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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-080 今日からマーベル共和国


 新年を迎えた日は、生憎と雪が降っていた。

 小隊長以上と主だった村人を集会場に集めて、共和国の建国を宣言する。


「私達は今日からマーベル共和国の住民になります。大きな国ではありませんが、住みやすい国を作りましょう。共和国には国王がおりません。共和国の代表者は、大統領と呼称することにします。初代大統領は私、レイニーが就任しますが、大統領は世襲しませんし任期を4年にしますから、4年後に皆さんが代表者を選べるようにします。

 共和国の建国理念は、3つあります。1つ目は、国の運営は自分達で行うこと。2つ目は自分達の国を守るのは自分達であること。3つ目は、共和国内ではすべての住民が平等であること。この3つです。この3つを頭に入れた上で詳細な決めごとをこれから作っていきます。

 次に、建国した以上、共和国の旗が必要になります。これはいくつか皆さんの作品を選んで投票で決めた、この旗にします」


 レイニーさんが俺に視線を向けたのを受けて、畳んだ旗を旗竿に取り付ける。

 旗の後ろをナナちゃんが持って広げてくれたんだが、旗の上には手が届かないみたいだな。エルドさんが進み出て、後ろからは他の上端を持ってくれた。


「これが共和国の旗になります。赤字にクラムの葉を白で描きました。血の粛清を逃れてこの地に根づくという意味もこの旗には込められています」


 指示したわけでは無いんだが、全員が旗に向かって頭を下げている。兵士の多くは騎士の礼を取っているな……。

 これからは、この旗の下に俺達は集うことになる。

 逃亡兵でも無ければ、避難民でもない。新たな◎◎共和国の住民となるのだ。


 クラムは低木の雑木で、この地にやって来た時にあちこちに茂っていた。

 どんな場所でも育つから俺達の繁栄を意味するというのも皆に理解できるだろう。クラムの葉は先端が3つに分かれているから、シルエットにしても直ぐに分かる。

 俺のもう1つの意識が、何やら呟いているようだ。同じようなデザインの旗を見たことがあるのだろう……。


「次に、共和国の運営について報告します。レオン、お願いします」

「了解です。それでは、すでに知っていると思うけど、再度各部局の代表者について発表する……」


 メモを見ながら、大臣となる者の名を告げていく。内定段階で皆に周知しているから、これと言った反応が無いのがちょっと寂しいところだ。


「……以上になります。大臣についても建国時であることを鑑み、これまでの実績を基にしたものですから、大統領の交代時に再度部局の代表者を決めることにします」


 各大臣から簡単な挨拶と、今後の仕事の取り組みについて話をして貰ったところで、建国式典はワインの乾杯で終えることになった。

 時間的には1時間というところだろうけど、誰もやりたがらなかったからなぁ。とはいえ実行しないと、後世の歴史家に何を言われるか分かったものじゃない。

 内容はともかく建国式典を実施して、共和国の建国理念と旗を披露したことが大事なことになるんだろう。

 

「凄いにゃ! 国を作ってしまったにゃ」

「問題は周辺諸王国が、マーベル共和国を認めるかどうかですね」

「認めるしかないんじゃないか? いくら何でも王国軍が避難民に負けたということでは王国の矜持が保てまい」


 そんな話が俺達の耳に聞こえてくる。

 やはり国を持つということは重要なんだろうな。問題は、共和国をどのように運営していくかということなんだけどねぇ……。


 疲れた表情のレイニーさんと一緒に指揮所に戻ってきた。

 ナナちゃんはヴァイスさんと手を繋いで弓兵部隊の長屋に向かったから、皆でスゴロクでもするのかな?

 暖炉傍のベンチに腰を下ろす前に、お茶を入れてレイニーさんにカップを渡す。自分のカップを持ってレイニーさんの向かい側のベンチに腰を下ろし、カップをベンチに置くとパイプを取り出した。

 さて、これからが大変なんだよなぁ……。


「新たな国が出来ましたが、周辺の王国が認めるとは思えません。他の王国が認めるようにするにはどうしたら良いのでしょうか?」

「別に相手が認める必要もないでしょう。勝手に名乗っていれば良いんです。とはいえ、実家には建国を伝えておきます。それにエディンさん達にも明言しておいた方が良いでしょうね。エディンさん達にとっても、関税を課すわけではありませんから今まで通りの商いが出来るんですから問題は無いはずです」


 連絡文は、それほど急ぐ必要も無いだろう。

 雪に閉ざされた俺達の共和国に、レンジャーのオビールさん達がやってくるのはめったにないからなぁ。


「入国手続きも必要になるんでしょうね」

「査証を作りましょう。商人達の混じって王国の間者が来ないとも限りません。3回以上入国した人物に発効すれば問題ないはずです。新たな商人やレンジャー達には注意する必要が出てくるでしょうが、それは治安部隊に監視させれば十分だと思いますよ」


