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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-075 さらに城壁を広げよう


 ブリガンディ王国軍に夜襲は早々に頓挫したらしく、戻ってきたヴァイスさんが不満たらたら文句を言っている。


「私が東門に着いた時には終わってたにゃ。東の踊り場付近に、まだ敵兵の姿が見えたにゃ。逃げ帰ったわけでもなさそうにゃ」

「となると、早朝にもう1度……。ということでしょうか?」


 ちょっと安心した表情のレイニーさんが問い掛けてきた。

 どうだろう? 案外、諦めるんじゃないかな。今回のブリガンディ軍の行動は、兄上が王宮にもたらした情報の確認ということが目的であったなら、十分にそれを達しているはずだ。

 俺達が川の東岸を北上してこの地に辿り付いたことが分かったはずだし、その地で鉱山を開発しているとの情報に信憑性が増したということになる。

 戦は情報を多く持った方が有利に進められるからなぁ。

 俺達の村を攻略する方法の1つの道を確認できたことで、満足してくれるかもしれない。


「まあ、明日の早朝は確かに危険ではありますが、案外何もせずに立ち去ってくれる顔しれませんよ。何といってもこの辺りの東は魔族がいますからね。魔族の斥候に見つからない内に引き上げるのが賢い指揮官だと思います」

「次は、南からってことじゃな。東を陽動に使うかもしれんのう。じゃが大軍を渡河させるとなれば、サドリナス王国が黙っておらんじゃろう」


「案外、黙って見守るかもしれませんよ。明らかな越境になるでしょうから、サドリナス軍がブリガンディ王国の版図を切り取る口実にも使えます。俺達を相手に疲弊させたところで後方を突くぐらいはやるかもしれません。それで1個軍団を壊滅させられたなら、ブリガンディ王国は大慌てということになるでしょうね」


大慌てどころか、王国の存亡にも関りそうだ。

父上達は、どう動くのだろうか? ブリガンディ王国建国にも寄与したという話だから、最後までブリガンディ王国に尽くすのだろうか。それとも、選民主義に染まった王国を見捨てて新たな王国の建国に動くのだろうか……。


「魔族の動きが活発化し、かつ選民思想がブリガンディ王国以外にも飛び火している状況です。これから何が起きるか分かりませんよ」

「軍師殿の事ですから、予想ぐらいはしているのでしょう?」


 東の小競り合いが一段落したということで、皆が安心してるんだろうなあ。問いかけてきたのはエルドさんだった。

 まだ明確ではないけど、ある程度の予想は出来る。


「たぶん王国のいくつかが消えるかもしれません。統合する場合もあるでしょうが、新たな王国が選民主義を是正してくれれば良いのですが、それが出来ない場合は難しい舵取りが必要になるかもしれませんね」

「群雄割拠にゃ! この村を大きくするにゃ!」


 避難民が続々と集まってきているから、他の王国もが認める国になれば良いんだけどね。だが、1国だけが獣人族だけで造られた国となると、周辺王国が連合かしないとも限らない。

 エディンさんやオビールさん達の情報網を活用して、常に状況を見据えていないととんでもないことになりそうだぞ。


「ブリガンディとサドリナスが、互いに潰し合いを始めると良いのですが……」

「王国が自らの版図と考える土地の北部を魔族に奪われることになります。魔族が定住せずとも、再び北部の開拓を始めるには王宮の持つ戦力が足りないでしょうし、それを良しとしない貴族も現れるでしょう。先ずは王国内の権力闘争が内乱に発展し、それが互いの王国にも影響してくる可能性があります」


「内乱だと? まあ、分からなくもないな。俺達を追い出した連中だからどうなっても構わんが、まだまだ獣人族が多く住んでいるはずだ。上手く難を逃れてくれれば良いんだが……」

「さらに多くの避難民が、この村を目指す可能性もあるということか! 長屋を建てるのは問題ないが、これだけ広げた村をさらに広げる方が問題かもしれんぞ」


「また、城壁を外に作ることになるでしょうね。とはいえ、次は魔族の来襲も考えねばなりませんから、既存の塀は残しての拡張になりますよ。南に向かった魔族の動向を見守りながら拡張準備を始めたいと思いますが?」


 しぶしぶ頷いているのは、戦だと思っていたのが再び工事の話になってしまったからに違いない。

 戦よりも工事の方が、命のやり取りが無いだけマシだと思わないのかなぁ?


「それで、どれだけ大きくするんじゃ? 100ユーデほど南に下げるのか」

「それだと、直ぐに長屋でいっぱいになりそうです。思い切って300ユーデ南に作ろうかと……。西の壁は、この尾根を利用します」


 皆が俺に顔を向ける。

 呆れた表情をしているのは、それがどれだけ途方もない大工事であるか理解したに違いない。


「数年では終わらんかもしれんぞ!」

「それで百年以上俺達を守ることが出来るなら十分な対価だと思います」


「資材は……、木材が足りませんよ」

「裏の山から石材を運んで作ります。丸太の塀ではありませんよ。石の城壁です。高さは俺の身長の3倍程、厚みは4ユーデを考えています。西の尾根はさすがにそれほど大きな城壁を作れませんが、尾根を伝いに俺の身長ほどの石が気を作り、その上に2ユーデほどの高さの柵を作ることで魔族を足止めします。西を急斜面にすることで、尾根事態を城壁に替えることが出来るかと……」


