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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-045 敵兵を荼毘にする


 偵察から帰ってきたエルドさんの報告を、皆でお茶を飲みながら聞くことにした。

 王国軍は夜が明けると同時に、南に帰っていったらしい。

 それだけ負傷者が多かったに違いない。


「担架で運ばれる兵士も多かったのですが、どうやら慈悲の一撃を受けた兵士の数も多かったようです。大きな塚を確認しました」

「ご苦労様です。去っていった敵軍は確認できましたか?」


「そうですね……、およそ1個中隊を超えているようにも見えました。担架や肩を借りている兵士が多く、整然とした歩みではありませんでしたから」


 話を聞く限りでは1個中隊を葬ったことになるのだが、それほど多くはないだろう。2個小隊近くが死傷したと考えるべきだ。

 問題は、南の荒地に倒れている兵士を引き取らなかったことだな。

 今日は、その始末をしないといけないだろう。

 穴を掘って埋めるのは簡単だろうが、少し王国を混乱させてやるのも面白いかもしれない。


「朝食が済んだら、荒地の敵兵を荼毘にしましょう。丸太を組んで、その上に敵兵の亡骸を並べ、さらに薪を積み上げれば灰にできると思います。残った骨を樽に詰めて、来春に商人達が来た時に王国へ届けて貰います」


 俺の言葉に、皆が驚いた表情を向けてくる。

 そこまでするのかという感じだな。


「私も賛成です。少なくとも王命を受けてこの地に散ったのでしょうから、その命を受けた場所に届けるということは私達の良心ともいえることです。今回の戦ではなくなった人はいませんがそれでも負傷者が出ていることは確かです。その相手に敬意を表する意味でも、遺骨を王国に届けることに私も賛成です」


「言ってることは分かるにゃ。でも敵だったにゃ」


 ヴァイスさんにはわだかまりもあるようだ。

 多分それが皆の本音に違いない。俺だって野ざらしで十分だと思っているんだからね。とはいえ、その効果はかなりあるんじゃないかな。

 俺達はたとえ敵であっても、それなりの礼儀を行う。

 それが表立ったら、宿営地で慈悲の一撃を与えた兵士達を土に埋めた指揮官に悪評が立つだろう。

 王国の上層部は俺達を忌々しく思うだろうが、庶民達の評価は上がるはずだ。王宮の指揮に影響が出てくることを期待しよう。


 食事が終わると、兵士達が作業を始めたようだ。

 森から薪を切り出すもの。兵士の亡骸を荷車で運ぶもの。楼門の上で状況を眺めていたけど、たまに槍を振るう姿が見える。

 まだ苦悶の時を過ごしていた兵士もいたようだ。あの一撃で彼の苦しみは終わったに違いない。

 今回は重傷者は出なかったが、次は仲間の兵士に慈悲の一撃を与えることになってしまうかもしれない。

 なるべく隠れて戦ができるようにしないといけないだろうな……。


「荼毘は夕暮れ近くになりそうですね」

「森からの距離はあるから、山火事にはならないでしょう。薪の上に乗せる前に、身元が分かる物があれば、記録するように言ってあります」


「場合によっては遺品を遺族に渡せるかもしれませんね。末端の兵士ではほとんどありません」

「勝ち戦だからできることです。勝者が敗者を見下す例はいくらでもあるようですけど、勝者にしたところでその勝利がたまたまだったと思えば、敗者をぞんざいに扱うことは出来ないと思うんですが」


「神官様が感心していましたよ。荼毘の前に祈りを捧げたいと言っておられましたから、私も一緒に向かうつもりです」

「俺は、ここで祈ることにします。いくら祈っても俺が魔法を使うことは出来ませんでしたからね」


 俺の最後の言葉に、レイニーさんが笑みを浮かべる。

 神を信じてはいるようだけど、行動を伴わないと思っているのかな?

