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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-069 魚釣りに出掛けよう


 収穫祭をしようという話は、誰が最初に言ったんだろうか?

 たちまち村中に広まったから、取り止めになんてできそうにもない。

 マクランさんとエルドアさんが主体になって進めてくれているんだが、場所は南の森の手前に作った開墾地だ。将来は長屋を立てる計画地だが、今は大きな空き地になっているからだろう。

 だけど、毎年お祭りをすることを考えるなら、ある程度の大きさの広場を残しておいた方が良いのかもしれないな。


「それで、魚を沢山取ってきて欲しいということですか?」

「そうにゃ。エルド小母さんから頼まれたにゃ」


 頼まれたのはヴァイスさんでも、ヴァイスさんに釣りが出来るとは思えない。

 思わず助けを求めるようにエルドさんに顔を向けると、笑みを浮かべて頷いてくれた。


「釣り好きを集めて出掛けましょう。明日で良いですね。砂金を採っている場所から少し下ると良い釣り場があるんですよ」

「3日ほどかける形ですね。そうなると……」

「護衛は私達が付いていくにゃ。2個分隊で行くなら、荷車も押して行けるにゃ」


 護衛というよりも、その場で美味しく頂きたいというのが本音なんだろう。

 皆が苦笑いを浮かべているくらいだからね。とは言っても反対意見を言う人物はいないようだから、明日の朝食後に出掛けることになった。


 翌日。集まった釣り人は12人。結構いるんだな。荷車2台にテントや毛布それに食料を積み込んでの出発だ。1台が空荷に近いのが気になるけど、まさか魚を運ぶために空荷ってことは無いだろうな?


 エルドさんの先導で俺達は村を出る。ナナちゃんはしっかり荷台の上に座っているから、足の遅れを心配することもない。


「たくさん釣るにゃ! 着いたらすぐに焚火を作るにゃ」

「釣れなくても怒らないでくださいよ。釣りは運任せなところがあるんですからね」

「怒らないにゃ……。でも、しばらくは冷たい目で見られると思うにゃ」


 怒られた方がマシかもしれない。そんな虐めのようなことはしないで欲しいところだけど、周りを見るとヴァイスさんの言葉に頷いているんだよなぁ。

 食べ物の恨みは恐ろしいと聞いたことがあるけど、別に飢えているわけでは無いんだからね。


 昼前に難とかエルドさんお勧めの釣り場に到着した。

 結構広い河原だな。膝程の深さの瀬が大きく広がっているが、河原の上流と下流に深そうな淵がある。

 昼食を急いで食べ終えると、直ぐに釣竿を取り出し仕掛けを結ぶ。


「どの辺りを狙うんですか?」

「下流で試してみようかと……」

「なら私は上流に行ってみましょう」


 エルドさんと短い会話をして直ぐに河原を南北に分かれた。水際の小石をひっくり返して川虫を採り、釣り針に掛ける。

 さてウキ下はどれぐらいだろう?

 先ずは1ユーデほどで試してみるか……。

 川岸に合った大きな岩の上に陣取って淵に仕掛けを下ろす。

 ゆっくりとウキが川下に流れていく。一様に流れていくのは仕掛けが川底に届いていないからだろう。

 竿いっぱいに流れたところで、竿を上げると上流に仕掛けを投入する。

 何度かウキを流していると、いきなりウキが首位中に姿を消した。

 手首を返すようにして当たりをとると、竿をグイグイと引き込んでいく。

 思わず笑みが浮かぶ。結構大きいんじゃないか?

 下流に移動しながら手元に引き寄せると、最後は河原にごぼう抜きにした。

 バタバタと騒いでいる魚に素早くネコ族のお姉さんが近寄ると釣り針を外してくれる。俺に軽く手を振ると焚火の方に魚を持って行ったけど、何が釣れたんだろう?

 それぐらいは教えてくれても良さそうに思えるんだけどなぁ。

  

 気を取り直して、再び餌を付けると淵に竿を出す。

 今度は釣れた魚をよく見ておこう……。

 2匹目の魚はそれほど大きくない。釣り上げた魚をまじまじと見てみると、村で養殖している魚とは少し違っている。

 出城のような砦で釣り上げた魚と同じだから、これも美味しく頂けるに違いない。

 ナナちゃんがやってきたから、釣り上げた魚を持っていたカゴに入れてあげる。

 笑みを浮かべて、ヴァイスさん達がいる焚火に向かって行ったけど、あまり急ぐと転びそうだぞ。河原は足場が悪いんだからね。


 1時間程釣りをしたところで、一休み。

 だいぶ釣り上げたと思うんだけど、釣れる傍から持って行ってしまうからどれぐらい釣れたんだかさっぱり分からないんだよなぁ。

 お茶でも飲ませて貰おうと、焚火に近づくと……、焚火の周りに二重の串焼きの輪が出来ていた。

 近くに新たな焚火を作っているのは、三重にしたのでは上手く焼けないと思っているのだろう。


「ご苦労様にゃ。今のところ2番手にゃ」


 ヴァイスさんが手帳を見て教えてくれた。誰が一番釣り上げたかを調べてるのかな?

 1番手は誰かを聞いてみると、予想通りエルドさんだった。

 これは負けられないなぁ。一服したら、俺も頑張らないと……。


「食料確保も大事ですけど、周辺監視もよろしくお願いしますよ」

「分かってるにゃ。1個分隊を周囲に展開しているにゃ。敵が来たら荷物を投げ出して北に走ればいいにゃ」


 その通りに出来るんだろうか?

