表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
61/384

E-061 王国軍の迎撃準備を始めよう


 レンジャー達が偵察から帰ってきた。

 かつて渡河した辺りまで出掛けて状況を見てきたようだ。

 直ぐに話を始めようとしていたので、とりあえずお茶を飲んでもらう。

 その間にパイプにタバコを詰めて、火を点けた。

 さてどんな状況になっているんだろう?


「商人達の休息地を使って、その南と南西を探ってみた。およそ1日程度の距離で王国軍が野営をしていたぞ。周囲に斥候も出さずに見張りだけの配置というのも考えてしまうな。場所的には南西方向になる。国境沿いに大軍を移動させるのは、さすがにサドリナス軍も問題が起きると思っての事だろう」

「川の東はブリガンディ王国ですからね。川からそれほど離れていない場所に砦があるはずですから、偵察部隊に見つかる愚を避けたんでしょう」


 多分、俺達が渡河した辺りで川沿いに進むはずだ。何度も荷車や避難民がこの村を目指してやってきているから、すっかり踏み固められた道になっているだろう。大軍が移動するなら、荒地を進むより道を通るほうが行軍が楽になるはずだ。


「たぶん明日には、休息地に到着してその後は川沿いにここに来るだろう。俺達は商人達の通る道から3コルム程西で状況を探るつもりだ」

「騎兵がいるかもしれません。様子を見るにしても、あまり近付かずにお願いしますよ。それと上手く隠れてください」


 俺の注意に笑みを浮かべている。レンジャーに上手く隠れてくれというのは余分だったかな?


「まあ、それは問題ないんだが……、まだ襲わなくても良いのか? 大軍だと思ってかなり油断しているように見えるんだが」

「まだまだ先です。でも火矢を作る準備だけはお願いします。陽動ですから、なるべく派手に打ち込みたいんです」


「なら、前に飛べば十分だな。2日も練習すれば俺でもなんとかなるだろう。放つ火矢の数は多いほど良いってことか」


 うんうんと頷いているけど、前に飛ぶなら問題は無いはずだ。レンジャー達以外に俺達の味方はいないんだからね。


「それにしても2個大隊ですか……。兵士だけで1,500人を越えます。こちらも人数だけなら多いですけど、武器を取る者達は500人ほどです」

「十分な数だと思いますよ。せっかくここまでやってきたんですから、戦わずに軍門に下るのは止しましょう。まだ数日の余裕がありますから、最後まで矢とボルトを作りましょう。基本は敵を塀に寄せ付けないことですからね」


 何とか長銃が2個分隊分揃ったから、エニルさんの率いる従兵部隊は1個小隊に膨らんだ。ライフルと呼称することにした長銃は生憎とライフルリングが無い。それでも将来は何とかしようとガラハウさんが請け負ってくれた。

 ドワーフ族としての腕を見せるのは、彼らの誇りということになるんだろう。

 これで、第1、2分隊にライフル銃、第3分隊に拳銃を2丁装備させることが出来た。第4分隊は従来通りの拳銃1丁だけど、大砲の面倒を持て貰うつもりだ。


「警戒レベル1を発令するのは明後日辺りになりそうですね」

「そうですね……。たぶんその頃でしょうけど、今回はいきなり攻撃してくるんでしょうか? 魔族なら一斉に突撃してくるんでしょうが、王国軍となるとその辺りが良く分かりませんね」

「私も良く分かりません。一応は口上を述べるぐらいはありそうですね」


 大人しく開け渡せば助けてやる、ぐらいの事は言うだろうなぁ。

だけど、明け渡しても俺達には行く当てがない。ここで開拓して暮らしを立てようとしての行動だからね。

 

「とりあえずは断りましょう。約束しても信用が出来ませんからね」

「やはり開戦は必然であると」

「生き残るための戦いです。俺達には後がありません。問題があるとすれば、俺達の補給路を断つということが考えられます。でも、かなり穴がありそうですから、完全に補給路を閉じることは出来ないと思います」


 サドリナス王国の補給路が使えなければ、ブリガンディ王国の西を川沿い北上すれば良いはずだ。

 さすがに荷馬車を連ねてとは行かないだろうが、大型の魔法の袋をレンジャー達に複数持たせれば、容易にこの村に荷を運びこめるだろう。


「なぜ私達をそっとしておいてくれないんでしょう……」

「俺にも理解できません。姿が変わっているぐらいはどうでも良いことに思えるんですが、自分達が一番だと思っているんでしょうね」


 まったく困った教義だな。

 神は自分に似せて人を作ったということらしいが、それなら獣人族の神だっているんだけどなぁ。信仰する神に序列でもあるんだろうか?

