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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-084 共和国の運営


 5日ほど長屋で静養していた母上達は、自分達で出来る仕事を探し始めたようだ。

 何もしないで静養して欲しかったのだが、やはり何もしないで部屋にいるというのはオリガン家としての矜持が許さないということなんだろうな。


「私達にとってはありがたい話ですけど、男爵夫人に、ご令嬢なんですよね?」

「貴族といっても中級より下ですから、普段の暮らしは慎ましかったですよ。それに何もしないで長屋にいるというのは俺にだって難しそうです」


 レイニーさんに母上達がやろうとしていることの承諾を得ようと話をしたんだけど、ちょっと引いてしまっているなぁ。

 その理由が、貴族の婦女子の仕事として許可して良いのかというものだから、それほど問題には思えない。人間族だからというなら母上にしっかりとここは獣人族の国だと言い聞かせる必要があるんだけど……。


「それでは、一応レイニーさんの内諾を受けたということを話しておきます。最後に俺からもう1つ付け加えさせてください。母上はずっと俺に魔法を教えようと努力してくれました。生活魔法ぐらいなら、母上が教えることが出来るでしょう。姉上は魔導士ではなく魔導師です。魔法の才能がある者なら魔導士に育成できますよ」

「本当ですか! それが可能ならフレーンさんが喜びますよ。まだ人に魔法を教えられるほどではないと、このあいだもこぼしていましたから」


 獣人族の多くは、両親から手ほどきされて魔法を覚えるらしい。

 両親が必ずしも魔法を得意とするわけでは無いから、覚えられる魔法がかなり偏っているようだ。

 母上なら、少なくとも生活魔法は相手にきちんと教えられそうだし、姉上の指導を行けたなら攻撃魔法だって出来るようになるんじゃないかな。

 獣人族の魔法力は人間族よりも少ないとは聞いたことがあるが、広域魔法が何回か使えるだけでも城壁での戦いは有利になるし、怪我をしても治療魔法で救える命が出てくるに違いない。


「フレーンさんとエクドラさんには私から伝えておきます。でもマリアンさん達がこの国の食料事情を知ったら天を仰ぐかもしれませんね」

「その辺りはここしばらくの食事で気が付いたはずですし、俺に向かって文句を言うそぶりもありませんでした。問題はないと思いますよ」


 母上から滞在費として金貨3枚を受け取ったのだが、母上だって必要な品があるに違いない。2枚だけ受け取って、エクドラさんに渡しておいた。

 たっぷりと運んできた干し魚で十分だとエクドラさんが受け取ろうとしなかったんだが、収穫祭のワイン代に使ってくれと言ってどうにか納めて貰った。

 オリガン家の事だから、今後も干し魚は定期的に届けてくれるに違いない。

 レイニーさん達は、そんなことをしなくとも大丈夫だとは言ってくれてもねぇ……。

 母上達がこの国の例外的な長期滞在者になるんだから、それなりの働きをしないといけないだろう。


「今日は、内務部局の会合ですね?」

「予算案が出来たとエクドラさんが教えてくれました。ガラハウさんは工房の引っ越しを春分前に行いたいと」


 ガラハウさんの方は問題ないだろう。引っ越しといっても今の工房を閉鎖するのは引っ越しを終えたからだから、農具や武器の修理と製造に支障が出ることは無さそうだ。

 問題となるのは予算案になりそうだ。

 総収入が総支出を上回っていれば良いのだが、逆転すると蓄えを放出することになる。金貨が20枚以上それに砂金が小袋に10個程あるから、それを数年で半減するようなら問題だ。場合によっては今年度の作業計画の変更を考えねばなるまい。


「家計と同じように考えましょう。蓄えの少しを切り崩すぐらいは構わないでしょうけど、毎年切り崩す額が増えるようでは将来が心配です」

「畑の開拓は進んでいるようですが、それでも食料の購入量は毎年増えているようです。食料備蓄も考えないといけません」


 食料備蓄は半年を目標としているんだが、避難民がどんどん増えているからなぁ。長屋2つを食料倉庫にしているようだけど、新たにもう1つ建てる必要があるかもしれない。養魚場もある意味備蓄食料にはなるんだろうけど、規模が小さいからなぁ。レンジャー達が狩ってくる獲物の方が共和国の食料事情に寄与してくれているに違いない。

 もっとも、エクドラさん達はレンジャーの獲物や養魚場からの供給は食糧として計上してはいないようだ。あくまで料理の色取りとして考えているようだ。

 

 昼過ぎに集会場の小会議室に集まる。

 内務は共和国の行政機関だからなぁ。外交と食料それに予算を司るエクドラさん、工業を一括して面倒見てくれるガラハウさん、それに農業と林業を統括するマクランさんが1、2人を引き連れて集まっている。補佐官というかある程度部門を任せたい人物を連れてきたんだろう。


