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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-040 先ずは交渉という事らしい


「我等は国王の使いである。それなりの儀仗は我等の権威を示すもの。とはいえ、小さな砦に対して過大な儀仗は確かに警戒されるであろう。

 我等を砦の中に入れての交渉は無理であるなら、この場に交渉の場を作ることにする。王宮からの使者であられるデラント侯爵及びその補佐と警護人5人であれば問題あるまい。そちらも同数で出てくるが良い」


 そういって、2騎が下がる。

 さてどうなるんだろうとみていると、後ろの兵士達が、馬車の後ろからテーブルを持ち出してきた。

 組み立て式のテーブルと椅子が並べられ、テーブルには白いテーブルクロスまで敷かれている。

 そこまでするかなぁ? 形式にとらわれ過ぎているように思えるけど、それが貴族ということになるのだろう。

 兄上達もあのような堅苦しい場で仕事をしていると思うと、少し気の毒になってきた。


 馬車が後方に下がり、騎士が3人馬から降りる。まだ騎乗している騎士達は、兵士を連れて森の近くまで下がっていった。

 なるほど、少人数という形での交渉ということだな。

 騎士は、護衛も兼ねているのだろうから手練れのはずだ。さて、俺は誰を連れて行こうか……。

 門の屋上から下りて、下で心配そうな顔をしているレイニーさんのところに向った。


「レイニーさん。どうやら門の直ぐ外で交渉ということらしいです。俺が出掛けますから、腕の良い弓兵と銃兵を門の上で待機させてくれませんか。2,3人なら顔を出しても良いですけど、盾の後ろでじっと待機させてください」

「レオン1人で大丈夫なの?」


「だから、門の上に待機させておくんです。俺を後ろから斬ろうなんて考えたなら、すかさず矢を放ってください」

「それぐらいは容易いことですけど……」


 心配してくれるのはありがたいけど、俺だって一般兵ぐらいには長剣が使える。それに相手が1人なら銃だって使えるだろう。

 護衛騎士3人全てを同時に対処すことにはならないはずだ。彼らは貴族の護衛ということなのだろうから、攻撃よりは守備に回るだろう。

 となれば襲ってくるとしても、最初の1人を素早く無力化すれば引き下がってくれるに違いない。


「とりあえず行ってきます。くれぐれも先に矢を放たないでくださいよ。俺を後ろから襲ってきたときだけで良いからね」


 ナナちゃんの頭をポンポンと軽く叩くと、まだ心配そうな顔をして俺を見上げてくる。

 本当ならナナちゃんを連れていきたいところだけど、俺だけで何とかなりそうだからね。

 さて、あまり待たせても問題がありそうだ。意を決して、門へと歩く。


「門を開けてくれ。内側の門は開けておいた方が良いな。外側の門を俺が出ている時だけは開いておいて欲しい。俺が倒れたり、駆け込んできたならすぐに門を閉じてくれ」

「やっぱり私も行くにゃ!」


 銃兵達が二重の門を開くのを見ていた俺の隣に、ナナちゃんが走ってきた。

 単なるネコ族ではないんだけど、結構すばしこいから村に逃げ込めるかな?

 弓を背負っているから、とりあえず護衛に見えなくはないけど……、まだまだ小さい子供だからなぁ。

 笑みを浮かべてナナちゃんの頭を撫でると、ナナちゃんも笑みを浮かべて顔を上げて頷いてくれた。


「開門!」


 ギィ……、という音を立てて分厚い板戸が開いた。

 ゆっくりと交渉のテーブルに向かう。後ろからナナちゃんが付いてきてくれるから、少し余裕が出てきたな。


 豪華な衣服をまとった2人が椅子から立ち上がり、俺達が近づいてくるのを見ている。

 後ろからついてくるナナちゃんを見とがめて顔が緩んでいる。

 これはナナちゃんに感謝だな。最初から悪い印象を持たせる必要はない。


「確か、レオン様でしたな? だいぶかわいらしい従者ですな」

「たぶん調べたはずでしょう。レオン・デラ・オリガン……。風評通りの人物です。人並みの魔法を使うことが出来ず、このような従者を従えた次第」


「そのような人物も王宮にはおりますよ。やはり専属の従者をいつも従えておりました。先ずはお座りください。我等は国王の親書を持参しました。その内容を確認した上でお話をしたいと思っています」


