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都市伝説と呼ばれて  作者: 松虫 大
第三章 カモフ攻防戦
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32 サトルト会議(2)

「では、次は私から報告いたします」


 軽く手を挙げてクラウスが発言を求める。

 トゥーレが促すと『では』と太い大きな声で報告をはじめた。


「ネアンを囲んでいる城砦(じょうさい)ですが、ウロの砦以外のビオンとデコのふたつは改修が終わりました。残っているウロもあとひと月もすれば完了します」


「敵の抵抗は?」


「幸いピエタリ殿の嫌がらせもあって、ストール軍はネアン防衛を重視しているようで、今のところ大きな抵抗には遭っていません」


 ネアンの牽制のため城砦の改修を命じたビオン、デコの両砦は改修が完了していた。残っているウロも外構は完成しており、城砦の機能としては問題ないレベルとなっていた。


「順次さらなる砦の建設や改修に移行していきます」


「必要な物資はオリヴェル様や私に言ってくだされば用意いたします」


 クラウスの報告に対し、オリヴェルと共に軍需物資の手配をおこなっているオレクが補給面の支援を申し出る。


「わかった。三人には伝えておく。物資の輸送は引き続きピエタリ殿にお願いする」


「承知しました」


 そう言ってピエタリが大きく頷いた。

 サトルトを拠点とする彼だが、今では水軍だけでなくサザンの水運業をも支配するようになっていた。大きな混乱なく水運業を引き継げた理由としては、元々カモフの物流を支配していたトルスター家の事業をトゥーレから委譲される形で受け継いだことが大きかった。

 もっとも水運業に関してはピエタリの実弟に運営を丸投げしているためほぼ何もしていなかった。

 湖を支配することは現在のトゥーレにとっても重要な案件だ。しかし本来の業務とはいえ今のトゥーレには為政者としての業務もあり、だんだんとそこまで手が回らなくなっていた。そのためピエタリの一族に委譲できたことは、物流の利益を減らすことになったとしてもそれほど痛くはなかったのだ。


「続いて鍛冶工房の報告を頼む」


「はい、鍛冶工房については予定していた十八軒の工房建設は完了し、全て順調に稼働しています。そのうちヴァイダ工房を含めて三軒が魔法兵器専用の工房として準備が整いました」


 いつの間にかルーベルトは、鍛冶工房を取りまとめる窓口の役に収まっていた。今も鍛治町と呼ばれるようになった鍛冶工房の状況について、何も言わないうちから勝手に報告を始めた。

 その様子に本来担当していたオリヴェルを始め、周りで失笑が起こり生温かい空気に包まれるが、ルーベルトは全くお構いなしだ。


「魔砲は量産できそうか?」


「さすがに鉄砲のような速度での量産とはいきません。ですが軌道に乗ればひと月に十挺ほどは生産できる予定です」


 苦笑を浮かべたトゥーレの質問にも、予想を含めて的確な受け答えをおこなう。トゥーレは彼の隣に座るオリヴェルに確認するように顔を向けるが、彼は特に否定することなくルーベルトの言葉を追認するように頷き、そのまま弾薬について報告をおこなう。


「鉄砲と合わせて通常弾の手配は順調です。魔砲弾や特殊弾に関しては少し遅れていますが誤差の範囲内です。今のところ十分に取り戻せます」


 魔砲用の弾丸や鉄屑や小石を詰めた五号弾などは、通常の弾丸に対し特殊弾と呼称されるようになっていた。通常弾と違い殺傷力の高い特殊弾は、工程が複雑となり一発作成するのに要する時間は、通常弾のそれに比べると数倍、場合によっては十倍に達することもある。

 それらの作業は鍛冶工房に隣接して作られた加工工房で平行しておこなわれていた。元々鍛冶工房で一貫しておこなっていた銃の組み立てや弾丸作成作業だったが、作業効率が悪いことに加え作る工房によって銃や弾丸の口径や微妙に異なる不具合が多発した。

 口径が違えば想定通りの能力が出せず、最悪の場合暴発の事故が起こり、貴重な兵と兵器に損害が出てしまう。そこでルーベルトは鍛治町で製造する兵器の規格を統一し、銃や弾丸のサイズを細かく規定したのだ。

