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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-052 村がどんどん大きくなっていく


 兄上達は砦で1日休むと直ぐに帰って行った。1か月後に元兵士を送ると言っていたから、さらに住居を作らねばなるまい。

 エディンさんが運んできた荷物の中には、蒸留酒が10本以上入っていたから、ドワーフ族は大喜びだった。ワインでは少し物足りないってことなんだろうな。

 新たな住民達も、毛布と衣服の配給を受けて喜んでくれた。冬は着の身着のままでは過ごせそうにないからなぁ。

 兵士用のマントも数十程あったから、民兵達に配ってあげよう。


「まだまだ家を建てられるにゃ。初雪が降るまで頑張るにゃ!」


 食堂で出会ったヴァイスさんが、そんな事を言っていた。寒さに負けずに頑張ってくれている。

 すでに、南の森の近くで新たな塀を作るべく溝が東西に延びている。雪に包まれる前に、だいぶ形ができるんじゃないかな。


「やはり住民が増えたことで、作業の進捗が速いですね」

「南の森もだいぶ切り開きました。南は見通しを良くするだけですが、西の進捗は今一のようです。種撒きまでには何とかしたいところですけど」


 南と西に2個小隊を送り込んで、西にはさらに民兵を1個小隊出しているのだが、立ち木の伐採はともかく切り株の撤去はかなり面倒のようだ。

 切り株をそのまましばらく放置して乾燥させないと焚き木としても使えないらしい。


「軍属の小母さんがお店を作ると言ってましたけど?」

「砦にはありませんでしたが、村なら必要だとエクドラさんが言ってましたよ。私も賛成です。小さな雑貨屋と酒場に宿屋を合わせた感じですね」


 懐かしそうな表情でお茶を飲んでいるのを見ると、レイニーさんが子供時代を過ごした村にもそんなお店があったんだろう。

 なんでもあるお店みたいだな。ついでにギルドの機能も付ければレンジャー達が利用してくれるかもしれないぞ。

 獣人族のレンジャーが町や村で白い目で見られ始めたようだから、彼らの仕事の場をここに作ってあげても良さそうだ。

 森の奥深くで狩りをする連中なら、広域偵察部隊としての役目も持たせられるんじゃないかな。


「レオンさんが十字路付近の土地を開けておくように言ってましたね。雑貨屋と宿屋兼酒場を先ずは作ってみましょうか。商人達もやってきますし、ワインや蒸留酒もそろえておけば喜ばれると思います」

「先ずは開いてみよう。さすがに酒場は毎日というわけにも行かないだろうけどね。雑貨屋の品揃えは、兵士や農家の人達の欲しい品をあらかじめ調べた方が良いかもしれないね。それに商人達にも聞いてみるのも良いかもしれない」


