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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-094 兄上からの手紙


 封書に入っていたのは兄上からの手紙だった。

 母上達が無事に俺達のところに到着できたことを、父上や館の使用人達も喜んでいるとのことだった。

 館の様子が色々と書かれているから、後で母上達に見せたら喜ばれそうだ。

 近況を色々と書き留めてあるけど、2枚目はブリガンディ王国全体の様子と……、なんだと!

 オリガン家領地に攻め入った連中がいたらしい。

 オリガン家を何だと思っているんだろう? 建国から続く部門貴族だぞ。しかも一騎当千の将軍を何台にもわたって王国に提供し続けている家系だ。

 父上や兄上を相手にして、勝とうなんて考えているのかな?


 手紙を読んでいくと、どうやら若手貴族が結託してオリガン領内の獣人族狩りを行おうとしたらしい。

 貴族領の領地境界は案外明確ではないようだ。

 河川や海などという明確なものがあるなら良いのだが陸地ともなれば、森が境界だったり、荒地に簡単な柵や杭を打って示す場合もあるようだ。

 若手貴族達数人が10人ほどの傭兵を雇って、森で薪を集める獣人族相手の狩りをしようとして、オリガン家の領地に深入りしたらしい。

 領地境界は、森の中に一定間隔で石積みをしているようだから分からなかったという理由にはならないんだが、案外石積みが崩れたりしてるんだよなぁ。

 それだから森の中では領地侵入については、注意を喚起するだけで捕縛したり矢を射かけたりはしないのが暗黙の了解なのだが……。


 手紙を読み進めていると、森を出て荒地にまで出てしまったらしい。

 しかもその場で獣人族に矢を撃ったというんだから、父上は激怒したはずだ。

 知らせを受けて直ぐに兄上と一緒に飛び出していき、森に入ろうとしていた連中を捕縛しようとして争いになったらしい。

 傭兵は全滅、若手貴族の半数がその場で討ち取られ、残りの半数もかなりの重症を負ったようだ。腕や足を失ったということだから、2度と獣人族を狩ろうなんて考えないだろうし、出来もしないだろう。

同じ人間同士なんだから、狩ろうなんて考える方がおかしいんだけどなぁ……。

 直ぐに父上に抗議が来たらしいが、領地内での捌きは領主が行うとの原則で突っぱねたらしい。

 ここで王国軍が動くとなれば面白くなるんだが……、という言葉で兄上の文が終わっていた。

 だけど、これってかなりヤバイ状態じゃないのか?

 ブリガンディ王国が反オリガン家になってしまったなら、オリガン家が滅びないとも限らない。

 父上や兄上相手に1対1で勝てるとは思えないが、千を超える相手ともなればちょっとしたスキでも命取りになりかねない。

 姉上から魔法の手ほどきを受けた兄上であっても、1個大隊を1人で相手に出来るとは思えないからなぁ。

 2枚目は、母上達に見せないで置こう。

 1枚目だけなら、頑張っている様子だけだからね。


 兄上からの手紙を持って母上のところに向う。丁度ナナちゃんが帰ってきたから、一緒に出掛けることにした。

 母上のところに行くというと、ナナちゃんが笑みを浮かべてくれた。いつも可愛がってくれるからなぁ。

 長屋の扉を叩くと、直ぐにマリアンが扉を開けてくれた。

 長屋にいたのは母上だけだった。姉上は子供達に勉強や魔法を教えているに違いない。


「さあ、此方にいらっしゃいな。寒かったでしょう?」


 母上が椅子から立ち上がると、ナナちゃんを連れて暖炉へと向かう。

 苦笑いを浮かべながら、小さなテーブル越しの椅子に腰を下ろすとマリアンが暖炉のポットでお茶を作ってくれた。


「これから集まりに向かうので長居はできないのですが……、これを母上にもお見せしようと」


 バッグから手紙を取り出して母上に手渡す。

 受け取った封書の封蝋を確認すると、目を輝かせて中の手紙を取り出した。

 ナナちゃんが真剣な表情で手紙を読んでいる母上を見上げているけど、ちょっと不思議な顔をしているな。

 一族最後の生き残りらしいけど、里での暮らしをナナちゃんは覚えているんだろうか?

 母さんや父さんの顔も思い浮かばないというのも可哀そうな気がする……。


「それなりに苦労はしているようですが、何とか暮らしているようですね。私達がいないことを良いことに2人で羽目を外していなければ良いのですが……」


 読み終えた手紙をマリアンに手渡している。マリアンもオリガン領の事を心配していたに違いない。

 

「何とかやっているようですが、文面だけで判断するのも問題でしょう。やはりかなりの苦労をしていると思います」

「分かりますか? 手紙は2通ありました。もう1枚には、獣人狩りをしていた貴族を殺めたとありました。たぶん今頃は小競り合いが始まったかもしれません」


 母上が溜息を吐きながら首を振る。

 やはり母上がいた頃から、若手貴族の暴走はあったのだろう。内乱がはじまるのは時間の問題だとして母上をここに送ってくるぐらいだからなぁ。


「レオンが参加する集まりはナナちゃんには退屈でしょう。ここで預かりますよ。遅れないように行きなさい」

「それならよろしくお願いします。……ナナちゃんも、あまり迷惑はかけないようにね!」

「ここで編み物しながら待ってるにゃ。夕食までに帰らなかったらヴァイスさん達と食堂に行くにゃ!」


 うんうんと頷いて頭を撫でてあげる。

 イヤイヤするんだけど、嫌ってはいないようだ。子ども扱いされるのが嫌いなのかな? だけど、俺にとっては何時までも幼いナナちゃんなんだけどなぁ。


 母上とマリアンに頭を下げると長屋を出る。集会場はこの先だ。

 昼過ぎということだったけど、遅れたかな?

