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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-379 ようやく開放して貰えそうだ


「これで終わりですよねぇ?」

「済まなかったな。王都に来たからにはいろいろと相談に乗ってもらいたかったことは確かだが、本国領の守りはこれで少しは安心できそうだ。兵力の増員は王国軍1個大隊だけで済む」


「まさか辺境伯の私兵に1個大隊とは思いますまい。外交上も私兵であると突っぱねることが可能です」


 2人の顔を見ていると悪役その者なんだよなぁ。俺も1枚加わっているんふぁからあまり大げさにはしたくないところだ。


「実際問題として貴族がそれだけ多くの私兵を持つというのは考えるところです。やはり私兵の規模は1個中隊止まりとして、王国軍の機動部隊が状況に応じて進駐するのが望ましく思えますね。残り1個中隊は、辺境伯領内に住む住民を動員することで何とか出来るはずです。民兵を弓兵やクロスボウ兵にすれば堀越しに敵を攻撃できますし、フイフイ砲やカタパルトの操作を手伝わせることも可能かと」


 生産性のない軍を手元に置くだけで余分な金が掛かってしまう。平時と異常時で戦力を倍増出来る手立ても考えるべきだろう。


「ますますマーベル国に似て来るな。それも良い手立てだろう。白兵戦は無理でもクロスボウなら10日も練習させれば直ぐに的に当てられると聞いたぞ」

「工事は10日もすれば開始されるだろう。となると、王宮会議では誰を辺境伯に任じるかで一騒動が起きること間違いなしだ。かなりもめそうだぞ」


 ワインズさんが大声で笑いだした。

 その様子を思い描いたに違いない。だけど大笑いするということは、その任に堪えらないような貴族が名乗りを上げるということになるのかな?


「まぁ、国王陛下の裁可に任せれば良い。わしは黙ってみているよ」

「ワシ等に口出しをするとは思えんが、中には分をわきまえない連中もいるからなぁ。その場で懲らしめてやるか」

「長剣は抜くなよ。出来ればレオン殿を見習うことだ。今朝早くに王宮から知らせがあった。例の男爵は夜明け前に亡くなったそうだぞ。国王陛下は王国内の仕来りに沿った決闘での事と仰られたそうだ」

「全く、あれでか? ワシではそうもいかんな。その時には、部屋の外に呼び出して長剣を使うよ」


 段々おかしな話になって来たけど、案外宮殿内の派閥争いを少しは沈静化させたいということなんだろう。

 美味しそうな餌を彼らの前にちらつかせれば直ぐに動き出すと考えているようだ。


「さて、これで面倒な話は終えることになる。ワシも、どうするかと悩んでいたことは確かだが、案外良い方法があったものだと感心してしまう。それが考えられないというのはワシも老いたということになるのだろう。だがレオン殿が素案を出したという図上演習で優秀な参謀が少しずつ見つかっているからな。ワシも安心して引退を迎えることが出来そうだ」


 ん? 引退にはまだ早いんじゃないか。

 グラムさんだって、まだまだ前線に立って長剣を振るうんだからなぁ。楽隠居しようなんて考えていると足元を掬うぐらいは国王だって考えているに違いない。

 結構頭の切れる御仁だからね。それぐらいはお見通しに思えるんだけどなぁ。


「だが、話に聞くレオニード勲章の第一受賞者が女性だったとはなぁ」

「国王陛下が喜んでいたよ。我が王国は男女間の差が無いとね。これは女性、これは男性という職業差別は無くしたいとも仰っていたぞ。とはいえ軍人の8割は男性であることはしょうがないと考えるべきだろう。だが、白兵戦とならないような兵種に付いては割合が逆転していることも確かだ」


「それはマーベルも同じですね。どちらかと言えば女性兵士の方が多い気がします。俺が配属された部隊は7割方女性の弓兵部隊でしたから」


 ブリガンディ王国軍は案外弓兵を重視していなかったのかもしれない。重装歩兵には貴族の次男達が参加していたようだからなぁ。磨かれた鉄の鎧に長剣だから、騎士として立派に見えるのかもしれないな。

 でも実力が伴わなければ足手まといだけなんだけどね。


「確かレオン殿が直接指揮する中隊も女性ばかりだったな」

「銃兵ですからね。一応銃の先に片手剣ほどの穂先を付けられるような工夫をしてあるんですが白兵戦はなるべくしないように指導してます。せいぜい、柵の間から相手に突きを加えるぐらいの戦闘参加になります。それで前回は俺が白兵戦に加わることになってしまいました」


