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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-048 オリガン家が動きだした


 翌朝。指揮所に商人のエディンさんとレンジャーのリーダー2人を指揮所に呼び寄せた。

 早めに伝えておけば、少しは安心してくれるだろう。

 俺とレイニーさんが座るテーブル越しに3人が座ったところで、レイニーさんが結論を伝える。


「獣人族に限って、この村への移住を許可します。ですが、見ての通りかなり小さな村ですから、一気に2千人を受け入れる等到底無理でしょう。共倒れはしたくありません。そこで、100人ほどの数で少しずつ受け入れようと思っています。私達同胞のためのご厚意を嬉しく思いますが、これだけはご了解ください」


「確かに一度には無理でしょう。私共もその数であるなら、頼ってくる者達の一時受け入れも楽になります」

「それに、もう1つ追加したい。最初の100人の中に数人以上のレンジャーを含めて貰いたいんだ。理由は、買い出しをして貰いたいからなんだが……」


「俺達に買い出しだと?」

「この村から、エディンさんが商いをする場所まではかなり離れている。今はご厚意に甘えているが、将来的にはエディンさんの店近くまで行って必要な品を買うことも必要だろう。2つの買い出しパーティが出来れば、食料不足に悩むことは無い」


 話を進めていくと、最初は否定的だったレンジャーの表情が少しずつ変わってきた。

 獣人族の開拓民や元兵士が村や町に出入りするのは難しいと理解してくれたんだろう。それに、距離もあるし途中で魔族や兵士に見つかる可能性だってある。レンジャーなら狩りの獲物を届けるために村や町へ獣人族が出入りしてもそれほど不審には思われないはずだ。


「確かに、その方が安全だな。場合によっては俺達が途中まで運ぶことになりそうだが、そうなるようでは王国の将来は明るいとは言えんだろう」

「出来れば、そちらで最初のパーティを作って頂けると助かります。大型の魔法の袋を使えば、身軽な食料移送が出来るでしょう。必要な品はこれでお願いします。全て食料にしても構いません」


 レイニーさんからあらかじめ受け取った小さな革袋を取り出して、エディンさんに押しやった。


「まだ採れるみたいですな。王国としては是非ともこの砦を手に入れたいところでしょう」

「金貨に変えるための差額で我慢して欲しいところです。そういえば、前回宰相補佐と名乗る人物が2個大隊程引き連れてこの村にやってきたのですが、ちょっとした争いになってしまいました。兵士の亡骸は荼毘にして木箱に納めてあります。それに、武器以外の私物は名前や持ち主の特徴を記載した札を付けてありますから、原隊に届けて頂けるとありがたいのですが……」


 俺の話を呆れた顔をして聞いていたのを見ると、ここまでする必要は無かったのかもしれない。だが、本人達だってここで死ぬとは思わなかっただろうからなぁ。待っている人もいるのだろうから届けてあげるのが人情ということだろう。


「分かった。俺が責任を持って届けるよ」


 レンジャーの言葉に、俺とレイニーさんが頭を下げる。


「ところで1つ。情報を提供しよう。オリガン家が動いているぞ。やはり身内の行動を良く思っていないのかもしれんな」

「ありがとうございます。やはり身内の恥としているようなら、俺も覚悟を決めないといけません。兄は長剣技能S級ですから、最初から切りかかっては来ないでしょう。とりあえず言い分を聞いてからということでしょうけど、俺はどうにか2級ですから、勝負は見えてますよ」


 俺の長剣技能が2級と聞いて4人が驚いている。

 もう少し上だと思っていたんだろうけど、落ちこぼれだからなぁ。オリガン家の名だけで俺を判断していたのかもしれない。


「よくも、これだけの人間を統率出来たものだ」

「俺は副官ですよ。元中隊長は隣のレイニーさんです」


 ふんふんと頷いているのは、人間族の俺が獣人族を率いているように見えたに違いない。

 もう少し後ろに立っていないといけないのかもしれないな。


「町中の噂では、ブリガンディ王国のオリガン家がレイデル川を渡ったサブリナ王国の北部で大規模な鉱山開発を行っているという話になっている。砂金が少し採れているようだから噂が噂を呼んだのかもしれん。サブリナ王国軍を退けたということを聞いて、さすがはオリガン家と評判なのだが……」


「噂は噂であって、あてにならないと言うことなんでしょうね。俺はどうにか追い出されずにここに置いて貰っている立場ですよ。でも、そんな噂が流れているとなれば、王国軍も手出しを控えてくれるかもしれませんが……」

「オリガン家は……、ということか! だが、武門貴族の中では常に公正だと聞いたことがある。たぶんやってくるだろう。場合によっては俺達が案内役になりそうだ」


 嬉しそうにレンジャーが言ってるけど、やはり勇名は隣国にも届いているということなんだろう。

 さて、誰が来るのだろう?

