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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-073 部隊配置をすると寡兵であるのが良く分かる


 結局その夜の夜襲は無かったが、まだ隊の東にある踊り場にブリガンディ王国軍の兵士が時折姿を見せるそうだ。

 早く帰ってくれれば良いんだが、まだ狙っているのだろうか?

 それを考えるとこの前口上を述べた騎士達は、先行部隊ということになるのだろう。大隊規模を超える戦力でやって来たのなら、それだけ歩みが遅いのも頷けるし、魔族と対峙しても大敗することは無いだろう。

 2個大隊を超える戦力なのだろうか? 一瞬、緊張が体を走った。

 だが、よく考えてみれば、東からの道は大部隊の移動にはかなり時間が掛かることは間違いない。

 いくら大部隊を用意しても、東門を攻略するための人数は最大でも2個小隊を超えることは無いだろう。

 東門の前にも小さな広場があるけど、30ユーデほども無いからなぁ。

 門の北側は岩壁がそそり立っているし、南側には直ぐ崖になっている。石塀と崖の距離は15ユーデほどだ。

 攻城兵器を押してこれる道ではないし、せいぜい太い丸太を1個分隊ほどが運んでくるぐらいだろう。

 丸太で門を打ち壊そうとしても、門の左右の狭間から銃弾を打ち込めば良いし、それでもひるまずに門を壊そうとするなら、大砲でなぎ倒せば良い。

 とはいえ、東に1個小隊以上を配置せねばならないのが厄介だな……。


「やはりブリガンディ王国軍とは、一戦しなければならないのでしょうか?」

「一戦というか……、小競り合いにはなりそうですね。向こうも、何もしないで引き上げるとなれば面目が立たないでしょうし、最初の攻略に失敗すれば要害に立て籠もっていると王宮に報告も出来るでしょう。矢面に立たされた兵士には気の毒ですが……」


「配置はこのままで? 出来れば、リットンの部隊に変更してヴァイスを西に備えておきたいのですが」

「魔族相手なら、確かにヴァイスさんの方が適任でしょうね。明日には帰って来るでしょうからその時に指示すればよろしいかと……。軽装歩兵の方はエミールさんもおりますし、元重装歩兵のガイネルさんがいるんですから安心できます」


「マクランさんの部隊は……、投石部隊とクロスボウ部隊の混成小隊を1つ東ということで良いですね。南は、エルドとエミルの小隊……、あそこは弓兵もいましたね。でも、かなり南が手薄になりそうですが?」


 確かに手薄だけど、こればっかりはしょうがないな。その時には、東の門からダレルさんの小隊、西の門からマクランさんのクロスボウ小隊を移動するしかなさそうだ。

 人手が足りないなんて夕食後の会議で言い出したなら、エクドラさんが小母さん達を率いて参戦しそうだからなぁ。

 一度弓の腕を見てたんだけど、ヴァイスさんより上に見えたぐらいだ。老人や子供達のお守は性に合わないなんて言ってたからなぁ……。ちょっと不安になってきたぞ。


「一応、警戒レベルは『1』のままで良いでしょう。東は敵兵がたまに顔を出すだけですし、西の魔族は尾根を南下しているそうですから」

「東の踊り場に敵兵が溢れたところで『警戒レベル2』ということですね?」

「それで十分かと。西はレンジャーが監視を継続していますから、魔族がこちらに向かった事を知ってから『2』にしても十分に間にあいます。詳しくは今夜の会議で皆に伝えれば良いでしょう」


 テーブルの上の地図に部隊を配置し終えると、やはりもう2個小隊ほど欲しくなる。

 無いもの強請りをしてもしょうがないから、これで何とか迎撃したいところだ。

 

 その夜、皆に状況説明を行い当座の配置を説明する。

 レイニーさんが南の守りにつく部隊を告げると、残念そうな顔をしてるんだよなぁ。

 それほど戦いたいんだろうか?

 まぁ、兵士の仕事は戦うことなんだが、できればいつも昼寝をしている兵士であって欲しいところだ。それだけ村が平和だということだからね。


「明後日には、エルドさんとヴァイスさんが帰ってくるはずだ。当座は東の雲行きが怪しいけど、西はそれほどでもない。だが、ブリガンディ王国軍が、ここまでやって来た何もしないで帰るとも思えない。その辺りは、よろしく対応して欲しい。持ち堪えられる内に、増援の依頼は行ってくれ」

「了解です。レオンさんの言われた通り東の道は、天然の道ですからね。俺達は整備すらしてません。夜襲でも仕掛けたなら滝つぼに転落する兵士も出てくると思いますよ」


 とはいえ、通れることも確かだからなぁ。まあ、やって来たなら火矢でも打ち込めば十分だろう。


「それにしても、魔族の動きが気になりますね? やはり新な砦の攻略ということでしょうか?」

「オビール殿から聞いた話では、南西に砦を作ったようだ。確かに動きとしてはそうなるんだろうが、サドリナス軍だって、準備はしてると思うんだがなぁ」


 レンジャーのトレムさん達は、半日ほど魔族の後方を追跡してきたらしい。

 わき目を振らずに、ひたすら南を目指していたということだから、短期決戦に持ち込むってことだろう。明日の夜辺りが、一番危険じゃないかな。

 明日は出掛けずに、明後日に渡河地点から南西方向を探ると言ってくれたから、この村にやって来るなら魔族の早期発見は可能だろう。


「私達の戦術は砦化した村に籠っての迎撃戦です。レオンさんが考えた兵器と爆弾があるんですから、あまり深刻にならずとも良いと思います」


 レイニーさんの言葉に納得した顔をしてるけど、まだ地図上の配置の駒を眺めてるんだよなぁ。次の機会があるんだから、そんなに危険な場所に飛び込む必要なないと思うんだけど……。