「女性ばかりでは白兵戦に耐えられんということか……。ティーナにも言っておかねばなるまい」


 あの時ティーナさん傍にいてくれたらどんなに助かったか……。

 だけど、グラムさんにはティーんくぁさんの実力は過小評価されているようだ。


「ティーナ殿なら1個分隊を率いて白兵戦に参加するだろうよ。いつまでも小さな子ではないぞ。だが、そろそろ相手を見つけてやったらどうなのだ?」

「その話をすると逃げられてしまう。まだまだ自分勝手に暮らしたいのだろう」


 仕方がないと首を振っているけど、グラムさんが手放したくないから口出ししないんじゃないかな? この件はデオーラさんが動いているはずだから、後でこっそり聞いてみよう。


 雑談に興じたところで最後にワインを頂き、今度はワインズさんの案内で指揮本部を案内して貰った。

 驚いたのは、次の図上演習の題材に沿った大きな模型が作られているところを見た時だった。

 参加する士官達には通常の地図を使わせるとのことだったが、全体の動きをみられる監察部隊はこれを見ながら互いの軍の動きを見るようだ。

 一段高い席も設けられており、その椅子が豪華であるのは国王が臨席する際に使うからなのだろう。

 その隣の部屋には大きく2つの区画に分かれている。中央に丸いテーブルが1つ。その後方に10卓のテーブルが置かれていた。

 

「戦の評定がここで行われる。このテーブルで戦の状況が整理され、あちらのテーブルでその結果が計算されるのだ。レオン殿の言っていた運の良し悪しや確率というのはこのテーブルでサイコロが振られることで決まるぞ」

 後方に並んでいるテーブルに算板があったのはそういうことか……。


「互いの偵察部隊は別の部屋だが、これは地下に設けてある。光通信でのやり取りだからそういう具合になってしまった。伝令は指揮所内でのみ可能としているぞ」


「頭だけで戦が出来るとも思えません。士官はそれで育つとしても兵士は訓練が必要ですよ」

「そのことは、図上演習の開始前に、陛下が直々に訓示してくれた。兵士よりも士官の給与が良い理由は、兵士の武技を持ちかつその武技を有効に活用できる頭を持つからだと……。頭だけなら兵士と給与が変わらんことになるだろうし士官にはなれないということだな」

 

 面白い考え方だな。となるとグラムさん達はその上にまた別の能力をも9つことになりそうだ。たぶん経営的な網力と言うことになるのだろう。経営はある意味戦略でもある。現場で戦をすることなく後方で全体の動きが自軍に有利になるように手腕を発揮するということになるのかな。

 

 通信部に案内された時には、上階から何本かのパイプが机の上にあることに驚いた。

 どうやら、銅の筒に入れた通信文を屋上に設けた塔から落としているらしい。

 光通信文を書き留めたメモを筒に入れて落とすと教えてくれたけど、なるほどと感心してしまった。

 階段を上がり下りするよりも遥かに便利に違いない。

 その逆の場合はどうするかと聞いてみたら、2つあるパイプの短い方を使うと教えてくれたんだけど、どうやって上に上げるのかが分からなかったんだよなぁ。


「テーブルの片隅にクロスボウがあるだろう? ボルトの先端にメモを入れる筒が付いている。ここで撃てば見張り台にある藁の束に突き刺さるということだな」


 ちょっと危無い思える方法だけど、撃つ前に笛を吹いて危険を知らせているらしい。それなら安心できそうだけど、マーベルで模擬することは止めておこう。


「これで、一通り案内したことになる。平時はさほど人がおらんが、戦が始まれば一気に人が増えるぞ。各砦への兵站拠点も兼ねているから常時5個大隊10日分の物資を蓄えている」

「中継点の役割を持っているということですか。後方には王宮の物資保管庫、商会ギルドの倉庫も控えているのでしょう。戦は資材消費が激しいですからね。それをけちるようでも困りますけど」


「それもあって、国王陛下はエクドラル王国の拡大は望んでおらぬ。旧サドリナス領を併合したのは、そうしなければサドリナスの領民を魔族の贄にするようなものだからな」

「王国が滅びるのは傍から見ては悲しく思えるのでしょうが、ブリガンディとサドリナス王国についてはその感がありませんね。どちらかと言うと、ようやく滅んでくれたかという喜びが沸いてきます」


「そうならぬよう、我等も国王陛下の力になっているつもりだ。とはいえ信仰とは恐ろしいものだな」

「信仰は力そのものです。その力がどこに向けられるかを常に監視したいぐらいですが、神官達は嫌がるでしょうね」


 宗教と政治はきちんと分断しておきたいところだ。だけど、民から信頼される神官程、政治に関与したくなるらしい。

 マーベルは、フレーンさんがいるだけだし、フレーンさんは全く国造りに興味が無いんだよなぁ。

 それでも俺達に積極的に協力してくれるから、俺達の方が戸惑ってしまうところもあるぐらいだ。


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