト、それにピエタリの三名だ。内容はもちろんウンダル奪還に対する案件になる。

 年明けに予定されているウンダル奪還作戦まで残り半年を切る中、差し当たって決めておかなければならない事があった。

 カモフにとってウンダルは隣接した領地とはいえ、陸路を進めばフォレスまでは早くとも半月、長ければ一カ月ほどの行程となり、そこから更にレボルトまでとなれば数カ月に及ぶ大遠征となる。

 ウンダルの奪還という大義名分があれど、今のカモフにそれだけの長丁場を戦い続ける兵力も体力もない。

 そのため現実的な策としては、任意の地点を占領し橋頭堡(きょうとうほ)を築き相手に出てこざるを得ない状況を作る事だ。敵地を占領し(くさび)を打ち込む事ができれば、エリアスを引っ張り出し短期決戦に持ち込む事も可能となるだろう。


「問題はどちらを落とすかですね?」


「フォレスはご存じの通り廃城となっていますが、フォレス湾にはユッシ殿とフベルト殿が率いる水軍が駐留しています。フォレスを目指す場合は上陸前に海戦となる事は必至でしょう。

 一方のオモロウにもヴィクトル殿が駐屯してます。こちらには水軍と呼べる程のものはありませんがフォレスに比べれば兵力も充実しています。こちらは上陸はできても拠点を築くまでは激しい抵抗を受けるものと考えるべきでしょう。

 どちらにしても両地点の距離は近く、連携して対処してくるでしょう」


「どこを攻めるにしても流石に簡単に上陸させてはくれんだろうな」


「そうですね。上陸できたとしても二〇〇〇名余りの兵数でまずは持ち堪えなければなりません。何処に上陸するにしても第二陣以降が揃うまでは激しい戦いになる事は変わらないでしょう」


 今回の動員予定では、全軍が上陸するだけでも三回から四回の往復が必要だと試算されていた。もちろん船の調達が今よりも進めば回数は少なくできるだろうが、武器や弾薬、食料も含めると六回から七回の往復になるだろうと予想されている。

 オモロウやフォレスまでは片道二日から三日の行程が必要なため、物資も含めて輸送が完了するには単純計算で四十日近く日数を要する事になる。

 その間万が一、拠点の防衛に失敗してしまうと、戦力に余裕がない彼らは一気に苦しい局面に追い込まれてしまう。


「勅命がなければもう少し準備に時間が取れたのですがね」


「今更それは言えんでしょう? どのみち早いか遅いかの違いで困難なのは一緒ですぜ」


 準備期間の短さを嘆くルーベルトだが、すぐにピエタリはどちらでもそれほど変わらないと一蹴する。

 準備を整える時間があるという事は相手も同じだ。

 結局は相手よりも多くの兵を揃え、戦略や戦術を駆使し局面で上回れるかにかかっている。綿密な計画を練ったとしても、実際に矛を交えるまでどちらに勝利の女神が微笑むかはわからない。

 ドーグラスとの戦いに勝利したのは、事前の計画と局面の対応で相手を上回る事ができたからだ。

 前回と今回で共通しているのは、準備期間はあるがどちらも兵力では劣っているという事だ。総兵力が一〇〇〇〇名を数えるようになったとはいえ、ウンダルは三〇〇〇〇名を超える兵力を有する大領地だ。

 いくら逆賊のレッテルを貼られているとはいえ、僅か一〇〇〇〇余りの兵力では返り討ちに遭う可能性が高い。そのため今回の戦いも火力を含めた事前の準備が重要な要素となる。


「どちらにしてもまずは海戦で相手水軍を潰す必要があります。オモロウにしろフォレスにしろ、おそらく相手は全力で我らの上陸を阻止しにきます。どちらにしても厳しい戦いになるのは違いありませんが、どちらかと言うならオモロウをまずは押さえたい所ですね」


「水軍相手なら我々の腕の見せ所です。役に立って見せますぜ!」


 レボルトへの進路を考えれば、より近いオモロウを先に押さえておきたい。

 打算的な考えを隠す事なく発言したユーリに、黒い笑顔を浮かべたピエタリが便乗する。


「何よりオモロウにはザオラル様の仇であるヴィクトル殿がいます」


 ルーベルトもヴィクトルをはっきりと敵だと認識しているようで、オモロウへの上陸に賛成なようだ。


「ヴィクトル殿には先年の貸しがある。父上の仇は俺の手で討ちたい所だが深追いするつもりはない。まずは上陸戦の成功が前提だ!」


 ヴィクトルと戦うとすればオモロウへの上陸時がもっとも可能性があるだろう。

 だがこの戦いはエリアスからウンダルを取り戻す戦いだ。

 トゥーレとてもちろん機会があればヴィクトルを討つつもりではいたが、私怨を晴らすために個人の恨みを引き摺った戦いをするつもりはなかった。

 父を討たれたがそれは父が死を覚悟して臨んだ戦場での事だ。

 その結果として父は戦場に散った。

 ザオラルもトゥーレも納得した上での作戦だったため、彼自身それほどヴィクトルを恨んではいない。どちらかと言えば当時の自分の不甲斐なさを嘆いていたくらいだ。

 実際にヴィクトルを目の前にすればどうなるか分からないが、現在の所トゥーレの頭を占めているのは如何にエリアスを討ち破るかだけだった。

 そのための最短ルートと予想される敵の布陣状況と取り得る作戦、彼我の戦力差など多くの情報を精査分析して勝利へと導かねばならないのだ。そのためヴィクトルだけに構っている訳にはいかなかった。


「上陸地点はいかがなさいますか?」


 ユーリの発言で皆の視線がトゥーレに集まった。

 彼はしばし黙考した後、静かに顔を上げる。


「そうだな、まずは全力でオモロウを押さえ橋頭堡とする。その後敵の状況を見つつレボルト方面に向かいエリアス殿を誘い出してこれを討つ!

 緒戦でオモロウをどれだけ損害を少なく取れるかにかかっている。貴様たち左翼大隊の働きが頼りだ。これから冬になる事を考えれば時間はそれほどない、準備を怠るな!」


「「「はっ!」」」


 トゥーレの檄に重なった声が応えた。


 開戦緒戦に限れば火力に優れる左翼大隊が先陣を任される事は決定事項だった。

 左翼大隊は火力を前面に出して敵を制圧し橋頭堡を確保、その後右翼大隊が到着するまで拠点を防衛するという大役を担う予定だ。

 その後の展開を考えても失敗は許されない。そのため彼らはジャンヌ・ダルクとブブリナ・ラスカリナを使って繰り返し訓練を重ねていた。

 その訓練方法は激しく、時に船体をぶつけ合いながらの白兵戦や強襲での上陸戦など多岐にわたり、隊員たちは真剣な表情で訓練に励んだ。


――そして


 王国歴三四〇年を迎えた春。

 旗艦ジャンヌ・ダルク、二番艦ブブリナ・ラスカリナを中心としたカモフ軍艦隊がウンダルへ向けて出航していく。

 トゥーレ初めての遠征となるエリアス討伐の戦いがいよいよ始まる。

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