 皆が去っても、指揮所に俺1人で待機する。

 レイニーさんは部屋で休んでもらい、ナナちゃんはベンチの上で毛布に包まって眠っている。

 今夜は長くなりそうだからと、ガラハウさんから頂いた板をナイフで削り始めた。

 作っているのは、ナナちゃん用のクロスボウだ。

 ナナちゃんの腕で引くんだから、それほど強い弓を付けられないが、それでも弓兵が使う弓なら何とかなるんじゃないかな。

 20ユーデで素晴らしい命中率を誇るナナちゃんが使えば、30ユーデ先の的も射抜けるだろう。

 弓よりクロスボウの方が、隠れて撃つには適している。どうしても、弓は立って撃つことになってしまうからね。

 案外身近なところには気が付かないんだよなぁ。

 

 民兵の使うクロスボウよりもかなり小さい。俺なら片手撃ちが出来そうな感じだけど、ナナちゃんの体ならこれぐらいでちょうど良いはずだ。

 ストックには肩当を作らずに、俺のカルバン銃と似たグリップを付けた構造だ。

 

 鐙のような金具と弓兵初心者の使う弓は手元にあるし、トリガー機構もガラハウさんが小さな物を作ってくれた。

 ボルトの滑空台は青銅製だ。これは小さな目ネジで止めるんだけど、上手く台をストックに取り付けるには、何度も滑空台に墨を塗ってストックの凹凸を手直ししなければならない。

 何度も手直しをして、どうにか均一に墨が付いた。

 松脂を加熱した滑空台に塗り付け、ストックに据え付けると木ネジでしっかりと固定する。

 握り部分も、少し細工をしておくか……。

 ナイフでチェッカー模様を刻むと、小手の釘を1本抜いてストックを手に外に出る。

 指揮所前の松明に釘を差し込み、熱した釘でチェッカー模様に焦げ目を入れた。


 後は仕上げだな。

 先ずはトリガー機構をストックに組み込んで先端に弓を取り付ける。弦を引くために足を差し込む鐙を取り付ければ……、完成だ!

 ヴァイスさんがこれに合うボルトケースを作ってくれたから、明日からナナちゃんはクロスボウ兵ってことになるぞ。

 ボルトは通常の矢の半分も無いし、シャフトは少し太く感じるだけだ。15本あるから、2日も練習すれば十分だろう。


 パイプを取り出し、外に出る。

 だいぶ空が白んじてきた。今夜の襲撃は無かったようだ。

 朝食を頂いたら、早めに横になろう……。


 朝日が指揮所に差し込んで来た時には、丁度お茶を飲みながら地図を眺めている時だった。

 徹夜した時は、朝日がやけにまぶしく思える。

 パイプを咥えながら目をぱちぱちと瞬きして眠気を追いやり、再度地図の駒に目を向ける。

 何度見ても、部隊が増えることは無いんだが……。やはり、2方向に部隊を分けるのは問題だ。

 東をもう少し減らすことは出来ないだろうか……。クロスボウ1個小隊がいるのなら、東の門は守れるんじゃないかな?


 目を閉じて、頭の中でその戦いを再現してみる。

 踊り場から指揮官が旗を振って指示を与えている。

 その指示を小隊長が横目で見ながら、部下を叱責して前に進もうとしている。

 だが足場の悪い道だから、兵士は盾を前方に掲げながら中腰ゆっくりと進むだけだ。

 盾には、東の門から撃ち込まれた矢が針山のように突き立っている。

 その内に壊れてしまいそうだが、兵士を守るのはどうにか身を隠せる大きな丸い立だからなぁ……。

 次の瞬間、盾に穴が開いて兵士がその場に倒れた。

 やはり銃に勝る物はない。

 数を減らしながらどうにか門の前まで来た兵士達の表情に絶望が広がる。

 門の前には塀にギリギリ近くまで掘られた空堀があったのだ……。


 トントンと肩を叩かれて目が覚めた。


「申し訳ありません。でももう直ぐ朝食でしたから……」


 椅子から立ち上がり大きなあくびを1つ。


「ちょっと顔を洗ってきますね」

 

 指揮所を出る前に振り返ってレイニーさんに伝えると、笑みを浮かべて手を振ってくれた。

 ナナちゃんも隣にいたから、すでに起きていたんだな。起こしてくれれば良かったのに。

 裏手の水場で顔を洗うと、すっかり目が覚めた。

 やはり冷たい水が眠気覚ましには一番だな。バンダナで顔を拭き取り指揮所に向かう。


「今朝方、状況の確認を行いました。変化なしですね。レンジャーの1つが南の様子を見に出かけています」

「朝方まで起きてたんですけど、いつの間にか寝落ちしてしまいました。でも、ブリガンディ軍が動かないというのが気になりますね。早く動いてくれたなら助かるんですが」


 東に弓兵は必要なさそうだ。分隊ごと南に移動させた方が良いな。銃兵が2個分隊に、クロスボウ部隊がいれば、軽装歩兵は2個分隊も必要ないだろう。

 軽装歩兵にはバリスタとカタパルトの操作を頼むか。あれなら踊り場を容易に攻撃できるからなぁ。


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