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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-059 長銃を作る


 5度目の冬を越えた時には、村に住む避難民の数が千人を超えていた。今ではクロスボウ部隊だけで3個小隊にもなっている。少年達の投石部隊も1個小隊ほどに膨らんだから、民兵組織で中隊規模にまで膨らんでいる。

 平時は開墾に勤しんでいるが、マクランさんによると分隊単位で働いているらしい。長屋もそれに合わせて引っ越しをしたようだ。


「砦内の長屋を空けて、砦の南に住居を移しています。老人や小さな子供がいる家族は砦内の西に住まわせていますから、避難をするにしても直ぐに対応できますよ」

「南の森の中にも長屋を作ったんですか?」

「はい。結構人気がありますから、新婚の連中に限って住まわせることにしました」


 一時的な住まいってことかな? 子供が出来たら砦内の長屋に引っ越して、子供が大きくなったらかつて南の村に住まわせるってことのようだ。


「これも森の南に作った塀が形になったからですよ。まだまだ避難民がやってくるでしょう。北と東の監視も民兵に任せて頂ければと」

「ありがたい話だけど、さすがに本職もいないと安心できないよ。分隊をそれそれに派遣することで、民兵の訓練も出来るんじゃないかな」


 クロスボウや投石具の練習は民兵達が自発的に行っているから、接近戦で槍の訓練をしておけば良いだろう。


「エルドに話しておきます。北と東はそれで良いでしょうが、さすがに西は1個小隊を常時張り付けておかねばならないでしょうね」

「エミールさんの部隊が適任でしょう。軽装歩兵が3個分隊に弓兵が2個分隊、南西の見張り台にはガイネルさんがいます。トラ族1個小隊が緊急時には対応可能ですよ」


 エルドさんが東にいるし、真ん中にはエニルさんがいる。

 ヴァイスさんとリットンさんの部隊は、必要に応じて身軽に動けるよう森の中に作った広場に常駐させている。

俺の直営は南の門だ。南の門は丸太で周囲を囲った表面に石を積み上げている最中だ。

 ガラハウさんが、美的センスがどうとか言っていたけど、見た目よりは頑丈さを優先してもらいたいんだよなぁ。


「現在は出張った門に石を積み上げていますが、このまま塀に沿って作業を続けます。かなり頑丈な塀に見えるはずです」

「敵も躊躇すると?」

「それが狙いです。攻城兵器を使われたらそれほど持たないかもしれませんが、森を囲みましたからね。そんな代物を作るにしても時間が掛かるでしょうし、塀に近づけるのはかなり難しいはずです」


 落とし穴に溝、それに乱杭を打ったからなぁ。塀に設けた見張り台にはバリスタを設置している。攻城兵器に火矢を放つのは容易だろう。


「2年先ならかなり安心できるんですが、現状はまだまだですね」

「それでも3個中隊近くに膨らんだ戦力の砦を落とすのは容易ではないでしょう。私達だけではどうしようも無かったと思います。レオンが同行してくれて本当に助かってますよ」


 レイニーさんの言葉に、思わず笑みを浮かべる。

 ハーフエルフという事らしいけど、見た目は人間族そのものだからなぁ。

 避難してきた住民が最初は戸惑っているのは、すでに慣れたところだ。陰口はいくら言われても構わないけどね。


「それにしても、大きな村になりましたね。すでに町といっても良さそうです」

「総人口は2千人を越えましたからね。次の冬前には3千人近くになるでしょう。食料の調達費用も、かつては金貨1枚でお釣りが来ましたけど、春分の食料買い込みは金貨2枚でどうにかでしょう。荷馬車が10台を超えているぐらいですから」


 兵士達も、北の斜面に小さな段々畑を作ってくれたからなぁ。直ぐ近くだから食堂の小母さん達が野菜作りを楽しんでいるようだ。

 たまにナナちゃん達が、小母さん達と一緒に収穫を手伝っているらしい。


「今年は、この淵とこの瀬で砂金を探してみます。まったく採れないわけではありませんが、やはり採れる量が減ってきました」

「サドリナス王国はそれを知らないんでしょうか?」

「俺達の策だと思っているのかもしれませんよ」


 欲に目が眩んで、実情が見えなくなっているかもしれない。

 となると正規軍というよりも、魔族の侵攻を理由に私兵を増強した貴族達がやってくる可能性も無きにしもあらずだ。

 やはり村の南側に戦力を集めておくべきかもしれないな。


 春分がやってくると、エディンさん一行がやって来た。荷車の数が増えているのは行商人達が同行しているのだろう。20台を超えているんじゃないかな。

 受け取った銀貨と銅貨を夕食後に分配するらしいから、明日は行商人達の馬車に村人が集まるだろう。

 いつものように、酒場で商人やレンジャーのリーダー達と世間話に興じる。

 レイニーさんとエクドラさんは硬貨の袋を受け取ると早々に席を辞したから、残った男達でワインのカップを傾ける。


「やはり苦戦続きということでしょうか?」

「酷い有様でしたが、街道に沿って北に砦を設けてからはマシになったようですな。とは言っても、今年の耕作をする働き手をかなり徴兵されてしまったようですから、今年の徴税は苦労するでしょうなあ」


 王国としては高い授業料を払ったことになるんだろうが、庶民は堪ったものではないだろうな。徴兵された兵士の半数は失ったに違いない。

 その保証をきちんとするなら、王国への恨みも和らぐのだろうがそこまで気を遣うようにも思えない。

 

「砦が5つ街道の北に並んだとは言え、その中の2つはかつての村そのものだ。南の海岸から、北はシュバレード山脈までを領地だと言っておきながら、実質はその半分だったということになるんだろうな。もっとも、ブリアント王国も同じだったのだろうが」

「王国北部の開拓村から歩いて2日ほどの距離に砦を作ってましたよ。俺達はその砦の守備兵もしていましたからね。サドリナス王国よりは少し広いように思えますが、俺達を置きざりにするような軍ですから、多分開拓村を砦として使っているんじゃないでしょうか」


 サドリナス王国よりは少しマシぐらいだろう。となると……、さらに離れた隣国はどうなっているんだろう?