 関税は取らないし、エディンさんの話では行商人達もこの村でまとまった商売が出来る事を喜んでいるらしい。

 行商人の参加希望者が多いようで、近ごろはクジ引きをしているようだ。

 さすがに北の地だからなぁ。行商人が単独でこの村に来ることは無いだろう。

 エディンさん達の隊商には、少なくとも2組のレンジャーの護衛が付いているぐらいだからね。

               ・

               ・

               ・

 まるで雪ダルマのような姿をしたオビールさん達が共和国を訪れたのは、冬の最中の事だった。

 よく遭難しなかったと感心してしまう。

 直ぐに宿屋に向かわせてワインをご馳走するよう伝令に伝えたんだが、オビールさん1人だけ指揮所にやって来た。

 状況報告だけということでは無いんだろう。取り合えず、熱いお茶を勧めて暖炉の傍のベンチに腰を下ろして貰うことにした。


「状況報告でしたら明日でも十分でしたのに」

「緊急というわけでもないんだが、先ずは知らせておくと思ってな……」


 レイニーさんの言葉に、そんな前置きをしたオビールさんが話してくれたのは、サドリナス王国の政変だった。

 魔族相手の戦で失態を重ねていた軍の指導者だった貴族達が責任を問われたのだろう。死罪となるならと、私兵を伴って責任追及の先頭に立っていた貴族達を王宮内で暗殺したらしい。


「結局は死罪になったんだが、加担した貴族達は家族共々首を刎ねられたようだ。さらに王宮内で勢力を誇っていた貴族もいくつか代替わりすることになったから、国王が退位を考える始末らしい。たぶん、第1王子に王位を譲ることになるんだろうなぁ……」


 第1王子は25歳ということだ。2人の妻を持っているようだが、どのような人物なんだろう?

 オビールさんには、その辺りの情報は良く分からないとのことだから、エディンさん達がやってくる春分過ぎを待つことになりそうだ。


「となると、王国軍は王都周辺に駐屯しているということなんでしょうか?」

「3つの軍団の内、1つはそうだ。残り2つは街道沿いの砦に駐屯しているぞ。砦近くの村や町にも小隊を派遣しているようだが、魔族相手というよりは住民の監視という感じだな」


 これはチャンスとも思えてくるな。

エディンさんが来てからでも遅くはないが、俺達の存在を表に出すことが出来そうだ。


「そして、これがレオン殿の実家からの手紙だ。封がされているから中身は俺達には分からない。返事が必要なら、明日帰る時に渡してくれないか」

「ありがとうございます。ブリガンディ王国の内情でしょう。ゆっくりと読ませて頂きます」


 最後に、今回運んできた品を教えてくれた。

 鉛のインゴットに火薬が2タル、雑穀が10袋に塩と香辛料とのことだった。

 値段を聞くと、エディンさんから運ぶように言われたと言っていたから、春分の日に纏めて清算ということなんだろう。

 信用取引が出来るのは、ありがたいことだな。


「ギルドの依頼だからなぁ。俺達にとっても実入りの良い仕事ってことだ。レオン殿が俺達を気遣ってくれるのはありがたいが、他のレンジャー達が妬まんようにしておかないとなぁ」

「どの世界にも分相応という言葉があるんですね。申し訳ありませんが、その辺りはよろしく対応してください」


 俺の言葉に笑みを浮かべると、オビールさんは軽く手を振って指揮所を出て行った。

 改めてレイニーさんと視線を合わせる。

 互いに頷いたのは、俺と同じ考えなのかな?


 レイニーさんの隣から立ち上がり、先程までオビールさんが座っていたベンチに座りなおすと、パイプに火を点ける。


「面白いことになりましたね。詳しくはエディンさんから聞くことになるでしょうが、俺達への圧力が減るかもしれません」

「私達に構っていられなくなるということですね」

「場合によっては、さらに圧力が高まるでしょう。でも、長くは続きませんよ。そんなことをしたなら魔族を防ぐことが出来なくなるでしょうからね」


 軍を進めて来ても、一戦することは無さそうだ。いつでも転進出来る状態で俺達に姿を見せるだけになるだろう。

 なら、その間に南の城壁を十分に伸ばせて行けそうだな。再び戦端が開かれるのは、王国内の騒ぎが治まって、新国王が即位した後になるに違いない。


「問題は、こっちですね。ブリガンディがどうなってるのか……」


 封書の封をナイフで切り落とし、中から出てきた2枚の文書を目で追い始めた。

 兄上が書いたのだろう。武人とは思えない達筆だ。俺には到底書けそうにないな……。


「なんだと!」


 思わず立ち上がって大声を出してしまった。

 吃驚したのだろう。心配そうな表情のレイニーさんが俺に視線を向けているのに気が付いた。


「済みません。ちょっと驚いたものですから……」

「ブリガンディでも政変が起きたんオですか?」

「いや、どちらかと言うと、私的な事です。姉上が負傷したらしく実家で床に就いているようです……」


 王宮魔導師でもあった姉上は、王宮内の選民思想に嫌気がさして実家に籠っていたらしいのだが王宮からの復帰命令で魔族を相手にしたらしい。

 かなり激しい戦だったらしく、姉上が率いていた部隊は半数以上の損害を出したとのことだ。

 奮戦むなしく姉上も重傷を負ったとのことだが、姉上が率いていた部隊は王宮内にいた時とは異なる部隊だったらしい。

 急造した部隊を前線に出したということか? それも魔導士部隊に重装歩兵の援護も付けずにか?

 それを知った兄上は、大隊長の職を辞してオリガン領に戻ったらしい。

 かなり不味い状況じゃないかな?

 何時王国軍がオリガン領内に攻め入るか分からないぞ。

 兄上からの手紙をレイニーさんに渡したところで、ゆっくりとパイプを燻らせながら、今後の対応を考える。

 レイニーさんが目を丸くして手紙を読んでいるけど、ブリガンディは内戦に発展しないとも限らないな。


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