 俺には全ての神が同列に思えるんだけどね。

 この世界に暮らす住民に序列を作るというなら、ナナちゃんが一番になるんだろう。何といっても精霊族だからなぁ。

              ・

              ・

              ・

 何時ものように指揮所でお茶を飲んでいると、レンジャーの1人が駆け込んできた。

 南門から半日ほどの距離までやってきたらしい。


「ご苦労様でした。しばらくは西門の休憩所で待機してください。出番は戦が始まってからになります。火矢の準備はお願いしますよ」

「前に聞きました。俺もそれから弓を習ったんですが、50ユーデは飛ばせますよ!」


 自信たっぷりに言っているけど、それは初心者も良いところだ。

 飛ばすだけなら、ナナちゃんだってそれぐらいは飛ばすからね。でも、夜戦でなら十分に役に立つ。それだけ人数を多く見せられるはずだ。


「連絡を待ってます!」と言って、直ぐに指揮所を出て行った。

さて、俺達も出掛けることにするか……。


 レイニーさんに顔を向けると、俺に頷いてくれた。すぐに扉近くのベンチで待機していた少年達に『警戒レベル1』の発動を告げさせる。

 急いで出掛けようとする少年達を呼び止めて、ここに戻らずに南門の仮設指揮所へ向かうように告げている。


「私達も出掛けるにゃ。準備は出来てるにゃ!」

「そうだね。地図と駒、それに部隊のリストを持っていこう。お茶のポットは俺が持つよ」


 ナナちゃんとレイニーさんとで地図やノートをバッグに詰め込むと、俺はお茶のポットを持って指揮所を出た。

 足早に兵士達が南に向かっているけど、まだ『警戒レベル2』は発令していないんだよなぁ。早い分には問題は無いんだが、かなり待つことになってしまうぞ。


「砦の外の住民も早めに避難させた方が良いでしょうね」

「先ほど昼食を終えたばかりです。戦をするにしても明日ということになるでしょう。王国軍は長い距離を行軍してきてますから、明日は兵を休ませるのではないでしょうか?」


 今晩中に避難の準備を調えて、明日の朝から避難しても十分だろう。兵士達が早々に持ち場に着いてくれそうだから、今夜に戦が始まったとしても避難するだけの時間は稼げそうだ。


「避難は明日でも可能だと?」

「それぐらいの時間はあると思いますよ。いざとなればその時間を俺達が稼げば良いんですからね」


 相変わらずの心配性だけど、指揮官は心配性なぐらいがちょうど良いのかもしれない。その分、俺がフォローしてあげれば良いことだ。


 住民達が何事かと問いかけて来るので、何人かに状況を説明することにした。

 レイニーさん達には先に行ってもらおう。

 本来ならマクランさんに頼むんだけど、すでに西門に向かっているに違いない。


「……と、まぁそんなところです。明日の朝から避難できるように荷造りをしておいてください。避難場所は説明していると思いますが、分からない時には礼拝所の神官さんに確認すれば大丈夫ですよ」

「俺達も戦えるんだが?」


「砦の内側で避難民を守ってください。今回は相手が多いですから、場合によっては砦の塀に取り付くかもしれません」

「何の、これで一撃だ!」


 鋤を手に息巻いている。士気は高そうだけど、俺達と一緒に戦うにはちょっと問題だな。

 敵兵数人ぐらいなら何とかして貰えるかもしれないから、ある意味後方の安全を任せられそうだ。

 

 集まった住民に頭を下げて、仮設指揮所に足を運ぶ。

 俺を兵士達が次々と追い抜いていくんだが、そんなに急いでも敵兵は逃げないと思うんだよなぁ。


 溜息を吐きながら仮設指揮所に入ると、すでに何人かの小隊長達が集まっている。

 レイニーさんがナナちゃんと一緒にレンジャーから聞いた敵軍の駒を地図上に置くと、次に俺達の配置を地図に落とし込んだ。

 壁際に置いてあるストーブの上にポットを乗せると、ベンチに座りパイプに火を点ける。


「のんびりしてる暇が無いにゃ。もうすぐそこまで王国軍が来てるにゃ!」

「まだ見張り台から見ることができないんじゃないですか? 時間はたっぷりありますよ。皆さんも立ってないで座ってください。一応、見張り台には兵士を上げているんですよね?」


「3人を配置してます。見え次第連絡が入るかと」

「見えたとしても、距離は3コルム以上離れているはずです。歩いても1時間は掛かりますし、その距離を走ってから戦などできるものではありません。先ずは逸る兵士の手綱をしっかりと握っておくことです。士気は持続させることがなかなかできません。今は落ち着いて敵を待つだけで良いんです」


 喧嘩と同じで、戦もこちらから売る場合と買う場合がある。戦力比は向こうが上なんだからこちらの都合に合わせて戦をするべきだ。打って出る等もってのほか、近寄る敵を順次倒していけば良い。


「まったく、俺達の軍師には頭が上がりませんね。3倍近い敵を前に落ち着いているんですから」

「落ち着いているというより、後はなるようにしかならないと思っているだけです。やれることはしっかりとやりましたからね。とはいえ、今回は前回よりも厳しい戦になるでしょう。敵の矢には十分気を付けてください。戦が終わった時に、全員の顔が揃うよう無理はしないでください。持ちきれないと判断した時には伝令をお願いします。精鋭を1個小隊温存しているんですから」


 もっとも自分達で頑張ろうなんて思っているに違いないから、1個分隊ほどで様子を見に行かせた方が良いかもしれないな。

 

「さて、話は以上です。王国軍が姿を見せても直ぐに戦にはなりません。とはいえ、王国軍を見張り台で確認でき次第『警戒レベル2』とします」


 そういって、手甲を外し手甲に差し込んだ4本の太い釘の先端をヤスリで研ぎ始めた。

 これを使うことが無ければ良いんだが、その前にナイフを使うことで何とかなりそうだな。自由に以後貸せるようになってきたから、大きめの十字手裏剣も使えそうだ。

 この戦が終わったら、ガラハウさんに相談してみるか。珍しい物を頼むと、喜んで作ってくれるんだよなぁ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