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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-037 戦の前にやっておこう


「納得してくれたのでしょうか?」

「それはないですよ。1か月後には大隊規模で襲ってくるでしょう。俺達も準備をしておかないと……」


 夕食後にテーブルに指揮所に集まった連中が驚いた表情で俺に顔を向けるんだが、当初から想定されていたことだからなぁ。

 それなりに村は砦化してあるから、俺達を蹂躙するには1個大隊では不足するはずだ。

 

 1個小隊42人が4個小隊集まることで中隊となる。中隊本部を加えると、人数は190人だ。

 中隊が4つ集まれば大隊になるのだが、代替本部は伝令部隊や医務隊それに工兵達も直轄部隊にいるから2個小隊ほどの人員になる。

 大隊規模となれば、1個中隊(190人)×4+90人の850人、それに輜重部隊や食事を作る軍属の小母さん達も必要だ。

 およそ千人規模の部隊がやってくることになる。


「俺達は2個中隊にも達していないぞ!」


 絶望した表情でエルドさんが大声を上げたが、それほど大きな部屋ではないんだから十分皆にに聞こえていると思うんだけどなあ。。


「砦を攻撃するには、少なくとも砦の4倍の兵力が必要らしい。最初に暮らしていた砦では、それ以上の魔族が襲ってきたが俺達は追い返している。

 それに、南の王国の軍人は戦闘経験が少ないようだ。ある意味新兵を相手に戦をすることになる。1個大隊なら怪我をする連中は出るだろうが死者を出すことはないはずだ」


「まあ、確かにいろいろと準備はしているにゃ。レオンには敵の攻撃場所が分かるのかにゃ?」

「そのために、森を切り開いて道を作ったんだ。1個大隊規模の軍が野宿をするとなれば場所が限られる。水場に近く森から離れた場所……、そして攻撃を素早く行える場所だ」


 ヴァイスさんの笑みを浮かべた問いかけは、いかにも戦が待ち遠しいのかな。獣人族は大人しいと思っていたけど、ネコ族は例外のようだ。

 

「となると、敵の本陣はこの辺り……。森を出た南東ですね」

「少し東に行けば川があるし、荒地ではあるが草原で起伏もそれほどない。森に作った道に面しているから部隊を動かすにも都合が良いのだが……」


 場合によっては本陣を奇襲できる場所でもある。

 敵の西に出る森の抜け道は作ってあるし、河原にも部隊を送れる裏道があるからね。

 夜でも移動できるのは獣人族の特徴でもある。

 少ない兵力を最大に生かせる戦をしなければなるまい。


「農家の少年達も召集を掛けるのですか?」

「投石部隊は必要だろう。敵が塀に近づいた時が出番だから、常時待機ということになりそうだ。どれぐらい集められる?」


 帰ってきた答えは20人程度ということだ。握り拳ほどの石が降ってきたら、敵も驚くに違いない。当たり所が悪ければ大けがでは済まないはずだ。

 30人ほどのクロスボウ部隊は開拓民の有志達だ。エルドさんのところの銃兵1個分隊と共に、塀に沿って哨戒をして貰おう。


「敵は軽装歩兵になるのでしょうか?」

「弓兵と軽装歩兵というところだろうけど、銃兵はどうなのかな? 兵種としては重装歩兵や騎兵、それに魔導士部隊もいるはずだ。

 それらも現れる可能性があるが、あまり活躍できる場ではない。出てきたなら敵が用兵を知らないということだろう」


 砦を攻めるには全く適さない兵種だからなぁ。重い鎧を着て盾となれる重装歩兵は動くだけでも汗をかくらしい。

 矢をある程度防ぐことは出来そうだが、クロスボウなら鎧の鉄板を貫通できるだろう。銃弾ならなおさらだ。

 やってきたとしても大隊本部のお飾り要員ということになるだろう。騎兵がやってきたとしても、砦から森までの200ユーデほどの距離に設けた切り株や落とし穴で素早い動きはできないだろう。動きの遅い騎兵は矢の良い的だ。

