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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-098 迎撃準備


「下の村へ退避準備を知らせてくれ! クロスボウを託された者達は、ここに集合だ!」


 後ろにいた伝令役の少年達に告げると、1人が直ぐに尾根を下りて行った。


「さて、東には?」

「戦になるとは限りません。向こうの尾根に魔族軍が現れてからでも間に合うでしょう」


 レイニーさんの問いに答えたところで、ナナちゃんと残った伝令の少年に作業を中断して小隊長は指揮所に出頭せよと伝えて貰う。

 作業部隊が2個小隊以上いるんだからね。様子を見るならこの戦力で十分だろう。


 指揮所に駆け込んできた小隊長達を席に着かせると、状況を伝える。

 ちょっと驚いていたけど、悲壮感はないみたいだな。


「とりあえず作業は中断だ。向こうの出方を見ることになるが、スコティは下の村からやってくる増援を第5分隊として指揮してくれ。ソレットは屯所より爆裂矢の箱を運んで欲しい。カタパルトをまだ持ってきていないから、オーガが出たなら爆裂矢で相手をすることになる」

「軽装歩兵にもウーメラの準備をさせておきます。かなり険しい斜度ですからねぇ。上ってくるだけで体力を消耗するに違いないです」


 レイニーさんやエルドさんもこの場で戦うつもりのようだ。

 部屋の片隅に置いてある弓や槍に視線が向いている。


「済まん、遅くなった!」


 遅れてやってきたのはネコ族のレンジャー、ニデルさんだ。5人ほどのチームを組んで長くこの尾根の見張りを続けている。


「来る途中で西の尾根を見てきたが、後続がいないようだ。偵察部隊とみるべきだな」

「一応作業中断です。俺も、その意見に賛成ですが、何せ魔族ですからねぇ」


 大部隊の斥候なのか、それとも周辺状況を確認するための偵察兵なのか……。

 あれだけでは分からないんだよなぁ。もう少し動きがあれば良いんだが。


「北から迂回して、西の尾根の先を見て来ようかと思っているんだが?」

「ありがたい話ですけど、危険では?」


 俺の心配に、笑みを浮かべる。


「それほど大規模に行うわけでは無いからな。西に稲の更に西を見るだけだ。北に大きく迂回すれば魔族と鉢合わせをすることも無いだろう。それじゃあ、報告は明日の朝ということで……」


 こちらの監視はカリンさん達が行っている。15人の半数近くがネコ族だから、夜間監視も問題はあるまい。


「武装待機状態を続けることになりますね。様子見だとは思うんですが……」

「要害を作ったからなぁ。軽く威力偵察を行いかねないぞ。そうなると攻め手は小隊規模ではあるんだが」


 俺達と違って魔族の軍隊は1個小隊が100人ほどだ。

 最悪2個小隊としても俺達の2倍にはなるだろう。爆裂矢をもっと持ってくるべきだったかもしれないな。


 たまに望遠鏡で西の尾根を見るんだが、俺の芽に入った魔族はゴブリン族ばかりだ。カリンの話では複数のホブ・ゴブリンを見たということだが、そうなると寄せ手の後ろにもう1個小隊を持つということになる。

 夜も即応態勢ということで、毛布をかぶって仮眠を取る。

 西にいくつかの焚火の光が見えるということだから、やはり威力偵察とみるべきだろうな。

 大軍勢で来たならば、焚火の数が西の尾根をはっきりと見せてくれるに違いない。


 体を揺すられて目が覚めた。

 体を起こすと、ナナちゃんが弓を持って俺を見ている。

 やって来たってことか!

