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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-046 フレーンさんの悩み事


 サドリナス王国からの武力干渉をどうにか跳ね返したが、指揮所に集まった連中の顔色が優れないのは、今後を考えているからだろう。

 どうにか砦の改造計画が纏まったところで、皆に説明して協力してもらうことにした。

 この辺りにも結構雪が降るから、穴掘りは早めにやっておかねばならない。

 雪解けを待っていたら、結局何もできなくなってしまいそうだ。


「現在柵だけの西の守りは新たに塀を作ることで強化したい。敵の数が多ければ、西の門にだってやってくるはずです。南門とまではいかなくとも、丸太塀を立てて、門を強化して見張り台を設けることにします。塀から30ユーデの間にたくさん落とし穴を掘り、南の荒地と同じような足止め策を施します。落とし穴の区画がはっきりと分かるように柵を作れば、矢や銃弾、石を飛ばす目安としても使えるはずです」


「やはり来るじゃろうな。西の門については、門だけは出来ておるからのう。溝を掘って丸太を立てて行けば難しいことではない。見張り台はどれぐらいの高さにするんじゃ?」


「見張りの足場が塀の高さより上になるくらいにしましょう。数人が矢を放てるようにある程度大きく作ってください」


周囲を板で囲み、屋根を付ければ敵の遠矢も防げるだろう。

 三角に組んだ丸太3つの頂点を丸太で結んだ簡単な柵は開拓民達が作ってくれるようだ。塀の内側に並べれば、そう簡単に乗り越えることも出来ないだろう。不足するようなら、杭を打ってロープを繋いだだけでも急場凌ぎにはなる。


「槍は7フィールで良いのじゃな? 王国軍が沢山落として行ったから、そのままでも良さそうじゃが」

「切り取る必要はありません。新たに作る槍だけで十分です。使い手にどちらにするか選んで貰いましょう」


 槍の長さは、使いどころで違うからなぁ。塀から顔を出す敵兵に対してなら10フィールほどの長い槍が有効だし、白兵戦になれば長い槍は邪魔になる。


 王国軍の置き去りにした武器は全て回収できたから、ガラハウさんの鍛冶仕事で材料不足に陥ることはないだろう。

冬は鍛冶で色々と作りたいようだな。広葉樹を伐採して炭焼きを始めたみたいだ。


「来年の春分に商人達は来てくれるでしょうか?」

「少し心配なところもありますが、食料備蓄は十分なはずです。少なくとも夏至までは持つでしょう。春分から1か月経っても商人達がやってこない場合には、こちらから食料調達に向かうつもりです」


 川沿いに向えば王国軍が待ち伏せしていないとも限らない。西に移動して南下すればかなり遠回りだが食料の購入は可能だろう。

 案外商人達の方が遠回りしてでも来てくれそうだ。

 砂金に銅鉱石だからなぁ。それなりに利益があるんじゃないかな。

               ・

               ・

               ・

 王国の軍隊と戦をしてから数日が過ぎると、冬越しの薪集めと西の塀作りが本格的に始まった。

「雪が降る前に!」と張り切っているんだけど、開拓民達は森が西に切り払われていくのを楽しみにしているみたいだな。

 それだけ耕作地が増えることになる。

 今年は豆とジャガイモ、それに何種類かの根菜だったけど、来年には収穫物の種類も増えるだろう。

 子供達も落ち葉を背負籠にたっぷりと詰めて一か所に集めているようだ。1年も寝かせれば良い肥料になるんだろう。

 山羊やロバ達も残り少なくなった草を一生懸命食んでいる。干し草はかなり作ってあるらしいが、まだまだ外で草を食べさせているようだ。


「ご飯を食べさせてきたにゃ!」


 指揮所に元気なナナちゃんの声が上がる。

 稚魚達に餌を与えるのはナナちゃんと数人の子供達の仕事だ。1日1回だけど、餌を落とすと群がって食べているらしい。

 来年まで餌は持つと思うんだが、効率的に餌を作らないと駄目だろうな。

 来年は小魚を捕まえてみるか。冬の間に魚を捉える仕掛けを作ってみよう。網もあるけど、狙う相手は網の目をすり抜けるような魚だからなぁ。


 最初の雪が降った時には、西の塀の形が出来ていた。

 塀を強化する横木や、矢を射る足場は雪が降っても何とかできそうだな。

 焚火を作って、温まりながら作業をする連中を見ると頭が下がる。

 俺やナナちゃんは指揮所の暖炉傍で1日を過ごしている始末だ。この辺りの冬はかなり寒いな。

 去年はそんな風に感じなかったんだが、今年はいつもの年より寒いのだろうか。


「今日は。すごく降ってますね。多分根雪になるのでしょう」

「しばらくです。どうぞこちらに。レイニーさんは、ちょっと出かけてますけど、直ぐに戻るはずですよ」


 指揮所にやってきたのは、ハーフエルフの神官だった。

 所属する神殿に帰らずに、俺達と行動を共にしてくれたから感謝しないといけない。


「何か困ったことでも?」

「そんなことはありません。教会にも暖炉を作って貰いましたし、子供達もちゃんと勉強をしています。私だけが、子供と一緒にいて良いのかと気になりまして……」


 フレーンさんは森の神を信じる神官職だから、そんなことを気にする必要はないんだけどなぁ。

 皆が働いている姿と自分を比べたんだろうけど、それは役割分担でそうなっているだけだと思うんだけどねぇ……。


「俺達の為に、朝夕の祈りを捧げてくれてるじゃありませんか。それに子供達に読み書きと算数を教えてくれてるんですから、フレーンさんだって立派に働いている気がしますよ。俺の方がどちらかというと怠けている気がします」