 プライドの高い職人たちを説得することにある程度の時間が必要だったが、規格が統一されたことで組み立て時に多かった嵌合不良(かんごうふりょう)を大幅に減らすことに繋がった。最初は不満を漏らしていた職人たちも、結果的に作業の効率が上がることでその声も徐々になくなっていき、今では逆に使用する道具類までも規格統一化の動きが出ているほどだった。


「ではユーリ、そちらの状況はどうだ?」


 続いてトゥーレはユーリに報告を促す。

 彼は手元の資料に一度目を落とすと直ぐに顔を上げ、背筋を伸ばしながら口を開いた。


「カントは幾つかの防御施設は完成し、現在はそれと平行して川の堤防を嵩増(かさま)しする作業をおこなっています」


 カントの傍を流れるアーリンゲ川を天然の壕として、町に隣接する形で小規模ながら防御施設を建造していた。

 サザンの防御力が高いとはいえ、そこまで敵の侵入を許せばもはや押し返すことは不可能だ。そのためその手前、カントでの防御ラインの構築をユーリら元坑夫たちに任せていた。

 彼らは持てる土木技術を遺憾(いかん)なく発揮し、カントを半ば要塞へと変貌させていた。とはいえ、彼らの戦力を遙かに勝る大軍を相手に籠城してもジリ貧になるだけだ。


「それで、タステ方面はどうなっている?」


「順調に準備は進んでいます。ですが本当にやるんですか? カントをもっと大規模な要塞に仕上げた方が確実だと考えますが?」


 まだ一部の者以外には秘匿(ひとく)されている作戦のため、言葉を選びながら慎重にユーリが口を開いた。彼の表情には困惑が浮かんでいる。

 発端は彼が模擬戦で一度試した作戦だった。それをトゥーレが気に入り今回採用することになった戦術だ。それ自体は古くからある戦術のため採用を決めたトゥーレはともかく、実際に試したユーリですら未だに半信半疑だったのだ。


「遊びとはいえ貴様が効果を実証したじゃないか」


「それはそうなんですが、ぶっつけ本番で使うような戦術じゃないでしょう?」


「そうか? 俺は上手くいけば戦いそのものが変わるんじゃないかと思うがな」


 困惑するユーリに対して、トゥーレは面白そうな顔を浮かべていた。

 模擬戦とはいえ実際に彼らと相対したのはトゥーレ本人だった。その戦いで彼はユーリに破れたのだ。それもトゥーレは完敗と言える敗北を喫したのだった。


「私はトゥーレ様を信じて戦うだけなので、持ち堪えられず敗走しても恨まないでくださいね」


「どっちみち貴様が耐えられなければ、セノに準備させていることも無駄になる。だから準備はしっかりしておいてくれ」


 今ひとつ用意している作戦に自信が持てないユーリに、笑みを浮かべたトゥーレが発破をかけた。

 敵主力と正面からぶつかると予想されているカントでは、クラウスやヘルベルトではなく、実績の乏しいユーリやルーベルトが対応することが決まっていた。

 周りから見れば最重要な場所に実績のない新人を抜擢したことで、周りからは戦う前から自棄(やけ)になったとしか見られていなかった。

 戦いが始まる前からサザン内では一枚岩と言えず、祖父や父の代から仕える騎士の中にはストール軍と接触を謀る者も出始めていたのだ。

 サザンではどこから情報が漏れるか分からないため、今回サザンではなくサトルトでこうして会議を行っていたのだ。

 ひと通り報告が終わると、トゥーレは立ち上がり皆を見渡す。


「さて、ドーグラスが動くのはおそらく春になってすぐになる筈だ。残りの時間は半年ほどと少ないが皆、頼むぞ!」


『はっ!』


 トゥーレはドーグラスとの決戦は年が明けてすぐに起こると考えていた。

 残された時間が少ない中で、それぞれに全力で取り組むようあらためて通達した。通達を受けた皆は大きく頷いてトゥーレに応えるのだった。

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