表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
58/384

E-058 やはり農業はマクランさんに任せよう


 西の尾根で何度も魔族を目撃することになって、秋分が過ぎて行った。

 さらに村人が増え、そして冬越しの食料が届く。

 食糧庫には、来年の夏至まで持つほどの食料が蓄えられているが、後20日もすればブリガンディ王国からの避難民もやってくるはずだ。雪が降る前にもう1度サドリナス王国内の避難民が来るだろうから、今年の冬には2千人を超えることになるだろう。

 避難してきた人達は開拓民がほとんどだから、西の畑がどんどん大きくなっていく。

 さすがに西の尾根付近にまでは伸びないだろうが、新たな西門から1コルム半(1.8km)ほど先まで耕されているようだ。

 南に向かっては3面だから900ユーデというところだな。

 そろそろ畑の分配を考えるべきだと思うんだが、マクランさんに言わせると、それはまだ早いという事らしい。

 確かに切り株があちこちの顔を出しているからなぁ。切り株ばかりの土地を貰った連中が文句を言い出しかねない。


「こんな時代ですからねぇ。分配をするとしてもいくつかの農家に引き渡すことになると思いますよ。その時には少なくとも衣食住の保証を緩めることにもなります。そうでもしないと働かずに畑が荒れ果ててしまいますよ」


 なるほどねぇ。働かざる者食うべからずってことかな? そうなると、俺がここで色々と悩んでいるのは問題に思えてくるんだよねぇ……。


「とはいえ、来春は畑をいくつかに分けて作物を栽培する際に、その担当農家を決めようかと考えています。複数の畑を10から20家族で担当させてみようかと」

「共同経営ってことかな? でも作物には育てやすい物も、育て難いものもあるんだろう?」


「それが出来るのも、出来不出来に関わらず食べる者に困らないという条件があるからなんですがね」

「実験ってことかな? それなら、いろいろと試して欲しいね。この土地で良く育つものが分かれば、それを多く作って、余った物を売ることだってできるからね」

「そういう事です。まぁ、ソバだけは良く育つのが分かりましたけどね」


 開拓民を束ねるだけあって、マクランさんなりに色々と考えているようだ。

 レイニーさんは俺達の話を黙って聞いている。

 砂金の先細りをこの間説明したから、食料の自給状況が気になっているのだろう。


「やはり、村で収穫した食料で自給できるのはかなり先になると?」

「将来的には可能でしょう。ですが数年で自給できるようなことにはなりませんよ。鋤をロバに繋いで耕せるようになるまではまだまだ掛かります。至るところに大きな石が転がってますからね」


 小石も多いとのことだ。子供達が拾っているらしいけど、それを村を囲む塀の近くに積み上げているらしい。投石具で投げるには都合が良いぐらいの石ってことだな。


「季節毎に、村に避難者がやってきます。畑を広げているからこそ、あまり食料を買わずに済むようですよ。最初にこの村を作ったころから比べれば、3倍近くに人数が増えていますが、買い込む食料は2倍にもなっていません。堆肥作りも捗っていますから、今年の収穫も期待できるでしょう」

「もう少し堆肥作りの場所を広げても良さそうだね」

「すでに畑近くに2か所作りました。さすがに村の中で堆肥作りを継続するのも考えてしまいます」


 家畜小屋の近くだから、問題ないと思うんだけどねぇ。匂うのかな?

 その辺りも、マクランさん達に任せておこう。


 マクランさんが指揮所を去ると、レイニーさんとお茶を飲みながら畑の今後について話し合う。

 レイニーさんとは、村人に畑を分配することで話が付いていたんだが、マクランさんに反対されてしまったからなあ。


「まだまだ畑を広げないといけないのでしょうか?」

「それもあるけど、下手に分配すると村人の中でわだかまりが起きることを心配していたようだね。それを防止するための複数家族による耕作になるみたいだけど……」


 俺にしてもレイニーさんにしても、農業に詳しい訳では無いからなぁ。

 やはり専門家に任せておくのが一番だろう。マクランさんの手腕に期待させて貰おう。


「そうなると、私達は村の防衛を考えることになりますね」

「そっちが専門だからね。もっとも俺よりはレイニーさんに期待したいところだけど」

「私よりも、レオンさんの方が頼りになります。さすがはオリガン家と皆が言ってますよ。それに……、軍師でしょう?」


 それって、村人向けの話じゃなかったのか?

