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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-055 サドリナス王国の状況


 春分の取引が終わって23日後に、新たな住民が村に到着した。

 生憎と兵士はいなかったが、元レンジャーが十数人ほど含まれていたから、先にやってきた元レンジャー達と4つのパーティを作って貰うことにした。

 元々のパーティメンバーで組んだから、人数は5人から8人とバラバラになっている。

 その人数でこれまで依頼をこなしてきたんだろうから、あえて人数合わせをする必要もないだろう。


「それで俺達の役目は、村の周囲の監視と狩りになるんだな?」

「村の南と西を良く見て欲しい。西の尾根に監視所を作っているんだが、監視所から西に1つ離れた尾根で魔族の偵察部隊を何度も目撃している。東の谷に下りてくることは無かったが、やはり注意は必要だろう。南はサドリナス王国軍が気になるところだ。この場所に根を下ろして2度攻撃を受けている。ここの鉱山を狙っているのだろう」


「銅山と金山と聞けば、王宮の連中が目の色を変えるだろうな。だが、商人の話では魔族相手に苦戦しているらしいぞ。ここに構ってはいられないように思えるが?」

「だからこそ……、という考えもあるぞ。軍はそれでなくとも資金が必要だからなぁ」


 俺の話に、パーティのリーダー達が苦笑いを浮かべる。

 後はレンジャー部隊の代表となったトレムさんに任せよう。夕食後の会議の席で状況を教えてくれれば問題ない。


 指揮所を去っていくレンジャー達をじっとレイニーさんが眺めていたが、急に俺に顔を向けた。


「彼らに任せて問題は無いのでしょうか?」

「4つのパーティともに狩りを主体に依頼を受けていたということだから問題はないと思いますよ。獲物を狙うには周囲の状況観察の目と、自分を周囲と同体にさせるための隠れる技を身に着けているはずです。偵察要員としては最適でしょう」


 軍隊なら、相手が少数ならその場で交戦しないとも限らないが、レンジャー達ならその場からそっと離れるだろう。

 相手に知られずに様子を探ることにかけて、レンジャーの上を行くのは盗賊ぐらいじゃないかな。

 さすがに盗賊は避難してこないだろうから、この村の住人の中では頼りになる連中であることは間違いない。


「村もだいぶ大きくなりましたね。兵士は7個小隊ですが、民兵も2個小隊出来ましたし、投石具を使える少年が2個分隊に増えました」

「都合2個中隊というところです。場合によっては民兵をもう1個小隊作れるだろうと、マクランさんが言ってましたよ。西の守りは、格段に良くなりますが、民兵だけというわけにもいかないでしょう。ダレルさん率いる第5小隊を西の守りとしたいところです」


 南に4個小隊。1個小隊は北と東を担当させて、予備兵力は1個小隊ということになる。俺の直轄部隊は3個分隊だからなぁ。南門を担当させて貰おう。

 南門から東の端までは100ユーデも無いんだが、ドワーフ族の連中が自分達の工房を守るんだと言っていたし、食堂の小母さん達も弓なら今でも引けると言っているんだよなぁ。ほとんど攻撃の対象にはならないような位置だから、問題は無いだろう。


 それにしても、立地条件が良かったと感心してしまう。

 少なくとも東と北から攻撃を受けるとは思えない。絶対に来ないとは言い切れないから、念の為の配置で十分だ。それだけ南と西に戦力を集中できる。


「案外魔族はこの地を重視していないのかもしれませんね。魔族の暮らす場所から移動するのに不便な土地なのかもしれません」

「魔族が攻撃してくるときには最低でも1個中隊ということにはなりません。それだけ移動が容易な場所を選ぶということでしょうか?」

「食料輸送に難があるのかもしれませんね。レイニーさんは魔族の輸送部隊を見たことがありますか?」


 俺の問いに、しばらく考えこんでいたがやがて首を振った。

 やはり……。魔族の襲撃が短期間で終わる理由はそこにあるのかもしれないな。

 俺達のような後方部隊がいないのだろう。

 各自が持てる食料だけだとすれば、それほど長期に渡っての戦はできない。

 もっとも、戦場で戦死した兵士の肉を食うという話も聞いたことがあるから、現地調達が出来なくなった時が魔族の引き上げるタイミングかもしれないな。


「やはり裏が急峻な地形であること、東の道が大軍の移動に適さないことが原因でしょう。地形に助けられていますが、やはり西を留守にはできませんね」

「そうなると、私達を攻撃してくるのは王国軍ということになるのでしょうか?」

「欲に目が眩んでいるようなら、何度でもやってきますよ。魔族相手に大きな敗北をした時が一番危なくなります」


 戦費調達が目的だろう。金鉱と銅鉱山があるんだからなぁ。しかも、彼らにしてみれば自国の領内ということになる。

 さすがに西の王国は文句を言うことも無いだろうが、東のブリガンディ王国はどうだろう?

