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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-006 配属先は弓兵部隊


 王都を出発してから2つ目の町を過ぎると、周囲に広がるのは荒地ばかりだ。南西にうっそうとした森が見えるけど、あの先にも村があるのかもしれないな。


 町を出て3時間程歩くと、北に向かう道を見付けた。

 道の傍に埋め込んだ石の道標には、この先に砦があることが書かれている。

 どうやらこの道を進めば良いらしい。

 王国内の道標は商人達の為にだいぶ整備されているようだ。


 街道から北に伸びる道の反対側には休憩所が作られている。

 まだ昼には程遠い感じもするが、ここで昼食を取ることにした。


「ここから北に向かうんだ。途中に村が3つあるらしいよ」

「遠くに来たにゃ。まだまだ遠いにゃ」


 俺の故郷はだいぶ遠くになってしまったけど、ナナちゃんの故郷はどの辺りなんだろうな。里が全滅したと聞いたから、北の方だとは思っているんだけど。

 食事が終わったところで、ゆっくりとお茶を飲む。

 ここから半日と聞いたから、夕暮れ前に村へ到着できるだろう。


 休憩を終えると、北の道を歩き出す。

 さすがに石畳ではなく、人と荷馬車が行き来してできた道のようだ。

 石が飛び出ていたり、小さなくぼみまであるから、歩きづらくなってきた。

 ナナちゃんも杖を振り回さずに、きちんと使って歩いている。


 頻繁に、短い休みを取りながら北を目指す。

 日が傾いてきても、村がまだ見えないのが気になっていたんだが、ようやく村を囲む塀が見えた時には正直、ほっとした気持ちになった。

 荒野での野宿はかなり危険らしい。数組で焚き火の番をしながら夜を明かすと聞いたことがある。


 夕暮れが迫る中、どうにか村へ辿りつくと、直ぐに宿を探して夕食を頂くことにした。


「珍しいね。親類でも訪ねるのかい?」

「砦に志願するんです。下級貴族の次男ですから、親の援助は期待できませんからね」


「この間、大きな戦があったらしいよ。今なら、砦もありがたいんじゃないかい。そっちのお嬢ちゃんも一緒なのかい?」

「生憎と魔法が上手く使えないんです。俺の魔法係みたいなもんですよ」


 貴族なら従者がいるのは理解しているようだけど、さすがに小さな女の子を従者として連れてくる者はいないんだろうな。

 宿の女将さんが、呆れた表情をしていた。

 小さな村は作られて10年ほどらしい。開拓者達が集落を作ったのが始まりらしいな。

 村の住民のほとんどが獣人族らしいが、宿を経営する一家は人間族だった。


 宿代は朝夕の食事とお弁当付きで20ドラムだ。

 銀貨を出してお釣りを頂く。砦で銀貨を使うことは余り無いだろうからね。できるだけ銅貨を持っていよう。


 翌日は夜明けと同時に村を出た。

 朝起きるのが苦手な俺だけど、ナナちゃんが起こしてくれるからかなり助かっている。俺一人で砦に向かうなら、まだ王都にいるんじゃないかな。

                 ・

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                 ・

 王都を出て8日目。

 どうにか夕暮れの迫る砦に着くことができた。

 正直、ほっとした気持ちだ。王都から歩いて8日は掛かると聞いていたが、これほど遠くだとは思わなかった。


 砦の門番に用向きを伝えると、直ぐに指揮官室に案内してくれた。

 案内の兵士が指揮官に俺を報告してくれたところで、指揮官の執務机の前に立って深々とお辞儀をして挨拶する。


「オリガン家の次男、レオニード・デラ・オリガンです。父上の推薦もあり、この砦に志願してまいりました。魔法が苦手であることから、従者を1人連れております。戦闘には不向きですが、身を守ることは教えるつもりです」

 

 挨拶を終えると、テーブルに着いた指揮官が少し呆気にとられた表情をしている。やはりナナちゃんを従者とするのは無理があるんだろうな。

 バッグの中から父上より預かった書状を取り出し、指揮官の執務机に置いた。


「ご苦労。オリガン殿の書状だな。拝見させてもらうよ」


 どうにか、気を取り戻した指揮官が、書状を読み始めた。

 指揮官室なのだろうが、あまり飾り気がないな。

 執務机の後ろにある紋章旗はカーバイン家のものなのだろう。緑の地に向かい合う赤と黒のドラゴンだな。


「なるほど……、了解した。レオニード・デラ・オリガンを砦の士官として任官する。待遇は準尉になる。小隊長の補佐役だが、場合によっては分隊を指揮することもあるだろう。配属先は……、誰かいるか!」


