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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-008 弓兵達の技量


「ガイネル中隊長が、相手に殿を付けたのは初めてよ。かなり気にしてたみたいね」

「父上と親交があったのでしょう。ですが俺との関係はありませんからね。先ほど言った通りに家名に傷がつかないように努力するつもりです。

 そうだ! 弓の練習はどこですれば良いんでしょうか? 王都で弓を変えましたし、ナナちゃんの稽古もしてあげないといけません」


「それなら、ヴァイスの分隊を連れて行ってもらえないかしら。中々練習しないんで困ってたの」


 部下の訓練も副官の勤めかもしれないな。

 第2小隊の兵舎に着くと、笑い声がここまで聞こえてきた。ナナちゃんのいる場所はあそこに違いない。


 レイニーさんが溜息を吐いて、「後をお願い」と言って自室に入って行った。かなり苦労しているに違いない。彼女の心労に思わずため息が漏れる。

 廊下をそのまま進み、第1分隊の扉を叩いた。分隊が全員女性だからね。着替えでもしてたら大変なことになりそうだ。


「開いてるにゃ!」

 

 ヴァイスさんの声だな。

 扉を開けて中に一歩入った途端、ふらっと眩暈に襲われた。

 なんというか、女性の匂いがする。香水なのかもしれないけど、長くいる場所ではなさそうだ。


「ナナちゃん。弓の稽古をするよ! ヴァイスさん。弓の練習場所を教えてくれませんか?」

「練習にゃ? それならちょっと待つにゃ。皆も一緒に出掛けるにゃ!」


 なるほど、レイニーさんはこれを期待してたのかもしれない。

 バタバタと動きながら、ベルトに矢筒を下げて弓を手に集まってきた。

 ずらりと並んだ10人を前に、ヴァイスさんがうんうんと頷いている。


「準備できたにゃ? それじゃあ、出掛けるにゃ!」


 ヴァイスさんナナちゃんと手を繋いで歩き出した。その後を分隊の兵士が続いていく。後を付ければ練習場所に行けるはずだ。

 向かった先は南門近くだった。砦の横幅は150ユーデ程ありそうだから、直径3フィールほどの的が50ユーデ程離れた位置に立っていても邪魔にはならないだけの余裕がある。

 射場の横幅は30ユーデ程だろう。柵で囲ってあるから、不用意に中に入ってくる者もいないだろうな。


「ここが練習場にゃ。30ユーデで的に当てることが大事にゃ。50ユーデで放つ時には、的に当たらなくとも後ろの板に突き刺されば合格にゃ」


 短弓での長射程は望めないからなぁ。50ユーデ程離れた的に当たれば矢傷を負わせられることで良しとしているのだろう。


「見本を見せて頂けませんか?」

「私が見せるにゃ!」


 ヴァイスさんが練習場の中に入って行った。どうやら30ユーデのところに敷石が埋め込んであるらしい。そこから射ることになるのだろう。


 短弓を引き絞って矢を放つ。的には当たったけど、だいぶ逸れているな。

 次々と矢を射るのだが、かなりバラけている感じだ。6本放って、2本が後ろの板に刺さっている。


「こんな感じにゃ。次はレオンがやってみるにゃ!」

「今までは同じような短弓でしたが、ここに来る前に少し長い弓に換えたんです。そうですね……。あの位置からでいいですか?」


 指差した場所は、指揮所の玄関先だ。距離はおよそ100ユーデになりそうだ。


「100ユーデはあるにゃ! 届くのかにゃ? 皆、射線に人が入らないように後ろに下がって見てるにゃ!」


 成り行きを見ていた弓兵以外の連中も、練習場の柵の延長上に並んでくれた。

 これなら、だいじょうぶだろう。

 ふと隣を見ると、ナナちゃんが心配そうな顔をして俺を見ている。


「だいじょうぶだよ。後ろで見ていてくれないかな」


 そう言って頭を撫でると、笑みを浮かべて後ろに下がってくれた。

 さて、始めるか……。


 大きく弦を振り絞って、目標のやや上を狙う。

タン! という音を立てると、矢が目標に向かって飛んでいく。

 次の矢を矢筒から取り出して再び矢を放つ。


 4本の矢が的の上下左右に突き立った。

 次は少し中を狙うか……。

 同じく4本の矢を放ち、最後の矢で中心を射抜く。


 いつの間にかかなりの観客になっていたんだが、誰も声を出さないんだよなぁ。

 矢筒の残りを素早く的の中心に放ったところで、練習を終える。


「弓が得意とは聞いたが、これほどとは思わなかったぞ。さすがはオリガン家だけのことはある」

 

 声の主を探そうと後を見ると、指揮官と中隊長が並んでいた。


「いくら的に当てることができても、実戦ではどうなるか分かりません」

「確かにそうではあるが……。これは良い人材が来てくれたものだ」


 俺に対する称賛なんだろうけど、笑みを浮かべてナナちゃんの頭を撫でながらの言葉だからなぁ。ちょっと考えてしまう。

 今日はこれでおしまいにしよう。ヴァイスさんの部下が矢を回収してきてくれた。

 矢筒に入れて、魔法の袋に一式を納めておく。


「凄いにゃ。どうやったらあんなに当たるのか、分からないにゃ」

「練習あるのみです。近くからだんだんと離れて射れば良いと思いますよ」

「それにゃ! ナナちゃんも一緒に練習するにゃ」


 ナナちゃんを連れて的の近くに行ってしまった。

 どうやら敷石から5歩程度前に出て練習するようだ。あの距離なら周囲に危険はないだろう。


「驚きました。あれなら矢の数だけ敵を倒せますね」

「そう上手くは行きませんよ。敵は止まってくれません。矢を放っても、射線から相手が離れてしまってはどうしようもないです」


 レイニーさんは感心しているようだけど、矢を放ってから矢が当たるまでには若干の時間差ができてしまう。

 短距離なら無視できそうでも、距離が長くなればそれが問題になってくる。本来なら相手の動きを見越して矢を射ることになるんだが、俺の場合は矢を放った後でも矢の方向を修正できる強みがある。