 小さく手を上げると、後ろの騎士の1人が頷いて、馬車に向かった。

 お茶の用意をしてくるとは、大した連中だ。すぐに暖かいお茶が用意されて俺達の前に出される。

 ワインが一般的なんだろうが、交渉が控えているということで酒を出さないのだろう。

 相手を酔わせて主導権を握るということはしないようだな。

 毒殺を考えたが、ここで交渉を頓挫させては、王国側も利権を手放すことになるだろう。それに、毒は俺には効かないらしい。

 一口飲むと、清涼感が口の中に広がる。かなり良い茶葉を使っているようだ。


「良いお茶ですね。我等は村暮らし。このようなお茶を飲むのは初めてです」

「気に入って頂けましたかな。それでは、サドリナス王国の貴方達への対応について交渉を始めましょう。先ずは、国王陛下からの親書です」


 木箱を布で包んだ物がテーブルに広げられ、中から巻物が出てきた。

 軽く頭を下げて巻物を手に取ると、席を立って俺に差し出す。

 ここは俺も立つべきなんだろう。席を立って両手で受け取り、腰を下ろして巻物の封をナイフで切り取る。

 ナイフを取り出したところで、後ろの騎士が一瞬長剣に手を掛けるのが見えた。

 やはり護衛を任じられただけのことはある。小さなナイフでも見逃さないということだな。

 ナイフをケースに戻して、巻物を広げ記載された文章を読む。

 美辞麗句で修飾が凄いけど、最後の数行にようやくされているようだ。


「サドリナス王国に隷属した自治を認めるということですか……。まぁ、それは願ってもないことですが、次の2つは問題ですね。村に代官は必要ないでしょう。自治を認めるなら王国の代理人は必要ないと思いますが? さらに、軍隊の駐屯は意味がありませんね。1個小隊を無駄に死なせるように思えます。それほど殺した方が良い兵士なら、さっさと解雇して農作業をやらせるべきでしょう。最後に税率ですが、毎年銅鉱石1000グル、砂金を半グルとはどのような査定なのか考えてしまいますね」


「穏やかな交渉をしたいと思っているのですが、最初から否定されてしまいましたな。その内容で満足していただけるなら、我がサドリナス王国内での自治を認めるとの国王陛下のご判断なのですが……」

「国王陛下に、学問を教授された人物が適正でなかったのかもしれませんね。自治と言うからには、王宮からの任じられた代官は必要ありませんし、自分の村は自分で守りますよ。最後にこれは税ということになるのでしょうが、我等の鉱物採掘を過大に考えていませんか? 特に砂金は先細りは確実です。現に、春から秋にかけて採れた砂金は1グルにも達しませんからね。数年先には全く採れなくなるでしょう。約定を立てに、俺達を追い出すようなことになっても困ります」


 実際にはその2倍以上の採取が出来ている。

 だが、先細りになることは確かだからなぁ。場所を変えて砂金を採っても長く続けることは不可能だ。


「これは困りましたな。1つずつ考えていきましょう。先ずは自治ということになりますな」


 2人の話を聞いていくと、どうやら自治という言葉を用いるだけで、王国の鉱山としての役割を持たせたいということのようだ。

 それで管轄する代官ということになるのだろう。となれば名目の税とは別に多大な鉱石が採掘されていくことになりそうだ。

 

「名ばかりの自治なら、最初から記載しない方がよろしいかと……。それほど鉱物資源が欲しいのであれば、王国で新たな鉱山を見付けた方がよろしいのでは?」

「確かにそれなら、我らがここに来る必要もないでしょうな。ですが、それには多大な資金が必要であることは御理解いただけるかと」


 鉱山を見付けて、そこで採掘を行う小さな村を作るのにどれだけの資金と年月が必要かということになるのだろう。

 俺達はかつて山腹崩壊を起こした場所に村を作ったから、砂金と銅鉱石は嬉しい誤算というところだ。

 ドワーフの職人がいて、俺達みたいな元砦の守備兵がいて、さらに途方に暮れた開拓民を抱えたことによって鉱山を維持できるんだよなぁ。

 最初からこれだけの規模の村を作るとなれば、王国としてもかなりの冒険に近いだろう。できれば自分達のものにしたいというのも理解できるが、それは俺達を無視した考えそのものだ。


「王国としての利権が欲しいのは理解できますが、さすがに王国に属するというのは考えてしまいます。万が一、我らが魔族に襲われた場合に王国側は何ができますか?

 俺達は隣国から締め出された者達です。どちらかといえば利権を求めてくるのは隣国でしょう。それに対してどのように対処されるつもりですか? 利権を求めるだけで見返りを与えないというのでは困りますね」


「隣国では、魔族の襲来に備えてきたに砦を築いているとのことですが、どの程度の規模であるか我等は知らないのです」

「およそ3個中隊。魔族の襲撃の度に2個小隊規模の犠牲者を出します。辺境の砦で3年過ごせる士官はさほど多くはありません。俺のことはある程度調べたのでしょう。俺が辺境の砦に志願したのは家名の為ですからね」


『落ちこぼれ』という烙印は一生俺についてまわるに違いない。とは言え『落ちこぼれ』が何を意味するかまでは知らないだろうな。

 魔法と武技だけだと思っているんだが、魔法はともかく武技は裏を使えば兄上に迫れるんじゃないかな。


「過酷であるということですかな。貴族ともなれば家名は大事、重々理解できることです。ですが、それなら隣国を離れることは無かったはずでは?」

「上官達が俺達を置いて逃げ出してしまいましたからねぇ。生憎と出城で敵をけん制していたのですが、何時までも来ない補給を受けに砦に戻ってみると、そのような事態でした。一応、逃亡兵になるんでしょうが、それは隣国の決断によるものです。オリガン家の矜持に問題はありませんよ」


 かなり困っているようだ。

 さすがに俺達を王国に取り込むと、ブリガンディ王国との領土争いに発展しかねない。かなり有望な鉱山を手にしているとブリガンディ王国が知ったならすぐに使者を送りこんでくるだろう。

 その時の対応はどうするつもりなんだろうか?


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