 だけど神の存在を目にしているし、その加護まで受けている。あまり知られていない神様のようだからあまり人には言わないでおこう。


「出掛ける時には、パンとワインを捧げた方が良いかもしれません。天国までの道は遠いと聞いたことがあります」

「ナナちゃん達がお花を用意しているようでしたが、その考えはありませんでしたね。神官様に相談してみます」


 ナナちゃん達は花を探してるのか。

 晩秋も良いところだから、花なんてあるんだろうか? あまり遠くに行ってほしくはないんだけどなぁ。

 

 北風が吹いてきたから、指揮所へと引き上げる。

 ここは暖炉があるからね。

 暖炉傍にベンチを運んでパイプを使っていると、ナナちゃんが籠を持って入ってきた。

 寒かったのか、直ぐに俺の隣で暖炉に手足をかざしている。

 どんな花を摘んできたんだろうと籠の中を見ると、小さな赤い実の付いた小枝や、薄のような草が入っていた。紫の実が付いている小枝もあるようだ。

 色取りを考えると、これで十分かもしれない。

 この季節の現物であるなら十分だろうし、子供達が摘んできた物を嫌がる存在などいないだろう。


 夕暮れが迫る中、王国軍の戦死者が天に昇る煙が上がる。

 レイニーさんがナナちゃんや部隊長を連れて、神官と一緒に祈りを捧げているようだ。

 俺も、楼門の上から軽く頭を下げて手を合わせる。

 たとえ敵兵であっても祈りは必要だろう。魔族とは違い同じ人間同士でもあるのだ。

 

 俺達が戦場で戦死した時も、誰かが祈ってくれるだろうか?

 自軍が勝利したなら、それなりに弔ってくれるだろう。だが負け戦や引き分けになった場合には、その場に置き去りにされそうだ。

 かつて、父上が戦場とはどんな場所なのかを教えてくれたことがあった。

 勝ち戦であっても、戦死者の亡骸を持ち帰ることは貴族に限るそうだ。多くが大きな穴にまとめて埋葬されるらしい。

 持ち帰るとなれば遺体の腐敗対策や荷車の手配と中々に面倒らしい。戦死者の数倍の負傷者がいるらしいから、荷車は彼らの移動に必要になる。両手を失っても、歩けるならば歩かせるということだから戦場は非情でもあるようだ。

 俺達を襲った王国軍も、多分そんな感じで帰ったに違いない。

 故郷を見ずに、途中で倒れる兵士もいるに違いない。

 それを考えると、荒地の戦死者だけを荼毘にして遺灰を王国に返すというのは偽善以外の何物でもない……。

 だが、戦略的には十分使える。

 それを行うという考えがあるから、あの場で祈ることができないんだよなぁ。

 父上や兄上が知ったら叱りつけられそうだが、戦力のあまりない俺達が王国を相手にするんだから、これぐらい目を瞑ってくれるかもしれないな。

 あの炎を見ると、どんどん自分のやろうとしていることに良心の痛みが増してくる。そろそろ楼門を下りて、指揮所で何か別の事を考えた方が良いのかもしれない。


 指揮所に入ると、室内が真っ暗だ。

 レイニーさんは仮設指揮所にいたからなぁ。まる1日、使っていないとけっこう部屋が冷えている。

 とりあえず暖炉に火を点ける。

 あいにくとランタンに入れる光球を作れないから、暖炉の明かりで我慢することになりそうだ。

 暖炉の小枝が勢いよく燃え始めたところで少し太い枝を焚べ足す。

 今の内に、ポットに水を入れて来よう。

 ポットを手に外に出るとだいぶ暗くなってきた。水場で泉から引いた筧の水を汲んで指揮所に戻ると、まだ真っ暗だな。

 ナナちゃん達が戻るのはもう少し時間が掛かるかもしれない。

 暖炉に薪を入れて、ポットを鉤に掛ける。

 しばらくすればお茶が飲めるだろう。その前に、先ずは一服だ。


 パイプを使いながら、投石器にいて考える。

 あれは、弓では無くて革紐を編んで作ったロープの捻じれを使うんだったな。

 ロープの束の中に先端がスプーン状になった棒を差し込んで後方に引いて離すと、棒が前方に戻る。

 棒を太い丸太で受け止めると、スプーンに乗った石がそのまま前方に飛び出す仕掛けだ。

 ここで課題となるのは、ロープにねじれを与える方法と、棒を後ろに引く手段だ。いつまでも引いたままでは疲れるだろうから、ストッパーを使って保持しなければならないし、そのストッパーを外す方法も必要だろう。