 そんな計画を夕食後の会合時に話したから、直ぐにログハウス作りが始まってしまった。

 2階建てのログハウスは指揮所よりも立派に見える。

 まだ余っている土地には,避難民達を受け入れる住居が出来たところで、村役場を作れば良いだろう。

 役場の無い村というのも、ちょっとおかしいからね。


 秋もそろそろ終わりになるという頃に、レンジャーのオビールさんが、100人を超える獣人族の人達を引き連れて村へとやってきた。

 荷車を3台曳いてきたのは食料と毛布ということだったが、それ以外にワインも何タルか積まれているようだ。


「まだオリガン家からの船が来ないようだ。俺達が戻る頃には到着しているだろうが、だいぶ大きくしたなぁ……」

「テントで冬越しをさせるわけにはいきませんからね。食料はありがたく頂きます。次は春分ということでよろしいですか?」


「春分より1か月ほど遅くしたい。まだ雪が残っているだろうから、老人や子供には少し酷になってしまうだろう。もっとも、避難民達が望むなら春分にやって来るぞ」


 その辺りは、次の避難民の状況に合わせるということか。

 その方が俺達にとっては都合が良い。また住居を増やさねばならないからなぁ。


「これが釘で、こっちが銃のカートリッジだ。残金はこれになる」


 オビールさんがテーブルにいくつかの革袋を乗せた。

 カートリッジはありがたい。袋の大きさから200発はありそうだ。


「次もこれでお願いします」


 新たに金貨を1枚手渡す。

 残金を入れた袋はかなり膨らんでいるから、銅貨がかなり入っているに違いない。

 銀貨よりも銅貨の方が、行商人との買い物には重宝するからなぁ。


「そうだ! 忘れるところだった。オリガン家の所領からの避難民については、オリガン家から別途案内料を貰っているから、この村から出す必要はないぞ」


 避難民への餞別というところかな。当座の食料だって持たせるだろうから、オリガン家の財産が少し心配になってしまう。

 とはいえ、それなりの蓄えはあっただろうから、俺が心配するほどの事ではないのかもしれないな。


 村で一泊して、レンジャー達は帰って行った。

 かなり忙しい依頼を引き受けた感じだが、レンジャーの矜持なのか、依頼をきちんとこなしていることに感心してしまう。

 彼らがこの村に居ついてくれれば助かるんだが……。

              ・

              ・

              ・

 今年作った畑まで潰してログハウスが作られていく。

 そのログハウスを囲むために丸太作りの塀がさらに西へと伸びていくから、南から見た村は東西に長く伸びた砦にも見えるだろう。

 100ユーデごとに見張り台を塀の上に作ったから、かなり堅固に見えるだろう。だけど、所詮は丸太で組んだような代物だから火攻めを受けると直ぐに落城しそうだ。

 南面だけでも石を積まねばなるまい。

 その為に、北の崩れた斜面からどんどん石を運んで、消石灰と粘土を混ぜて石を組み上げ始めている。冬の間にどれだけ西に延びるか、あまり期待はできないなぁ……。


「現在までに新たに作った長屋は16棟になりました。とりあえず、30棟まで作って南の塀作りに資源を投入しましょう」

「石積みなら雪の中でもできるにゃ。でも土台だけは早めに作らないと雪に埋もれてしまうし地面が凍ってしまうにゃ」

「土台だけでも100ユーデは雪が降る前に出来そうです。民兵には土台を先に作って貰いましょう」

「民兵は半分だけだな。畑を潰してしまったから、西の開墾地の切り株だって撤去しなければならんぞ」


 やることが目白押しだ。

 それでも、指揮所に掲げた板にやらねばならい事項と、その工程を描いているから、それを見ながら皆が活発に意見を出してくれるのはありがたいと思わねばなるまい。


「やはり、半分を土台作りに回しましょう。丸太がかなり集まってますから、ヴァイス達の小隊は半数を土台作りに回せるでしょう?」

「2個分隊で周辺監視ってことにゃ? 仕方ないにゃぁ……」


 とりあえずそんなところで、頑張るしかなさそうだな。

 後、10日もすれば初雪が降ってきそうだ。それまでに出来る事をしておかないといけないだろう。


 それにしても、大きな砦いや村になってしまったなぁ……。

 最初の砦ぐらいになるんじゃないかと思っていたんだが、東西300ユーデ、南北は200ユーデを越えている。

 今後さらに避難民を受け入れていく予定で南の森の伐採を行って入るんだが、ある程度伐採を終えたところで塀を作っていくとなると、

