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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-050 兄上の目的は何だろう?


 新たな住民となった獣人族に、この村で暮らすための取り決めを話すことになったけど、自分で説明しながらも何となく砦の規則を説明している気分になってしまった。

 早めに、皆で相談した方が良さそうだ。

 砦に見えても、ここは村なんだからね。村内の決まりを決めておくのは大事だろう。


「以上で、俺の話は終わりになる。見ての通り人間族ではあるんだが、この村で人間族は俺1人だ。色々と辛い目に合っていると思う。同族であることを恥じ入る日々だが、何とかうまく付き合ってくれ。それじゃあ、これから住む長屋に案内する。家族を基本にするけど、独身者は同性だけでしばらくは暮らして欲しい」


 俺の話が終わると、ヴァイスさんが木箱の上に上がって、大声を上げる。


「食事は1日3食にゃ。大きな鐘を叩くから直ぐに分かるにゃ。でも人数が多くなったから2度目の鐘が鳴ってから集まって欲しいにゃ。場所は、あの大きな建物にゃ」


 腕を伸ばして食堂を教えている。

 近くを通ると美味しそうな匂いがするから、直ぐに分かると思うんだけどねぇ。

 ヴァイスさんが、近くで待機していた少年達を呼び寄せて、2家族ごとに長屋へと案内させている。

 人数が多いから、しばらくは掛かりそうだ。

 後をヴァイスさんに任せて、指揮所へと歩いていく。


「急に人が増えたにゃ。子供達もたくさんいたにゃ」

「一緒に遊んであげるんだよ。そうだ! 明日は行商人が店開きをするから、お菓子を買って皆に配ってくれないかな」


 大銅貨を2枚ナナちゃんに手渡した。

 大銅貨1枚を超えることは無いだろうが、それ以外にナナちゃんもいろいろと買い込むだろうからね。

 そういえば、いつも毛糸玉を買い込んでいるんだけど、まだ出来ていないんだろうか? 俺のセーターだって、そんなに毛糸玉を使わないと思うんだけどなぁ。


 ナナちゃんは魚の様子を見に行くと言って、途中から離れてしまった。

 俺だけ指揮所に戻ると、レイニーさんがリットンさんやエクドラさんと一緒に帳簿を見ながら硬貨を分けている。

 夕食時に配布するのだろう。久しぶりに買い物ができるのを、皆が楽しみにしているに違いない。


「足りますか?」

「前に両替した分も残ってますから大丈夫ですよ。雪が降る前に行商人だけでも来て欲しいですね。新たな住民にも次に行商人が来た時には少し分けることが出来そうです」


 着の身着のままだろうからなぁ。兄上を案内すると言っていたレンジャーに冬用の衣服と靴ぐらい町で購入してもらっても良さそうだ。毛布だって不足するんじゃないかな。


 メモ帳を取り出して、忘れないようにメモしておく。

 それが終わったところで、暖炉のポットから人数分のカップにお茶を注いで出してあげる。少し離れた場所でお茶を飲みながらパイプに火を点けた。


 それにしても、兄上がやってくる目的が気になるところだ。

 今のところ大罪を犯したという自覚は無い。強いて言うなら集団脱走だが、それは理由あってのことだ。俺達を魔族の中に置き去りにした方が、大罪となるんじゃないかな?

 それに義を貴ぶオリガン家であるなら、俺の行動もある程度頷けるだろう。

 兄上がやってくるのは、本当に俺なのかを確認するというところだろうか?


「終わりましたよ。ご苦労様でした。これで住人が一気に増えましたね」

「人数的には1個小隊になるだろうけど、防衛力としては1個分隊というところでしょうね」

「しばらくは畑の見回りをして貰いましょう」


 クロスボウを持たせて、民兵として役立ってもらおう。しばらくは周辺監視を行っているマクランさんの小隊で面倒を見て貰うことになるだろうな。


「ところで、村の責任者は作りましたけど、これからどんどん人が増えますから村の決まり事を作った方が良いように思えます。新たな村人にこの村の説明をしたんですが、その時に必要性を強く感じました」

「前にもそんな話がありましたね。今夜にでも、皆と相談してみましょう。ところで、どんな決まりを?」


 急に言われても困ってしまうけど、各部隊の役割をもう1度しっかりと決めた方が良さそうだ。俺達のような元軍隊の連中だって、戦が無い時には訓練だけをしていれば良いとは思えないからなぁ。

 先ずは一般的な暮らしに関わること、仕事は戦時と非戦時に分けて考えた方が良さそうだ。もっとあるかもしれないけど、今すぐ項目を上げるとなればこれぐらいだろう。


「一般的な暮らしは、衣食住に関わることですね。報酬の分配も出来れば定期的に行いたいです。将来的には家族で食事がとれるようにしたいですが、現状では食堂形式になってしまいそうですね」

「戦時と非戦時は、前に決めた戦闘態勢の鐘が合図で良いんじゃないかな? それが解除されるまでの決めごとで良いはずだ。非戦闘時は開墾と畑作、それに採掘辺りを考えればいい」


 罰則はどうしよう?

