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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-081 客人として姉上達を受け入れてくれるらしい


 兄上からの手紙を一読したところで、レイニーさんが溜息を漏らす。

 黙って手紙を俺に戻してくれたけど、改めてお茶をカップに注ぐと俺のカップにも注ぎ足してくれた。


「共和国に一時避難して頂いては?」

「姉上は人間族ですよ。さすがに此処で暮らすのは無理があると思いますが……」

「永住を許可するのは難しくとも、一時避難であれば商人達も一緒です。3日は滞在しているんですからね。3年ほどなら問題は無いでしょう」

「そうして頂けるとありがたいのですが……」


 数人であるなら問題ないと、レイニーさんが改めて話してくれた。

 そうなると姉上と母上……、それに使用人が2人ということになるのかな? 5人程なら長屋を1つ提供すれば良いことだ。

 父上と兄上が健在なら、オリガン領に王国軍が攻め入ることは躊躇するだろうし、もし踏み込んだならブリガンディ王国の内戦が始まりそうだ。

 オリガン領は王国の南端だから、魔族の脅威は受けずに済むだろう。だが街道付近の所領を持つ貴族は、内乱ともなればどのように行動するのだろう。

 サドリナス王国も難しい舵取りをしなければならないようだが、ブリガンディ王国も似たような形になってきたな。

 選民思想が、これほど王国の存在を危うくするとは思わなかった。


「申し訳ありませんが、姉上と母上を一時的に保護させてください」


 改めて、レイニーさんに頭を下げる。

 俺の親族なら問題ないと言ってくれたけど、それって特権のように思えてきたぞ。

 国民は全て同列で上下は無いということを、朝方説明してきたばかりなんだけどなぁ……。


 その夜の会議は、旧来の中隊長と副官を集めたものだ。これもそろそろ終わりにしたいところだが、しばらくは続けることになるだろう。

 状況説明が一段落したところで、レイニーさんが共和国へ客人を招くことを皆に伝えた。

 どんな客人なのかと、皆が興味深々だったけど……。


「レオンのお姉さんとお母さんが避難してくるってことにゃ? いったいブリガンディはどうなってしまうにゃ!」

「我々の同意等必要はありませんよ。レオン殿の親族なら何ら問題は無いでしょう。オリガン家の所領で匿って貰えた避難民も、大勢暮らしているんですからね」


 うんうんと皆が頷いているのは、オリガン家が獣人族に理解のある貴族だということを、ブリガンディ王国からの避難民から何度も聞いているからに違いない。

 誰かを助けたなら、いずれ誰かに助けられるということかな?

 

「ご厚意を感謝します。御恩に報いるべく、これからも働きますのでよろしくお願いいたします」

「今のままで十分ですよ。我等をここで暮らせるようにしてくれたじゃありませんか。私達も頑張っていますが、そもそもどうすれば良いのかを考えることが出来ませんでしたからね。国まで作ったんですから、これからも大統領を支えて下されば十分です」

 

 エルドさんの言葉に、改めて皆に頭を下げた。


 その夜。兄上に手紙をしたためる。

 共和国を作ったこと、少人数であるなら共和国内で姉上たちを保護できること。サドリナス王国軍やブリガンディ王国と一戦しており、防衛体制を充実すべく皆ではたらいていること……。

 ふと、気になってしまった。ここにやってきて6度目の冬を越すが、魔族の斥候は確認しているけど魔族軍とは全く戦っていない。

 この地に魔族の恐れる何かがある、ということなんだろうか?

 それなら、すでにその存在を俺達が見ているはずなんだが……。


 翌日。共和国を出ていく前に指揮所に立ち寄ったオビールさんに手紙を託す。

 ついでに、昨夜気になったことを聞いてみたのだが、オビールさんも分からないと首を振るばかりだった。


「確かにレオン殿の言う通りなんだが、その理由は俺にも分からないな。ただ、サドリナス王国は昔から魔族の襲撃はあまりなかったらしい。おかげで今回の醜態をさらしているぐらいだ。俺としては、北の山脈を大舞台で通れる道が無かったためだと思っているんだけどなぁ」

「やはり考えることは同じということですね。それ以外に、大部隊を通すための道を作っていたとも考えましたよ」


「それもあるか!」なんて、声を上げている。

 急にサドリナス王国への攻撃を始めたということだからなぁ。単に間道を見付けていたというなら、とっくに見付けていたはずだ。


「そうなると、簡単に魔族との戦が終わるとも限らないな。良い狩場がたくさんあったんだが、安全に狩りが出来るのはこの国の南だけになってしまったよ」

「あまり狩ると、来年の獲物が少なくなりますよ」


 俺の言葉に、レンジャー達が笑みを浮かべる。

 それぐらい分かっているということだろう。ヴァイスさん達もたまに狩りに向かうけど、今年はまだ鹿は1頭だけだ。野ウサギを沢山仕留めて来るんだけど、あれって弓の練習でもあるんだろうな。


 俺達に手を振って、オビールさん達は共和国を去って行った。

 姉上は何時頃やってくるのだろうか……、少なくとも雪解けが始まってからに違いない。姉上だけならともかく、母上も一緒の筈だ。雪の中を歩く母上なんて想像できないからね。

