E-068 フイフイ砲を作ろう
「本当に、これを作るつもりですか?」
「サドリナス王国軍との戦争で犠牲者を出してるからね。魔族相手となるとこのままではさらに犠牲者を出してしまうだろう。村が大きくなっているから、少ない人数での防衛は困難だ。民兵を動員したとしても、白兵戦になると心もと無くなってしまう。なら、その前に敵を漸減して塀の内側に入ってくる敵兵の数を減らさないといけないだろう」
「理屈ではその通りですが、可能なんですか?」
「そのための、兵器がこれになる。カタパルトの発展型かな? フイフイ砲と名を付けた」
基台だけでも2階建ての建物よりも高さがある。投石を行う腕木の長さだって20ユーデはあるからなぁ。1本では強度不足だから2本の丸太を使うぐらいだ。
その腕木の動きは、基台を支点として反対側に付けた重りを使う。鉄棒で作ったカゴにたくさん石を詰め込んだものだが、重量が得られれば問題ない。
腕木の先端に設けた鉄製の籠に石や爆弾を入れて飛ばすんだけど、さてどれぐらいの飛距離が得られるかは、実験してみないと分からないんだよね。
「物は試しと言うからのう。冬に1基作ってみるか。大きさからみればカタパルトの2倍ほどの石を飛ばせそうじゃが……」
「3倍は行けると思いますよ。爆弾も一回り大きいのを飛ばせるはずです。試しに爆弾の模型も作ってくれませんか? 爆発せずに重さが同じであれば十分かと」
皆が驚くフイフイ砲だけど、これって大砲ではないのになぜ砲と名が付くんだろうな?
俺の記憶にもその理由までは浮かんでこないんだが、威力が大砲並みってことから来たんだろうか?
1か月ほど経ったある日の事。
完成したフイフイ砲の試射を行うことになった。
皆が南の塀に集まり、塀の中も外も賑やかだなぁ。これでショボイ威力だったらどうしようかと悩んでいる中、発射の準備が着々と進んでいる。
大仕掛けだから、腕木のロープを20人近くで引いて留め金に掛けると、ガラハウさんが俺のところにやってきた。
「まったくもって大仕掛けじゃわい。まぁ、村人に手伝って貰えば何とかなりそうじゃな。爆弾は一回り大きいのを3つ作ってあるぞ。もちろん爆発はせんが、重さは合わせてある」
「なら、最初は1つで試してみますか。だんだん数を増やして、距離の変化を調べてみたいと思います」
「慎重じゃな。まぁ、それが軍師と言われるところじゃろうて……」
最後は笑い声になって、俺のところから離れて行った。工房の配下を塀の外と塀の上、それにフイフイ砲のところに配置しているのは、ガラハウさんも飛距離が気になるのだろう。
「撃ち出すぞ!」
ガラハウさんの大声が塀の中に木霊した。
皆が話声を止めてフイフイ砲から距離を取る。
「撃て!」
大声の指示が飛び出すと、フイフイ砲の留め金のロープを握っていたドワーフ族の若者が、体を使ってロープを引いた。
ブウウンという唸り声を上げて腕木が跳ね上がり腕木の先端のカゴに入れた爆弾を塀の外に飛ばす。
かなりの勢いで飛んで行ったが……、どれぐらい飛んだんだろう?
「着弾を確認! 現在距離を測っていますが300ユーデを超えています!」
塀の上に上がっていたドワーフ族の大声に、観衆達が、ホォォ! と溜息を出す。
予想以上だな。カタパルトの2倍飛んでいるようだ。
これなら、敵兵が攻撃準備の整列をしている中に爆弾を落とせるだろう。
それだけ、遠距離で兵を揃えねばならないし、塀に取り付くまでに敵兵の漸減を計画通り進められる。
「着弾点の距離、確認できました。380ユーデです!」
塀の上のドワーフの声に、完成を上げる者や、腕組みして頷く者……、人様々だな。
「次は2個を飛ばすぞ!」
ガラハウさんが再び腕木のセッとを命じると、皆がロープを引き始めた。
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「大仕掛けですが、あれほど飛ぶとは思いませんでした。爆弾3つでも300ユーデ先を狙えるんですから」
「たくさん作れば、敵も寄り付かないにゃ。予定では3つだけど、もっと作れば良いにゃ」
「1基でカタパルト5基分の威力はありそうですね。私も数を揃えるのは賛成です」
当初は3基だったけど、皆の意見で5基に増やすことになった。南に3基、西に2基ということになる。
それで困るのが爆弾の製造なんだよなぁ。
各フイフイ砲に5個ずつというんだからね。カタパルト用にも5個ずつは欲しいところだし、バリスタや矢に取り付ける爆弾も作らねばならない。
火薬の量が足りないから、急遽レンジャーの連中に火薬の調達に向かってもらうことにした。
レンジャー達なら問題なくエディンさんの商店に向かうことが出来るだろう。
ついでにワインと調味料をエクドラさんが頼んだようだ。
「これで村の防衛が格段に上がったのう。フイフイ砲で石を打ち出せば、敵も300ユーデ以内にそうそう近づけんわい」
「遠距離をフイフイ砲、中距離はカタパルト、さらに近付けば少年達の投石という3段重ねですね。となると、バリスタの役目は?」