 軍機のような厳格な物を適用しようとは思わないが、中には仕事を放棄するようなものが出ないとは限らない。酒の上での喧嘩だってあるはずだ。

 それも決めておいた方が、後々困らないように思える。

 罰則があればその反対の褒賞だって必要だろう。どんな功績に対してどのような褒賞を行うかも決めないといけない。とは言っても、あまり大げさになっては、維持することが困難になってしまいそうだ。せいぜい銀貨1枚程度で十分だろう。


「レオンさんのお兄さんが来られるということですが……」

「たぶん個人的な用じゃないかな。兄上と従者2人、それに獣人族ということで分からなくなってるんです。俺とナナちゃんで対応します。宿舎と食事を用意して頂ければ問題はないかと」

「レオンさんは私の副官ですから、私も出席したいと思います。少しは弁明も出来るかと」


 どうかなぁ……。弟思いではあるんだろうけど、結構キツイ練習だったようにも思える。弟の不甲斐なさを少しでもマシにしようと頑張ってくれたのは、努力すれば報われるとの信念をしっかりと持っていたんだろう。

 残念ながら、そうはならなかったけど、長剣2級にまで俺の技量を上げてくれたのは間違いなく兄上のおかげだ。

 ここに来る目的的が公のものであるなら、従者2人ということにはならないだろう。まして獣人族を連れて来るんだから、やはり私的な来訪に違いない。

 兄上は今の王国をどのように見ているのだろうか?

 オリガン家の所領に棲む獣人族の保護を頼みに来るなら、獣人族が数人というのもおかしく思える。


「そうですね。その時にはよろしくお願いします。万万が一、俺にもしものことがあっても兄上に武器を向けないでくださいよ。長剣技能S級を相手にするには村の中では無理以外の何物でもありません。相手が近づけないようにしたところで1個中隊の矢で仕留めるぐらいしか対策が無いんですから」


 俺の言葉に驚いているけど、それほど人外の存在なんだよなぁ。

 とは言っても、俺に非がないと確信しているから、反撃ぐらいはしようと思う。

 腕1本を対価に兄上にかすり傷を負わせるぐらいはできそうに思える。


「それほどの存在なんですか?」

「人外と言っても過言ではありません。とりあえず俺の言葉を聞いてもらいますよ。そう簡単に俺を斬ることはないと思います」


 俺はそれで良いとして、ナナちゃんの将来も考えないといけないな。

 ヴァイスさんが妹のように可愛がってくれてるから、この村で暮らすなら大丈夫だろう。レイニーさんにはナナちゃんの秘密を教えてあるから、何時までも子供のままでいることを皆が不審に思う時には、本当の事を教えてくれるに違いない。

 再度レイニーさんに、ナナちゃんをよろしく頼んでおいた。


 夕食は、食材が届いたことでいつもより少し具材の多いスープだったし、なんといってもワインがカップに半分出されたから、皆が喜んでいるようだ。さすがにドワーフ族の連中にはカップ1杯分が出されているけど、それは仕方のないことだろう。貴重な技術者集団だし、黄銅鉱の採掘を行っているんだからね。それに獣人族の連中はカップ半分のワインでも十分に酔えるみたいだからなぁ。


 夕食が終わると、指揮所で次の品物の購入交渉が始まる。

 レイニーさんとエクドラさんがいれば問題ないだろうと、俺はレンジャーの責任者と広場の片隅でパイプを楽しみながら話をすることになった。


「すると、この間のサドリナ王国軍との一戦に関してブリガンディ王国に告訴状を出して被害補償の要求をしたと?」

「ブリガンディ王国は、それを却下したそうだ。ブリガンディ王国の北西の砦は魔族の襲撃に逢い、砦2つを失って新たな砦を作っているらしい。そんな被害を受けている状況では、最初から隣国の要求など却下だな……」


 だが、告訴状にブリガンディ王国としても気になる名前があったらしい。オリガン家の名を持つ者……。

 これには、驚いたらしい。王宮内にも俺が北西の砦に向かったのは知られていたらしいし、2つの砦を失った時に俺の戦死報告がカーバイン男爵の名で出されていたらしい。

 詳しい話を聞いている内に、父上が高笑いをしたそうだ。

 どうやら、名前を騙られたということで、告訴状を持参した大使は恥をかいたようだな。サドリナス王国内に居ついた獣人族についても、ブリガンディ王国を逃げ出した連中であるから責任はないと突っぱねられたらしいからなぁ。

 ちょっと、サドリナス王国の大使が気の毒に思えてきた。


「だが、オリガン家としても、このままでは不味いと判断したのだろう。近衛部隊を率いていた長男が王国軍の大隊長に転属したことで、王宮内を留守にできるということもあり、俺のところにやってきたということだった」

「状況は分かりました。いきなり斬られるかと思っていたんですが、そうでもなさそうです。ですが従者以外に獣人族を連れているというのが分かりませんね?」


「獣人族の連中は俺と同類だよ。レンジャーに間違いない。家族に見せかけているが間違いないぞ。話に聞くオリガン家の長男であるなら、あれだけで小隊規模の軍勢を相手にできるに違いない」


 余計に分からなくなってきた。兄上なら、護衛すら必要ないだろう。

 なぜ、獣人族を連れて来る必要があったんだ?


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