 毛布を跳ね除けるようにして立ち上がると、盾を横にしたテーブルに向かう。


 レイニーさんが指揮所の片隅のストーブで沸かしたお茶をカップに入れて渡してくれた。

 一口飲んだけどかなり苦いな……。でもおかげで目が覚めてきた感じだ。


「変化があったと?」

「急に焚火が増えたようです。30を超えていると、先程見張りが教えてくれました」

 

 30というのも微妙だな。やはり威力偵察ということになるんだろう。

 どんな魔族が攻めてくるんだろうか? ゴブリンばかりだとありがたいんだが……。


「まだ薄明にもなりません。望遠鏡でも魔族の種別は判断できないとのことでした」

「やはり明るくなってから攻めてくるんでしょうね。俺達にも都合が良いです。この尾根が俺達を守ってくれますよ」


 お茶を飲みながらレイニーさんが話してくれた中には、村への増援依頼もあった。

 焚火の数が増えたことを憂慮したんだろう。増援規模が1個小隊ということであれば村の防衛にそれほどの影響は無いだろう。

 

「都合3個小隊の削減であれば、現状での村の防衛は何とかなるでしょう。こっちが早めに終わってくれれば良いんですが」

「麓の村を早めに大きくしないと心配ですね」


 レイニーさんの言葉に、小さく頷く。

 確かに2個小隊規模で増援可能なら、東からの増援もそれほどいらないだろう。

 だけど、去年に入植したばかりだからなぁ。

 もう少し開拓が進まないと村の拡大に無理が出てきそうだ。

 マクランさんが言うには、開墾は人生だそうだ。直ぐに結果が出ることは無い。努力するほど報われるということなんだが、努力しても報われないということは身に染みて分かっている。

 だが、落ちこぼれにも矜持があることだけは理解したつもりだ。

 努力しても報われないということが分かっただけでも十分だ。それ以外の能力を高めれば良い。それが他人には理解できない力であっても、その力は俺の力なんだから。


「相手が中隊規模でないことを祈るだけです」

「さすがに、最初からそこまで軍勢を出しては来ないでしょう。俺としては威力偵察の可能性が高いと思っています。自分達の軍勢を大きく見せるには、焚火が一番簡単ですからね」

「レンジャーの偵察結果が待ち遠しいです」


 朝になれば戻ってくるということだったが、かなり早く戻ってくるかもしれないな。薄明が始まれば森の中でも動けるのがレンジャーだ。

 一服しながら彼らを待っていると、朝日が昇る頃になってようやく指揮所にニデルさんが顔を出してくれた。

 お茶を飲みながら話してくれたところによると、やはり魔族の総数は1個中隊にも満たない数らしい。

 思わずホッとして胸を撫でおろしたが、それでも大きな部隊が3つあったということは3個小隊規模だということになる。

 およそ300体の魔族だ。俺達の2倍を超えているな……。


 全員の視線は俺に向けられる。

 作戦を早く話せということかな?


「やはり威力偵察ということでしょう。攻めてくる可能性が極めて高いです。尾根筋のどこを狙うかは分かりませんが、この指揮所は尾根にポツンと立っているように見えるはずですから、狙うとなればここが一番可能性が高いですよ」

「重装歩兵と銃兵、それに弓兵とクロスボウ兵を2個分隊ずつ、ここに待機させましょう。残りは下と上の待機所に配置させることで遅れは取らないかと」


 エルドさんの言葉に大きく頷く。2つの待機所にはそれぞれ弓兵とクロスボウ兵が1個分隊ずつになるが、麓の村からの援軍がいるからクロスボウ兵は2個分隊近くに膨らむはずだ。

 下の待機所はエルドさんに、上の待機所は東の村からやってくる小隊長に任せるとして、それまではスコティに指揮を任せる。

 2人とも大きく頷いてくれたから、安心できるな。

 魔族がこの指揮所を目指さずに、上や下に向かったとしても、指揮所から2個分隊を救援に向かわせることも出来るだろう。


「俺達は山を迂回するような奴らを見張っているよ。だが、魔族がそんなに大きく回り込むとも思えない。場合によってはスコティ殿の応援に向かうぞ」

「その時は頼みますよ。弓が増えるのは助かりますからね」


 スコティと嬉しそうに握手をしている。

 さて、これでしばらくは様子見かな?