 そんなことは魔法でもできないようだから、何時までも秘密にしておこう。


 レイニーさんと一緒にヴァイスさん達の練習風景を見ながら、ナナちゃんの弓の腕を見ることにした。


 短弓を一生懸命引いて、タン! と放つ。

 20ユーデほど先の的の真ん中にトン!と矢が突き立った。

 鏃が板にしっかりと食い込んでいるから、敵に放ったとすれば深手を与えたことになるのかな?

 

「ナナちゃんは素質があるにゃ!」


 ヴァイスさんが褒めているけど、その距離で的を外すのであれば弓兵は止めといたほうが良いと思うんだけどねぇ。


「あの距離なら、全員が的に矢を射ることができるんですが……。50ユーデの位置では12本放って3本当たれば良いところなんです」

「他の弓兵も同じなのかな?」

「少しは良くなりますけど、5本程度ですね」


 少し考える必要がありそうだな。

 せっかく3個分隊の弓兵がいるんだからねぇ。


「練習場を少し広くできませんか?」

「常時は無理でしょうけど、期間を決めれば許可が下りると思います」

「練習場を広げられるなら、ちょっと試したいんだけど」


 弓兵の技量が分かっただけでも良しとしよう。それに、ナナちゃんが短距離なら弓が使えるのが分かったのも大きな収穫だ。

 矢筒の矢を全部放ったナナちゃんが俺のところにやってきた。

 ちゃんと弓が使えたことを褒めたところで、短弓の構えと矢のつがえ方を教えてあげる。

 癖がついてしまったら中々治せないからね。

 革の手袋をしていたようだけど、少しぶかぶかだな。これも直す必要がありそうだ。


「これで良いのかにゃ?」

「そうそう、顎に当てるようにすれば、いつも同じ強さで引けるし、狙いも一定になるから的から外れないよ。午後は少し離れて練習してもだいじょうぶだ」


 軽い昼食を食べると、ナナちゃんはヴァイスさんと一緒に練習に出掛けた。

 お茶を飲みながら、ナナちゃんに手を振っていたレイニーさんがため息を吐く。


「ヴァイス達は、普段なら午前の練習を早々に切り上げるんです。今日はなぜかしら熱心なんですよ」

「そりゃあ、レオン殿の腕を見たからだろうさ。俺の部下達も早々と食事を終えて出掛けたぞ。さすがにレオン殿の腕には達しないだろうが、50ユーデ先の的に当てることが当座の目標だな」


 よいしょ、と言いながら俺の隣に腰を下ろした男性は第2分隊の隊長らしい。ヴァイスさんの同僚ということかな。

 兄上よりも少し年上に見えるが、耳と尻尾を見る限りイヌ族ということになるのだろう。


「いつまで続くかわからねぇが、怠けるようならもう1度レオン殿に腕を見せてもらえば良いんじゃないか?」

「継続は力ですか。でも、飽き易いんですよねぇ」


 気の向くままということかな?

 だけど戦闘時に一番頼らねばならないのは、自分の技能のはずだ。

 俺も弓に満足せずに、長剣の練習をしなければなるまい。

 長剣1級は無理でも、可能な限りそのクラスに近付けるよう努力しなければなるまい。


「確認ですが、弓兵は弓以外の武器を持たないんですか?」

「持ってるぞ。弓の練習では使用しないから持って来ていないようだが、片手剣は全員が装備する。それ以外には槍を持つことがあるが、配置場所が場所だからなぁ……」


 屋根の上だと言ってたな。

 擁壁に上って来る敵を相手にするなら、片手剣よりは槍の方が都合が良い。

 やはり配置される場所を早めに見ておくべきだろう。


「これで訓練を終えるなら、配置場所を教えてくれませんか?」

「なら、俺が連れて行こう。レイニー隊長はヴァイス達がサボらないように見といた方が良いぞ」


「こっちだ!」という声に腰を上げて、彼に付いていく。

 食堂を出て、俺達の兵舎の脇を北に向かうと一番奥に石段があった。3人が楽に登れるほどの横幅がある。

 どうやら、屋根の上と言ったのは指揮所の屋根になるらしい。

 屋根というより広場に見える。30ユーデほどの大きさがあるが、城壁に沿って横幅が10ユーデほどの回廊が東西に延びている。


「魔族は北から来るから、ここが一番の激戦地なんだ。城壁の回廊も北側だけは横幅を広くしているんだ。あそこにちょっとした木組みがあるだろう。あれが休息所になる。魔族と睨み合う時には、食事もできる場所だ」

「擁壁の高さもあるんですね」


「身長ほどあるから、矢狭間から槍で突けるんだ。軽装歩兵の2個小隊と、重装歩兵の1個小隊が、石垣の上に陣取るんだが、ここにやって来るのは軽装歩兵が1個小隊になるな」

「弓兵は全てこの場所ですか?」

「2個小隊の内、レイニー隊長がこの位置になる。もう1小隊は東西の壁の上だ」


 100名に満たないってことか? いくら何でも少なすぎる。

 それに敵の矢を避けるものがない。休憩所には簡単な屋根があるが、全員が入るには少し無理がある。

 その辺りを工夫しないといけないだろうな。


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