「ワシ等の仲間を増えておる。半数を工事に回すのは構わんが、銅鉱石の採掘量は少し減るかもしれんぞ」

「半減しなければ問題ないでしょう。それに倉庫にたっぷり鉱石が積み上げられているんですから、エディンさん達との取引は変わらずに行えます」


「工事担当は工事の段取りを考えて決めれば良いのだろうが、工事の人工は足りるのか?」

「工事は兵士と民兵で行なおうと考えています。だいぶ部隊が大きくなりましたからね。それ以外は農閑期を利用して住民にも手伝ってもらおうかと考えています。手伝ってもらう場合は別途参加者のリストを作り、報酬の分配時に参加に数に応じた割増金を渡せば良いかと」


 何とかなるかな? そんな顔をしているようだから、後程ガラハウさんとマクランさんを交えて詳細を検討して工程表を作れば良さそうだ。


「将来は1万を超えるとレオンさんは考えているようですね。そうなると、防戦だけを考えることも無いように思えるのですが?」

「攻撃は最大の防御とも聞いたことがあります。大軍団を作れば魔族のように防衛拠点を考えずに済むのかもしれませんが、今のところ他の王国に攻め入ろうとは考えてませんよ」


 エルドさんの言葉に皆が一瞬目を輝かせていたけど、俺の返答に力なく目を閉じてしまった。

 やはり獣人族は戦闘的なんだと考えてしまうが、最終的には皆の総意をレイニーさんが判断することだ。

 俺は、ここでは間借りしているような存在だからなぁ。皆の総意に従うのは当然だ。


「今の答えはレオンの思いです。レオンは戦を嫌いますからね。私は同胞を虐げた王国への恨みは忘れません」

「なら問題ない。俺もそうだからな。レオン殿は戦は好まんが、戦で後れを取ることは無い。最初の騒動の話は俺達も聞かせて貰ったぞ」


 あの騎士との一件かな?

 一応、正当防衛だと思うんだけどなぁ。斬りかかってきたなら、それなりの対価を払ってあげないと相手にも失礼だろうし。


「弓の腕は弓兵の腕自慢でも、足元にも迫れないにゃ。新たな王国の国王でも私は良いと思っているにゃ」

「その話は、終わっているでしょう? 新しい国は国王はいらないんです」


 中々納得してくれないんだよなぁ。やはり国王は必要なのだろうか? 賢王なら良いんだろうが、世代交代をしていく内に愚王が即位する可能性だってあるからなぁ。そんなことになれば国民が不幸になるだけだ。


「私もどんな国になるのか想像すらできませんが、今の王国よりマシな国が出来れば十分でしょうし、そうなるよう皆で努力しないといけません。

 話を戻しますが、これだけ大きな城壁を作るとなれば、常備軍についても充実させないといけないはずです。レオンはそれをどのように考えているのですか?」

「兵士と民兵の徴募を行おうかと考えています。避難民の中には元兵士であった人達もおりますから、彼らを対象とした常備軍を1個小隊と民兵を2個小隊程増やすことで、城壁に常時2個小隊を張り付けることも可能でしょう」


「3個小隊の増員ですか……。そうなると中隊編成を考えた方が良さそうですね。指揮所に小隊長全員が集まる必要もなくなりますよ」


 確かに……、なんて皆が考え込んでいる。ヴァイスさんが嬉しそうなのは、夕食後に集まるのが面倒だと思っているに違いない。


「それは、私が私案を纏めてみます。レオンの考えでは3個小隊の増員ですが、場合によってはさらに増えることも考えておいた方が良さそうですね。

 魔族の動向が不明ですから、『警戒レベル1』は継続します。何かあれば伝令を出しますから、今夜はこれで会議を終えましょう」


 一同が席を立って、騎士の礼を取る。

 これで解散になるわけだが、マクランさんとガラハウさんが再び席に着いた。

 村の拡大について再度話し合う必要があると思ったに違いない。

 ナナちゃんにワインのカップを用意して貰い、テーブルに広げられた地図を元に再度概要説明を行った。


「かなりの難工事に違いないのう。一番の問題は資材じゃろうな」

「工事への動員は農閑期であればさほど大きな問題にはならないかと、農繁期であっても民兵の半数を出すのは可能でしょう」

「尾根の東が全て安全圏となるのですね。これで耕作地を囲うなら魔族に脅えることなく農作業が出来るのでは?」


 基本的には肯定してくれているんだろうが、工事の大きさに戸惑っているようだ。俺でさえどれほどの資材と工事期間が掛かるのか皆目見当がつかないんだからなぁ。


「ゆっくりと考えましょう。現状でもまだまだ長屋を作る場所はあるんですからね。とはいえ、来年には工事を始めたいと思いますから、それまで俺達4人で工事の段取りを決めたいと思っています」


 直ぐに着工することは困難だと3人も思っていたんだろう。地図を見ながら頷いてくれた。

 パイプに火を点けて、ワインを頂く。

 どんな難工事であっても、俺達の住む土地が争いに巻き込まれなければ、住民は安心して暮らすことが出来る。

 その為にも、この工事をやり遂げるしかなさそうだ。

 それに、この先もどんどん避難民がやってくる。工事期間が長くなるほど工事に関わる人数も増えてくるに違いない。

 数年は覚悟しているけど、10年を超えることにはならないんじゃないかな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 人が増えると煮炊きの燃料、建設資材としての木材が枯ないか不安ですよ 木は育つまで数十年かかりますからね
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