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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-093 民衆蜂起が始まった


 初雪が降った翌日。俺達は荷物を纏めて西の尾根を後にした。

 形はどうでも、とりあえず尾根沿いに柵が並んだし、必要時には2個小隊を常駐できる屯所を作ることが出来た。

 柵沿いに尾根を移動できる道の整備はまだ途中だが、3か所ほどに見張り台を作れるだけの広場を作ったから、来年はその辺りの充実を図ることになる。

 尾根に至る道は、建設予定か所に杭を打ったところまでだ。早めに作りたいところだが、何せ急こう配だからなぁ。

来年には取り掛かりたいと思うのは俺だけではないだろう。荷車は無理でも一輪車ぐらいなら動かせないと補給に苦労するだろうからなぁ。


 レンジャー達は、冬場を過ごす小屋よりも大きな屯所を使えると知って喜んでくれた。2段ベッドが1部屋に11個も置かれた部屋だが、部屋の片隅に押しつけて暖炉近くを大きく開けるのだろう。数人で暮らすなら、それでも大きいはずだ。


 ぬかるんだ尾根を下って、東に進む。

 1時間も歩くと、遠くに村の西の丸太塀が見えてきた。あの塀は残しておくか。少しでも西の守りを強化しておかないとな。


 昼過ぎに指揮所に到着すると、直ぐに着替えを済ます。

 見た目は武装すらしてないように見えるけど、装備ベルトの腰に付けたバッグの中に魔法の袋があるからなぁ。そのまま戦場に走っても2日は過ごせるんじゃないか。


「帰ってきましたね! そろそろ初雪が降るかもしれませんよ」

「尾根では昨日降りました。根雪の前に下りてきましたよ。後はレンジャー達にお任せです」


「冷える訳ですねぇ」そんなことを言いながら、俺にお茶のカップを渡してくれた。

 ナナちゃんは、着替えが終わると母上達が住む長屋に向かったようだ。

 姉上から上級魔法を教えて貰っているらしいのだが、果たしてちゃんと使えるようになるんだろうか?


「あれからオビールさんが30人ほどの避難民を連れてきました。まだ長屋が6軒残っているようですけど、マクランさんは冬の間に増やしたいと言ってましたよ」

「王国の話は出ませんでしたか?」

「色々と教えて頂きました。私以外にも、エクドラさんやマクランさんにも話しを聞いて貰いました」


レイニーさんが単独で聞くには重い話ということだったらしい。

詳しく話をしてくれたのだが、どうやらサドリナス王都近くの町で民衆が反乱を起こしたらしい。

原因は無理な税の取り立てらしいから、同情できるところだが……。

 町役場や大商店、レンジャーギルド等が襲撃され、略奪が行われたようだ。

 だけど、反乱を起こした場所が場所だ。直ぐに王都を守るべく待機していた軍隊に鎮圧されたらしい。


「反乱は叱るべきして起こったことですから、それを善処するのが王侯貴族の役割だと思いますが……。貧民を虐殺して反乱の芽を摘んだと?」

「貧民の暮らしで税を払えるわけはありません。反乱に加わったものもいくらかはいるでしょうが、反乱を起こしたのは庶民と呼ばれる住民達です。貧民の虐殺を見せることで次は無いと思い知らせたということのようです」