 よだれを垂らしそうな表情で串に刺さった魚を見てるんだよなぁ。

「魚を死守するにゃ!」なんて言い出すんじゃないか?


 お茶をご馳走になったところで、再び釣りに興じる。

 日が傾き始めると、川面に波紋が広がり始めた。どうやら川虫の羽化が始まったらしい。魚の食いが良くなったから、ウキ下を短めにして仕掛けを投入する。

 羽化が始まると魚の視線が上を向くらしい。

 川底を這うように餌を流すのでは釣れなくなってしまうと、誰かに聞いたことがある。あれはオリガン家で過ごした少年時代だったはずだ……。


 日が暮れ始めたところで、竿を畳む。

 明日は朝からだからなぁ……。きっとナナちゃんに早く起こされるんじゃないかな。


 河原の焚火に戻ってみると、自然堤の近くにテントがいくつも作られていた。

 さすがに河原にテントを張ると、石がごろごろして寝ることができない。

 光球を入れたランタンがテントの並びに沿って2つ下がっているから、足元さえ注意すれば夜でも外に出られそうだ。

 敵がやってこないとも限らないからなぁ。備えは必要だろう。


 焚火の傍で一服を楽しんでいると、俺の隣に腰を下ろしてきたのはエルドさんだった。

 笑みを浮かべているのは、最後まで筆頭を貫いたからなんだろう。


「いやぁー、ここは魚が濃い場所ですね。ヴァイスに聞いたら40に近い数を釣ったと教えてくれました。レオンさんは現在3位だそうですよ。やはり腕はあるんですね」

「適当にさぼって釣りをしてたからだろうなぁ。明日はエルドさんを抜きますからね」


 そんな話を聞いて他の釣り人も話に交じってくる。

 ヴァイスさんがワインのカップを渡してくれたのも、俺達の話が弾む要因になったのかもしれないな。

 野菜がたっぷり入ったスープに薄いパン、それに串焼きの魚が1人1本が今夜の食事だ。

 ヴァイスさん達も嬉しそうに魚を齧っているから、しばらくは釣りに行こうということは無いだろう。


 翌日の釣果はどうにか2位になったけど、エルドさんとの差は12匹ということだった。

 エルドさんは砂金掘りに行くたびに釣りをしているからなぁ。この辺りの川に詳しいのが俺を上回る理由に違いない。

 ヴァイスさんも魔法の袋にたっぷりと焼き魚を入れることが出来たから、帰りの足取りは軽いものだった。

 大きな魔法の袋をいくつ用意してきたんだろう?

 空荷に近い荷車には、弓兵達が狩った鹿が2頭乗せられている。

 釣りをしないから、その埋め合わせということなんだろう。明日の夕食には普段の倍以上の肉がスープに入れられるだろうから、エクドラさんが喜んでくれるに違いない。


「たまには釣りも良いですね。やはり村の直ぐ東は釣りは厳禁ですか?」

「釣るのは秋の1日だけ……。エルドさんに今年も期待してますよ。池も大きくしましたから養魚の数も増やせます」

「確かにこの魚よりも味が上ですし、なんといっても大きく育ちますからねぇ。敵の動きもあるでしょうが、釣りをするぐらいの時間はあるでしょう」


 今のところ養魚の供給量は1千匹程度らしい。どうにか兵士達には食べさせることが出来るんだが、村人全体というわけにはいかないんだよなぁ。池をさらに大きくしようとマクランさんが言っていたけど、そうすると工房を移転しなくてはならない。さすがにガラハウさんが反対しそうだ。


 村に帰ったところで、夕食後の会議に池を拡張したいと話したら、直ぐにガラハウさんが立ち上がった。

 やはり予想した通りってことか……。


「ワシも賛成じゃ! 新たな工房は、東門の近くに作るぞ。水量が段違いじゃから、大型の水車が使えるじゃろう。滝の道に近くはなるが、岩場じゃからのう。我等の工房を襲われんようにその辺りは補強すれば良いじゃろう」


 ガラハウさんの言葉に、思わずキョトンとしてしまったのは、俺だけでは無いはずだ。

 一旦工房を開けば、そう簡単に動かないというのがドワーフ族じゃなかったのか?

 確かに、今の工房は小さいから、大きくしたいと思っていたんだろうけど、それにしても思い切った移設になるなぁ。


「あの場所は平地がほとんどないですけど?」

「ドワーフ族の工房は鉱山に併設するのが一般的じゃ。銅山ということも考えたが、あそこに水を流すのは面倒じゃろう。じゃが、東門の近くなら結構な量の水が流れておるからのう」


 炉を大きくしたいってことだろう。青銅や錫とは別に鉄を鍛える炉も作るつもりなのかな?

 村の将来を見据えると工房は大きい方が良いんだが、避難民として村にやってくるドワーフ族の仕事を作るという理由もあるのだろう。


「手伝いが必要なら、言ってください。それで、移転は何時頃までに?」

「1年を目標としたいところじゃな。新たな工房が出来たところで、今の工房を撤去するぞ。それなら、武器作りの手を休めずに済むじゃろう」


 どれぐらい大きな工房にするんだろう?

 崖に穴を掘るようだから、果たして1年で終えるとは思えないんだよなぁ。

 トラ族の兵士がいるから、彼らを手伝いに向かわせることになりそうだ。

 早く工房が出来れば、それだけ早く池を作れるんだから。


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