 レイニーさんが簡単な挨拶をしたところで、直ぐに今年の計画を基にした予算案の話が始まった。

 最初は大赤字だと思っていたんだが、エクドラさんの話では金貨1枚ほどの黒字となるらしい。

 もっとも、砂金の放出量が2袋ということだから、エクドラさん達が行っている砂金採掘量を考えればかなりの黒字と言えるだろう。


「レオンの話では、砂金の採掘は先細りだそうですけど、これなら今年は問題なさそうですね」

「砂金じゃからのう……。さらに上流ということになるんじゃろうが、確かにいつまでも採れるわけでは無い。じゃが、銅鉱石が枯渇するのは数百年は先になりそうじゃわい」


「金鉱脈は見つからないんですか?」

「鉱脈らしきものは見つけたんじゃが、含有量はかなり少ないのう。もっと深い場所ならあるかもしれんが、あまり当てにしない方が良さそうじゃ」


 地表に近い鉱脈は砂金として流されたってことかな。

 岩盤の中の石英層に沿って薄く形成されているらしい。それを削り取って金を採取するとなると砂金掘りより手間が掛かるらしい。

 やはり金山とはならないようだな。銅鉱石だけでもありがたいと思わないといけないだろう。


「鉱山を掘り進んだから、かなり坑道が広がった。ワシ等の故郷のような住居には程遠いが、それに近い暮らしは出来るぞ。鉱山の傍に工房を作ると言ったが、鉱山の中に工房を作るだけの広さがすでにある。共和国としても北の柵の近くに大きな工房を作るのは考えてしまうじゃろうからなぁ。鉱山の中なら問題あるまい。もっとも、煙突は外に出すことになるが、それぐらいは構わんじゃろう?」

「1つ問題がありますよ。フイゴを動かす水車はどうするんです?」


 俺の問いに、ガラハウさんが笑みを浮かべた。


「坑道内に川があるんじゃよ。岩の割れ目から噴き出して小さな池を作っている。その池の水位が変わらんところを見ると、地下水脈で川に繋がっているのかもしれんな。かなり急峻で水量もあるから水車を動かすには十分じゃ」


 それなら言うことなしじゃないか! ドワーフ族にとっては理想郷に近いだろう。


「引っ越しはワシ等で行うから問題は無いぞ。協力は新たな工房の火入れ式にワインを振る舞ってくれれば十分じゃ」

「1樽で十分でしょう? 引っ越しが終わった時に連絡頂けたら、ワインを1樽お渡ししますよ」


半分呆れた表情のエクドラさんと、笑みを浮かべたガラハウさんが対照的だなぁ。

 

「やはり食料の購入費が増えていますね……。開拓を統括している身としては形見が狭いのですが、今年は古い畑を使ってライムギを試験的に撒いてみたいと思っています。

その分豆の栽培面積が少なくなりますが、予算案を作成する過程で、農作物の出来高に反映しております。もっともライムギは収穫無しとしておりますが……」

「期待していないってことだね。それなら収穫出来た分だけ黒字だから問題ないよ。それにしてもようやく主食を作れるんだね……」


 全員が感慨深く頷いたのは、それだけ心待ちにしていたのだろう。

 どれぐらい収穫できるか皆目見当がつかないけど、少しでも収穫出来たなら今年の収穫祭は嬉しいものになるだろうな。

 パンを焼いて、皆で少しずつ千切って頂こう。ジャムを付けなくても甘く感じるに違いない。


「そういえば、果実の方はどうなんでしょう?」

「まだまだ収穫量が少ないですからねぇ。子供達に配ることが出来るぐらいです。もっともブドウの方は、上手くすればワインを作れるかもしれません。生育を見ながらエディンさんに古いワイン樽を頼もうかと考えております」


 ヤギも順調に数を増やしているらしい。目標は50頭として、それ以上に増えたなら間引きを始めるそうだ。

 もっと数を増やすには牧場を拡張しないといけないそうだから、それで当座は進めることになるんだろう。

 ヤギの乳で作るチーズは乳幼児を抱えるご婦人方に配っているそうだ。それでも何個か余るらしい。冬に何度か夕食のトレイに乗せられたチーズがそれなのかな?


「新たな城壁の北の斜面は全て放牧地にして貰えるとのことですから、その時には数を倍に増やせそうです」

「あまり増やすと、世話が大変ですよ。現在でも子供達が頑張ってくれてるんでしょう?」

「堆肥作りと干し草作りは子供達に頼んでいます。一緒になって遊んでいますよ」


 たまに、ヤギに頭突きをされて転がされているからなぁ。その時の様子を思い浮かべると思わず笑みが零れてしまう。


「1つ問題があるとするなら、木材でしょうな。かつての南の森は取り込んでしまいました。針葉樹を伐採して残ったのは広葉樹だけです。塀作りやログハウス作りには針葉樹が一番ですから、現在は西の尾根から運んでおります」

「植林を始めないといけないのかもしれないね。マクランさんの方で将来スギ林を作りたい場所を見付けてくれないかな。広葉樹と違って、杉林は保水量は少ないから斜面に纏めて植えると土砂崩れが起きる可能性もある。畑に適さないなだらかな場所が理想的なんだが……」


 皆が植林と聞いて、首を傾げている。

 杉の下に生えている苗木を集めて新たな林を作ると言ったら、ちょっと驚いた眼で俺を見てるんだよなぁ。


「そんなことが出来るんですか?」

「出来るさ。結構大木の下には生えてるんだ。だけど親木が日光を遮るから、大きく育つのはごく一部だけになる。そんな苗木を集めれば、将来的にはログハウスに使える丸太を切り出すことが出来る」


 直ぐに育つわけでは無いんだが、資源の枯渇を防ぐにはそれしかなさそうだ。

 同じように炭屋焚き木として使う広葉樹の林も作った方が良いかもしれない。共和国が軌道に乗ったとしても周辺が丸裸の山々だったなら見っとも無いからなぁ……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 資源循環にたどり着けそうなので良かったです
[良い点] 詐欺への注意喚起、恥をあえて公開して読者へ伝えるご苦労様でした。 いきなり煩い音とともにポップアップするやつですよね。あたかもマイクロソフトかのような偽装画面が出て来てフリーダイヤルとか…
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