 軍師ってガラじゃないし、そんな事を兄上が聞いたらしばらくは笑い続けるんじゃないかな。

 オリガン家という重しが一生続くと思えばこそ、館の図書室にあった軍学書をだいぶ読んだし、戦の記録も読んでみた。

 だけど大層な装丁であったにも関わらず、中身はそれほどでもなかったな。

 いわゆる当たり前と思えることばかりだった。

 それよりも、戦の記録の方が面白かったのは覚えているんだが、記録を読んでいるとその戦が何でこんなに時間が掛かるんだろうか? と戦の結果よりも別な疑問が浮かんでくる。

 陣形に拘る必要なんてあるんだろうか? それに戦の前に占うというのもなぁ……。


「レイニーさんは占いが出来ますか?」

「急な話ですけど……、できますよ。でも、占うぐらいは誰でもできると思いますが?」


 疑問に疑問を返されてしまった。

 どんな占いなのかを聞いてみると、テーブルでコインを指で弾いて回すらしい。


「どちらの面が上を向くか……、ですか」

「表なら行動を起こし、裏なら動かない……、簡単ですよね」


 確率は半々ということだな。確かに神のみぞ知ることになるんだが、それで良いのか?


「レオンさんはどんな占いをするんですか?」

「そうですね。どちらかと言えば、結果を出すような占いになりますね。行動を起こす場合に、そうなるような占いというか、軍略本の中でそれに合わせた事例を思い浮かべるようにしてますよ」

「それって、占いではないんじゃないですか?」


 俺の占いが面白かったのか、口を押えて笑っている。

 戦を占うようではおしまいだからね。だけど、案外信じている人達も多いんだよなあ。


「でも急に占いの話が出てくるのは?」

「サドリナス王国が大人しすぎると思ったんです。この先の見通しがかなり曖昧に思えるので、できれば神にも縋ろうかと……」


 魔族に備えるか、それともサドリナス王国軍に備えるか……。南か西かの2者選択だ。

 それなりに防御は強化したが、やはりこれで完璧とは終わってみないと言えないからなぁ。長期戦に備えて兵舎も作りたいところだから、片方に絞りたいんだけどね。


 テーブルに地図を広げて、レイニーさんに状況を説明する。

 どうやら、俺の意図するところは理解してくれたみたいだけれど、やはりレイニーさんも首を傾げ始めた。


「私であれば、魔族を第一に考えたいところですけど、確かにサドリナス軍とは1度戦っていますね。あれから何度か砂金を交易所に持ち込んでいるでしょうから、向こうからすれば安定した採掘がおこなわれていると考えるのも不思議ではないでしょう。かといって、中間地点を強化するということも出来ませんね」


 南西方向ってことか? さすがにそれは本末転倒だろう。

 驚異の大きさから考えると、西なんだけどなぁ。でもそれが何か引っ掛かる。


「魔族の動きは、依然として西の尾根の谷付近までのようです。どうも水場を探しているようだとは聞きましたけど?」

「これだけの大山脈ですから、あちこちに水場はあると思うんですがそうでもないということですかね」


 魔族と言えども、水は飲まないといけないってことなんだろう。簡単な料理もするようだからなぁ。となると2千体を超える魔族の移動は水場を渡り歩く形で行われるということになるのだろうか?

 そうなると、水場の位置と水量がかなり問題になりそうだな。

 この村は水だけは十分にあるし、直ぐ東には川が流れている。川沿いに南下するということをしない理由は何だろう?

