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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-076 マーベル共和国と名乗ることになった


 ブリガンディ王国軍は、踊り場に2日ほど姿を見せていたが、その後は全く姿を見せなくなった。

 踊り場の先は、北東に向かって狭い道があるようだが東門からは見えないからなぁ。しばらくは1個小隊ほどに待機してもらおう。

 踊り場の先を見るなら南門辺りなら可能だろうと、楼門の屋根にヴァイスさんが昇ってみたものの少し高さが足りないようだ。


「南に下っているからにゃ。3階建てなら見えるかもしれないにゃ」

「やはり高さのある見張り台は必要でしょう。南の状況も確認できますよ。西には尾根がありますが、東にはありませんからね」


 そんな話から、ガラハウさんが高さのある見張り台を作ることになった。

 俺としては、城壁作りを先にして欲しかったんだけどなぁ。


「城壁の基本はドワーフ様式で良かろう。資材運びが面倒じゃが、作り方ならワシ以外にも分かる者がおるからのう。若い連中に教えるにも都合が良いわい」


 ドワーフ族に教える機会ともなるってことだな。

 どんな形になるんだろうと、話を聞いてみると石を垂直に積み上げるのではなく、75度の角度で積み上げるらしい。

 垂直に積み上げた城壁は、攻城槌に案外弱いらしい。角度があると衝撃力が分散されるとのことだ。


「角度が浅ければ上り易くなってしまう。その妥協点が75度じゃな」

「こんな形にするのかと思ってました」


 円弧状の断面を持つ城壁を描くと、目を丸くしている。


「なるほど、考えることは同じじゃな。これも面白そうじゃな。どの王国にもこの形は無いぞい」


 俺の記憶にある城壁の姿がこれだった。よくもこんな形を考えたものだと思ったが、ガラハウさんが絶賛しているところを見ると、結構防御力があるのかもしれないな。


「新たな城壁形式と認定されるかもしれんのう。『新ドワーフ様式』と名付けよう……」


 そんな独り言を言ってるから、思わずレイニーさんと顔を見合わせてしまった。

 とりあえず形はガラハウさんに任せるけど、俺達が知りたいのはそれを作るための資材の種類と量になるんだよなあ。


「石材は、北の崖からいくらでも運べるじゃろうが、問題は中身じゃな。城壁は全てを石で作るわけでは無いんじゃ。こんな形に両側を石で組んで、中に小石と土を入れて突き固めるんじゃよ。小石は砂混じりでも良かろうが、荷車で毎日20台は運ばんといかんじゃろうな。石組の石は別じゃぞ」


 話を聞いて、レイニーさんと溜息を漏らす。

 10年で終わるんだろうか? 数年は掛かるだろうと思っていたが、とんでもない話だ。

 南だけではなく西の尾根もあるし、東の塀も見掛けぐらいは石積みにしたいからなあ。

 だが、俺達の国を作るためなら、それぐらいはやる必要がある。

 城壁に囲まれた都市国家ということになるんだろうが、果たしてその姿を見ることが出来るのは何時になるんだろうか……。

               ・

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               ・

 ブリガンディ王国と小競り合いを起こして20日が経つ。

 すでに滝の東から敵兵の姿は消えているが、踊り場まで出掛けて様子を見るようなことはしないでおくことにした。

 新たな城壁造りの際に、城壁の東の角に大きな見張り台を築くことで踊り場の先を見ることが出来るだろうから、それまでは我慢だな。

 レンジャーのトレムさんが、滝の北を巡って確認してこようかと申し出てくれたが、

わざわざ危険を冒すことも無いだろう。

 東門は、エミールさんとマクランさんの小隊から1個分隊ずつ派遣して貰い、通常の監視体制の戻すことになった。


「それでは、通常体制ということになるんですね?」

「秋も終わりですから、冬越しの準備も必要です。それに、年明けには我等が『マーベル共和国』の建国式もあるんですからね」


 初めての投票ということで大騒ぎになったんだけど、新たな国の名は『マーベル』に決まった。王国ではないということで共和国という言葉が後に続くんだけど、共和という言葉の意味が今一理解していないようにも思える。

「皆で造り、皆で動かす王国だよ」と説明したんだが、きょとんとしていたんだよなぁ。

 

「次は国旗でしたね? 今度はものにしますよ!」


 エルドさんの言葉に、皆が笑みを浮かべて頷いている。

 またあの大騒ぎが開票時に起こるのかな?