               ・

               ・

               ・

 共和国らしい出来事は、共和国会議が最初になった。

 火つけ人でもあるから、俺も出席することになったけど決議には参加しないと、最初に明言しての参加だ。

 あちこちに呼び出されるのは良いとしても、その決議にその都度参加するとなれば、レイニーさんを超える権限を持ってしまいそうだ。

 

「先ずは国会ですね。例の委員会を母体にしたようですけど、長屋が増えましたから委員が20人ほどに膨らんでしまいました。議長はマクランさんがファンケルさんを推薦してくれましたから、助かりました」


 議長選びから始めないといけないようでは困ってしまう。

 ファンケルさんは、マクランさんと同じく開拓村を最初に切り開いた仲間の1人だと言うことだ。どんな人物なのか楽しみでもある。


「筆記用具は持ちましたけど、その外に必要な品はあるんでしょうか?」

「それで十分でしょう。できれば誰かに会議の記録を取って欲しいところですね」

「それなら、かつての伝令だったリッテルを呼びましょう。口頭指示をそのまま書き留めるのに慣れてましたから」


 ちょっと違うような気もするけど、その内に慣れてくれるだろう。

 伝令の少年にリッテルさんを呼んで貰う。

 どうやらエルドさんの所属する部隊の兵士のようだ。


 やがてやって来たのは、イヌ族の弓兵だった。エルドさんの部隊は軽装歩兵だから、弓を携帯した槍兵ということになるのかな?

 

「出頭指示を受けてやってきました。何か特殊な任務をこなすのでしょうか?」

「戦ではありませんが、特殊な任務と言えるでしょう。この筆記用具を渡します。これから私達と一緒に国会に参加してください。その場の決め事を纏めて記録するのが、貴方の役目になります」


「記録ですか……。了解しました」


 ちょっと目を見開いていたのは、驚いたってことなんだろう。

 後でエルドさんに断っておかないといけないだろうな。国会がある時には、訓練に参加できなくなってしまうからね。


 3人で集会場へと向かう。

 国会ということになるんだから、将来は立派な建物を作りたいところだ。

 指揮所近くに設けた集会場は、半円にベンチを並べた大会議室と、円卓のある会議室が2つがある。

 長屋が並んだ場所にある集会場は、それほど大きなものではない。共和国で宿屋に次ぐ大きな建物が俺達の向かう集会場だ。


 集会場の玄関前の階段を上り、扉を開く。通路の突き当りが大会議室だ。

 大会議室に近づくと、扉の向こうからガヤガヤと声が聞こえてくる。全員集まっているみたいだな。

 扉を開くと、集まった連中が一斉に俺達に顔を向ける。

 軽く頭を下げて、議長席の少し後ろに用意されたベンチに腰を下ろした。

 リッテルが棒立ちしてたから、部屋の片隅あった小さなテーブルと椅子を用意して座るように指示を出した。


「ここでは共和国の運営に関わる決め事を話し合うことになります。決まったことを記録してもらうために元伝令兵のリッテルさんを同行しました」

「確かに必要でしょうな。これからはリッテルさんを記録係として会議に同席してもらいましょう」


 レブルさんはイヌ族のご老体だ。今まで話したことは無かったな。

 マクランさんとは将棋を通じて交流を深めたらしい。

 勝率は五分五分らしいから、マクランさんのような性格なのかもしれないが、初めて会った印象は温和な人物に思えてくる。


「さて、全員が揃いましたな? そろそろ始めましょうか。この会議では共和国の運営に関わる全てを決めることになるとのこと。さすがに戦は専門外ということになりますが、それは防衛軍にお任せしましょう。

 国の運営と言うと恐れ多いようにも思えますが、レオン殿の話では村の決まりを決めることと同じということでした。

 それなら、先ずは村と同じように、村の決まりを基に私達がこの国で出来る事とできないことを列挙していけば良さそうです……」


 そんな前置きをしながら、エクドラさんが壁に紙を張り出した。

 そこに書かれていたのは、共和国の3つの理念だ。

 『共和国を運営するのは共和国の国民である』、『共和国を守るのは共和国の国民である』最後は『共和国の国民は自由で平等である』


 これを見ながら、決めていくんだろう。

 基本理念がしっかりしているなら問題は無いはずだ。

 とはいえ、まだまだ共和国の運営が軌道に乗ったわけでは無いから、かなり限定的なものになるのは致し方あるまい。

 最初の議題は、国民の成人年齢をいくつにすべきか、ということからだった。

 成人と子供の違いは、労働、兵役、そして生活にも及ぶ。

 ブリガンディ王国では16歳を成人と定めているけど、果たしてどうなるんだろう……。


 レイニーさんと委員の話を聞いていると、どうやら、成人と子供との間に少年という区分けを入れることになるらしい。

 戦の時でも伝令や投石部隊に入っているし、開拓時でもそれなりの役目をこなしている。同じように開拓や畑の耕作だって行っているからなぁ。彼らの位置付けをきちんとしておくということは、確かに重要な事と言えるだろう。



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[一言] 共産主義だな。
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