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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-047 商人達からの頼まれごと


 秋分の日に、2パーティのレンジャーに護衛された商人と行商人が村を訪れた。

 いつものように歓待し、空いているログハウスを提供する。

 早めに村人に給与の支払いを行っておけば、明日は行商人達が店開きをしてくれるはずだ。

 衣食住に関わるものは、基本的に村の予算から充当される。

 だが個人の嗜好は様々だからね。俺も銀貨3枚を頂いたけど、銀貨1枚は銅貨に変えて貰った。ナナちゃんの買い物は銅貨で十分のはずだ。村の子供の買い物だって銅貨数枚というところだろう。


 商人の代表であるエディンさんがレンジャーパーティ2つのリーダー、1人の行商人の代表を連れて、指揮所に挨拶にやってきた。

 テーブルの席を勧めて、ナナちゃんにワインを頼む。

 ナナちゃんが席を離れて外に出て行ったのは、リットンさん辺りに頼もうと考えたんだろうな。


「ご苦労様です。王国と一戦しましたから、秋分には来られないのではと考えていたんです」

「それはそれということですね。毎年の税をきちんと支払えば、我等の行動を王国が縛るのは難しいでしょう。我等のギルドはそれなりの上納金を有力者に貢いでおりますからね。その収入が無くなるのでは困るのでしょう」


 王国の裏をきいてしまった気がするな。

 ある程度商人は自由な行動が認められているということなんだろうけど……、裏金次第ってことか。


「実は、ご相談がありまして……」


 そういって話をしてくれた内容は、どうやら南の王国にも選民思想の波が押し寄せているらしい。

 さすがにブリガンディ王国のような極端な動きはないようだが、獣人族に対する税が上がりつつあるようだ。


「直ぐには獣人族が動くとも思えません。ですが不穏な動きもあるようです。王都に住む獣人族はすでに半減しているぐらいですからね」

「争いを避けて、農村へと移動していると?」


「開拓民として荒地へ向かっているようだな。俺達の仲間も同行しているようだ」

「まだ、王都で騒ぎは起きていませんが、時間の問題のようにも思えるのです」


 エディンさんが心配げな表情で話してくれた。

 どこまで事態が進むのか……。東のブリガンディ王国の様子を知っているだけに、エディンさんの心配は理解できるけど、それを俺に話すということは……。


「まさか、この村に避難させて欲しいと?」

「そのまさかだ。少なくとも現在の村が2倍以上になってしまいかねない。送り出す方の俺達にも責任があるから、継続的な援助は行いたい。交渉に乗って貰いたいのだが……」


 オビールさんが俺に頭を下げる。

 大問題だ。

 砦の大きさを根本的に変えねばならないし、自給自足の畑を拡大しなければならない。

 同じ獣人族ということで、多分受け入れることには賛成してくれるだろうが、食料を買い込むための軍資金は砂金と黄銅鉱頼りだからなぁ。

 砂金は何時までも採れるわけでは無いだろうから、黄銅鉱の採掘次第ということになってしまいかねない。その売値で食べさせて行ける住民の数が、受け入れられる上限になりそうだな。


「難しいでしょうか?」

「俺としては判断に困るところです。たぶん指揮官は受け入れることに賛成するでしょう。ですが、それは共倒れを招きかねません。ところでどの程度の数を皆さんは想定しているんですか?」


 オビールさんが即答してくれた数は2千人以上だった。やはりそうなるだろうな……。

 1つの王国内で獣人族の総数は10万人を超えるだろう。選民思想に染まっても、絶滅させずに、王国内の底辺を支える職に就かせるということは考えられそうだ。

 何度か小競り合いを起こして、最後にはその身分を獣人族は許容するかもしれない。だが、それを良しとしない連中だっているだろう。

 そんな連中が無駄な命を散らさないために、ここに避難させようというのだろうか?


「レンジャーギルド内でも、そんな動きが出てるんでしょうか?」

「一般住民程ではないが、現れ始めている。依頼書に『獣人族を除く』と書かれ始めている。さすがに薬草採取ではそんな表示はないが、それで暮らすには報酬が足りないな」


 開拓に同行するレンジャーもいると言っていたのは、そういう事か。

 やはり大きな嵐になってきたようだが、この嵐は治まるんだろうか? そして嵐が修まった後はどのような社会になるのだろうか?

 簡単に判断はできないな。

 

「返事は明日まで待って貰えませんか。今夜仲間達と、よくよく相談してみないといけないようです」

「よろしくお願いいたします。私達は可能な限り協力致しますので、良い返事をお待ちしております」


 俺達に頭を下げて帰って行った。

 直ぐに各責任者に夕食後に集まるよう知らせを出したところで、先ずはパイプに火を点ける。

 プカプカと煙を上げながら、考えを巡らす。

 やはり、2千人を一度に呼ぶことは出来ないだろう。規模が3倍ほどになってしまうから、寝る場所さえなくなってしまいかねない。食料はもっと問題だろう。元々が夜逃げ同然でやってくる人達だからなぁ。

 食事をどのように提供するかも考えねばならない。簡単に食堂を数か所増やせばよいとは限らないのだ。

 そして食料の備蓄も必要だ。俺達は半年を目安に蓄えようとしているが、住人の規模が増えれば1か月にも満たない数字になってしまう。

 住むための家と食事に食料、水も問題だな。水道をもっと作らねばならない。

 畑は、どんどん切り開けば良いのだろうが、あまり広くすると魔族に目を付けられそうだし、砂金と黄銅鉱の鉱山の利権を狙う南の王国に攻め込まれないとも限らない。

 住民が増えれば村が町になる。それだけ広範囲の防衛が必要になってくるのだ。


 夕食後に指揮所に集まってきた小隊長達に、商人とレンジャーから聞いた話をすると、皆が真剣な表情で聞いてくれた。

 

