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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-007 砦暮らしの始まり


 レイニーさん達が砦の暮らしを色々と教えてくれるのはありがたいのだが、隣に座っているナナちゃんの目がトロンとしてきた。

 そろそろお開きにして部屋に案内して欲しいと思っていたら、ついにナナちゃんが俺の膝に寝落ちしてしまった。

 レイニーさんがそれを見て、済まなそうな顔をしているのが気になるところだ。


 しばらく無言だったレイニーさんが口を開こうとした時だった。

 トコトコとネコ族のお姉さんが駆け寄って来ると、レイニーさんの耳元で何や囁いている。

 だんだんとレイニーさんの表情が明るくなっていくのが分かるんだけど、何の知らせなんだろう?


「さて、そろそろお開きにしましょう。副官の部屋に案内するわね」


 嬉しそうに言ってくれた。何となく状況が分かってきた。やはり副官室を物置代わりに使っていたのだろう。先ほどまで、1個分隊で片付けていたに違いない。

 

「それでは、また明日お会いしましょう」


 ヴァイスさん達に軽く頭を下げると、ナナちゃんを抱っこしてレイニーさんの後についていく。

 

 兵舎は砦の北にあるようだ。

 石垣に囲まれた砦は、北と東西に建物が並んでいる。

 レイニーさんの話では、最大2個大隊が駐屯できるそうだ。もっとも、その時には大きな広場にテントがたくさん建つらしい。


「一番奥の兵舎なの。分隊長から個室が与えられるんだけど、ナナちゃんはどうするの?」

「俺と一緒でだいじょうぶです。夜の見張りに出る時にはヴァイスさんに預けますよ」


 どうやら小隊ごとに兵舎が作られているらしい。

 兵舎に入ると、長い通路が奥に続いている。

 いくつか扉があるけど、扉の間隔は手前の扉に比べて奥は間が空いてるようだ。


「入り口から最初の部屋が下士官室、その隣が私の部屋で、さらに隣がレオンさんの部屋になります。その奥に分隊ごとの部屋があります」

「俺は、この部屋ですね……。今夜は色々とありがとうございました。明日はどこに出頭すれば良いですか?」


「朝食が終わったら下士官室に来てください。朝の士官会議に向かいます」

 

 砦の状況を周知するってことなんだろうな。

「おやすみ」を言って、部屋の中に入る。

 ベッド2つが奥に並んで、手前には机が1つあった。扉の片側にはクローゼットのようだ。

 中を開けると、ハンガーが3個下がっていた。

 慌てて何かを移動したのだろう、部屋の床のあちらこちらに擦れた跡がある。

ベッドのシーツや毛布は清潔そうだし、床や棚には埃すらない。【クリル】の魔法は偉大だと感心してしまう。場合によっては姉上に頂いたバングルを使うことになるかと思っていたけど、ちゃんと部屋を元に戻してくれたようだ。

 

 ナナちゃんをベッドに乗せて、リュックをテーブルの上に置いた。

 俺も隣のベッドで横になる。

 明日は朝が早そうだ。ちゃんと起きられるのか心配になって来る……。

               ・

               ・

               ・

 翌朝。いつものようにナナちゃんに起こされたところで身支度を整える。

 ナナちゃんの背中にも短剣を背負わせたから、ちょっと凛々しく見えるな。


「リュックは部屋に置いておいてもだいじょうぶだよ。弓と矢筒をバッグの中の魔法の袋に入れとけば十分だ」

「もう入ってるにゃ。朝食に行くにゃ!」


 ナナちゃんと手を繋いで出掛けようとしたら、レイニーさんの部屋の扉が開いて、本人が顔を出した。


「今から朝食ですか? なら一緒に行きましょう」


 ナナちゃんの手を引いて俺の先を歩いて行く。ナナちゃんは俺の従者なんだけどなぁ。


 朝食のトレイを取って、カウンターから小母さんにスープとパンを受け取る。

 最後にお茶のカップをトレイに乗せれば終了だけど、ナナちゃんの運び方が危なく見えたので俺が代りに持ってあげる。


「こっちにゃ!」


 奥のテーブルから手を振っているのはヴァイスさんだな。

 レイニーさんがヴァイスさん達のいるテーブルに向かったから、俺も後についていくことになってしまった。

 女性ばかりのテーブルなんだよなぁ。ちょっと気後れしてしまう。


「レイニーに副官が付いてるにゃ!」

「初めまして、レオンと呼んでください。こっちがナナになります」

「ナナにゃ。【メル】が使えるにゃ!」


 人間族の女性もいるようだ。このテーブルは仲の良い女性達が集まる場所じゃないのか?

 ナナちゃんが元気よく挨拶したので、皆が笑みを浮かべている。

 イジメを受けることは無さそうだ。ちょっと心配だったんだけど、俺の危惧で終わりそうだな。


「読み書きだけでなく計算もできるならありがたいにゃ。これで買い物も安心にゃ」

「誤魔化す商人がいるんだから、困ったものね。でも人間族なら軽装兵士が良いと思うんだけど……」

「空きはないわよ。強いて言えば重装歩兵なんでしょうけど、前の副官は棒立ちしているところを矢を受けたのよねぇ」


 昨日聞いた話だな。

 たぶん最初の戦闘で竦んでしまったんだろう。一度経験すれば次は良くなると兄上から聞いたけど、次の戦いができなくなったのではしょうがない。


「この後は、士官会議でしたよね?」

「集合の鐘が2つなるの。食堂が始まる時には鐘が1つなるのよ。鐘が続けてならされた時は敵襲の合図になるから直ぐに持ち場に着くことになるわ。私達の持ち場は北の屋根よ」


