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都市伝説と呼ばれて  作者: 松虫 大
第三章 カモフ攻防戦
114/204

18 敵中突破(1)

『うおおおぉぉぉぉぉぉ・・・・』


 地の底から響いてくるような喚声(かんせい)を上げながら、一〇〇〇に満たない一団がユッシの軍勢に突撃を敢行した。

 ラーシュとの戦いで兵力を消耗していたユッシは、エリアスから新たに兵三〇〇〇名を与えられ、エリアス本隊を守る防波堤として布陣していた。

 突撃してきたザオラル隊とは、実に四倍近くの開きがあるユッシ隊だったが、ザオラル隊の勢いに()(すべ)もなく蹂躙(じゅうりん)されていく。


「くっ、エリアス様が見ているのだぞ! 押し返せ!」


「な、なんだこいつら!」


「全然止まらねぇぞ!」


 焦ったように馬上で声を張り上げるユッシだったが、死を覚悟したザオラル隊の勢いは止まらない。

 ユッシ隊の兵にとっては、この戦いは何もしなくても勝利がほぼ確定している戦いだ。生き残れば地位や名誉、金などの恩恵にありつけるが、死んでしまっては戦いに勝ったとしても、それらにありつくことができないのだ。

 死を覚悟したザオラル隊は、多少の負傷では突撃を止めることはない。命を惜しんだユッシ隊は、殆ど抵抗することなく逃げ惑っていく。


「くそっ! このままでは!」


 ラーシュとの戦いで多くの子飼いの部下を失ったことが響いていた。新たに編成した兵は、敵兵を食い止めることができず、押し返すどころか逆に蹂躙される始末だ。

 その屈辱にユッシは馬上で真っ赤に顔を染め上げていた。踏み留まるように必死に声を張り上げるが、敵兵に怯えて蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う兵には、どんな言葉も届かなかった。

 ユッシは周りで声を張り上げる側近たちに声をかける。


「仕方ない。敵の勢いを食い止めるには私が出るしかない」


 愛用の槍を握りしめ、覚悟を決めた表情を浮かべた。


「ユッシ様が出て行かれなくても我らが食い止めます」


「いや、相手は死を覚悟した死兵(しへい)だ。もはや貴卿(きけい)らでも押し返すのは無理だろう。それに、ここで相手を食い止めねば、その矛先がエリアス様に向かってしまう」


 その言葉に側近たちもユッシの覚悟を悟り、表情を引き締めた。


「では我らがユッシ様の露払いをさせていただきます」


「ユッシ様が覚悟を決められたからには、私たちだけ生き残る訳にはまいりません。ぜひ我らを盾としてお使いください」


「・・・・すまぬ」


 側近たちの言葉に、ユッシは感極まったような表情で頭を下げた。決死の覚悟を決めた主従は愛馬に拍車を押し当てると、一丸となって死兵が猛威を振るう戦場へ向かって駆けだすのだった。






 ザオラルが敵部隊に突入していくと、本来それを阻止するべき筈の敵兵が逃げ惑い、矛を交えることなく左右に別れ道ができていく。

 暫く無人の野を風のように疾走していたザオラル隊の前に、ユッシを中心とした精兵が立ちはだかる。


「足を止めるな! このまま押し通る!」


 ザオラル隊は脚を止めれば、たちまちのうちに敵兵に囲まれてしまうことが分かっているため、誰一人速度を緩めることなく人馬一体となって突き進んでいく。


「ここで食い止めるぞ。続けっ!」


 ユッシも愛馬に拍車を当て、集団の先頭に立って疾走を開始した。

 全速で向き合いながらの突撃だ。双方の距離は見る間に詰まっていく。


「ザオラル殿、覚悟!」


 先に仕掛けたのはユッシだ。数えきれぬほどの敵兵を(ほうむ)ってきた神速を誇る突きを繰り出した。


「・・・・」


 胸元を狙った必中の突きだったが、ザオラルは半身になって軽々と躱してみせる。槍先が(かす)めた漆黒のサーコートは亀裂が入ったように綺麗に割けたが、ユッシ渾身の突きは、残念ながらその下の鎖帷子にすら届いていなかった。