 集会場に入り、小会議室の扉をそっと開ける。


「やっと来たか! 皆待ってたんだ」

「済みません。ブリガンディ王国の内情が分かったので母上にもと、ちょっと寄ってきたものですから……」


 皆にペコペコと頭を下げながらレイニーさんの後ろの席に着こうとすると、レイニーさんが隣に座るように促してくれた。

 あちこちに参加すると、後々に問題になると思うんだけどなぁ……。


「これで全員が揃いましたね。今年の総括と来年の計画について話を始めましょう。先ずはレオン状況説明をお願いします」


 レイニーさんに頭を下げて、席を立つと地図を見ながら指示棒を手にする。

 ネコ族のお姉さんが俺の前にお茶のカップをそっと置いてくれた。一口飲んだところで状況説明を開始した。

 サドリナス王国の住民蜂起、ブラント王国の獣人狩り最後に魔族と話を進めたが、魔族だけはまだ俺達に危害を加えていないんだよなぁ。


 一通り話を終えたところで温くなったお茶を飲み、皆の表情を眺める。

 重い表情だな。

 ここまで酷くなったかとその光景を思い浮かべているに違いない。


「王国が弱体するどころの騒ぎではないぞ。建国よりこの方、魔族が街道から南に足を踏み入れたことは無いが、このままでは間違いなく街道を越えるに違いない」

「人間族への虐殺が始まりそうですが、それを助けることは私達には出来かねます。決して恨みではありませんよ。そんなことをした場合、共和国の防衛がおろそかになってしまいます」


 元は名ばかりの中隊だったからなぁ。民兵を加えてどうにか大隊規模になっているけど、防衛戦ならまだしもマーベル共和国を出て戦うのはリスクがあり過ぎるし、レイニーさんの言う通りその間の共和国の防衛戦力が著しく低下してしまう。


「レイニー殿の言う通り、我等はどうにか共和国の防衛が出来る状況だ。これまでも何度か魔族が西に現れている。ここに来ないのは現在も俺達を見逃しているだけに思えるぞ」

「柵はできましたが、あくまで仮措置ですからねぇ。来年から本格的な工事を始めるのでしょうが、1年で終わるとも思えません」


「南だってそうです。予定の2割も進展しておりません」

「北は、まだ手付かずだ。できれば東の楼門ももう少し強化しておきたいところだな」


 一気に広げようとしていたからなぁ。まだまだ時間が掛かりそうだ。

 それでも空堀と城壁の石垣を支える土塁はかなり進んでいるらしい。土塁の上に移動式の柵を作れば少しは南の防衛力も上がるに違いない。

 それに、ガラハウさんが先行して小型のカタパルトを作ってくれた。荷車に乗せられる小型の品だが、俺の頭ほどの石を100ユーデは飛ばせるらしい。爆弾なら120ユーデほど飛ぶというんだから、これを南の土塁に沿って移動したならかなり有効に使えそうだ。

 俺の部隊に機動カタパルト部隊を新設することで運用を任されてしまった。ブリガンディ王国からやって来た弓兵部隊の1個分隊と新たな民兵2個分隊をこれに充てることになるらしい。


「全員が弓兵のようなものですから、火消し分隊ともなり得るでしょう。運用はレオンに任せます」

「火消なら、銃兵も含めたいですね。その辺りは俺の方で考えてみます」


 避難者の中から志願してくれた元兵士達も、第1、第2中隊に割り当てたらしいから少しは戦力が上がったに違いない。


「おおよその状況は理解できたと思います。それで来年の対応ですが西よりも南に重点を置かねばならないでしょう」

「それは、避難民の襲来を?」


「人間族の避難民受け入れを許可することは出来ません。とはいえこの近くに住むことに関しては彼らの自由でもあります。そのために我等の共和国の境界を明確にすることも必要でしょう。およそ南に半日の距離に杭を打って警告板を設置しようと思います」


 領地の大きさを聞いて、少し小さいと考えているようだ。確かにオリガン領よりも小さいけれど、町が1つだからなぁ。

 そんなに南にまで開拓を進められるとも思えないし、境界杭近くまで開拓したなら村が2つぐらいはできるだろう。

 農業用水を確保するための池を作れば養魚だって行えそうだ。

 農業に林業、それに漁業と鉱山があるならマーベル共和国を維持することが出来るんじゃないかな。


 会議は夕食の鐘の音で、次に持ち越すことになった。

 とりあえず状況の共有はできたから、次は各中隊の役割分担をしっかりと話合うことになるんだろう。


 集会場を出ると、直ぐに母上達が暮らす長屋に向かう。

 ナナちゃんを預かって貰った礼を言うと、ナナちゃんと食堂に向かう。

 さて、今日の夕食は何だろう?


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