 砦で試した大弓を改造することでバリスタを作る上でも、兼用できる仕組みになるんじゃないかな?

 1つずつ、じっくりと仕組みについて考えていこう。


 扉の開く音で、思考の海から目が覚めた。

 振り返ると、あっけにとられたレイニーさんとナナちゃんがいる。


「明かりを点けなかったんですか?」

「点けたかったんだけど……。ナナちゃんお願いするよ」


 ナナちゃんが、「分かったにゃ!」と言ってランタンの中に光球を作り出してくれた。


「済みません。忘れてました。魔法があまり得意では無かったんですね」


 レイニーさんがペコペコと俺に頭を下げてくれたけど、忘れるほどになっていたならそれはそれで良いことじゃないかな。


「気にしないでください。俺も、暗くなって初めて気が付いたくらいですから。それで向こうはどうでしたか?」

「明日には灰になるだろうとの事でした。エクドラさんが樽を用意すると言ってましたから、明後日に遺灰の回収を行う予定です」


暖炉近くに別のベンチを持ってくると、一緒に暖炉の炎を眺めながら教えてくれた。俺の隣も空いていたんだけど、素早くナナちゃんが座ってしまったからね。

 まあ、これで良いんだろう。あまり傍に寄り添っていると、変な噂が立ちそうだ。


「これで、今年は終わるんでしょうか?」

「たぶんね。荼毘の数も多かったでしょう」


「43体です。名前の分かる遺体には遺品に名札を付けました。名の分からない遺体については人物の特徴を記した名札を遺品に着けてあります。そこまでするのかといぶかしがる兵士も多かったんですが……。そこは私の無理を通しました」

「誰も見てなくても神が見てるという話もあります。ちゃんとレイニーさんの行いを神は見ていますよ」


「神官様も、一緒に名札に書いてたにゃ。私も手伝ってあげたにゃ」


 ナナちゃんの言葉にヨシヨシと頭を撫でてあげる。

 情けを教えるのは難しいからなぁ。本来なら両親が教えてくれるのだろうけど、ナナちゃんには家族どころか種族さえもいない。

 その辺りをどのように教えようかと思っていたんだけど、ちゃんと自分で考えているみたいだ。

 人の道に背くような行いをするときにはきちんと叱りつければ良いだけなのかもしれない。まだまだ子供だからねぇ。ナナちゃんの保護者なんだから、ある程度はきちんと教えないといけないんだけどなぁ。


「次は来春になると聞きましたが?」

「多分やってくるでしょう。次は1個大隊を超えそうに思えるけど、王国の上層部は戦を望むとも思えない。案外、強硬派が部隊を率いてくるのではないかと……。その場合は、今回よりは多いでしょうが最大でも1個大隊だと考えています」


 1個大隊と聞いて絶句してるけど、何とかなりそうだ。

 よほどの奇手を使わない限り、砦の存在は防衛側に有利だからなぁ。


「防衛力を上げないといけませんね」

「それだけでなく、攻撃力も上げる必要がありますよ。今回でも砦の塀に取り付いた敵兵の数は多かったように思えます。次は確実に乗り越えてくるでしょう」


 兵を乗り越えても、直ぐに行動がとれないようにしないといけない。その上で俺達は攻撃できる対策となると、簡単な柵を並べるということになるのかな?

 応戦は槍を使えば柵を挟んで相手を叩くことができるし、敵兵側は梯子を上らなくてはならないから、槍を使う俺達まで攻撃が届かないはずだ。


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