 エクドラさんが大なべを叩いて、厳重注意してくれたから治まったようなものだけど、今度は開票時にワインを配らないようにしよう……。


「新たな国ということで、代表となる人物を決めなければなりません。初代大統領はレイニーさんとします。レイニーさんの下に3つの委員会を置きます。

 1つ目は、防衛委員会。委員は中隊長とその副官。

 周辺王国の状況を確認しながら、共和国の防衛について協議する委員会です。

 2つ目は、共和国国会。委員は住民の代表者10人と防衛軍の代表者5人。

 共和国の運営に関わる決めごとを会議で諮っていきます。マーベル共和国の法律の整備もこの会議で決めることになるでしょう。

 3つ目は司法委員会。委員は住民の代表2人、防衛軍の代表2人とします。

 住民の数が増えることで、犯罪が起こらないとも限りません。共和国会議で定めて法律に基づきその犯罪を取り締まり、罰則を科すための委員会になります。

 治安が良ければいらない委員会ですが、戦での捕虜の扱いもこの委員会で対応させることにします。国内の巡視もしなければいけませんので、マクランさんの部隊から2個分隊をこの委員会に委ねることにします」


「レオンはどこの委員会に入るのかにゃ?」

「一応、フリーでいますよ。問題があった場合は呼んで頂ければ、議決権を持たない委員として参加します」


「議決権を放棄するのか?」

「あくまで、臨時の委員ということになりますから。それに、何度もあるとも思えませんので」


「今までの役目を一旦返上して、新たな人物に委ねるということになるのでしょうか?」


 マクランさんはちょっと心配そうな顔をしてるけど、それだけ開拓民の代表者として俺達に尽くしてくれたからなぁ。

 そう簡単に手放せそうもない。高齢だけど、これからも頑張って欲しいところだ。


「今までは代表者、責任者等と言っていましたが、共和国の1つの分野を統括するものとして、大臣を置くことにします。

 現在考えている大臣職は、外務大臣としてエクドラさん。農林大臣としてマクランさん。工業大臣としてガラハウさんというところです。

 来年の建国式までに他の大臣も決めますので、楽しみにしておいてください」


 急にガヤガヤと騒がしくなった。

 今の内に、パイプでも楽しんでおこう。


頃合いを見計らって、レイニーさんがパンパン! と手を打つ。

止めなければ、明日の朝まで騒いでいるんだろうな。


「レオンの説明はあくまで概要です。詳細は建国式の後に、食堂に張り出すつもりです。

 共和国の方はそれで良いとして、共和国全体を城壁で囲むという大事業を開始したいと思います。ガラハウさんと何度か打ち合わせを行いました。確かに数年で終わることは無いでしょう。でも私達が安心して暮らすには必要な事です。……レオン、説明をお願いします」


 レイニーさんに頷いて、ベンチの後ろに置いておいた紙をテーブルに広げて説明を始める。

 城壁の設置場所、楼門や見張り台の位置、構造……。説明をしていくと、だんだんと皆の表情が変わってくる。

 やる気を出しているというより、懐疑的な表情だ。

 説明している俺だって、少し不安なところがあるぐらいだからなぁ……。その気持ちは十分理解できるんだよね。


「本当に、これを作ると?」

「魔族を考えればこれぐらいは仕方がないと思います。それに、南の2つの王国も俺達を狙っていますからね」


「高さだけで5ユーデですか……。これを攻略するとなると、攻城櫓も高くしないといけませんね。攻城櫓を大きく作れば動かすのも苦労するでしょう。当然、空堀や落とし穴をいくつも作るんでしょうから……、この城壁を攻略するのは不可能では無いんですか?」

「そうでもないと思うよ。一斉に城壁に取り付けばロープを使って上ることだって出来るんじゃないかな。兵士の生死を考えないような攻撃方法だけど、1個大隊を犠牲にする覚悟がある指揮官なら案外この方法を取りそうだ」


「まるで魔族の戦いにゃ。人間がすることはないと思うにゃ」


 ヴァイスさんの言葉に皆が頷いているけど、「人海戦術」として古来よりある戦術の1つらしい。

 対策は押し寄せる敵兵を上回る攻撃力、ということになるんだろうけどね。

 火矢に似せて作った爆弾矢は、そんな事態に備えて準備を始めている。だが、使うのは人海戦術を相手が使った場合に限定しておこう。


「外側は石積みですが、裏は土塁なんですね」

「その方が資材が少なくて済みそうです。見掛けだけですけど、土塁の上は石を敷きますよ。斜面には草を植えて雨水で土砂が流れないようにします」


 外から見れば立派な城壁になるんだろうけど、案外王都の城壁も似たようなことになってるんじゃないかな。


「とりあえず資材が無ければ始められん。石材は北の崖から、土砂は河原から運ぶことになるぞ。土も必要じゃが、これは城壁の周囲から集めれば十分じゃろう」


 ガラハウさんの話で、とりあえず荷車100台分程運ぶことになった。

 石運びはガラハウさんとトラ族のガイネルさんの部隊が対応することになったけど、荷車の引手はマクランさん率いる民兵が手伝うらしい。

 土砂の搬送はエルドさんとダレルさんの部隊が担当するらしい。残った連中が村の周囲の監視と、土を一輪車で運ぶことになった。


「先ずは、南じゃな。さすがに冬は尾根の城壁を築くのは難しかろう」

「春になれば、尾根の方も始めると?」

「とりあえずどんな形になるかを、現場を見てからじゃな。基本はレオンが考えてくれたから、その城壁を効率的に作る方法を考えねばならん」


 初雪が降るまでには、まだ1か月以上あるからなぁ。

 荷車100台分程度なら、何とかなるだろう。ガラハウさんとしては、それを使って最初の石を積んでみるつもりなんだろう。その結果で、必要量の推定が出来そうだ。


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