 そこまでするのか……。王侯貴族達にとっては死活問題だからなぁ。庶民を弾圧すれば、税収がますます減ることになる。

 それで、町の地下道や廃屋に住む連中を根絶やしにするようでは、恐怖政治以外の何物でもない。

 ますます王国貴族に対する鬱憤が溜まりそうだ。


「エディンさん達の被害は無かったんでしょうか?」

「その町には店を出していないとのことでした。不幸中の幸いというところでしょうけど、商人仲間の何人かが怪我を太田ということでした」


 被害は無かったか……。もっとも、エディンさんの事だからなぁ。ある程度予想して先に手を打っていたのかもしれない。

 それが、俺達との取引に影響を及ぼさなければ良いんだが……。


「それで、俺達との取引は?」

「今まで通りに続けたいと……。場合によっては、少し行商人が増えるかもしれないとのことでした」

「周辺の村を回っても利益が出ないんでしょうね。俺達との取引を継続してくれるならありがたい話です」


 ブリガンディ、サドリナス王国で繁盛しているのは、鍛冶屋と武器を商う商人達だろうなぁ。

 案外儲け時と考えて、手広く活動しているのかもしれない。それに他国と交易をしている商人達も食料や旅客で儲けているのかも……。


「根雪のなる前に、オリガン領内からの避難民がやってくるでしょう。エルド達が長屋作りをしています。すでに6棟を作ってありますから、受け入れに問題は無いでしょう」

「集会場も2つあるんですから、大丈夫でしょう。それに中隊本部も3つありますからね」


 集会場は案外多目的に使えるんだよなぁ。

 共和国の運営に関わる会議を行う集会場以外にも、長屋街に作った一回り大きな長屋のような集会場も、住民の交流の場として使われているらしい。

 編み物や木工をしながらおしゃべりを楽しんでいるとリットンさんが前に教えてくれたんだよね。

 それならと同じような集会場をもう1つ作ったんだが、そっちは子供達の冬の遊び場になるらしい。

               ・

               ・

               ・

 本格的に雪が降り始めると、オビールさんがオリガン領からの避難民を連れて共和国にやって来た。

 エクドラさんに避難民対応を任せて、オビールさん以外のレンジャー達は宿に向かうのはいつものことだ。

 オビールさんには申し訳ないが、レンジャーの視点で知りえた両王国の状況を教えて貰う。


「本格的な雪になってしまったな。さすがにこっちは雪も深いだろう。俺達の村なら膝にまで積もることは少ないだが」

「近くの森に避難している獣人達も苦労する季節でしょう。まだたくさん住んでいるんでしょうか?」


 森の奥に仮小屋を作って難を逃れようとしている獣人族の数はかなり減ったらしい。

 ひと時の半数以下だということだから、このまま2年も続ければ何とかなりそうだ。

 レイニーさんと顔を見合わせて、小さく頷く。


「レンジャーが少なくなったから、農民達にも罠猟を教えているんだ。狩った獲物は俺達が村に運べば通常価格で食料を手に入れられる。森の奥を切り開いて畑を作ったから、まぁ何とか暮らしているようなものだ」

「彼らに対する食糧援助は足りてるんでしょうか?」

「ここでの儲けの一部を食料に換えて援助しているぞ。レンジャー仲間も報酬の1割を寄付してるぐらいだ」


 人間族にも、そんな人物がいることに安心する。

 やはり選民政策は長続きしないだろう。とはいえ、民衆にまで広がったその差別意識が簡単に終わるとも思えない。王国内に長く続くに違いないな。


「王都近くであった民衆蜂起の話は聞いたはずだ。どうやら、他の町や村でも起こったみたいだな。詳しくは聞いていないが1つや2つではないようだ。

 サドリナスでは民衆による蜂起だが、ブリガンディでは貴族同士で争そったようだ。原因までは分からんがこんなご時世だからなぁ。王宮で恥をかかされた貴族が恥の上塗りをしたんじゃないか」

「自尊心だけが高い連中ですからねぇ。争いの原因は案外そんなものでしょう。ですが、それで私兵を動かすなら勝敗に関わらず両者ともに罰せられるぐらいは知っているでしょうに」


 それほど気が立った状態なんだろうか?

 争ったのが下級貴族同士であるなら影響はそれほど大きくは無いだろうが、中級ともなれば私兵だけでなく傭兵だって雇えるからなぁ。争いで町や村が焼かれてしまうことだってありそうに思える。


「サドリナスは、民衆の蜂起から、それほど日が経っていない。今のところは平穏だが増税だったからなぁ。冬越しの食料が尽きる頃に一波乱起きそうに思えるぞ」

「散発した蜂起なら王国軍でどうにでもなるでしょうが、纏まったなら……」

「そうなるかもしれん。エディン殿が春分前に荷を運べるかと俺に問い合わせてきたぐらいだ。場合によっては春分前に俺達が荷を運んでくる。その時には春分の取引は中断になるかもしれん」


 自分の表情が変わるのが自分でも分かる。

 エディンさんなりの危機管理ということになるんだろう。俺達との交易は続けながらひとまず国外に避難するということに違いない。

 オビールさん達なら、町や村に住まずに生活できる。一時的な俺達との交易をオビールさんに託すということに違いない。


「そうそう、忘れるところだった。オリガン領の避難民を引率してきたレンジャーから託された品だ」


 オビールさんがバッグから取り出した封書は、オリガン家の封蝋が付いていた。

 父上からの返書に違いない。 後でゆっくりと読んでみよう。それに母上にも見せてあげないとね。

 

「まあ、そんな状況だな。来年は確実に一波乱ありそうだ。南の城壁作りは進んでいるようだが、かつての壁の撤去は城壁作りを終えてからにした方が良いぞ」

「ご忠告ありがとうございます。確かにその方が良さそうですね。冬はあまり作業できそうにもありませんが、少しでも進めておきますよ」


 俺の返事に笑みを浮かべて、オビールさんは指揮所を出て行った。

 指揮所の扉が閉まったところで、俺とレイニーさんは暖炉傍のベンチに腰を下ろす。

 改めてお茶を入れると、2人で顔を見合わせて溜息を吐いた。


「重税を課したら反乱が起きるのは分かっているでしょうに……」

「明日を考えるよりも今日……、ということなんでしょうね。それだけ王国の財政がひっ迫しているのでしょう。戦は生産せずに浪費するだけです。魔族との戦はたとえ魔族を退けたとしても、得られる土地があるわけでもありませんし」


 それを考えると、マーベル共和国は良い獲物にも思える。

 開拓で耕作地はあるし、何といっても鉱山があるからなぁ。

 蜂起した民衆が、この地にやって来るとは思えない。一番近い村からでもオビールさんの足で5日以上かかるようだ。

 となれば、やはり王国軍ということになるんだろう。

 一度手痛い反撃を受けているからやってくる確率は低いだろうが、攻略した際の見返りが大きいからなぁ。


「南の城壁が完成すればかなり安心できるんですが……。でも空堀はかなり西に延びているようですから、前の戦よりは有利に戦えると思いますよ。ですが、戦をすればそれなりの犠牲は出てしまいます」

「明日にでも、防衛委員会を招集しましょう。座して待つよりは少しでも防衛力を高めたいと思います」


 再びサドリナス軍との戦いになりそうだ。

 ここでそっとしておこうなんて考えは無いのかな?

 たとえ勝利したとしても、かなりの犠牲者が出てしまうだろうし、弱体した軍で魔族軍を跳ね返せるとは思えないだが……。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「商人仲間の何人かが怪我を太田ということでした」 →「・・・怪我を負った・・・」
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