表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
57/384

E-057 近くまで魔族が来ているようだ


 夏は日が長いし、村の住民も増えたことで村を囲む塀作りがかなり進んだ。おかげで森の木がだいぶ切り倒されたけど、見通しが良くなったから問題は無いだろう。森は西の尾根近くにも大きく広がっているから焚き木には不自由しないだろうし、今回は丸太を作る過程でたくさんの枝が手に入った。改めて焚き木取りに行かずとも何とかなりそうだな。


「雪が降る頃には何とか村を囲えそうですね。最初に塀で囲った大きさを比べると4倍ほどになりますよ」

「東西の通りが、3本出来ましたからね。さすがにこれ以上にはならんでしょう。次は森を囲みたいですが、丸太を並べるのではなく柵を作ればなんとかなりそうです。俺達の村の境界を示す感じで十分かと」


 すでに千人を超えているからなぁ。民兵の希望者が多いから、2個小隊ほどに膨らんでしまった。それに伴って、クロスボウ作りとボルト作りが間に合わないと、ガラハウさんがこぼしていたんだよね。


「さすがにこれだけ規模が大きくなると、民兵の協力が是非とも必要になってきます。民兵1個小隊は機動的に運用したいですね」

「いずれ魔族がやってくると?」


 レイニーさんの問いに、小さく頷いた。

 俺達の存在ぐらいは、魔族に知れているに違いない。だが、不思議なことにこちら側には襲ってこないんだよなぁ。

 だがいずれは必ずやってくるに違いない。それまでに防備を今まで以上に固めねばなるまい。


「民兵と言えば、すでにクロスボウ部隊だけで2個小隊ほどになります。投石具と槍を装備した少年達も1個小隊ほどに膨らんでいます。ご婦人方も集会場で待つよりはと、投石具の練習をしているようです」

「結構な数になりますね。これからも増えるでしょうから、将来は1個中隊規模になりそうです。そうなると、身を隠しながらクロスボウを討てるような狭間を多く設けるべきかもしれませんね」


 丸太を立てただけの塀なんだけどなぁ。さらに丸太を組んで強化しながら、狭間を付けた板を立てて置こうか。少し外側に傾斜を付ければ、矢の雨が降ってきたとしても、その下は安全だ。

 農作業の合間を見ながら作れば十分だろう。


「秋分の前に、避難民を案内してくると言ってましたが、住む家は何とかなるんでしょうか?」

「その辺りは、ダレルさんが頑張ってますよ。さすがはトラ族、力が俺達とは違いますからね。エルドさん達が丸太を運んでますが、今日からヴァイスさんの部隊も協力しているはずです」


 やはり工程表があると進捗が良く分かる。

 今年も冬越しの焚き木に苦労することはないんじゃないかな。


「現在のところ、村の人口は1500人を越えています。毎年数百人が、この村を目指してやってきますが、やはり問題は食料ですね。

 美味い具合に砂金と銅鉱石で黒字ではありますが、将来的に見ると砂金は採れなくなるでしょう。現に今年の採取量は小袋1つというところです」


「手元に砂金の小袋が9つありますし、金貨だけでも12枚あるのですから10年以上は購入できると思いますが?」

「10年は案外短いですよ。エルドさんに、上流の縁の底を試してみるように伝えましたから、もう少し長く砂金が採れるかもしれません」


 とは言っても、20年先は採れなくなるに違いない。1か所で数年というところだな。かつての川底も候補地ではあるけど、それを行うと大規模な事業になりそうだし、労力に見合った収入が得られるかどうか皆目見当がつかないからなぁ。

 その前に、食料の自給自足がどこまでできるかだ。

              ・

              ・

              ・

 夏の最中に村にやってきた避難民は100人に満たない数だ。

 子供を持たない若い世代とその親達のようだから、さっそく畑の開拓に勤しんでもらう。

 毎日周囲を気にしながら生活してきたらしいから、この村ではのびのびと暮らせるだろう。

 鍬や鎌を持ってきてくれたのもありがたい。荷車2つを押してきたのは1台に衣服や毛布を乗せていたようだ。運んできてくれた食料が荷車1台だったのを見て、レイニーさんがちょっと沈んでいたけど、同行してきたレンジャー達が、大型の魔法の袋から次々とライムギの袋を積み上げていったと聞いて安心したようだ。

 避難民を受け入れた結果、餓死したなんてことになったら大変だからなぁ。

 その辺りの事はオビールさんも心得ているに違いない。大型の魔法の袋は、結構荷物が運べるようだ。


 引率してきたハンター達を酒場に誘い、ワインをご馳走する。

 酒場を作ったのか! と感心して中を見ていたけど、多目的な場所だからな。宿泊もできると教えておいた。

 ワインを飲みながら世間話を始めると、レンジャーがワインの例を言いながら魔法の袋を取り出した。


「これはレオン殿にと言っていたぞ。銃のカートリッジが500個と火薬になる。魔族との戦が始まってこれらも値が上がったが、食料ほどではないようだ。やはり使うには不便ということになるんだが……」

