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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-056 育てた魚を食べてみよう


 夏至を20日程過ぎると、ブリガンディ王国から逃れてきた避難民30家族がレンジャー達に護衛されて村に逃れてきた。

 荷馬車5台に食料や家財道具を乗せてきてくれたから、当座の暮らしは何とかなるということなんだろう。

 総勢130人程の避難員の中に子供達が10人以上いたから、荷馬車は都合が良かったかもしれないな。どうにか歩けるぐらいの子供では、この村に辿りつくことさえできないだろう。


「荷馬車は借りものだから、曳いていくぞ。途中で狩りをしていくつもりだ。空荷というのも考えてしまうからなぁ」

「季節的にはイノシシですか。それなら森の南西にある小さな森に群れがいると、村のレンジャーが言ってましたよ」

「ありがたい。明後日に狩りをしながら帰ることにするよ」


 オビールさんから王国の様子を聞いてみると、急造した砦の1つを落とされたらしい。

 もっとも魔族は砦を落としても、占拠することが無いんだよなぁ。兵站の問題でもあるんだろうか?

 昔からある砦2つは攻略して住み着いているとのことだから、砦の北で農業を始めたのかもしれないな。


「この村の真南にある村から、西隣の町までは魔族の動きがあまりないようだ。村の北西に急造した砦に1個中隊を駐屯させたからだろうと住民は話しているが、魔族の恐ろしさをそれだけ知らないんだろうな」

「1個中隊では簡単に飲み込まれてしまうでしょうね。もっとも頑丈な砦ならば別ですが、オーガが数体いるなら砦の門は簡単に破壊されてしまいますよ」


「まったくだ。だが村人達にはそう思えるに違いない。普段と変わらずに生活しているよ。まぁ、獣人族を見掛けることは殆どなくなってしまったけどなぁ」


 逃れた獣人族の連中は、川の近くの林の中に小さな集落を作って暮らしているらしい。この村に早く避難させてあげたいけど、こっちの方が危険の度合いが高いからなぁ。

 住む場所を作って、それに見合った人数を定期的に受け入れるしか方法は無いだろう。

 集落への食料援助はエディンさん達がしているようだけど、その運搬はオビールさん達がしているようだ。とりあえず暮らして行けるだろうと話してくれた。


 2日後にレンジャー達が荷馬車を引いて南に去って行く。

 上手くイノシシを狩れれば良いんだが、ヴァイスさん達もてこずっていたらしいからなぁ。イノシシ狩りに出掛けて持ち帰ったのが鹿だったからね。

 それでも、手ぶらで帰ることが無いんだから、ヴァイスさんならレンジャーになっても十分に生活できるに違いない。


「次は秋分ですね。冬の前にもう1度ぐらい避難民を案内してくれそうですから、さらに300人ほど増えるでしょう。南の森を囲む塀はまだまだ時間が掛かりそうです」

「戦力が増えますから、今回のやってきた人達にも協力して貰えますよ。2個分隊ほど増やせるんじゃないですか? それよりは西の開拓の方です。やはり切り株があると思うように耕せないみたいですね」


 切り株を撤去せずに耕して畑を広げたのだが、やはり畑に邪魔物があると手入れが面倒なようだ。

 面倒でも切り株を撤去しようと、今年広げている開墾地は頑張っているのだが、昨年切り開いた畑の切り株を撤去するのは、もう少し開墾をしてからになってしまうだろうな。


「このまま西に畑を広げると、尾根近くまで行ってしまいそうですけど?」

「さすがに尾根を越えることはしませんよ。でも尾根を西の塀として利用できると考えています。尾根伝いに道を作り部隊の迅速な移動が可能であるなら、魔族を西の斜面で食い止めることは可能でしょう」


 とは言ったものの、さすがにそれは遠大な計画になるだろう。

 ここから最初の尾根までは半日掛かるんだからね。2、3年でそれほど開墾を進められるとは思えない。

 だが、現在でも西の尾根は魔族に対する柵程度の役目を十分に果たしているに違いない。この村から見える西の尾根の1つ先の尾根にまでしか魔族が現れないのは、尾根を越えることの危険性を知っているということになるのだろう。

 その点、南は開けているからなぁ。谷に魔族を集結させて一気に南へと攻撃を掛けることができる。


「そうそう、ナナちゃんが魚がだいぶ大きくなったと言ってましたよ」

「俺も聞きました。そろそろ食べてみますか? 一昨年孵化させた魚なら大丈夫だと思うんですが、村の全員に配るだけの数はないと思いますよ。それで、躊躇していたんです」


 食べ物の恨みは恐ろしいと聞いたことがあるからなぁ。

 分配の方法を上手く考えないと、村の中でわだかまりが起こらないとも限らない。


「どれぐらいの数なんですか?」

「そうですねぇ……。この間見た感じでは300匹以上は確実だと思っています。小さいのは、再度池に放流して大きくしたいですからそれぐらいに考えれば良いかと」


 その晩の会議では、分配方法で大騒ぎになってしまった。

 皆も待ち遠しかったんだろうな。たまに池で黒々とした魚の群れを見ていた連中もいたようだ。

 結局、順番に配るということに落ち着いたのは妥協以外の何物でもない。さらに池を作ろうと言うぐらいだからなぁ。

 世話をする少年達も2人では足りないから、もう少し増やした方が良いのかもしれない。


「それでは、第1小隊から順番に小隊単位で配布することで良いですね。今年配布できなかった小隊には、来年からになります。余った魚は食堂に提供します」

「1つよろしいですか。エルドさんの部隊が砂金を採取に出掛けますよね。その時に魚釣りをして貰い、獲れた魚を避難してきた我等開拓民に配布してくださるとありがたいのですが」