 パイプを取り出して火を点けようと指揮所のストーブに足を向けた時だった。

 バタン! と大きく扉が開き目を輝かせたヴァイスさんが飛び込んできた。


「間に合ったにゃ! まだ始まってないにゃ?」


 どう答えてよいのか分からないけど、とりあえず席に着いてもらう。

 席に着いたヴァイスさんがナナちゃんが渡したお茶を嬉しそうに飲んでいるところを見ると、かなりの強行軍でここにやってきたに違いない。


「ヴァイスが来たなら上の待機所を頼みたいが、大丈夫か?」

「問題ないにゃ。下の村までは荷馬車でやって来たにゃ」

 

 伝令はロバで東の村に向かい、ヴァイスさん達は荷車に乗って急いでやって来たということか。

 去年から始めた尾根の柵作りでだいぶ道を整備したからなぁ。思わぬところで役立ってくれた。


 ヴァイスさんにちらりと視線を向けると、レイニーさんから状況を聞かされているようだ。

 近頃はずっと工事の手伝いばかりだったからなぁ。久々の戦闘を楽しみにしてるって感じにも見える。

 これで魔族が全くやってこなかったら、俺に八つ当たりするかもしれない。


「生憎と爆裂矢が50本ですから、エルドさん達が20本ずつ、持って行ってください。ここには銃兵もいますから、10本でどうにかします。それと、これを渡しときます」


 バッグから握拳よりも少し大きな爆弾を取り出して、2人に3個ずつ渡した。小型のカタパルトで打ち出そうとしていたものだけど、まだカタパルトを運んでいない。10個持ってきたから、使ってみよう。

 威力はかなりありそうだからね。


「爆弾ですか!」

「点火したら5つ数えるくらいで爆発するそうだ。火を点けて直ぐに投げればこっちに被害は無い。西の斜面は急だから結構下まで転がり落ちるんじゃないかな」


 その光景が目に浮かぶんだろう。2人の顔に笑みが浮かんでいる。

 

「こっちに来ない時には、レオンのところに加勢に行くにゃ。これなら私にでも投げられそうにゃ」


 渡さない方が良かったかな? とりあえずバッグに仕舞ってくれた。

 でも1度は使ってみるべきだろう。

 フイフイ砲で打ち出す大型の爆弾と異なり、この爆弾がどれほどの威力があるのか使ってみたことが無いんだよね。


「それでは!」と言って、皆が去って行ったから残ったのは俺達3人とカリンにトラ族の男性それと伝令の少年の6人になってしまった。

 指揮所で待機するのも退屈だから、朝食の黒パンを食べたところで、柵に押しつけるようにして立てかけてある盾の後ろで一服しながら魔族の様子を探る。

 ナナちゃんも盾の隙間から西を眺めていたので、望遠鏡を貸してあげる。

 俺より熱心に見ているから、ナナちゃんに任せておいた方が安心できる。


 ベンチ側地の丸太に腰を下ろして、すぐ脇に弓を置いてあるから直ぐにでも戦闘が始められる。レイニーさんも隣に座って矢の鏃を見ているけど、いまさら研ぎなおすというのもおかしなものだ。鏃が緩んでないかどうかを確かめている感じだな。


 することが無いから、少し後ろに下がってトラ族の兵士と一緒に一服を楽しむ。

男達ならパイプを楽しむんだけど、女性達のちょっとした暇つぶしは何をするんだろうな? さすがに編み物は始めないと思うんだけどね。

 じっと西を眺めていたナナちゃんが、急に俺達に顔を向けて大きな声を上げた。


「動いたにゃ! こっちに向かって来るにゃ!」

「なんだと!」


 ナナちゃんの傍に駆け寄って、盾の隙間から西を見た。

 攻めて来たな……。やはり狙いはこの指揮所のように見える。


「やってきましたね。狙い目はここのようです」

「兵員は足りますか?」

「尾根が見方をしてくれますよ。……良いか! 最初は弓だ。魔族の顔が分かるようになったら投石を始めてくれ!」


 大声で指示を出す。

 矢は2会戦分を持っているだろうし、近くにも矢を入れた箱を持ってきているはずだ。

 急斜面で動きが鈍くなった敵なら、良い的になってくれるだろう。


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[気になる点] 久々に主人公の弓スキルが見られるか…!
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