表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
64/384

E-064 どうにか凌いだが、まだ敵は退かない


 レイニーさんに状況説明を終えて門に向かうと、ナナちゃんが門の中を見ながらしっかりと耳を押えているのを目にした。

 思わず俺も耳を押えると、ドッカーン! と大きな音が門の中から聞こえてきた。

 まさか大砲が爆発したわけじゃないだろうな?

 足を速めて門の中を覗き込むと、ロープを曳いて大砲が外へと引き出されてくる。


 大砲は無事なようだ。ということは、先程の音は大砲の発射音ということなんだろうな。

 エミルのところに行って、彼女の肩を叩くと近くの兵士に後を頼んで俺を外に連れ出してくれた。

 門の中は銃声が煩いからなぁ。

 外で話がしたかったということなんだろう。


 ナナちゃんの隣で門の壁に背中を押し付けると、パイプに火を点ける。

 一服しながら聞いた方が、何となく落ち着いて聞いていられる気がするんだよね。


「先ほどの砲撃で破壊槌を台車ごと破壊できました。随伴してきた重装歩兵の死傷者多数。逃げだした姿を確認したことを報告するため、ここに隊長をお連れしました」

「ご苦労。一応注意して守備に着いてくれ。塀の狭間への援護射撃を頼んだぞ」

「了解です。潜望鏡で見るかぎり西の方の攻撃もだいぶ鈍っているようでした」


 俺が小さく頷くと、エミルが再び門の中へと入って行った。

 一服を始めたからなぁ。もうしばらくここでさぼることにしようか。

 攻撃が下火になったとなれば、本来は次の攻撃部隊を投入することになるのだが……。


「ナナちゃん、レイニーさんのところで待っててくれないか? もう1度エルドさんのところに行ってくるよ」

「分かったにゃ。でも、盾から顔を出さないようにするにゃ!」


 ナナちゃんに心配されてしまった。

 笑みを浮かべて、ナナちゃんの頭を撫でると楼門の階段を上っていく。

 仮設指揮所で矢の補充は済んでいるから、このまま手助けしても良さそうだ。

 上がってみると、楼門の上でエルドさんが重装歩兵相手に短槍で戦っていた。素早く矢を放つと、怯んだ敵兵にエルドさんが鋭く槍を突きだした。


「ふう……、助かりました。手強い相手でしたからね。数人が上がってきたんですが、彼が最後です」

「下は破壊槌を始末できました。塀の方は激戦ですね」


「一時はもっとハシゴが取り付いでいたんですが、だいぶ少なくなってきたようです。そろそろ次ってことですかねぇ」

「戦術ではそう教えているみたいですけど……、それなら、すでに兵士を並ばせているだろうと思ってここに来たんですが」


 よろよろと南に下がる兵士が目に付くばかりで、次の攻撃を行う部隊の姿がどこにもない。

 望遠鏡を取り出して敵の指揮所を眺めると、此方をじっと眺めている数人の姿が見える。生憎と5倍ほどの倍率の望遠鏡だからなぁ、敵の表情まで見ることができないのが残念なところだ。