東西500ユーデ、南北800ユーデを超える規模になる。

 避難民の受け入れは順次行っていく予定だから、村というより町になってしまうだろう。5千人を超える状態になればちょっとした都市国家になりそうだ。

 他国を攻めるような事をせずに、防衛だけを考えるなら1千人を超える戦力を持てるだろう。

 とはいえ、農業に見通しが立てられない状況ではなぁ……。


「どうしました。溜息を吐いて?」

「いや、先はかなり長いなぁ……、と思ってしまったものですから」


レイニーさんに言い訳をしながらも、砦内の建築計画図を眺める。さらに避難民が増した時にはどうしよう。

収穫の少ない畑で千人を超える人数を賄うとなれば、黄銅鉱の採掘を増やすしかなさそうだ。さすがに砂金は枯渇してしまうだろう。

採取した砂金は小袋に十数個あるから10年程度は何とかなるにしても、その間に住民を食べさせるだけの畑を作ることができるだろうか。


「砦を西に伸ばすことになったのは残念でした。せっかく開墾した畑を2つ潰してしまいましたからね」

「潰した畑の2倍を開墾したそうですが、まだまだ足りないんでしょうね」

「やはり、将来は南にも畑を作ることになりそうです。なるべく戦をせずにいたいところですがそうもいかないでしょう。あれからサドリナス王国が何もしてこないのがちょっと腑に落ちないんですが……」


 俺達の補給路を断つ、という選択肢をしてこないのが不思議でならない。

 そんなことが起きても直ぐには困らないように半年ほどの蓄えはあるんだが、新たな補給路を作るのは結構問題もあるんだよなぁ。

 俺達に構っていられないことでもあるのだろうか?

 王国の情報は、商人達が教えてくれる噂話から推測するしかないんだが、別段そんな話もしていなかったように思える。

 待てよ……。サドリナス王国でも獣人族の排斥が始まっているということだから、軍の中の獣人族を除隊させたという事かもしれない。

 そうなると、一気に戦力が足りなくなるから俺達に構ってもいられないということになりそうだが……。果たしてそれだけだろうか?


 その理由が分かったのは、兄上と一緒に訪れた獣人族の兵士達がオリガン家の所領から避難民を引き連れてきた時だった。

 漁船を使って海路を移動し、サドリナス王国の小さな漁村に上陸してここまで歩いてきたらしい。

 かなり疲れたに違いない。1個小隊の兵士とその家族だからなぁ。小さな子供達もいるんだから、よくも脱落者を出さずに来れたものだと感心してしまう。


「子供達は荷馬車に乗せてきたからなぁ。さすがに歩かせるのは無理がある」

「兄上には、よろしく伝えてください。次は春になりますね?」


「そうしたい。次は兵士と農家が半数になるだろう。荷車2台分の食料を運んできたが、それで何とかなりそうなのか?」

「ある程度は備蓄していますから、何とかなるでしょう」


 どちらかと言うと、思わぬ贈り物と言う感じだ。すでに食料はそれなりに調達してあるからね。今年に入って、この村の人口が300人ほど増えたことになる。

 戦力が1個小隊増えたし、民兵も2個分隊は増えた勘定だ。

 来春になればさらに増えるんだから、冬の間も開墾の為の伐採は続けなければなるまい。


 オビールさん達は、砦で1日休養を取って帰って行った。

 海岸近くの森で狩りをしながら春を待つと言っていたが、そんな暮らしをしながらレンジャー仲間達とサドリナス王国の様子を探るんだろうな。


「サドリナス王国がこの砦にやってこない理由が分かりましたよ。どうやら、西の方で魔族軍の攻撃を受けたようです」

「この王国にはあまり魔族が侵入したことが無いように聞いていましたが?」

「魔族の王国がどのぐらいの大きさか分かりませんが、ブリガンディ王国との戦に進展があまりないと判断して、この王国を狙ったのかもしれませんね。規模は1個中隊ほどのようですから、案外魔族の威力偵察とも考えられます」


 さて、サドリナス王国は魔族の攻撃に対して、どのように軍を動かすのだろう?

 宰相の話では王国の北には碌に砦も作っていなかったようだからなぁ。兵士の練度も低いだろうし、そもそも軍の規模もそれほど無かったのかもしれない。

 徴兵をしているようだと引率してきたレンジャーが言っていたから、王宮内はかなり大慌てなのかもしれない。

 しばらくそんな状況が続いてくれたなら助かるのだが……。


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