「使い方次第ですよ。弓のように矢をつがえて放つというようなことにはなりませんからね。案外面倒なカートリッジの詰め込みを行わねばなりませんし、数発撃ったなら銃身の中を掃除しないといけません。ですが3発程度ならそんなことは起きません。それに矢を打ち込んでも当たり所によっては向かってきますが、銃弾を受ければその場に転倒します。魔族相手には結構使えますよ」


「王国軍はどうも違う判断をしたようだな。やはり多くの矢を浴びせれば良いということで、徴兵した新兵に弓を教えているらしいぞ」

 

 確かに中隊規模で矢を放てば、それなりに効果はある。だが、それぐらいでは魔族はひるまないんだよなぁ。

 対人戦闘と魔族との戦闘は根本的に異なるのかもしれない。

 そういう意味では、魔族との戦を長く続けているブリガンディ王国軍の方が少しはマシなのかもしれないな。


「報酬に目を奪われるようなことはしないでくださいよ。魔族は数で来ると言われていますが、魔族の戦闘能力も馬鹿にはできませんからね」

「この村が頑丈な塀を巡らしている理由が分かったよ。俺達は高望みはしないさ。何事もほどほどが一番だからな。だが王国内でうだつの上がらないレンジャー達の多くが徴兵に応じたらしい。俺達が拠点にしている村のギルドからも三分の一ほどが流れて行ったからなぁ」


 レンジャーなら、すぐに戦闘に参加させることができると思っているらしい。

 確かにそうだが、問題もあることは確かだ。

 そもそもレンジャーは大勢で戦うような事をしないんだよなぁ。数パーティが集まって巻き狩りのような事をするときもあるらしいが、基本は数人のパーティで行動している。パーティをバラバラにして各自の得物に見合った部隊に配属したら、あまり意味が無いように思えるんだけどね。

 新兵だけの部隊に、古参兵を1人入れるようなものだろう。周囲が足を引っ張ってレンジャー本来の働きが出来ないに違いない。


「次は秋分ですね。近くで狩りはできるんですが、この位置ですから魚がほとんど獲れません。干物があれば大量に欲しいところです」

「了解だ。もっとも、干物はブリガンディ王国からの避難民に持たせると言っていたな。何でも一時避難している場所では漁が盛んらしい」


 オリガン家の領地には漁村が2つもあるからなぁ。久しぶりに故郷の味を楽しめるかもしれない。

 レンジャー達は2日後に荷車を曳いて帰って行った。

 途中で狩りをするんだろうけど、近くには獲物がいないとヴァイスさんが言ってたんだよなぁ。その話を伝えてはいるが、あまり西に向かうことは無いだろう。

 野兎辺りを狩るつもりかな。それなりにたくさんいるらしいからな。


 秋分までの1か月半で、どれだけログハウスが建つか見当もつかない。秋分の後には、さらにブリガンディ王国からの避難民がやってくるはずだ。

 あまり急いで雑に作るようでは、冬がきついからなぁ。子供達も隙間に木くずを詰める作業を手伝っているらしい。

 

 レンジャー達が村を出て10日ほど経った時だった。

 珍しくレンジャーが昼過ぎに指揮所にやってきた。周辺の偵察をしながら狩りをしている連中だから、夕食後の集まりの時ぐらいしか指揮所にやってこないのだが……。


「魔族の偵察部隊を見付けた。西の尾根の上で獲物を見付けたから、谷に下りて行ったのだが、そこでホブゴブリン数体を見掛けたぞ」


 ホブゴブリンの偵察部隊ということに首をひねっていると、レイニーさんがレンジャーに問いかけた。


「コボル族はいなかったんですか?」

「ああ、いなかった。普通ならコボル族の偵察だろう。しばらく様子を見ていたんだが、やはりホブだけだったな」


 魔族も種族が色々いるらしいからなぁ。俺はその辺があまり明るくは無いんだが、レイニーさんが言うには、足が速いコボル族は偵察部隊に最適らしい。ゴブリンより一回り大きく知恵もあるそうだ。


「ホブゴブリンは私達と同格だと聞いたことがあります。となると、何かを探していたのかもしれませんね」

「だんだん谷を下りて行ったんだが、明日も調べた方が良いだろうか?」

「その原因を調べてみたい気もしますが、谷を下りることは避けてください。尾根伝いに南に下がって、魔族の姿が見えないだけでも十分です」


 一応言っておこう。

 イヌ族のレンジャーだから、何も言わないとホブゴブリンを探しに向かいかねない。いくら何でも、それはリスクがあり過ぎる。


レンジャーが指揮所を去ると、レイニーさんが直ぐに問いかけてくる。

 やはり気にはなるようだ。


「案外水を探しているのかもしれませんよ。この暑さですからね。魔族も水ぐらいは飲まないと暑さを凌げないのかもしれません」

「水ですか……。ここは枯れることはありませんね」


 使っていない養魚用の池を子供達に開放しているぐらいだからなぁ。

 大人達も混じって水浴びをしているようだ。ナナちゃんもたまに子供達と一緒になって水に浸かっているようだけど、ヴァイスさんはそれを眺めているだけらしい。

 結構人気があるようだから、もう少し大きい池を村の東に作っても良さそうだ。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