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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-063 戦力比の違いは火薬で補う


「大部隊が勢ぞろいしています!」


 息せき切って走り込んできた伝令の少年が大声を上げた。

 レイニーさんと顔を見合わせると、互いに黙って頷き席を立つ。ナナちゃんを連れて3人で楼門に上がると、200ユーデほど先にずらりとサドリナス王国軍の兵士が並んでいる。

 革鎧やチェーンメイルを着込んだ姿が統一されているから、勇壮に見えてしまう。

 重装歩兵だけで2個中隊はいるようだ。その後ろに並んでいる弓兵は1個中隊というところかな? 軽装歩兵が梯子を持ち、槍兵達は攻城櫓付近にいるところを見ると、あれを押す役を仰せつかったに違いない。

 騎兵だけでも1個中隊程いるようだが、城攻めに役立つとも思えない。

 遠巻きに矢を射るぐらいが良いところだろう。

 それで指揮所は……。大きなテントに旗がいくつかはためいている。部隊旗と指揮官の家紋、それにナルビク王国の旗なんだろう。

 あれを見ると俺達も旗を作った方が良いのかもしれないな……。


「大軍ですね……」

「魔族の大軍よりはマシですよ。まだカタパルトの飛距離には少し遠いですから、此方の攻撃は攻城櫓もしくは軽装歩兵が攻撃範囲に入ってからにしますよ」


 中々動かないな。さすがに大軍になると指揮を執るのが難しいのかもしれない。

 そんな事を考えていると、数騎がこちらに走ってきた。


「我等はサドリナス王国エグレンド国王の命により、軍を率いてきた。まだ開戦には至っていない。降伏するなら国王陛下の温情を持って死罪を免除することを約束するぞ!」

「ご丁寧な挨拶、確かに耳にした。だが、我等はサドリナス王国軍の軍門に下ることはない。できれば避けたい戦ではあるが、現在の位置より我等が村に近づけば攻撃を開始する。ここで戦力を減らさずに魔族との戦に備えるべきではないのか!」


 言いたいことを先ずは言っておこう。これで向こうが前に進めば先制攻撃をしても卑怯者と謗られることは無いだろう。

 

「では戦場にて!」


 俺達に大声を上げると、騎士達が帰って行った。

 これでいよいよ始まるのか……。いつも思うことだけど、まったくのんびりした戦だよなぁ。


 敵軍の指揮所から、20騎を超える騎馬が西に向かって走っていく。

 部隊の前に3騎ずつ並んでいるところを見ると、彼らが中隊長とその副官というところかな。

 指揮所の前方に、旗を持った騎士が現れた。いよいよか……。

 すでに魔法の袋から信号弾の筒を取り出しているから、いつでも合図を送れる。


 旗が大きく振られると、敵軍がゆっくりとこちらに向かって進んできた。

 鎧を着ているから、あの距離から走り込むことは出来ないだろう。矢の届く距離を見定めて、一気に押し寄せてくるに違いない。


 まるで亀のような速度で、一歩ずつこちらにやってくる。

 きれいに横に並んでいるところを見ると統率が執れていることが分かる。それだけ士気も高いということなんだろう。

 まだ、カタパルトの飛距離まで届かない。はやる心を落ち着かせようと、パイプを咥えて火を点けた。


「余裕ですねぇ」

「もう少しなんだが、案外動きが遅くてねぇ」


 エルドさんと軽口を叩く。それだけでも、後ろの兵士達は安心してくれるだろう。怖気づいては駄目だからね。相手に飲まれないようにしないと……。


軽装歩兵が杭を越えたところで、頭上に上げた信号筒の導火線にパイプで火を点けた。

 シュポン! と軽い音と衝撃が腕に伝わる。

 次の瞬間、頭上で大きく火の粉を上げて炸裂した。

 待っていたかのように、塀の内側から黒い物体が敵軍に向かって飛んでいく。

 やがて、敵軍の中で大きな爆発が上がった。

 