 魔導士は使える魔法によって脅威度が変わるが、魔法で作られた火炎弾の飛距離は姉上でさえ50ユーデにも満たない距離だった。

 火炎弾よりも広い範囲に炎を作る広域魔法は警戒しなければならないが、到達距離を考えるとあまり恐れることはないだろう。

 通常の戦でも、重装歩兵の後方からの支援攻撃だからなぁ。単独では簡単に倒されてしまうようだ。


「我が方の戦力はおよそ2個中隊弱。1個中隊を南門に張り付け、2個小隊を東西の門で警戒態勢を敷くことになります。予備兵力は1個小隊……、その内の1個小隊は投石兵となります」

「各部隊も定員に満たないが、これで十分だろう。南門は激戦になりそうだが、擁壁から身を乗り出して敵を眺めようなんて考えないでくれよ。敵を見るなら狭間からだ。南門の櫓の見張りにも十分言い聞かせてくれ」


「あの覗きからくりでなら見ても良いのでしょう?」

「潜望鏡の事かな? あれなら問題ないぞ」


 鏡を2つ使ったからくりだけど、擁壁に隠れて周囲を眺めることができる。各小隊に渡してあるんだけど、もう少し作っても良さそうだな。

 望遠鏡もレンズを追加で頼んだから、この冬にもう少し数を増やせそうだ。


「矢戦になりそうにゃ。矢をさらに増やすにゃ」

「1か月なら300本程度は増やせるな。鏃が足りないから鏃は石になるぞ」

「敵も驚くだろうね。それで十分だ。それに相手が矢を射こんでくれるなら、その矢も使えるんじゃないかな」


 だいぶ顔付が戻ってきた。

 最初は悲壮感に溢れていたけど、これなら問題ないだろう。

 それに、銃兵の一斉射撃を受けたら相手も驚くんじゃないかな。銃兵の総数は1個小隊ほどに膨らんでいるからね。

 このまま増やせば、かなり強力な戦力を持てるはずだ。


「森の南の警戒は、今まで通り行って欲しい。1か月後とは言っていたが、早まることだってありそうだ。秋の収穫で農民達は忙しいだろうから、兵士達で、砦の南にたっぷりと落とし穴を掘って欲しい。塀から50ユーデほどの距離に、低くても良いから柵を作ってくれ。攻撃の目安にもなるし、柵を跨ぐために足が止まるはずだ。その内側には落とし穴を掘らないでくれよ。後の村の拡張時に俺達が落ちそうだからね」


「足を取られるような落とし穴にゃ? それならたくさん作れるにゃ。草を乗せてかくしておくにゃ」


 それだけでも攻撃速度が遅くなる。

 矢を受ける時間が長くなるから、敵の戦意が低下するに違いない。


 翌日から、あちこちで作業が始まった。

 夜の状況報告が楽しみだな。

 さて、俺も宿題を済ませるか。この季節なら初めても良さそうだ。


「レイニーさん。明日、魚を取ってきますね」

「戦の前ですが?」


「そろそろ魚が産卵をする頃だと思うんです。1個分隊をお借りしますよ」

「状況が状況ですから、1個小隊を率いて行ってください。成果を期待してますよ」


 レイニーさんも久ぶりに焼き魚が食べられると考えているのだろう。目が輝いているんだよなぁ。

 産卵期は餌を食べないから網を使っての魚取りだ。横幅1ユーデ半、長さ6ユーデの網は軍属の小母さんが編んでくれた。編み物が得意だと聞いてお願いしたんだが、数人がかりで編んでくれたんだよね。

 小母さん達も食材が増えるのは大歓迎らしい。


 2日後に朝日が出る前に村を出発した。

 まだ眠い俺を起こしたのはナナちゃんだ。ナナちゃんも久しぶりの遠出を楽しみにしていたらしい。

 ぼんやりしている頭を冷たい水ではっきりさせ、小母さん達が作ってくれた朝食を頂く。お弁当を受け取ると、お茶が半分残っているのに出発する始末だ。

 いつもより歩く速度が速くないか?

 それほど魚の誘惑は大きいということなんだろうか?