 場所を確認しておいた方が良さそうだな。

 敵も弓を使うとなれば、矢を避ける場所もあるはずだ。ナナちゃんが隠れる場所があれば良いのだが……。


 やがて、大きな鐘の音が聞こえてきた。

 あの音を今朝聞き逃したのかと疑問に思えるほど大きい。


「さて、ナナちゃんのことはヴァイスに頼んだわよ。怪我なんてさせないでね!」

「分かってるにゃ。分隊の部屋で遊んでいるにゃ」


 ナナちゃんの手を引いて食堂を出ていくヴァイスさんを見送ると、レイニーさんの後ろに付いて歩き出した。

 食堂には3つの入り口があるらしい。今出たところは食堂の真ん中の扉だ。長屋のような作りだから南北にも扉が付いているようだな。


 指揮所の1階のエントランスから真っ直ぐ奥に廊下が延びている。昨日は、エントランスから階段を上って2階に上がったから、2階は指揮官の私室なのかもしれない。

 廊下を奥に進み最初の左側の扉を開けると、20人程が座れる大きなテーブルがあった。

 テーブルの真ん中には、砦周辺の地図が乗せられている。防衛戦には、ここで部隊の柔軟な配置を行うのだろう。


「小隊長と副官が同席するの。発言は中隊長がしてくれるわ」

「了解です」


 小隊長が全員揃ったようだが、空いている席もある。3個中隊なら小隊は12個あるはずだ。小隊長と副官を合わせれば24人の筈だが、18人しか席についていない。防衛部隊の欠員は速めに解消した方が良いと思うんだけどなぁ。やはり辺境の砦勤務を希望するような物好きは少ないのかもしれない。


 扉が開き、指揮官と中隊長が入ってきた。それぞれ副官を連れている。指揮官達が席に着いたところで小隊長達が腰を下ろす。この辺りは周りと合わせるしかないだろう。


「状況は?」

「は! 今朝の偵察部隊の報告によりますと……」


 指揮官の指示で、指揮官付きの副官が長い棒を使って地図を示しながら報告してくれた。偵察部隊は今説明している副官の直属の部下なのだろう。報告はかなりしっかりとしていることに感心してしまった。


「……以上です。現状での脅威は低いと思われます」

「諸君。現状は今のようなところだが、何時いかなる変化があるとも限らない。訓練に励むように」


「「は!」」

 全員が短く返答する。


「そうだ! 皆に紹介せねばならんな。オリガン家より、我等が砦にやってきてくれた人物だ。レオン! 立って挨拶ぐらいしておけ」

 

 急に砕けた感じだ。


「はい!」と返事をして席を立つ。


「第3中隊、第2小隊の副官として任じられましたレオニード・デラ・オリガンです。単にレオンとお呼びください。家名からすれば長剣なんでしょうが、生憎得意ではありません。弓隊で腕を磨きたいと思っております」


「貴族じゃないか……」などと小さな声が聞こえてくるけど、気にしないでおこう。まだ実戦を経験してはいないからね。大人しくしていれば、やっかみもないはずだ。


「小さな女の子を従者にしているが、私も認めたことだ。もしも泣かすようなことがあれば、1人で偵察に行かせるからな!」


 直ぐに分かることだからだろうが、あらかじめ知らせてくれた。

 それにしても、泣かせたら1人で偵察をやらせるのは行き過ぎじゃないのかな?

 下手したら、帰ってこれなくなるぞ。


「以上だ。解散!」


 小隊長達が出ていくが、レイニーさんは座ったままだ。不思議に思い、テーブルを眺めると第3中隊長が残っている。

 挨拶をしておけと言うことだろう。立ち上がって、中隊長のところに歩いて行く。


「挨拶が遅れまして申し訳ありません。弓隊で頑張りますので、よろしくお願いいたします」

「立っていないで先ずは座れ。レイニーもこちらに来るんだ」


 レイニーさんが俺の隣に座ったところで、副官に何やら囁いた。

 直ぐに出て行ったのを見たところで、俺に視線を戻す。


「オリガン殿にはだいぶ世話になった。本来なら第3中隊に欲しいところだが、指揮官が読ませてくれた書状を見ると、そうはいかんだろう。指揮官の慧眼に感謝したいところだ。

 私も男子を3人もうけたが、親というのはやはり子供が可愛いものだな。

 ここで5年頑張れば、王宮で弓隊を束ねることも出来よう。無理をせずに、出来ることをすれば良い。そして私にレオン殿の死亡報告をオリガン殿にすることが無いようにしてほしい」


「感謝します。ですが、すでにオリガン家の分家の身分を受けることが出来ました。いざ合戦の時には、オリガン家の家紋を持つ者として恥ずかしくない働きをしたいと考えております」


 父上よりは若そうに見える御仁だが、父上と一緒の部隊にいたことがあったのだろうか?

 私の言葉に、一々頷いて聞いている。


「やはりオリガン殿の息子だけのことはある。なら、私からの言葉は、力の限り励んでくれと言い直そう。お仕着せだが、革鎧を届ける。

 従者には無いが、聞くところによるとネコ族の少女らしいから、合う鎧もない。合戦になったら、隠れるように言い付けるのだぞ。

 話は以上だ。レイニーもレオン殿の身分は余り考えずにおくのだな。私の場合は、貴族との付き合いもあるから殿を付けないわけにもいくまい」


 席を立つと、慌ててレイニーさんも立ち上がった。中隊長に深々と頭を下げると部屋を出て兵舎へ向かう。

 オリガン家の武名は王国内に広く伝わっているようだ。

 改めてオリガン家の分家という意味を考えてしまう。少なくとも宗家の名を貶めることが無いように努めなければなるまい。


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