「あれが秘密兵器ってことですか? とんでもない威力ですね」

「数が少ないんですけど、ガラハウさんは最初に使いきるつもりのようですね。……ほら、統率が執れなくなって突っ込んできますよ。後はよろしくお願いします。俺も持ち場に移動します」


「任せといてください!」と言いながらエルドさんが短槍を握り締める。

階段を下りたところでレイニーさんと別れると、ナナちゃんと一緒に門の中に入って行った。


「凄い威力ですね。すでに3回放ったようです」

「5つずつあると言ってたけど、2個は取っておくのかな。こっちには、まだやってこないのかい?」

「1個分隊で押してくるようですね。後ろに1個小隊の重装歩兵が付いています。こちらもこれを使ってみますか?」


 前回は使わなかったからなぁ。今度は使ってみるか。

 

「良いだろう。だがどれぐらい威力があるのか、さっぱりだ。30ユーデほどに近づいたら放ってみるか」

「了解です。……火薬袋を入れて、その後で弾丸を押し込むぞ!」


 エニルさんが第4分隊と一緒に大砲の準備を始めた。

 敵味方の上げる蛮声がここまで聞こえてくる。潜望鏡で塀に外の様子を眺めてみると、

既に何本かの梯子が掛けられている。

 上っていく途中で矢や槍を受けているようだ。

 攻城櫓の方は、カタパルトから放たれた爆弾の直撃を受けたのだろう。4台の内、2台がほとんど動かずに炎上している。2台は50ユーデほどまで近づいているけど、火矢がだいぶ刺さっているようだ。

 もう直ぐ溝にはまりそうだから、問題はなさそうだな。


「準備完了です。門の下部に設けた大砲用の狭間から何時でも打ち出せます!」

「了解だ。だいぶ近付いているぞ。皆、聞いてくれ! もう直ぐここも戦場だ。絶対に死ぬんじゃないぞ。それと急いで耳栓をしとくんだ。大砲の音は銃声の比じゃないからな」


 後を頼むと、エミルの方をポンポンと叩く。耳栓を2組取り出して、ナナちゃんと俺の耳にしっかりと付ける。

 バッグから、弓と矢筒を取り出して邪魔にならないように後方に下がった。


 エミルの腕が上がった。火種の付いた棒を持った兵士がしっかりと腕を見据えている。

 上手く行くと良いんだが……。


 第一分隊の兵士が狭間に取り付いている。

 そのど真ん中に大砲が置かれているんだが、後ろに転がって行かないように、床の穴に杭を差し込んで、大砲の台座との隙間を何枚かの板を挟み楔を打ち込んである。

 すでに門に開けた大砲用の穴のから、大砲の筒先が出ている状態だから、後は大砲の上にある点火口の火薬に火を点けるだけだ。

 ナナちゃんが耳を押えて大砲を見てるけど、大砲の後ろには誰もいないからこのまま撃っても問題は無いだろう……。


 エミルの腕が下がったと同時に、轟音が門内に轟いた。

 一瞬大砲が跳ね上がったが、後方は抑えてあるし、大砲の前部を門から出した状態だから、発射時の大砲の跳ね上がりを門に支えられた感じだな。

 エミルが腕を上げると、今度はハンマーで楔を取り除き、大砲の台座の後ろに取り付けられたロープを引いて門から後方に下がって行った。

 まだ耳がガンガンするな。

 皆も同じなんだろう耳を押えながら首を左右に振っている。


「凄い威力です。後ろの小隊にも被害が及んでます。負傷者をそのままにして、重装歩兵が破壊槌を動かそうとしています」

「今度は銃撃だ。横にして撃てば何発かは当たるだろう」

「了解です。1番用意は良いな!」


 再びエミルの腕が上がった。

 第一分隊は獣を構えて前を見ているが、その後ろに立った大分隊の兵士がエミルの腕を見ている。

 どうやって指示を出すんだろう?

