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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-079 マーベル共和国の理念


 俺達の共和国がもう直ぐ誕生する。

 食堂の掲示板に張り出したから、村の住民達もあちこちでそれを話題にしているみたいだな。

 10日ほど前に降った大雪が根雪になったようで、城壁造りは1時中断になってしまった。でも資材運びは出来るということで、ソリを使って石を運んでいる。

 そんな仕事をしているのは、ドワーフ族と、イヌ族それにトラ族の連中なんだよなぁ。種族的に寒さに強いんだろうか?

 レイニーさんはネコ族だから、指揮所の暖炉近くでナナちゃんと編み物をしている。

 ヴァイスさんも、中隊本部で革細工を作っているのかもしれないな。


 ナナちゃんが編んでいるのは、どうやら靴下らしい。

 作っては解くことを繰り返しているらしいのだが、なぜか完成した靴下の大きさが違ってしまうらしいんだよね。

 リットンさんも首を捻っていたけど、やはりちゃんと網目を数えないといけないのかもしれないな。

 今回は、靴下の絵を描いて、一段毎に数えているらしいから上手く行くんじゃないかな?

 ナナちゃんの数え方も、以前は指を折ったり足を曲げたりして数えていたんだけど、今では100まで数えることが出来るようになったらしい。

 ヴァイスさんの部隊で、矢筒に入れる矢を数えて練習したと教えてくれた。

 ここの暮らしなら、100まで数えられれば十分だろう。足し算と引き算も2桁は何とか出来るみたいだ。

 100を超える数については、100がいくつあるかを数えれば良いと教えてあげた。

 魚の養殖では100匹が5つなんて言ってたから、十分相手に伝わるだろう。


 皆が色々と内職をしているんだけど、俺はすることが無いんだよなぁ。

 ナイフは研いでしまったし、自分の矢筒の矢だけでなくナナちゃんの矢筒の矢とボルトケースのボルトまで研いでしまった。

 石運びを手伝おうとしたら、指揮所で待機していて欲しいとガイネルさん達に断られてしまった。


 しょうがないからマーベル共和国の、建国理念を考えることにした。法律を整備するためにも、基本は必要だろう。そうしないと、大騒ぎするばかりでまとまりそうも無いからなぁ……。

 考える内に、俺の知識が案外偏っていることに気が付く始末だ。

まぁ、無いよりマシということで良いだろう。皆で考える上での叩き台になれば十分だ。


 俺のもう1つの知識はかなり偏ってはいるけれど、使えなくはない。

 どうやら、大きな原則を最初に考えてそれを基に展開しているようだ。

 原則は3つあった。

 誰が国を動かすのか。どうやって国を維持するのか。最後は国民の権利という事らしい。


 国を動かすのは大統領なんだろうけど、大統領を選ぶのは国民ということになるんだろうな。

 初代大統領はレイニーさんになるんだが、これは状況が状況だからねぇ。2代目からは国民の投票で選びたいところだ。……なるほど、大統領の選び方や任期についても考えないといけないってことだな。

 国を維持するためには軍事力が必要だ。基本は防衛としたいが、何度も国に攻め入るような王国には、場合によっては徹底的な打撃を与えることも必要だろう。

 だが、相手国を滅ぼして領土を拡大するような侵略戦争は避けるべきだろう。

 この辺りの匙加減をどのように考えるかが問題になるんだろうな。

国民の権利については、共和国の国民は全て平等であると最初に宣言すべきだろう。特権を有しないということが最大の特徴になるが、それはそれだけの責任が国民にもあるのだということを明確にすべきかもしれない。

貧富の差が大きくならないようにすることも大切だ。

獣人族に怠け者はいないんだが、努力する人物と何もせずに寝ている人物が同じように生活できるのでは共和国の未来は暗いものになってしまう。

そんなことにならないようにするために、どのような対策をするのかが問題だろうな。

さらに生活弱者の救済についても考えないといけないから、色々と面倒な議論をしなければならないだろう。

そうそう、もう1つ付け加えねばなるまい。

国民の権利に、宗教の自由を入れておく必要がある。

どんな宗教を信じようと、それは個人の自由であり国が特定の宗教に染まらないようにしてくことが大事だろう。宗教が国の運営に加わらないようにしておくことも大切だろうし、布教活動は厳禁としておくか……。

少なくとも、選民思想が生まれても、それが広がらないようにしておくことが大事だからね。

差別や仲間外れを煽るような宗教家は、国外追放でも良いんじゃないかな。

福祉の基本も必要だろう。

教育制度と病院制度で良いはずだ。誰もが教育を受けられるように義務教育とすれば良い。それ以上に学びたい者については別途考えれば良いだろう。

怪我や病気の対策も必要だろうし、全快するまで長く掛かるようでは飢えてしまいそうだからなぁ。


「何を始めたんですか?」


 レイニーさんが突然声を掛けてきた。ナナちゃんがお茶のカップをテーブルに置いてくれたから、一休みってことなんだろう。

 メモ書きを束ねながらお茶の礼をナナちゃんに言うと、レイニーさんに顔を向ける。


「建国に備えて、共和国の基本理念を考えてたんです。どのような国を作ろうかと悩み始めたらどんどん深みにはまりかねませんからね。最初にこんな国だと簡単に言えることが大切ですし、その理念に基づいて国家を動かして行けば良いはずです」