 ザオラルは無言のまま、すれ違いざまにハルバードを下から切り上げた。


「ぐぁあっ!」


 ハルバードの切っ先はユッシの愛馬ごと彼の右足を切断し、槍を突きだしたままの彼の右腕を根元から切り落とす。

 右半身の手足を同時に失ったユッシはたまらず落馬し、土煙の中に消えてい行った。

 ザオラルは振り返ることなく手綱を握り直すと、前方を見据えたまま馬を走らせていく。

 彼に従う老騎士たちも相対した相手に(ことごと)く勝利を収め、そのままザオラルの背を追っていく。


『す、凄い!』


 彼らに護られながら馬を走らせるリーディアは、ザオラルをはじめ老騎士たちの強さに内心感嘆の声を上げていた。

 ザオラルが一刀のもと切り捨てたユッシは、父オリヤンの元でストランド軍四天王のひとりとして名を馳せていた人物だ。

 得意の得物である槍は、その突きの早さではオリヤンをも凌ぐとも言われていた人物だった。彼に従う側近たちも、戦場ではそれぞれ名を知られるほどの精兵揃いだったのだ。勢いの差があるとはいえ、ここまで一方的な戦いになるとは彼女は思ってもいなかった。

 それはリーディアに陰のように従っていたアレシュも同じだった。

 彼にとって四天王は物心(ものごころ)が付いた頃より憧れの存在だった。彼らのように名を上げ、いつしか彼らと(くつわ)を並べて共に戦う事を夢見ていた。

 敵として立ち塞がったユッシに、リーディアだけは護らねばと、内心命を賭ける覚悟までしていたのだ。

 それが一合も打ち合うことなく一蹴したザオラルに驚嘆した。同時に彼らと共に戦える喜びに身を震わせるほど歓喜していた。

 一団はほどなくユッシ隊を突破すると、速度を緩めず前方に立ち塞がるエリアス本隊が見えた。


「アレシュ殿、今だ!」


「姫様!」


「ご武運を!」


 テオドルの声に頷いたアレシュがリーディアを促す。リーディアは一同を見渡すと短くそう声を掛け、護衛の騎士三〇名を引き連れて戦線を離脱していった。

 リーディアを離脱させたザオラルは改めて周りを見渡した。長く従ってきた歴戦の騎士たちが彼を見つめている。全員生還することなど考えていない、覚悟を決めた表情だ。


「皆、これまでよく付いてきてくれた。これより最後の突撃に入る!」


 ここまで大活躍の彼らだが、すでに死を覚悟した騎士たちに迷いはない。一人でも多く、死の道連れを連れていこうと腕を()していた。


「目指すはエリアス卿ただひとり! それ以外には目もくれず駆け抜けろ! カモフを遠く離れた地ですまないと思うが、貴卿らの命、私にくれ!」


『おう!』


 地の底から響き渡るような雄叫びを上げ、ザオラルを中心とした一団が一塊となってエリアス本隊に向かって駆けていく。

 迎え撃つエリアス本隊は兵力約五〇〇〇名。さすがにユッシ隊のように浮き足立つことはないが、それでも勝ち戦に命を惜しむ気持ちが迎撃の動きを若干鈍らせていた。死兵の突撃が敵陣の中央を(きり)のように穿(うが)っていく。


「敵は死ぬ気で来てるんだ! 少しでも怯めばやられるぞ!」


重装歩兵(ファランクス)前へ! 敵の勢いを止めろ!」


「ここが踏ん張り所だ! ザオラルを討って名を挙げろ!」


 部隊長と思われる騎士が必死でザオラル隊の勢いを削ぐために声を張り上げていた。

 防衛部隊は数を頼りにザオラル隊を殲滅せんと、退路を断って包み込むように動いていくのだった。

ザオラル無双

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