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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-066 戦は終わったが、亡くなった者は帰ってこない


 レンジャーのリーダーをしているトレムさんが仮設指揮所を訪れた時には、空が白み始めていた。

 レイニーさんが仮眠から覚めてお茶を飲んでいる時だったから、丁度都合が良い。

 手渡したワインのカップを受け取り、テーブルの地図を指差しながら状況説明をしてくれる。

 作戦行動に従って、敵の兵站部隊を南西方向から攻撃したということだ。


「荷馬車だけで50台を超えていた。さすがに馬は繋いでいなかったが、20ユーデほどに近づいても監視兵に見つかることが無かったのが幸いだった。あいつら、焚火を囲んで酒を飲んでいたからなぁ。いくら戦場から離れていると言っても、北で戦が起こってるんだから少しは警戒すべきだと思うぞ」

「位置的には魔族の脅威は少ないですし、大勢の兵士が北にいるんですからね。ある意味一番安全な場所だと思っていたはずです」


「確かにそんな感じに見えたな。俺達が用意した火種を使わずに、周りを囲んでいた松明から火矢の火を貰ったぐらいだ。後は一斉に火矢を放ち、奴らが慌てているところに魔族の矢を打ち込んで帰ってきた。これでレオンの策が成ったということになるのかな?」

「十分です。これで今日中に引き上げてくれますよ。ご苦労様でした。ゆっくりと休んでください。夕暮れ前に再度出撃してくれませんか? 敵軍の行動を見て来てください」


「了解だ!」そう言って、カップをテーブルに戻して仮設指揮所を出ていく。

やはりレンジャーは使えるな。今後は色々と役立ってもらおう。


「敵の食料を焼いたということですね。そうなると……」

「俺達と戦って俺達の食料を手に入れるか、それとも兵を飢えさせて布陣を維持するか、軍を纏めて王都に戻るかの3択ですね。前者は俺達の強さを分かっているはずですし、兵を飢えさせたなら士気は下がり脱走者が続出するでしょう。となると最後の選択になるんですが、それを直ぐに行うならまともな将だと思いますよ。中々決断できなければ愚将になるんでしょうね」


 名ばかりの将軍なのかもしれないな。だけど、それなら優秀な幕僚を近くに置けば済むことだ。

 案外獣人族を侮っての人選かもしれないな。それならもっと徹底的に叩いておいた方が良かったのかもしれない。


 昼過ぎに、敵の指揮所となっていたテントが畳まれたと知らせが入った。

 愚将にはならなかったか……。

 日暮れ前にレンジャーが再度状況を確認してくれるはずだ。部隊の配置を解くのは明日でも良いだろう。


「上手く策が働いたということでしょうか?」

「ですね。夕刻にレンジャーが状況を見に出掛ける予定です。その結果で配置を解けばよいと思います」


「前回にも増して戦死者が多いようです。こちらの部隊は?」

「朝食後に集まるよう各小隊長に伝えています。今回ばかりは犠牲者が出たかもしれません」

「そうですね……」


 レイニーさんが顔を伏せる。

 2桁には届かないと思うけど、亡くなった連中は帰ってこない。重傷者もかなり出たはずだ。彼らが再び戦列に加われないとなると、俺達の戦力低下を戻す対策も必要になってくる。

 誰も死なない戦等ありはしない。戦場は命のやり取りそのものだからなぁ……。

 

 日が昇って、どんどん気温が上がってきた。

 まだ涼しい内にと、朝食のサンドイッチが運ばれてくる。お茶と一緒に頂いたところで楼門に上ってみた。


 楼門に上で、エルドさんがパイプを咥えてジッと南を見ている。

 視線の先にはたくさんの亡骸があった。

 今回もどうにか防げたが、俺達を相手にするより魔族を相手にして貰いたいところだな。


「部下を2人失いました。今朝まで意識はあったんですが……」

「大戦でした。現在点呼をしているところです。エルドさんの部隊の状況報告もお願いします」

「了解です」


 そういって近くに部下に視線を向けて小さく頷いた。

 あれで指示を出したってことかな? 直ぐに部下が点呼を取り出したから、そうなんだろうけど……」


「魔族相手の方が手強いことは確かですね。敵の中にはかなりの数の新兵がいましたよ。梯子を握り締めて、飛び降りる事さえできずに槍を受けていた兵もおりました」

「数合わせでは戦はできないということでしょうね。王国の上層部が数合わせをするようでは、魔族相手に苦戦するだけでしょうに」


 やはりかなりの新兵がいたようだ。

 惨い話だが、彼らを倒さなければこちらが蹂躙されてしまうからなぁ。

 南に向かって、しばし黙祷を捧げる。


 点呼結果を受け取ったエルドさんと一緒に楼門を下りると、仮設指揮所に向かう。

 小隊長達がだいぶ集まっているようだ。ナナちゃんも、俺の席の後ろに小さな椅子を用意して先に座っている。

 俺達が席に腰を下ろそうとしていると、マクランさんが駆け込んできた。

 これで揃ったのかな?


