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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-086 サドリナス王国の状況


 春分を5日ほど過ぎた頃、エディンさん達が荷馬車を連ねてマーベル共和国を訪れた。

 依頼した品の荷下ろしや、明日開店の行商人達がさっそく忙しそうに動いている。

 エディンさんとオビールさん達数人が、指揮所を訪ねてくるのも恒例になってきた感じがする。

 ワイン数本とタバコの包みを受け取り、ワインを飲みながらいつものように王国の状況を教えて貰う。


「……とまぁ、そんなところです。辺境の村にまで徴兵官がやってくるんですからなぁ。おかげで私の商会からも2人程兵士を出すことになりました。とはいえ、商人上がりの兵士なら輜重兵でしょうから農民兵士よりは安全ということになるんでしょうが……」

「ギルドの掲示板にも、徴募兵を募集する張り紙が出る始末だ。うだつの上がらないパーティを狙っているんだろうが、レンジャーを兵士にしてもあまり役立つとは思えんのだがなぁ」

「一般兵士よりはマシだろう、ぐらいには考えてるんじゃないですか? レンジャーに1個分隊を預ければそれなりに使えると思うんですが」


 初年兵よりはマシだろう。初年兵をレンジャーに預けて半年もすれば少しはマシになるんだろうけど、レンジャーの狩りは独特だからなぁ。軍に組み込むなら、パーティを解散させずに、そのまま索敵部隊として使うのが一番だろう。


「この冬に2つのパーティが軍に向かったよ。また会えれば良いんだが……」


 オビールさんの声は少し寂しげだ。ギルドの賑わいが無くなってしまったんだろうか。


「そうそう、建国したと聞きましたぞ。祝いがまだでしたから、ワイン5樽を運んできました」

「建国といっても御覧の通りです。ブリガンディ、サドリナスの両王国と争った以上、自治を認められるとも思えません。王国と同列であると住民内で宣言したようなものですし、2つの王国とも俺達の建国を認めることは無いでしょう」


「ハハハ……。その内に認めざるを得ない状況になるんじゃないか? サドリナス王国はかなり財政も厳しくなっている。税を上げるような動きがあるようだからなぁ」

「農民に課す税は収穫高の4割ですが、どうやら5割まで上げるようです。我々商人達にも儲けの3割から4割に変わるとの沙汰がありました」

「薄利多売での商いではきつそうですね。それと、今気が付いたんですけど、俺達との商売には税金は課せられているんですか?」


 俺の言葉に、エディンさんが笑い出した。

 

「ハハハ……、それが課せられていないんです。おかげで、獣人族の援助が出来るぐらいですからね。サドリナス王国としては、マーベル共和国でしたか、この地を支配しようとしているようですが、レオン殿の肩書に遠慮があるようですね」


 どうやらブリガンディの飛び地として認識されているようだ。

 当然ブリガンディ王国にも抗議はしたんだろうが、そんなものは知らんと突っぱねられたに違いない。

 だがサドリナス王国との戦では、俺が名乗りを上げているんだよなぁ。

 俺を懐柔して、サドリナス王国に組み入れようと考えてるのかもしれないな。


「さすがに砂金の取引では、3割を課していますが、それは目を瞑るしかありませんな」

「エディンさんの帳簿を見たら、驚くんじゃないですか?」

「こことの取引は別帳簿ですから、問題ありませんよ。さすがに見せろとは言えないでしょう」


 ブリガンディ王国との戦に発展しかねないと躊躇しているのかな?

 まぁ、その辺りは向こうが考えていることだから、俺達には問題ない。


「ところで、鉄の購入量が少ないように思えるのですが、鉄鉱山を見付けたのでしょうか?」

「さすがにそれは無いですよ。鉄は輸入していると聞いたものですから、なるべく使わずに済むように努力しているところです。鏃も青銅で作ってるぐらいですからね。そうだ! エディンさんなら燃える石について聞いたことがありますか?」


「石炭ということですね。ありますよ。何度か取り寄せたことがあるのですが、匂いがどうも……」

「それなら20袋程用意できるでしょうか? 周囲の森をだいぶ切り開きましたので、炭を焼くのにためらう程なんです」

「安値で買えますよ。硝石よりも安値です。それと次も硝石は同じ量でよろしいですか?」

「開拓地をどんどん広げていますからね。よろしくお願いします」


 やはり硝石は肥料として使っていると思っているようだ。

 火薬作りも上手く行っているんだが、火薬を購入しているからなぁ。俺達の火薬作りは失敗したと考えているに違いない。


 詳細な購入品についてはエクドラさんと調整してもらうので、2時間ほど話をしたところでエディンさん達は宿に引き上げて行った。

 俺の母上達が来ていることは教えなくても良いだろう。案外オビールさんから聞いているかもしれないけど、話題に上がってこなかったから暗黙の了解もしくは全く知らないということなんだろう。どちらにしてもブリガンディやサドリナス王国に知られることは無さそうだ。


「燃える石の話は聞いたことがありますが、木炭の代わりになるのですか?」

「なりますよ。前にガラハウさんにも言いましたが、工房の引っ越しがありましたからね。とりあえず新たな取り組みはしていないはずですから、ちょっと頼んでみようと思ってるんです。そして、砂金取りのついでにやって欲しいこともありますし」


 どんな川でも砂鉄はあるだろう。効率的でなくともこの国の鉄需要に寄与できるんじゃないかな。

 川沿いに木製の樋を作り水流で選別できるだろうし、上手く行けば砂金だって取れそうだ。

 水流選別用の水を引く方法は水車でも十分だろう。

 長さ50ユーデほどの木製の樋と水を汲みあがる水車、それに水車でくみ上げた水を貯める大きな水桶を準備すれば良いのかな?