 いつもここで温まっているからね。

 とはいえレイニーさんの悩みを聞いてあげてるし、皆からも頼りにされているようだ。それに何か始めても、他の人達に仕事を取られてしまっているような気もする。

 不器用だからと、皆に思われているのかもしれない。

 養魚を始めようとしたけど、今では開拓民の子供達とナナちゃんの仕事になってしまったし……。

 

「レオン様の場合は、この村の指導者の1人ですから……。でも私は神官としては見習いを終えたばかりの若輩です」

「神の前に見習いはないと思いますよ。神の前ではだれもが平等。神官は我等と神との間を取り持つのが仕事だと思っています。俺が成人となって家を出る際に、父上に言われたことがあるんです。

『万が一、軍を去るような事態が生じ野に下るようなことがあるなら、神官を1人仲間にすること……』

 なぜにそのような事をするのか聞いてみたら、『善悪の区別ができるはずだ』と言われました。フレーンさんが俺達の仲間でいてくれたおかげで、父上の言いつけに背くことはありませんし、一族の追撃を避けることができます」


「善悪の判断ですか……」


 自分に言い聞かせるようにフレーンさんが呟いた。

 自分にできるかどうかを確認してるのかな? でも神官職なら信じる神の御心に沿った形で判断してくれるに違いない。

 ブリガンディ王国の神官達のように、自分達の主観を神の言葉に替えて教えを説くなど言語同断な話だ。


 考え込んでしまった神官さんに、とりあえず暖炉近くの椅子を勧めてお茶を出してあげる。ついでに自分のカップにも注いだところでパイプに火を点けた。


「フレーンさんが物事を進める際には、神の目から見てこの行為は正しいのかと自問するはずです。それが善悪の見極めに繋がると思ってますよ。俺達は、思い立ったらすぐに始めてしまいますからね。俺達の行動を見守り、それが経典で説かれた神の道と逸れていないことを確認してくれれば十分だと思っています。

 ここで皆が暮らせるように俺達は努力を惜しみませんが、それだけでは村を維持することは出来ないんです。住民の心の平穏をどのように保つか……。それが神官であるフレーンさんに俺達がお願いしたいことです。

 それに対して、ちゃんと応えてくれていると俺は思っています。子供達の勉強を見てくれてますし、怪我人や病人の治療も行って頂いてます。さらに、この前の戦のように戦死者が安らかな眠りにつけるように祈って頂けるんですから」


「それなりにこの村の力になっていると?」

「もちろんです」


 責任感が強いんだろうなぁ。神に祈るだけの人では無かったようだ。

 こんな神官ばかりだと良いんだけど、神殿の高位神官達は自分達の権益を守り新たな権益を得ることで頭がいっぱいのようだ。

 彼らの前に天国の門は開かれるのだろうか? ちょっと心配になってしまう。


「あら! いらっしゃったのですか?」

「はい。ちょっとご相談したかったのですが、レオン様が御親切に対応して頂けました。武門貴族として名を知られたオリガン家のご子息と聞いていましたが、武を誇るだけではないと感心しています」


 厄介な相談事がすでに終わったと思ったのか、レイニーさんが笑みを浮かべて俺の隣に腰を下ろした。

 暖炉のポットから、お茶を注いだカップをレイニーさんに渡し、フレーンさんのカップと俺のカップにも改めてお茶を注ぐ。


「砦時代にも不思議に思っていたんだけど、レオンはオリガン家では蔑まれていたのかしら?」

「両親と兄姉の愛情の中で育ったと、自信を持って言えますよ。ですが、世間はそうは見てくれなかったようです。長剣技能S級の兄上は魔法だって使えますし、姉上は魔導師の資格を持っています。そんな兄姉上に対して俺が誇れるのは弓と銃ぐらいなものですからね。長剣技能は2級ですし、魔法に至っては姉上から頂いた魔道具でどうにか生活魔法を一日に何度か使えるぐらい。

 そんなことだから、『オリガン家の落ちこぼれ』と言われ続けていました。家族は少しでもその噂を立ち消そうと俺を訓練してくれました。砦に志願したのは、砦で数年勤めれば『落ちこぼれ』の烙印が消えるかもしれないとの父上の配慮だったんです」


「不思議ですね……。私には『落ちこぼれ』という言葉が、どうしてもレオン様を現す言葉に思えないのです」

「貴族同士の悪口ってことかしら? 相手よりも自分が勝っていることを鼻に掛ける人種が貴族と聞いたわ」


 そんな連中が王宮にはたくさんいるようだ。

 南にある王国の貴族も似たような連中だったからなぁ。

 どの王国の貴族も似たような連中ばかりだったら、案外獣人族の排斥は今後大きくなっていく可能性もあるんじゃないか?


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