 兄上には状況を話しているから、王宮内にはすでに知られているはずだ。

 自国の兵士が開発した鉱山なら、自国の物だと言い出しかねないな。

 どんな外交交渉が行われているのかを考えると、笑みがこぼれてくる。

              ・

              ・

              ・

 夏至に合わせるように、商人達がやってきた。

 荷馬車だけで10台も引き連れてきている。それに新たな避難民が荷車を2台曳いてきたのにも少し驚いた。

 それだけ食料を持ってきてくれたということになる。


「避難民は32家族、133人になります。食料は前回の2倍を用意しました。やはり値段が上がってきました……」


 そう言っていつものように、砂金の残金をテーブルに乗せて渡してくれた。革袋の硬貨以外に金貨が4枚添えられている。

 だいぶ金貨がたまってきた感じだ。銀貨や銅貨は住民に分配しても、金貨での買い物はしないからねぇ。


「さらに上がり続けるんだろうね。買い占めはしたくないが、他国との貿易で食料は今まで通りに手に入るんだろうか?」

「何とかなりそうです。とは言っても、関税が高くなるのではないかと」


「街道の北に新たな砦作りが始まっている。開拓民を総動員しているようだが、その砦に派遣する兵士を徴兵で補うつもりのようだ。まったく平和ボケしているとしか思えん話だよ」


 オビールさんの話はレンジャー仲間からの情報なんだろう。

 となると、ブリガンディ王国とは異なりサドリナス王国は北を守る砦を魔族に抑えられたということになるのだろうか?


「魔族の主力は北に引き上げたのではないですか?」

「ブリガンディ王国ではそういう事らしいが、この国ではそうでもないらしい。北に作った2つの砦を落としたということで、その砦に魔族がこもっているとのことだ。

 案外、この村を狙うかもしれんぞ。この村の西はすでに魔族の土地になっているようだからな」


 思わずレイニーさんと顔を見合わせてしまった。

 そうなると、南よりも西の備えが重要になってしまう。


「貴重な情報を頂き、ありがとうございます。ところで、オビールさんには軍から誘いが来ないんですか?」

「パーティを解散して、俺達だけ入隊しろと何度も言われているよ。だが、俺達が狩る獲物は町や村の貴重な肉だからなぁ。このまま続けるつもりだ。それに、解散したパーティの獣人族のレンジャーもいるからなぁ」


 獣人族だけのパーティをいくつか世話しているらしい。町や村に入り難くなっているらしいから、オビールさん達が、獲物を卸して食料等に替えているらしい。


「エディンさんがいてくれるからなぁ。支店を村に作ってくれたから助かるよ。だが、だんだんと獣人族を連れて行くのが難しくなってきているようだ。エディンさんのところから2人程少年を借りているが、5人にして貰えるとありがたいな」

「直ぐに手配しますよ。レンジャーに成れると言ったら喜ぶんですからねぇ……」


 まだまだ少年というところなんだろう。

 だが、見掛けは大事だからなぁ。レンジャーが獲物を荷車で曳いてくるのは、よくある話らしい。


「他の町のギルドで動いていたが、たまに俺を訪ねてくる。獣人族のハンターをこちらに送っても良いだろうか?」

「あまり獲物はありませんが、そうして頂けると助かります。身一つで来られても困るんで、最低限自分の得物は用意してくるようにお願いします。村を大きくしたので監視が足りないんですよ」


 現在の4パーティを倍にできれば、監視網が充実するはずだ。

 場合によっては二重の監視網を作れるかもしれない。


「そういえば、今回カートリッジを800個お持ちしました。魔族の侵攻で銃の需要が増えるかと思いましたが、どうやら見込み違いのようです」

「案外そんなものかもしれませんよ。でも矢は売れてるんじゃありませんか?」

「そうなのです。おかげで工房がどこも賑わっています」


 魔族相手に矢を使ってるんだな。銃の方が確実なんだが、いかんせん数発撃ったらバレル内を掃除しないといけない。

 それに銃口からカートリッジを詰めて、ラムロッドで奥まで押し込まないといけない。

 そんな事をやっている間に、弓なら矢を何度か放てるだろう。


「魔族の鎧は俺達の革鎧より丈夫ですからねぇ。鉄板を繋いで作ってあるんですよ。魚の鱗のように鉄板を重ねていますから、数本矢が当たっても向かってきますよ。その点、銃なら1撃です。とはいえ、装填が面倒なんですよねぇ」

「魔族が少数なら、槍が一番だな。長剣を使い奴がいるが、長剣を振り回すなら棍棒の方が効果的だ」


 打撃武器ということだろう。トラ族の連中は長剣を持っているんだが、モーニングスターを使わせても良いんじゃないかな。

 

「ゴブリンからオーガまでいるんですから、困ってしまいます。俺達のように同じような体型だと助かるんですが」

「魔族だからなぁ。もっとも、あまり魔法を使わんと聞いたぞ」

「ホブゴブリンの絶対数が少ないのかもしれませんね。もっとも、俺達だってあまり使いませんよ。魔導士のような攻撃魔法を使えるならともかく、俺達は【メル】が良いところですからねぇ」


「確かに……」等と言って、レンジャー達が笑っている。

【メル】は火炎弾だけど、飛距離が30ユーデにも満たない。その上当たると弾けるんだが、せいぜい火傷を負うぐらいだからなぁ。

 数人が同時に放って、相手を一時的に足止めするには役立つが、それなら数人で銃を一斉に放った方が効果的だ。

 それを考えると、一般兵士が生活魔法で満足しているのも頷けるところだ。

 俺も姉上から頂いたバングルの魔法だけで十分だからね。


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