 魔族が一斉に南下したとなると一大事だと思うんだけどなあ。差別主義等放り投げて一丸とならなければ王国の存続だって怪しく思えてくる。


「次は夏至でお願いいたします。やはり食料は海外から運んでくるのですか?」

「そうなるでしょうね。今年サドリナス王国も食料を輸入すると思いますよ」


 それほど徴兵したってことか……。

 国庫が空になりそうだな。


「となると……、やってきますね」

「そうなるかと。夏至の商品は王国軍の動きを見ながら運んでくることになるでしょう。遅れるかもしれませんが食料は足りますか?」


 とりあえず頷いておく。食料備蓄がどれぐらいであるかは、知らせないで置く方が賢明だろう。

 畑の収穫も期待できるし、狩りの獲物も取れる。少なくとも半年以上は持つはずだ。


 翌日は、ナナちゃんと一緒に行商人の荷馬車を巡る。

 6台もあるんだが、兵士や村人がいっぱいだ。

 缶入りタバコを3つに飴玉が5袋。ナナちゃんはいつものように駄菓子と毛糸玉だ。

 あまり玩具はないようだな。スゴロクの板があるぐらいだが、ネコ族の女性達がたくさん持っているからなぁ。たまに指揮所で遊んでいるんだけど、これにもいくつかの種類があるらしく、毎年のように新作が出るらしい。


 商人達が帰り際に、ワインを数本とお茶の葉を1袋置いて行ってくれたけど、これって賄賂になるんだろうか?

 指揮所に皆が集まった時に飲めば文句を言う人もいないだろう。

 

「帰ってしまいましたね。王国の税収が足りない分を、この村から徴収するということになるのでしょうか?」

「そうなんだろうね。まったく何を考えてるんだか……」


 魔族との戦が小康状態になれば確実にやってくるに違いない。

 南の監視範囲を広げるとともに頻度を上げるのはもちろんだが、やはり南の塀の強化が必要だろうなあ……。


 その夜に小隊長と村の責任者を集めて、今後の対策を話し合う。

 エルドさん達2個小隊に南の塀の強化を依頼し、ヴァイスさん達には南に広がる荒地に、さらに落とし穴や、低い柵を作って貰う。

 今年の開拓と畑の世話はマクランさんにお任せだから、民兵部隊を使うことは出来ないと思っていたのだが、2個小隊をエルドさん達の応援に回すと言ってくれた。

 それなら、西の尾根から丸太を運んで貰おう。

 今年も住民が増えそうだからね。20棟近くを作らないとしばらくテントで暮らして貰わねばならない。


「やることがたくさんありますね。1個小隊は待機させておいた方が良いかもしれません」

「それなら、ダレルさんの部隊に待機していてもらいましょう。東と北の監視も行ってもらいます」


 俺の言葉に、レイニーさんが直ぐに部隊を割り振ってくれた。

 これで1か月も過ぎればある程度見通しが立つだろう。

 冬が終われば、魔族の南下も始まるに違いない。一戦するとなれば、この村にやってくるのは夏至以降になるはずだ。


「そういえば……。ガラハウさん、例の品は何とかなりそうですか?」

「数丁は出来たぞ。40丁となるともう少し時間が掛かるが、銃にしては変わり過ぎておるぞ。使えるのか?」

「それなら、出来た分を頂けませんか。そろそろ訓練を始めたいと思ってます」


 王国軍の使用する銃よりもバレルを長くしてストックを付ける。ストックはバレルの中ほどまで伸ばして、しっかりと握れるようにしてあるし、照星と照門も付けた。その上一番の特徴はバレル先端にバヨネットが付けられる。

 これで白兵戦になっても、槍や片手剣を装備しないで済むだろう。

 バヨネットの着脱は少し面倒ではあるんだが、蝶ネジをガラハウさんに教えたら、ちょっと驚いていたんだよなぁ。どんな形のバヨネットになったのか、ちょっと楽しみでもある。


「新しい銃ですか……」

「はい。直轄部隊の銃は、練習用の拳銃ですからね。狙っても30ユーデ先の的を当てるのは難しいでしょう。今度のはかなり使えるはずですよ」


「もう1つの方は、どうなってます?」

「あっちはとっくに出来てるが、石を投げるなら投石具で十分だと思うぞ」

「それも引き取りに行きます。そっちはエルドさんのところの銃兵に任せようと思ってる品ですから、エルドさんが受け取ってきてください。ちょっと変わった品を遠くに飛ばすのが目的です」


 バリスタでも良いんだが、カタパルトの方が確実だ。

 石を飛ばすのではなく、火薬の詰まった爆弾や、焚き木を丸めて火を点けた火球を飛ばす。

 攻城兵器を持ち出すのは確実だから、落とし穴や溝にはまったところを攻撃できるだろう。


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