 サケ科の魚だから確かに美味しいことは認めるけどね。


 途中で短い休憩を取りながら歩くこと3時間。

 広い河原に出ると、川の流れに沿って偵察部隊が出発した。

 彼らが帰ってくるまでは、のんびりとパイプを楽しむことにしよう。生あくびが多いんだよなぁ。いつもならぐっすると寝ている時間に起こされたからだと思うんだが……。


「持ってきた桶が小さいよ。あれに生かしたまま魚を運ぶのは無理だと思う」

「あの桶かい? あれで魚は運ばないよ。まあ、見てて欲しいな」


 魚を増やすということの大変さをこの世界の連中は理解していないだろうからなぁ。

 受精させた卵を運ぶだけだから小さな桶が3つもあれば十分だ。

 卵を取った後の魚は、この場で焼いてしまえば良い。楽しみにしている人達が多いからなぁ。


 しばらくすると、偵察に向かった連中が帰ってきた。

 彼らの話を聞くと、河原の少し上流部に黒々と見えるほどの魚が集まっているとのことだ。


「焚火は作ってあるから、少し冷たいが川に入ってくれ。川下に網を張ったところで、上流から追えば網に掛かると思うんだよね」

「やってみれば分かるでしょう。たくさん獲れれば昼食時に皆で食べられそうです」


 食べるのは卵を取ってからにしてほしいんだけどなぁ……。

 俺の思いをどれだけ理解しているかわからないけど、エルドさん達が網を持って河原を上流に向かって駆け出して行った。

 ナナちゃんもついていったから結果を直ぐに知らせてくれるに違いない。

 周辺警備の連中も、魚を取りに向かった連中を眺めているようだ。かなり期待しているに違いない。


 焚火をもう1つ作っておくか。新たな焚火が出来たところで、焚火の傍に置いたポットのお茶を飲む。ポットのお湯が少なかったから新たに水を注いでいると、ナナちゃんが走ってくるのが見えた。

 笑みを浮かべているのが遠めでも見える。上手く獲れたに違いない。


「もう直ぐ、運んでくるにゃ。両手2回より多いにゃ!」

「それならお土産も出来るね。レイニーさんが喜びそうだ」


 うんうんと頷きながら、川上を眺める。まだエルドさん達の姿は見えないから、網から魚を外すのに苦労しているのかな?

 両手で2回というのは20匹ってことだろう。そんな数え方もあるんだな。


 お茶を飲み始めたころになって、カゴを担いだ数人が見えた。彼らだけだとすると、まだ魚を取ろうとしているのかもしれない。

 さて始めるか!

 持参した桶を入れた籠を持つと河原へと向かう。


「かなり取れましたよ。やはり網は良いですね。もう1つ群れを見付けましたので、今そっちを取ろうと頑張っています」

「ご苦労さん。とりあえず1籠もあれば十分だ。ちょっと手伝ってくれないかな?」


 魚を手に取り桶に向かって腹を押すと、勢いよく卵が飛び出した。

 吃驚してみてるんだが、3匹目の魚から出たのは白い精子だった。

 次々と卵と精子が桶に入っていく。

 1つ目を終わりにして、2つ目は兵士に作業を頼むと川から水を汲んできた。

 最初の桶に入った卵を鶏の羽でかき混ぜ、川の水を灌ぐ。これで受精したはずだ。

 3つ目の桶の受精を終えたころになってようやくエルドさん達が帰ってきた。皆の足取りが軽いのは大漁だったからに違いない。


「たくさん獲れましたよ。……ところで何をしてるんです?」

「卵を取ったんだ。これを孵すんだよ。とりあえず上手く行くかどうかを確認するためだから、これで十分だ。軽く炙って、村に持ち帰ろう」


 獲れた魚が多いから、新たに3つ目の焚火が出来た。

 次々と魚が焼かれていくのを見ると、これも1つの産業になるかもしれないな。

 だが、普段から網を使うと魚がいなくなってしまいそうだ。

 産卵期のこの時期に、卵を得る目的だけに限定していこう。


 軍属の小母さんが作ってくれたハムサンドを食べながら、ナナちゃんが焼けた魚を頭から豪快にバリバリと食べている。

 俺の分まで食べているんだよなぁ。イヌ族のお姉さんたちが2匹目を食べるナナちゃんをうらやまし気にみている。


 食事が終わると、早々に村へと引き上げることにした。

 受精卵を早く孵化させる土器に入れないといけないし、そもそも南の王国と敵対しているような状況だ。


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