「皆さん、ご苦労様でした。とりあえずサドリナス王国軍は南に去ったようです。とはいえ、少し離れて部隊の再編を行っている可能性もありますから、今日中は現在の配置を継続し『警戒レベル2』とします。

 さすがに今回は犠牲者を出さぬというわけにはいきませんでした。亡くなった兵士達にこの場で黙祷を捧げたいと思います……」


 黙祷を終えると、各部隊の損害が報告される。

 戦死者は8人だった。重傷者が6人に軽傷者が11人。軽傷者は回復魔法を受けるべく礼拝所へと運ばれたそうだから、明日には復帰できるだろう。重傷者は1日に何度も回復魔法を使うことが出来ないのでしばらくはベッドから抜け出せないだろうな。

 腕や足を失ったものがいなかったのが幸いだった。

 時間さえ掛ければ再び部隊に復帰できるらしい。


「我等は、回復魔法の恩恵に与ることが出るが、敵兵はそうもいくまい。爆弾や砲撃で手足を吹き飛ばされた者も多いようだ。治療を施さねば1日と持つまいが、両手が残っていれば血止めは出来るからのう」


 出血多量で死ぬことを免れた兵士もいるってことか……。

 回復魔法を何度か使えば傷口を塞ぐことは出来るだろうが、亡くなった手足を再生したり繋いだりすることは出来ないのだろう。

 それを考えると、爆弾や葡萄弾は邪道ともいえる兵器なのかもしれない。


「戦傷者の面倒は王国が見ることになる。砂金目当ての戦が自分達の財政を圧迫することになるとはなぁ。さらに税がきつくなるかもしれん」

「そのしわ寄せが獣人族に向かわねば良いのですが」


「いや、獣人族にしわ寄せするしか方法がないかもしれんぞ。獣人族の村を攻めての結果だからな。責任は王国側にあるのだが。認めることは出来んだろうな」


 この村に避難する動きが加速するってことか?

 断ることは出来ないだろうから、一段落したら長屋作りに拍車を掛けねばなるまい。

 畑の開墾も、兵士達をさらに投入しないといけないだろうな。


「カタパルトで放つ爆弾は使えるのう。さらに台数を増やして西門にも備えるべきじゃな。場合によっては一回り小さく作って機動力を上げても良さそうじゃ」

「それについては、後程ご相談したいところです。俺にも腹案がありますから、すり合わせをしたいと思っています」


 数台増やすよりも、効果的な方法を考えたし、さらに遠くまで爆弾を飛ばす方法も形にすることが出来た。

 さすがに台数を作ることは出来ないだろうが、南と西に2台ずつ何時でも作れるように材料を準備しておくなら、王国軍や魔族がやってきても迎撃が容易になるだろう。

 だいたい、300ユーデの距離にテントを張るというのがそもそも信じられない戦なんだよなぁ。


「もう直ぐレンジャー達が帰還するでしょう。王国軍が帰還の途についたなら、前回と同じように敵兵の亡骸を荼毘にしたいと思います。身元の分かる場合は遺品に名札をお願いしますよ」

「戦が終われば敵も味方も無いからのう。焚き木を運ぶのが面倒じゃが、それぐらいはして上げねばなるまい」


「矢と武具の回収もしておくにゃ。使える矢とボルトは私達で分けるけど、折れた矢は鏃だけを集めておくにゃ」

「ワシ等のところの若い者に荷車を用意させるぞ。たっぷりと武器を落として行ってくれたから民兵の武装も少しはマシになりそうじゃ。重装歩兵の鎧も作っておくぞ」


 トラ族のガイネルさんが嬉しそうに頷いている。

 やはり重装歩兵としての矜持があるんだろうな。長剣を使って塀を越えてくる兵士達を倒していたらしいけど、軽装歩兵用の革鎧では少し心細かったのかもしれない。


 明日の段取りを話していると、レンジャーのトレムさんが仮設指揮所に入ってきた。

 空いている席に着くと、直ぐに状況を話してくれる。

 どうやら目論見通り、軍を引いてくれたようだ。軍の最後尾には負傷兵を乗せた荷車が何台か連なっていたらしい。


「それでも歩けるものは歩かせていたようだ。あれでは、途中で落後する負傷兵も出てくるだろうな……。行軍方向は松明の動きから南で間違いない。先ずは近くの村を目指すのだろう」


 距離は10コルム以上離れているとのことだ。

 夜間の行軍ならそれほど速度を上げることは無いだろう。それでも明日の朝には30コルム程離れるはずだ。


「それでは、先程の役割分担で明日の夕刻に荼毘を行います。トレムさんにはご苦労でも、明日の偵察をお願いいたします」

「あの様子では再び襲ってくることは無いだろうが、もう1つの方も気になるところだ。南と西に偵察部隊を出すことにするよ」


 魔族の動きを気にしているようだな。

 案外魔族の斥候がこの戦をどこかで見ていたかもしれない。戦疲れの俺達の様子を見て、組み易しと判断したなら襲ってこないとも限らないからなぁ……。

 まったく、余計な戦を仕掛けてくれる。

 俺達よりも自分達の生活を守るべく魔族と戦って欲しいものだ。


 小隊長達が仮設指揮所を出ていくと、俺とナナちゃんそれにレイニーさんだけがぽつんと残ってしまった。

 ナナちゃんに、伝令の少年達に後退して休むように伝えたところでワインの残りを飲みながら、パイプに火を点ける。


「オビールさん達がやってきてくれれば良いんですが……。20日待っても来ない時には、レンジャー達に様子を見に言って貰うことにします」

「次の避難民達が首を長くして待っているはずです。向こうでも今回の戦が気になっていると思うのですが……」


 両者で王国軍の動向を探ることになりそうだ。

 それを考えると、俺達は魔族に備えた対応がどのようになっているか確認しておいた方が良いのかもしれない。さすがにサドリナス王国の砦に来たから接近するのは考えてしまうけど、東方向なら見つかったとしてもレンジャーの狩りと思ってくれるに違いない。

 村からどの程度離れて、どの程度の規模の砦を作ったかが気になるところだ。


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