 大声で扉の向こうに声を掛けると、兵士が部屋の中に飛び込んできた。


「レイニー小隊長を呼んでくれ。副官が来たと聞けば飛んでくるはずだ」

「直ぐに呼んでまいります!」


「ここには3つの中隊が常駐している。

 第1中隊は重装歩兵が3個小隊に軽装歩兵が1個小隊。

 第2中隊は、軽装歩兵が3個小隊。

 第3中隊は、弓兵が2個小隊だ。

 その他に騎馬隊が私の直轄で2個分隊滞在している。

 君には弓兵の第2小隊で活躍してもらおう。従者も一緒で構わんぞ」

「弓なら少しは自信があります。ありがたく拝命いたします」


 指揮官は30代になったばかりの男性だ。俺に笑みを浮かべると席を立って、暖炉近くのソファーを勧めてくれた。

 軽く頭を下げてソファーに座ると、本棚からワインのボトルとカップを持ってテーブル越しの椅子に座る。


「あまり丁寧な言葉でなくても構わんよ。私も次男だからね。分家の申請もまだなんだから、君の方が上になるはずだ」

「同じ次男同士ですか……。それでも私より年長であり兵役も長いはずです。私は兄上に仕込まれたのですが、いまだに2級止まりですから」


 俺の言葉に笑みを浮かべながら、カップに注いだワインを渡してくれた。


「十分じゃないか! この間やってきた貴族の子弟は長剣を初めて握った感じだったぞ。矢傷を受けて国に戻ってしまったが、襲撃の際にぼやっと立っていたらしい。

 長剣2級はここで十分に役立つよ。だが、お嬢ちゃんは本当にだいじょうぶなのか?」


「【メル】を使えますし、初心者用ではありますがレンジャー用の弓が引けます。後ろで守って貰うには十分だということで従者とした次第です」


「レンジャー用の弓が使えるなら問題あるまい。弓兵の中には前に矢を飛ばさずに横に飛ばす輩もいるようだ。訓練はしているのだが、中々ものにならんで困っている」


 ナナちゃんはどうなんだろう? 弓を引けることは分かっているけど矢を飛ばしたことは無いからなぁ。明日にでも見てみようか……。


 コンコンと扉が叩かれ、先ほどの兵士が若い女性を連れてきた。

 よく見ると獣人族の女性だ。ナナちゃんと同じような耳と尻尾があるから、ネコ族の女性なんだろう。


「出頭に指示を受けてやってまいりました」

「ここに座ってくれ。レイニーの副官が出来たぞ。こちらのレオニード・デラ・オリガン殿だ。隣のお嬢ちゃんが従者になる」


「でも貴族なんでしょう? 副官で満足できるとは……」

「親父殿の推薦でもある。副官からで良いそうだ。オリガン一族なら最初から中隊長でもおかしくは無いんだろうが……」


「剣の腕は父も諦めています。魔法は母上が色々と手を尽くしてくれましたが、いまだに使うことが出ず、隣のナナを従者にする始末。

 私としては一兵士でも問題は無かったのですが、さすがにオリガン家の矜持が許さなかったようです」


「それでも、長剣は2級だそうだ。さらには……、良いか。30ユーデ先のリンゴを当てるだけの弓の腕があるそうだ。レイニーの副官に丁度良いのではないか?」

「それだけの腕があるなら、問題は無いでしょう。でも良いのですか? 私の部隊は全員が獣人族ですよ」


「私は気にしませんから問題はありません。オリガン家の恥とならぬよう、努めるつもりです」

「レイニー、それがオリガン家なのだ。堕落した貴族ではないぞ。父親は王国軍の将であり2個大隊を指揮する身。レオニード殿の兄上は近衛兵の中隊長、姉上は王宮魔道師でもあるのだ」