「ひょっとして全軍を並べていた、いうことかもしれませんよ。2段構えの攻撃でなく、最初から全軍を使ったのかもしれません」


 南を見ると、そこかしこに敵兵が倒れている。

 まだ息があるようでたまに片腕を上げているんだが、後方に退いていく兵士達は見ぬふりをしているようだ。

 後方に連れていけないなら、攻め手慈悲の一撃をしてやっても良さそうに思える。あれでは息絶えるまで苦しむことになるだろう。


「ハシゴは全て外しました。敵兵がだいぶ退いてますね」

「今その話をしてる最中だ。半数を休ませて良いぞ! だが槍は手放さずに休むんだぞ」


 確かにまだ戦は終わっていない。だが、休める時には塀を休ませることも必要だ。エルドさんはこういうところがきちんとしてるんだよなぁ。

 楼門の後ろに下がって、下にいる兵士に半数を休ませるようにエメルに伝えて貰った。


 改めて戦場を見ると、さらに後方に退く兵士達の数が増えている。

 中には戦友に背負って貰っている負傷兵もいるようだが、やはり大多数は置き去りのままだ。


 敵の指揮所よりもさらに南に下がろうとする兵士を、騎士達が止めている。

 槍で疲れている者もいるようだな。敵前逃亡は厳罰というのはどこの軍隊も同じらしい。


「酷いもんですねぇ。俺達の3倍はいたはずなんですが……」

「半数近く失ったんじゃないか? 残った戦力で魔族軍と戦うことができるんだろうか?」


「まあ、それはサドリナス王国の偉い人達が考えることでしょう。しかし半数としても俺達よりも数が上なんですけどねぇ」

「たぶん明日には引き上げると思いますよ。今夜仕掛けますからね」


 急いで仮設指揮所に向かう。仮設指揮所で待機している伝令の少年達に、状況報告をするよう各部隊に伝えて貰う。


「……それと西門付近に、レンジャーのトレムさんがいるはずだ。彼にも来てくれるように頼んで欲しい」


 少年達が駆け足で仮設指揮所を飛び出して行ったのを見て、ポットからお茶をカップに注いで1つをレイニーさんに手渡した。俺もカップを持って近くのベンチに腰を下ろす。


「敵は退き始めました。攻撃停止の合図は確認できませんでしたから、兵士個人の判断によるものかと」

「軍法では、その場で打ち首です。でも数が多ければそれはできないでしょうね」


 何人かの処罰は必要だろう。それを持って見せしめとするんだろうな。

 となると、明日の攻撃はさらにキツイものになるはずだから、早めに退却してもらうためにも夜襲は必要になりそうだ。


「終わったのかにゃ? 塀の内側だと良く分からないにゃ」


 最初に入ってきたのはヴァイスさんだった。塀の内側から矢を放っていたんだろうから、確かに状況が良く分からなかったに違いない。


「油断はできませんが、俺なら軍をまとめて下がりますよ。敵軍を率いている指揮官の能力を問うことになりますが、幕僚の進言もあると思います」

「だいぶ消耗しているぞ……、このまま王宮に戻るなら降格どころでは済まないはずだ」


 それも、問題なんだよなぁ。潔く責任を取る技量があるんだろうか?


「場合によっては、軍を再編して攻撃を継続するということもあり得ると?」

「一応その方向で考えておけば、遅れを取ることはありません。でもその前に、此方から仕掛けるつもりですけどね」


「私が行くにゃ! 夜戦ならエルドのところに負けないにゃ」


 ヴァイスさんが名乗りを上げたけど、トラ族のガイネルさんも片手を上げている。

 どちらも夜の狩りは先祖伝来ってことなんだろうな。


「今回は、レンジャーに頼むことにします。大隊規模の軍に対して小隊規模での夜戦は勝ち目がありませんが、レンジャーなら可能でしょう。獣の大群を狩るようなものですからね。ヴァイスさん達には、西門付近で今夜待機して貰えませんか。場合によっては追撃される場合もありますから」

「ちょっと不満にゃ……。でも、それぐらいなら任せるにゃ」


 上手く納得してくれた。

 ヴァイスさん達なら途中に待機しての迎撃すら可能なんだろうが、そこまですることも無いだろう。

 軽い攻撃で十分に効果が出るはずだ。

 敵を釣り出しての攻撃は、もう少し戦力が整ってからにしておこう。


「敵が去りつつある状況ですが、『警戒レベル2』はそのままです。いつでも戦闘に入れるよう部下を待機させてください。第1小隊は夕刻より西門に移動、そのままレンジャー部隊が帰還するまで待機とします。その間の第1小隊の守備範囲は第2小隊が広く布陣してください」


 最後にレイニーさんがまとめてくれた。

 ワインをカップ半分ほど頂いたところで、小隊長達が持ち場に戻っていく。

 残ったのはレンジャー部隊を率いるトレムさんだ。

 イヌ族だけあって、今夜の作戦に興味深々っという表情で俺に視線を向けている。


「さて、トレムさん達には、敵の兵糧を焼いて貰います。この地図を見てください。さすがに兵站部隊は南の後方にいるようです。主力部隊との距離はおよそ1コルムということですから、西門を出たら大きく南西に移動して兵站部隊の南側より攻撃してください。

 専用の矢はガラハウさんより受け取りましたか?」


「貰ったぞ。1人3本だが、あれは魔族の矢じゃないのか?」

「そうです。火矢の方は燃えてしまうでしょうが、魔族の矢は火矢ではありませんからその場に残るはずです。兵站部隊の守備兵は訓練などあまりしないでしょうから、一方的な戦になりますが、切込みや食料の略奪は行わないでください。欲しいことは確かですけど、本体が駆けつけてくると逃げられなくなりますからね」


「了解だ。火矢と魔族の矢を適当に放って帰れば良いんだな?」

「帰りは、先ずは西に向かってください。できれば松明を持って西に向かってくれればありがたいです。2コルム程離れたところで松明を消して北に移動、大周りに西門に帰ることになります。ヴァイスさん達が西門で待ち構えていますから、出発前に互いの合図を確認してからにしてください。ネコ族の弓兵なら夜間でも目標に矢を射ることができますからね」


「そうだな。ヴァイスと知り合うチャンスでもある。結構村人に慕われているようだからなぁ」


 互いに握手を交わしたところで、トレムさんが指揮所を出て行った。


「これで、明日には引き返すでしょう。まったく余計な事をしてくれます」

「ヴァイスは結構好かれているんですね。あの性格のどこが良いんでしょう?」


 レイニーさんには理解し難いようだ。

 確かに色々と問題がある人なんだけど、なんといっても好意的に人と接することができる人だし、世話焼きなところもある。

 ナナちゃんがヴァイスさんの部隊に遊びに行っているほどだからね。


 夕暮れが始まる頃、再び楼門に上がって戦場を眺める。

 敵の指揮所であるテントの周辺には小さなテントがいくつも並んでいるから、まだ諦めてはいないようだ。

 戦場から聞こえるうめき声が気になるところだが、よろよろと動く姿が痛々しいな。自軍まで300ユーデほどなんだが、その距離が彼らにとっては絶望的な距離に思えるに違いない。

 塀に沿って、いくつかの光球が浮かんでいる。

 夜戦に備えているってことかな。

 さすがに夜戦は無理だろう。簡単なソリを使って負傷兵を運ぶ姿も見える。

 彼らに矢を射るような兵士は俺達の中にはいないんだから、塀近くで呻いている負傷兵も運んで欲しいところなんだよなぁ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] いつまでナナ『ちゃん』なんだろう? もうそろそろ呼び捨てでも良いような? なんとなく隔意がある感じが…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