「やはり難しい話なのでしょうか?」

「この地図を見てください。俺達が暮らす上で少し大きめには作りましたが、このままで新たな住人を受け入れるのは100人程度でしょう。現在の住人が3倍を超えるとなれば少なくとも現在の砦を数倍近く広げないといけません。さらに面倒なのは、食料調達のための畑の大きさです。これを10倍に広げるのはさすがに無理ではないかと……」


「レオンの考えではどれぐらいなら受け入れられるにゃ?」

「最大でも千人というところでしょうか。それ以上となると、町作りというより国作りと言った方が良くなりますよ。住人の安全を保障できかねる事態が起きないとも限りません」


 ヴァイスさんの問いが皆が一番聞きたかったことなんだろう。

 俺の答えに、誰もが目と口を閉ざしてしまった。

 ナナちゃんが心配そうな顔を俺に向けてきたから、皆のカップにお茶を注いでほしいと頼むと、嬉しそうな顔に変わって「はい!」と返事をしてくれた。


 注がれたお茶を一口飲んだレイニーさんがじっと俺の顔を見ていたが、やがて口を開いた。


「レオンの話は兵士としては納得できますが、1人の人間としては、それで良いのか? という心の問いに答えられません。何とかならないのでしょうか?」


 いつの間にか集まってきた連中も、うんうんと頷いている。

 やはり獣人族は心根が優しいんだよなぁ。先ほどの突き放すような自分の言葉を恥じてしまう。


「皆で力を合わせれば何とかなるにゃ。レオンだっているんだから大丈夫にゃ!」

「数は力と聞いたことがあります。魔族や南の王国軍を跳ね返せるだけの砦を作ればなんとかなるんじゃないですか? いつも戦いがあるわけでは無いでしょうから、砦の周囲を畑にすれば、食料だって何とかなるはずです」


 そう簡単ではないんだが、集まってきた責任者と小隊長達の顔を見ると、受け入れは決まったようなものだ。俺だけが反対しても押し切られそうだから、ここは皆で協力することで何とかするしかないだろう。


「協力はして貰えるんですよね?」

「「もちろん(です)、(にゃ)!」」


 さて、そうなると……。


「先ずは砦の拡張ですね。幸いにも南は開けてますから、南へ塀を作りましょう。いっその事、南の森を取り込んだ塀を作っても良さそうです」

「それなら、畑も南へと拡大できそうですな。西にも塀を作った方が良いかもしれません」


「住民の住処は、南に作れば良いじゃろう。大通りを作って通りに沿って作れば見た目も良いぞ」

「監視所を何か所か作りたいですね。動員数が増えますから、武器も必要ですよ……」


 たちまちいろんなアイデアが出されてくる。

 レイニーさんが嬉しそうにメモを作っているから、後で俺と調整したいのだろう。

 だが、確かに南の森を砦の中とする考えは悪くない。それぐらいの大きさの砦、いや城壁都市を作ることになるはずだ。

 作り方を考えないといけないな。上手く作らないと火矢を撃ちこまれたら森が大火災を引き起こしかねない。森から数十ユーデ離れた場所に城壁を作ることになりそうだ。


 ヴァイスさん達に周囲の地図を作って貰うところから始めよう。

 エディンさんへの回答は了承ということになるが、さすがに1度に2千人がやってくることは無いだろう。少しずつ送り込んでくるに違いない。

 それを考えると、当座は10棟程の長屋があればなんとかなりそうだな。


 武器はクロスボウ部隊を1個中隊程作りたいところだ。

 出来れば銃兵としたいが、まだガラハウさんの銃作りが上手く行っていないようだからね。

 村のドワーフ族の工房なら、クロスボウの量産は可能だろう。

 鉄の鏃が手に入らなければ、黄銅鉱の取引で得た銅地金を使っても良いだろう。緑青の浮いた鏃は毒矢そのものだからな。


 砦の拡張計画が纏まるまでは、西に向かって建設用の木材を切り出して貰うことになるだろう。

 冬なら見通しも良いし、なんといっても魔族が攻めてこない。それに雪原をソリで運搬することも可能だ。

 南の森からの木材切り出しは最後でも良いだろう。


 食料は、商人達に協力してもらわねばなるまい。

 可能な限り運んで貰った方が良さそうだ。レンジャーギルドから足を洗うレンジャーが10人程いると言っていたから、定期的な商人との交易を任せたいところでもある。大型の魔法の袋を2枚ずつ使えば、かなりの品を運べるだろう。

 南の王国とも一戦したからなぁ。商人の出入りはだんだんと規制されないとも限らない。レンジャーなら夜間に関所を抜けることも可能だろう。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 緑青の訂正がして頂けませか? 嘘を広めるのはいかがな物か 編集が入らない、なろうならではの現象ですね、 [一言] っggrks
[気になる点] 「緑青の浮いた鏃は毒矢そのものだ」 緑青自体は毒では有りませんので、誤解を広める前に訂正して下さい。 [一言] インターネットの普及につれ誤解が広まったり、正しい知識が広まったりし、作…
[一言] ここまで人間が駄目だとできるか知らんが魔族と交渉したくなるな 知能はかなり高そうだしあとは宗教がどうなってるかが問題だな
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