 比較されたくはないんだけどなぁ。

 レイニー小隊長の俺を見る目が、「おちこぼれ?」という感じに見えてしまう。


「本当なら、この砦に来るような人材ではないんだが……」

「お察しの通り、オリガン家の血を引くとは言いにくいのですが、弓だけは兄上も褒めてくれました。ですが弓では騎士にはなれませんからね」


 どうやら察してくれたようだ。

 今度は、気の毒そうな目で俺を見てるんだよなぁ。


「読み書きと計算はできるんでしょう?」

「できますよ。ナナも読み書きはできます。計算は少し怪しんですけど」


 王都ではお店の看板や、お触書まで読んでいたからね。

「そうなの。偉いのねぇ」と言いながらナナちゃんの頭を撫でている。


「食事はまだだろうから、食堂に案内してやってくれ。准尉の部屋は空いてるだろうな。寝具はこっちで運ばせよう」

「了解しました。部下達には明日にでも紹介します」


「頑張ってくれよ!」という指揮官の言葉を聞いたところで、レイニーさんに連れられて砦の中を歩くことになった。

 もっとも、レイニーさんがナナちゃんの手を引いて、その後ろを俺が歩く感じなんだけどねぇ。


 中庭を抜けて、西の建屋に入ると、大きな部屋にテーブルがいくつも並んでいる。ここが食堂になるらしい。

 手近なテーブルに俺達を座らせると、食堂のテーブルを見渡している。

 ワインを飲んでいる一団のところに行くと、何やら話し込んでるな。直ぐに1人が席を立って、食堂を出て行った。

 出ていく女性を見て、レイニーさんが頷いているのが気になるところだ。

 無理やり2人の男女を立たせると、こっちに歩いてくる。


「ほら、座りなさい。食事は今持ってこさせるわ。その前に2人を紹介します。

 こっちがヴァイス、ネコ族の分隊長よ。こちらはエルド、イヌ族の分隊長なの。もう一人オコジョ族の分隊長がいるんだけど、もう寝てしまったようね」


 オコジョ族というのは想像できないな。オコジョは肉食だから夜行性の筈なんだけどねぇ。


「レオニード・デラ・オリガンと言います。呼び難いでしょうから、レオンで良いですよ。今日砦にやってきました。レイニーさんの副官として戦うことになります。こちらは俺の従者のナナになります」

「ナナにゃ。よろしくにゃ!」


 ナナちゃんが大きな声で自己紹介するから、ヴァイスさんにヨイショと持ち上げられて抱っこされている。


「小さいのに偉いにゃ。さすがは従者にゃ!」

「でも、戦えるんですか?」


 イヌ族の場合は最後に「ワン!」が付かないんだ……。そう言えば、レイニーさんは「にゃ」が付かないな。


 なんでだろう? と悩んでいたところに夕食が運ばれてきた。

 大きなスープ皿にたっぷりとシチューが入っている。丸いパンは2個付いているぞ。


 ナナちゃんが席を移動してモシャモシャと食べ出したのでヴァイスさんが残念そうな顔をしている。


 俺も頂くことにした。やはり空腹には勝てない。

 3人がいつの間にかワインの入ったカップを手にしていた。


 どうにか食べ終えると、ワインのカップが渡された。

 しばらくは話をするという感じだな。


「ナナちゃんは、満足に魔法が使えない俺の代役なんです。それでも【メル】が使えるから身を守ることは出来ると思っています。王都でハンター用の初心者装備の弓が引けたので買い与えました。少し指導すれば、前に飛ばせるようになると思っているんですが……」


「私が教えてあげるにゃ。5年もしたら分隊長になれるにゃ!」

「他の隊員の訓練はどうするの?」

「前には飛ぶにゃ。後は練習次第にゃ」


 何となくヴァイスさんの人間性が理解できた。

 物事全て前向きに考える人なんだろうな。ヴァイスさんの言葉にレイニーさんが首を振っている。

 色々と部下に振り回されていたに違いない。

 砦はどんなところだろうとずっと考えていたんだけど、案外うまくやっていけそうな気がしてきた。


※※ 補足 ※※

軍の構成:

 分隊から大隊は以下のような人員構成になっている。

 分隊は15人。分隊の中で軍歴が長い人物を分隊長にしている。

 小隊は小隊長と副官が4分隊の指揮を執る。

 中隊は中隊長と副官が4小隊の指揮を執る。

 大隊は大隊長と副官が4中隊の指揮を執る。

 中隊までは副官は1名だけだが、大隊長付きの副官は複数人となるようだ。

 欠員補充が追い付かないことから、多くの部隊が定数を満たしていない。

軍閥として夫を戦で失った婦人達が食堂を運営している。また、武具の修理や補充のためにドワーフ族が工房を作っている。砦内に敵が入ってこない限り戦闘には参加しないようだ。


種族と軍務の関係:

 獣人族の仕官は数が少ない。

 能力に合った配属先がおおよそ決まっている。重装歩兵はトラ族が多いし、騎馬隊のほとんどは人間族である。軽装歩兵は人間族とイヌ族、弓兵はネコ族が多い。


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[気になる点] 補足の「軍閥」の所は文章の内容的に「軍属」な気がする。
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