 父上が直接来るとは思えないし、分家が来るというのも考えにくい。やはり兄上になるのだろう。

 さすがに会った途端に切り伏せられることは無いだろうけど、予防措置を取っておいた方が良いのかもしれない。


 商人達は2日後に帰って行ったけど、明日から気が滅入る日々を過ごすことになりそうだ。

 指揮所のテーブルで頭を抱えて考え込んでいると、レイニーさんがお茶のカップを渡してくれた。


「だいぶ悩んでいるようですけど……、レオンさんの兄上はそれほどの人物なのですか?」


 レイニーさんはオリガン家の事をあまり知らないらしい。

 顔を上げてお茶を一口飲むと、席を立って暖炉の火でパイプに火を点ける。

 再び腰を下ろすと、思い出すように少し遠くを見つめる。


「兄上は、俺の理想とする人だ。いつも兄上の背中を見ながら育ったようにも思える。オリガン家は武門貴族としてブリガンディ王国の建国時から関わっている古い家柄だ。貴族としては中流だけど、国王陛下でさえも父上の言葉を聞いてくれるそうだ。まさしくブリガンディ王国の筆頭騎士を代々続けたって言えるだろう。だけど俺は、何をやらせても兄上や姉上には及ばなかった。さぼっていたわけでは無いよ。それこそ努力の日々だったからね。それでやっと長剣技能2級なんだから、自分でも笑ってしまうんだよね。

 あの砦に志願したのは父上の勧めでもあった。辺境の砦で3年暮らせば王宮で弓隊を率いることも出来るだろうとね。

 さすがに騎士に成れるとは言っていなかったけど、弓ならそこそこの自信がある。だけど弓兵は騎士ではないだろう? それでも、父上は俺をオリガン家の分家としてくれた。

 どこに行っても、俺はオリガン家を名乗ることができるけど、それなりの責任はある。オリガン家の名を汚さぬこと……。今回の出来事が、兄の目で見た場合、オリガン家の名を汚したと映ればその場で斬り捨てられかねない」


「そこまでするのですか? 実の弟ですよ!」

「弟ならばこそ、だろうね。俺としても、兄上の手に掛かる方が嬉しいと思うよ。だけど、今のところ俺は自分の行動が間違っているとは思っていないんだ。だからここで簡単に切り伏せられないようにと、さっきから悩んでたってことかな」


 長剣技能S級の騎士に対して、長剣技能2級の俺が挑むことは、そもそも論外だろう。

 だが、それは両者ともに長剣を手にした場合の事だ。

 兄上に万が一の場合があった時には、オリガン家が断絶しかねない。となると、ちょっとした反撃を行って兄上に俺を認めさせることが必要になってくるんだが……。

 姉上に魔法まで教えて貰うほどの逸材だからなぁ。俺にできることは、正々堂々とした攻撃とは程遠い、だまし討ちのような手を使うことになってしまいそうだ。


「私が説得することは出来ませんか?」

「それは止めて欲しいな。兄上は聞いてはくれるだろうけど、それで判断を鈍らせることはない。信念を持っている以上、それが絶対だからね。その信念が俺と異なるようであったなら、兄上と会った翌日からレイニーさん達にこの村を託すことになる」


 ナナちゃんもお願いしとくことになりそうだ。

 今のところ、気付いた人は誰もいないようだけど、その時にはナナちゃんの種族名を教えた方が良いのかもしれない。ネコ族とは異なりエルフ並みの長命の種族らしいからね。

              ・

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 新たな住民を迎えるために、皆が動きだした。

 この砦を作った時のように、板に作業の項目と工期の表を作って、夕食後に責任者が集まり進捗の相談をする。

 まだ始まったばかりだから、ログハウスとは名ばかりの長屋作りが最初になる。とはいえ数が20戸ということから、森の木々を伐採して次々と砦の中に運んでいる。


「長屋は、西の畑に向かう道の両側ということでよろしいですね。道幅をこの際ですから少し広げて荷車がすれ違えるようにしたいのですが?」

「大通りということだね。その方が後々役立つだろう。できれば、この十字路辺りには、長屋を作らずに空き地にしておいてくれないかな。このまま住民が増えれば大きな町になりそうだ。商店や宿屋も必要になってくる」


「そうですね。それなら、この区画は残しておきましょう」


 マクランさんが建設予定地図を取り出して、書き込んでいる。

 1区画と言ったら50ユーデ四方はありそうだ。当座はそれで十分だろう。しばらくは子供達の遊び場になりそうだけどね。


「南の森は、どれぐらい伐採すれば良いかにゃ?」


 砦を南に広げることは皆の合意事項ではあるんだが、直ぐに即答できないのが問題でもある。

 あまり大きく広げると、砦の塀作りが大変な作業になりかねない。ある程度住民が増えてからと考えてはいるんだが、将来的には南の森を取り込む形で砦を作るとなれば、確かに早めに伐採して縄張りをしておいた方が良さそうだ。


「森を抜ける道を大通りにするんですよねぇ。そうなると、家2軒分で東西に道を作ることになりますから……」


 20ユーデごとに東西に延びる通りを作る。道幅は3ユーデというところだ。路地のような感じになるが、荷車が通れるだけの広さはある。


「最初の東西の通りから少なくとも50ユーデは離して塀を作りことになりそうだな。塀の南にも50ユーデほどの空き地が必要だ。森から出た敵に矢を放つようにしたい」


「そうなりますと、森を30ユーデほど南に切り開けば良さそうですね。


 いよいよ始まるのか……。

 いつ避難民がやってくるか分からないからなぁ。住む場所は何とかなりそうだが、砦が窮屈になるんでは、ちょっとしたことで諍いが起こらないとも限らない。

 森の南にも合わせて柵を作った方が良さそうだから、今夜は各小隊の分担をきちんと決めることになりそうだ。

 


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