 とりあえず簡単な原理図を作ってみよう。それをガラハウさんに見せれば、問題点を指摘してくれるはずだ。


 翌日は、朝早くから行商人が店を出したようだ。

 朝食を食べ終えると、皆が行商人の馬車に向かって行く。

 

 行商人の荷車を囲む住民を、広場の片隅にあるベンチに腰を下ろして眺めていると、エディンさんが隣に座ってパイプを取り出す。

 

「エクドラさんから雑貨屋の話を聞きました。村の雑貨屋程度になるんでしょうが、商品の手配は私共で承りますよ」

「ありがとうございます。できれば、酒もワイン以外も運んで貰えませんか? ドワーフ族ではワインは水と同じですからねぇ」

「御心配には及びません。ちゃんとガラハウさんに蒸留酒を2樽渡してあります。とはいえ……、そうですねぇ。果実酒なら種類が色々とありますから、数本ずつオビールさんに運んで貰いましょう」


 食堂兼酒場兼宿屋だからなぁ。少しは酒の種類があっても良いだろう。頼む人がいなければ、封を切らないだろうから長く持つはずだ。


「木工製品は、行商人も欲しがってましたから、今回は行商人が引き取れない分を頂くことにしました。獣人族がいなくなると製品自体が品薄になってるんです。たぶん1割程度高値で引き取れるでしょう」

「どこで誰が儲けるのか、中々奥が深いんですねぇ。それを見越して商うのが商人ですか」

「人に教えても、これだけは向き不向きがあるようです。でもレオン殿が商人になったなら、案外上手く行くんじゃないですか」


「明日帰られるんでしたね。できれば王都の貴族の様子をオビールさんに伝えてくださると助かります」

「王都での商売もありますから、ある程度の噂を集めてみましょう。レオン殿には何か気掛かりでも?」


 パイプに火を点けて、少し長い話をすることになった。

 魔族の侵攻と北の砦の壊滅。新たな砦の構築と度重なる徴兵、その上に税や物価まで上がっているようだ。


「……という状況であるなら、いくら長く戦が起こらなかったサドリナス王国でも軍事費が上がってるということでしょう。領地持ちの貴族はあまり影響を受けないかもしれませんが、領地を持たない貴族ともなれば王宮からの下賜金が減ることもありえます。

 落ち度もないのに、頂く金額が減ったなら不満も出てくると思いますし、半減しようものなら生活が立ち行かなくなることも予想されます」

「半減したとしても、庶民から比べればはるかに高い金額なんですが……。そうですねぇ、使用人や私兵の数を減らすようでは他の貴族からの蔑みもあるでしょうね」


 食費や私財を切り売りして凌げるなら、それほど問題にはならないだろう。だが、それが尽きた時が問題だ。魔族がサドリナス王国のかつての砦から退かないとなると、魔族との戦いは長期化するに違いない。

 貴族達の不満がいつ爆発するのか……、俺の話からそれを推察したのだろう。エディンさんの顔から笑みがいつの間にか消えている。


「このような地にいても、周囲の状況が良く見えてますなぁ。きな臭くなってきたなら、私の家族や店員の家族を他国に避難させなければならないかもしれません。他の王国とも取引をしていますから、避難先はありそうです。今の内に、ある程度用意しておいた方が良さそうですね」


 ブリガンディは論外だろう。となると、南の海の先にある王国ということになるのだろうか?。

 一度ぐらいは、見知らぬ土地への船旅を経験してみたいものだ。


 一服を終えると、エディンさんと別れて指揮所に向かう。

 伝令当番の少年が3人ベンチに座っているだけで、レイニーさんは出掛けているようだ。

 少年達に俺が留守番をしていると伝えると、目を輝かせて指揮所を出て行った。

 昨晩報酬を頂いたはずだ。あまり無駄使いをすると母親に叱られるんじゃないかな?


 少年達が母親に怒られている姿が容易に想像できるんだよなぁ。笑みを浮かべながらポットのお茶をカップに注いで暖炉傍のベンチに腰を下ろす。

 多分レイニーさんも行商人の馬車に出掛けたに違いない。いろんな商品を見ているだけでも楽しくなるからね。

 荷馬車7台だからなぁ。村の雑貨屋よりも商品の種類や品数が多いんじゃないかな?

 夏至には雑貨屋が出来るだろう。それによって少しはやってくる行商人の数が減るかもしれないけど、エディンさんの事だ。エクドラさんから渡された雑貨屋で商う品のリストを事前に行商人に見せるぐらいの事はするだろう。

 この国の雑貨屋で商っていない品を行商人達が持ってきてくれるんじゃないかな。


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