 大軍を率いているなら、ブリガンディ王国とサドリナス王国の連絡を遮断できると思うんだけどなぁ……。


 しばらく地図を広げて考えていると、その答えが分かってきた。

 どうやら、撤退の容易さを考えての事かもしれない。

 この地から速攻を加えるなら確かに両王国を分断できる。だが、魔族は戦をするが領地を得ることはあまり考えていないようにも見える。

 攻め入った先に拠点を作ることが無いのだ。魔族が大きな集団を作っていても、いずれは戦力が枯渇していく。その時逃げる方向が川沿いに北上するだけになると、側面を閉ざされたら簡単に全滅してしまいかねない。

 ここから西であるなら、北に逃げ出すとしても東西どの方向にも逃げられるだろうし、味方の援軍も期待できるということなんだろう。

 

「やはり南ですかね。西は移動式の柵を沢山こしらえるだけにしておきましょう。ここで長く暮らすことを考えればやはり南を重視した方が良さそうです。

「1年分の食料備蓄が可能なら、畑を荒らされても何とか暮らして行けます。南が破られたなら、村に多数の犠牲者が出る可能性もありそうです」


 これで冬の仕事が決まった。

 いずれサドリナス王国軍は押し寄せてくる。

 魔族との戦で互いに消耗してくれるならありがたいが、東西に延びる街道から北にいくつかの砦を築けば魔族の侵攻をブリガンディ王国のように押し返すことも出来るだろう。その見通しが立ったなら、直ぐにでもやってくるんじゃないかな。

              ・

              ・

              ・

 秋が終わり、空がどんよりと曇る日が多くなってきた。そろそろ初雪が降るんじゃないかと話しているところに、ブリガンディ王国からの避難民を引き連れたレンジャーが村にやってきた。

 直ぐに避難民達にログハウスを与えて、休ませる。

 レンジャー達に酒場でワインをご馳走しながら、2つの王国の様子を聞くことにした。


「……人種差別に反対している貴族の領地を、取り潰しているってことか?」

「そういう流れが出来ているようだ。実態は下級貴族の放逐に近いな。差別派であっても取り潰しているらしい。オリガン家についてはさすがに手を出せないらしい。建国時の働きで得た領地だからなぁ。おかげで、まだまだ避難者がやってくるらしいぞ。領主様は館のある周辺に避難場所を作ったらしい。話を聞くと、面白い場所に館があるらしいなあ。小さな漁村と館だけがぽつんと川向こうにあるんだからな」


 いざとなれば、立て籠もることができる。とは言っても、それはオリガン家の私兵と村人を対象にしたものだろう。避難民が何千人と集まったなら、そうもいかないだろうが避難民達も開拓をして畑を耕しているのかもしれないな。ここに比べて温かな南の土地だし、良く肥えた土地だと村人が言ってたぐらいだ。


「干し魚の生産で領地が潤っていることもあるんだろう。王宮の役職を返上して、今は領地にいるらしいぞ」

「父上がいるなら問題はないでしょう。生活に困窮するようなことが無ければ良いんですが」


「まあ、そんなに悪い食事でもないようだ。俺達もそれなりに報酬を貰うことができる。それより、こっちのサドリナス王国の方が問題だな」


 やはり農家から男達を招集したらしい。大黒柱までも召集しているというんだから驚きだ。

 そんな新兵を魔族の前に立たせたなら、怖気づいて戦にもならないだろう。魔族軍に良いように刈り取られてしまうに違いない。


「まったく、魔族相手の戦を知らないのでしょうね。砦を作っての防衛線は考えないのでしょうか?」

「いくつか作ったらしい。その砦から魔族軍に向かって行くらしい。命がいくつあっても足りんだろうな」


 指揮官は何を考えているのだろう。

 砦の中で、地図を広げてワインを飲んでいるのかもしれないな。

 現場の兵士の命等まったく考えない指揮官だとしたら、その内に内乱に発展しかねないぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 切り株は、普通なら開拓時に抜かないんかね? ダメならサイコキネシスで動かすとか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