 エミルの腕が下がると、後方にいた兵士が狭間に取り付いた兵士の頭をポン! と叩く。それを合図に一斉射撃が起こった。

 エミルが指を2本立てて腕を振る。

 それを合図に狭間に取り付く兵士が交代していった。

 なるほどね……。エミル達で考えたんだろう。声を出しても、この状態だから聞こえないと思ったに違いない。

 邪魔にならないように、門を出て後ろから見守ることにした。

 ナナちゃんが門から離れたのを見て、慌てて門の影まで引き寄せた。


「矢が降ってくるから、門から離れたらいけないよ。ここなら楼門の屋根が矢を防いでくれるからね」

「分かったにゃ。それで、伝令があの下にいるにゃ」


 伝令の少年達は2本の杭を利用して盾で屋根を作った下にベンチを置いて座っていた。レイニーさんのいる仮設指揮所にも何人かいるんだろうけど、外にもいたんだな。

 塀に沿って、兵士達の声が聞こえてくる。

 直ぐ近くに2列に並んで矢を放っているのはヴァイスさん達だ。

 盾を横に置いているのは、矢が降ってきたら素早く隠れるためだろう。盾や地面にもたくさんの矢が突き立っている。矢を受けた兵士も何人かはいるんだろうな。

 

 ドォン! と振動が背中に伝わった。

 破壊槌の最初の一撃に違いない。急いで門に戻ると様子を見る。


 拳銃を2丁装備した兵士達が素早く銃を撃ち終えて、後ろに下がってくる。

 まだ2回目の銃撃らしいから、もう1回は射撃が出来そうだ。

 エミルのところに素早く歩み寄って状況を確認する。


「今度の門は頑丈ですから、そう簡単に破壊はできませんよ。先ほどの銃撃で負傷者多数。次の重装歩兵が破壊槌に取り付いているところです」

「了解だ。閂は2つあるが、破壊されるときは一気に壊れるだろう。次の扉もあるんだから無理はしないでくれよ!」

「大丈夫です。向こうも馬鹿ではないようで、中々近寄ってきませんね」


 潜望鏡から顔を話さずに応えてくれた。

 それなら、周囲の状況を見てくるか。ナナちゃんがここにいるなら、何かあれば教えてくれるだろう。

 エミルの方をポンと叩くと、足早に門を出る。

 ナナちゃんに上に行ってくると伝えて、弓を手に矢を2本掴んで階段を上った。

楼門の上に出ると同時に素早く矢をつがえて、梯子から身を乗り出そうとした敵兵の胸に矢を射こむ。次の矢で西の梯子を上っていく兵士を倒した。


「相変わらずの腕ですねぇ。それだけ素早く撃ち込んで外さないんですから」

「下は何とかなってます。まだ敵兵は押し寄せているようですね……」


「ずっとこんな状態です。もっとも楼門が高いですから、梯子から顔を出す連中を槍で突けば良いだけなんですけどね……」

 

 エルドさんが槍を突き、俺が矢を射る状態での会話だから、途中途中で会話が途切れてしまう。

 3倍ほどの敵軍を前に俺達はだいぶ奮戦しているようだな。

 たまに敵兵が塀の内側に長剣を振るって飛び降りているようだが、後が続かねば袋叩きに合っているはずだ。

 今のところ問題ない……。


「もうしばらくの辛抱です。さすがに半数を失うわけにはいかないでしょう」

「そうだな。俺ならとっくに逃げ帰ってるよ。ほら! あれだからなぁ……」


 槍から手を放して、腕を伸ばした先には大きな石が兵士達の真ん中に着弾するところだった。

 直撃を受ければ即死だろう。まったくもって厄介な兵器だと思う。

 気になっていた攻城櫓は、塀まで30ユーデほどの場所で頓挫している。派手に炎上しているから再利用することは出来ないだろうな。


「後をよろしくお願いします!」

「こっちこそ助かりました!」


 矢筒の矢を全て撃ち尽くしたところで、楼門から下りて仮設指揮所へと向かう。

 レイニーさんがさぞかし心配しているに違いない。

 


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