 養殖魚が兵士以外に提供されるのはかなり先になりそうだ。それで開拓民達が満足してくれるならやってみるべきだろう。

 釣れた魚を家族単位で渡せば、どこまで配ったかもわかるはずだ。マクランさんが簡単な住民台帳を作ってくれたから、それを使えば配り忘れも防止できる。

 それにしても、家族に番号を付けるとはねえ。5桁の番号で家族を管理できるとは思わなかったな。上3桁で家族を、下2桁で個人を現すらしい。999軒も家ができるとは思えないし、99人家族ということも無いだろう。

 さらに住民が増えた時には、6桁に増やすと言っていたけど、そうなれば王都ぐらいの規模になってしまいそうだ。


「それぐらいなら、大丈夫だ。釣り好きが数人いるんだが、休んでいる連中にもやらせれば数を出せるだろう」


 自分の釣りの腕が期待されていると思ったのか、エルドさんは上機嫌だ。

 俺も行ってみたいけど、ちょっと離れているからなぁ。森の下のある淵で竿を出すぐらいが良いところだろう。


 翌日。養殖池の水を抜きながら、リットンさんが太い糸で編んでくれた網を使って魚を掬い取る。

網の中でぴちぴち撥ねる魚を素早く台の上に乗せて、1フィルト(30cm)に長さの棒を越えているかどうか見定めながら、2つの桶に分けていく。

大きさが1フィルトに足りない魚は小さな池に入れる。一時的に入れておいて、今年孵化した魚が大きくなったところで同じ池に入れれば良いだろう。もっともそれまでに食べてしまいそうでもあるんだけど……。

 1フィルトを越えた魚は新しく作った大きな池に入れた。数日間餌を抜けば、臭みも消えるだろう。


「300と聞きましたけど、それ以上いるんじゃないですか? 500近いと思いますよ」

「これほど育つとは思ってなかったんだよ。でも途中でだいぶ死んだと聞いたぞ」


 2割近くは途中で死んでしまったらしい。死んだ魚は肥料として畑に埋めたようだ。 

 無駄にしなければ、魚も浮かばれるに違いない。


「今日は食べないのかにゃ?」

「5日ほど、この池に置いてからですよ。それぐらいは待てるでしょう?」


 ヴァイスさんが渋々ながら頷いてくれた。

 小さな池の方を見ながら指を咥えているのもなぁ……。


「明日は、森の下の縁に釣りに行きますから、釣れたらヴァイスさんに上げますよ」

「本当にゃ! 朝食が終わったらすぐに行くにゃ」


 笑みを浮かべて池の傍を離れてくれたから、どうにか第1小隊長の威厳を保つことが出来そうだ。


「まだまだいるようですね……。もう少し水を抜いてみます」


 水深がさらに浅くなる。

 池の底の泥を巻き上げながら魚が逃げるから、直ぐに網で捕まえることができるようになった。

 全ての魚を掬い取ったところで、池の水を完全に抜いた。

 夏だからなぁ。池の泥は直ぐに乾燥してくれるだろう。数日後に泥を剥がして堆肥の上に乗せておこう。池の泥は良い肥料らしいからね。


 5日後に、第1小隊から、順番に小隊の人数分の魚を渡していく。

 一応、小隊の人数は、1個分隊10人の4個分隊に小隊長と副官が付くから42人が標準だ。だけど種族の違いや新兵が入るんで、どうしても数に開きがある。15人分隊なんてのもあるし、俺の直轄部隊は1個分隊8人だからね。

 各小隊長が告げる数の魚を次々と手渡して行ったから、その数を記録していたナナちゃんに後で総数を聞いてみよう。


 昼直を挟んでどうにか兵士達に行き渡った。ナナちゃんのメモを見ると、450を超えている。2倍の規模で行えば村の住民達にも少しは渡せるだろうけど、さてどうするかだな。

 まだ20匹以上残っていたから、軍属の小母さん達に進呈することにした。

 自分達で1匹ずつ食べた残りの魚はスープに使って貰えそうだ。


 あちこちの焚火で魚が炙られている。俺とレイニーさんはナナちゃんに連れられて、ヴァイスさん達の囲む焚火で魚を焼いて貰った。


「しばらく待つにゃ。じっくりと焼くにゃ」


 口元によだれが出ているんだよなぁ。ヴァイスさんはまだまだ色気より食い気が優先するみたいだ。


「まさか全部隊に行き渡るとは思いませんでした。これで変なわだかまりが起こることは無いはずです」

「民兵にも渡すことが出来ましたからね。自宅に持ち帰って家族で食べるのでしょう。2匹渡したかったんですが、それには数が足りませんでした」

「エルドに期待したいですね」


 明日から出掛けてくると言っていたからなぁ。

 今回ばかりは、砂金より魚を沢山持ち帰って欲しいところだ。シノダケで作ったカゴは「ウケ」と呼ばれる魚を獲るワナなんだが、あれで獲れる魚は小魚ばかりのはずだ。

 やはり大物は釣り上げるしかないだろうな。


「小魚の干物を持ってきてくれるのかにゃ?」

「去年ぐらい持ってきてくれると助かるね。カラカラに干し上げてから磨り潰せば餌に使えるからね」

「喧嘩して食べてたにゃ。商人さんが運んでくれる、魚の干物と変な蛹も一緒に粉にして使っているにゃ」


 どんな配合比で餌を作ってるんだろう?

 干物ばかりだと粒状に出来ないから、ドングリや水草さらにライムギ粉まで使っているらしい。

 子供達ばかりだから、いろいろと考えているんだろうな。ドングリは最初に使ったけど、あまり粘らなかったんだよね。

 あまり変な混ぜ物をしないように、注意しておいた方が良いんだろうか?

 ハチを食べるんならと、蜂蜜を混ぜようとしていたからなぁ。


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