「攻城兵器の破壊です。狙いがあるていど付けられますからね。元々はオーガ対策でしたけど、攻城兵器破壊にも役立つはずです」
指揮所に戻ると、小隊長達と話が弾む。
確かに格段に防衛力は増したはずだが、問題は誰が操作するかということだ。
皆で頭を悩ました最終結論は、フイフイ砲1基当たりにドワーフ族の監督のもとに元兵士が5人と開拓民の有志が15人付くことになった。
カタパルトの操作員からドワーフ族がほとんど外れてしまうが、さすがに1人を残さねばなるまい。カタパルト1基あたり、ドワーフ族1人と民兵が1個分隊ということになるようだ。最終的には民兵にカタパルトの操作を一任するということで訓練をすると、ガラハウさんとマクランさんの話がついた。
「バリスタの方はさすがにそうもいくまい。ブリアント王国からやってきた元兵士達に任せてはどうじゃ?」
「そうですね……。敵兵との白兵戦の最中にバリスタ操作ということもあったようです。ダレルさん、1基当たり5人で調整してくれませんか? バリスタ小隊ということで1つに纏めてください」
「了解です。とは言っても、白兵戦の経験のある連中を複数加えるようにします。5人でも、いざとなれば力になれますからね」
「だいぶ大きな村になりましたけど、これ以上に大きくなるんでしょうか?」
「まだ避難民の流入が続いていますからねぇ……。最終的には5千人を超えるでしょう。それを見込んで森を塀の中に取り込みましたから、それ以上の避難民がやってきても住む場所は確保できますよ。問題は食料の自給です。かなり西に畑を広げてしまいました。西の尾根近くまで開墾が進んでいますから、西にはこれ以上広げるは危険です。となると南ということになるんですが、これもサドリナス王国との争いの種になりかねません」
「東はどうじゃ? 最初の砦では直ぐ東に川が流れていたが、今ではかなり東が空いておるぞ。雑木林にしておくよりは畑にした方が見通しが良さそうじゃ」
確かにその手はあるな。東は石塀にせずに丸太塀のままだが、あえて東から攻撃するような愚将はいないだろう。袋小路だから容易に殲滅することが出来る。
「東ですか……。確かに良さそうですな。野菜畑にすれば毎日収穫できそうです」
マクランさんの言葉に、南の塀の端に作った楼門から北東に向けての開墾が始まった。
念の為に低い丸太塀と柵を作っておけば、村を攻略する敵兵が迂回してくることも無いだろう。
腕の立つ斥候なら、直ぐに村の東側からの攻略が、正面からの攻略より難しいのが分かるはずだ。
明日から、雑木林の伐採から始まるんだろうけど、どれぐらいの畑が作れるんだろう?
出来れば1家族が、その畑だけで生活できるほどの広さになれば良いんだけどねぇ。
「北の斜面を利用して山羊を放牧していますが、だいぶヤギも増えまして、今では30頭を越えています。北の斜面の放牧地も広げて構いませんか?」
「問題ありませんが、放牧地は二重の柵で囲んでください。ありえないとは思いますが、魔族の備えは必要でしょう。それに射撃場については現状通りとします」
射撃場は東西50ユーデほどの広さなんだが東西ともに射撃場の端から10ユーデ離した場所を土盛りしている。その上に板塀を張っているのは、万が一にも流れ矢や銃弾が射撃場から飛び出さないようにするためだ。
ヤギを世話をする子供達に、流れ矢に当たらないようにとの配慮だろう。
「そうそう! 忘れてました。提案箱の中で1つ、早めに解決したい案件があったんです。新たな区割りに作った長屋に水場が欲しいとのことです。何とかしてあげたいのですが……」
さっそく動き始めたようだ。
そういう事ならとヴァイスさんが場所を決めて、そこまでの水路を作ることになった。水路は石を簡易セメントで固めた水路を通りの下に作って水場で地上に噴き出すようにする。簡単な洗い場を作り、排水路は大通りの排水路に繋げれば良いだろうとガラハウさんが提案してきた。
水場は村で暮らす上でも重要な施設だからなぁ。井戸なら毒を投げ入れられる可能性もあるけど、噴水のような水場ならそれを防止できそうだ。
となると……、水源は養殖場の上からということになるんだろう。
結構長い距離だけど、1度作れば長く使えるに違いない。
今度は、誰が溝堀をするかを話し合うことになってしまった。1日で終わるわけでは無いから第一小隊から順番に行えば良いと思うのは俺だけなんだろうか?
くじで順番を決めるということで、クジ引きの順番で騒ぎ出す始末だ。
ある意味平和ってことなんだろうな。
こんな些細なことで大騒ぎが出来るんだからね。
「それでは結果を発表します。先ず取り入れ口はレオンの部隊で良いですね。そこから溝を掘って簡易コンクリートの水路を地下に作ります。最初はリットン小隊、2番手は……」
次々と順番が決まっていく。
水の取り入れ口は俺の部隊が担当で、水場はガラハウさん達の担当だ。
もっとも、ドワーフ族だからなあ。各小隊が作る水路についても監督をしてくれそうだ。標高差があるから、途中で逆勾配があったとしても水は流れてくれるだろう。
それ程心配知ることは無さそうだ。
 