「そうですね。平和な国が一番ですけど、どうやって平和な国を作るのかと言われたら困惑してしまいます。それで、レオンなりに考えたのでしょう。どんな理念の国になるんですか?」


 お茶が冷めるまではパイプを楽しむか……。

 暖炉の焚き木でパイプに火を点けると、自分の席に戻って先ほどのメモを広げた。


「こんな理念の国です……」

 

 3つの原則で国を作ると説明したら、ちょっと目を丸くしていた。

 頷きながら俺の話を聞いていたけど、最後の宗教になって厳しい目を向けてきた。


「特定の宗教を持たないと! それでは神殿の協力が得られないのではないでしょうか?」

「誰がどんな宗教を信じるかは、その個人の自由のはずです。この村の住人だって、いろんな宗派に人がいるんじゃないでしょうか? レイニーさんが信じる神と俺が信じる神が同一とも思えませんし、そもそも神に序列は無いはずです。信じる側が勝手に序列を作ったと考えるべきでしょうね」


 誰もが自分の信じる神が一番だと信じるに違いない。それを規制しようなんて考えは選民思想に繋がりかねないからね。


「フレーン様の立場も考えないといけませんよ」

「この地に最初に信仰の場を作ってくださったんですから、それなりの敬意を払うことは必要でしょう。ですが、森の神、風の神であるシルフ神を共和国の神とすることは国民に差別化を助長しかねません。神に序列無し、全ての神は我等を等しく見守ってくれていると考えるべきでしょう」


「トラ族は火の神であるサラマンディーネ神、ドワーフ族は土の神であるシヴ神、開拓民はシヴ神以外にも水の神ウインディーネ神を信仰しているようです。その神の序列を無くすということですか……」

「神殿を運営する教団が、過去に神話を作ったと思います。自分達の宗派の優位を示すためにね。神話は神話であって、本当にそのような事があったのかは誰も知らないはずです。教団による創作と見るべきでしょう」

「宗教心が薄れることで治安が悪くなるのでは?」

「宗教心は何のために必要かも考えるべきでしょうね。王国内の宗教は治政者が民衆を拘束するための道具に過ぎないと思っています。本来の信仰は人と神との契約であって、国民を縛る道具で無いはずなんですが」


 これって宗教改革になってしまうんだろうか?

 そんなに大それたことは考えていないんだけどなぁ……。

 一度、フレーンさんとじっくり話してみるか。

 この世界の神と人との関係は俺は考えるより根が深いのかもしれない。


「宗教については、フレーンさんを訪ねて3人で話してもいませんか。俺とレイニーさんでは、話が纏まらない気がします」

「そうですね。その外の事柄は私も納得できるんですが……」


 宗教の落としどころが肝心ということだな。

 その他の事柄についての同意を得られたことだけで、この場は十分だろう。


「共和国の維持というのも気になるところですが、防衛軍ということでよろしいのでしょう?」

「防衛とは何かという議論が必要でしょう。共和国の領地をどのように決めるかも1つの課題ではあります。1つ明確なのは共和国の東ですが、これは川がありますからね。北は山脈の尾根でも良いでしょうが、さすがにそこまで兵を派遣することは出来ません。西は最初の尾根で十分ですがさらに尾根を1つ先に延ばしても良いかと……」


「そうなると、最大の課題は南ということでしょうね。サドリナス王国との境界が不明瞭ですから」


 柵でも作ってみるか……。後々は農地を広げたいから、半日歩くぐらいの土地なら問題あるまい。それでも、俺達が渡河した場所から1日半程北だからなぁ。サドリナス王国が開拓を進めても、俺達の開拓地と境界を争うのは遥か先になるんじゃないかな。


「サドリナス王国軍が領地境界を越えたなら、迎撃するということで良いのでしょう?」

「防衛軍ですから、基本はそうなります。……ですが、度重なる侵攻があるようであれば、その根幹を叩くのも防衛の範疇と言えなくもありません。『攻撃は最大の防御』であると戦術上度々使われているようですが、戦略的にも言える言葉です」

「場合によってはサドリナス王国に攻め入ると!」


 ちょっと吃驚した顔を俺に向けてきた。

 攻め入られるだけでは、何時まで経っても周辺諸王国に格下扱いを受けかねない。

 どこかで、俺達の軍事力を見せつけることも必要だろう。

 もっとも、それを行うか否かはその時の大統領が決めるんだろうけどね。

 その選択肢を持つことが出来るということを、最初に決めておくことが大事だろう。


「でも、積極的な侵攻はしないように、注意する必要があります。場合によっては共和国の存亡にも繋がりかねません。とはいえ基本理念の中に、それを行うことが可能だと明記しておくことが大事だと思います」

「戦力が整ったところで、周辺諸王国を滅ぼそうとは考えないということですね」


 その通りと、大きく頷いた。

 戦は忌避すべきことでもある。なるべく外交で解決したいところだ。

 そんな暇と戦力があるなら、それこそ開拓を優先すべきだろう。

 だが、俺達の共和国に攻め入るような王国に対しては厳しい制裁を加えるべきであることも確かだ。

 その為に常備軍と民兵を育成する。

 常備軍の2倍の民兵を動員できる体制が出来上がれば、共和国に攻め入る敵軍を容易に打ち破ることが出来るだろう。


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