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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-035 貴族の名で物事は動かない


 やってきた連中もかなり驚いているに違いない。

 山奥の村と聞いたから、小さな集落だと思ってやってきたのだろう。だが、彼らが目にしたのは村というよりは砦そのものだ。

 見掛け倒しではあるんだが、南門は頑丈さと見た目を重視している。

 東門も頑丈一点張りだけど、西と北の門は開拓村を囲む柵とさほど変わりはない。


 いつまでも睨み合いというわけにもいかないのだろう。

 騎乗の人物と兵士が何やら話をしていたようだが、2人の兵士が南門に続く道を歩いてくる。

 さて、なんと言ってくるのだろう? ちょっと楽しみだな。

 門から10ユーデほど離れた場所で立ち止まると、その場で俺を見上げている。

 2人とも革鎧だが、1人は鎖帷子を革鎧の上に縫い付けているようだ。

 片手剣と槍を持ってはいるが、3ユーデほどの槍だから門の屋根にいる俺に届くことはない。

 結構古い鎧に見えるけど、着ている人間は30歳を過ぎたあたりだからお仕着せなのかもしれないな。


「我はサドリナス王国のカイネルン男爵の兵である。この土地はカイネルン男爵がサドリナス王国より拝領した土地である。即刻荷物を持ち立ち去るが良い! さもなくば……」


「さもなくば、だと? カイネルン男爵が魔族に襲われることになるのか?」

「魔族だと? 何のことだ。我等はカイネルン男爵の精鋭なるぞ。どれほどの部下を揃えておるのかは知らぬが、森の中で休んでいる1個小隊をもってすれば、この程度の砦を攻略するにさほど時間はかかるまい」


「やってみたらどうだ? できればその前に穴をほっておいて欲しいものだ。勝手に死なれては荒地の草も枯れてしまいそうだ。死体はその穴に捨ててやろう」


 だんだんと顔を赤くして声を荒げているが、怒鳴れば相手が怯むとでも思っているんだろうか?

 パイプの灰を捨てて、ゆっくりとタバコを詰めて魔道具の小箱で火を点けた。

 小石ほどの大きさの青銅の箱の一部を押すと、小さな炎が上がる。

 軍属の小母さんにこの箱の存在を教えて貰ったんだけど銀貨1枚でどこでも火を使えるんだから便利この上ない代物だ。


 下では顔を真っ赤にして、口から泡を飛ばすような勢いでいろいろと言ってきている。

 後ろでクスクスと小さな笑い声が聞こえてくるのは、俺がこの場を楽しんでいるのが分かったみたいだな。


「帰るなら、俺達が追うことはない。さっさと帰るんだな。日が暮れればオオカミの群れがやってこないとも限らないぞ」

「平民風情が、男爵をないがしろにするのか! 他の貴族も黙ってはいないぞ」


「誰が男爵なんだ? 本人であるならその証拠を見せて貰おう。その上で、ここが彼の領地であることを証明してもらわねば俺達は納得出来んな」

「我等がいることで、男爵であると分かるはずだが?」


「生憎とこの王国で生まれたわけでは無いんでね。さて、どうする? 俺達は門を開けることはないぞ。じゃあな。近くの村まではかなりあるから、気を付けて帰った方が良いぞ」

「待ってくれ! せめて1夜だけでも砦で過ごさせてくれぬか……」

「断る。さっさと帰れ!」


 言い放つと体を返した。彼らの視線からは隠れたが、狭間から様子を見ることができる。

 しばらく上を見上げていたが、やがて森に至る道を引き返して行った。


「これで帰りますかね?」

「さぁ、どうだろう? 砂金を求めてやってきたような連中だから、手ぶらで帰ることは出来ないんじゃないか。ある程度の量を持ち帰らないと、貴族仲間の物笑いの種だからなぁ。能力はないわりに、気位だけは高い連中だ。特に下級貴族はね」


「レオンさんも準爵でしたよね?」

「だから、ここにいるんだろう? あのまま王国にいると碌な目に合わないからね」


 そんな会話に周囲から笑い声が上がる。

 中には俺のような貴族もいると思ってくれたんだろう。全部が全部ではないんだろうが、少数ではどうしようもない。下手に反対運動など起こしたら異端扱いされてしまうだろうな。


「使者を殴るような貴族では、先が見えてますね。動き出しましたよ」


 望遠鏡で様子を見ていた男が教えてくれた。

 命じて上手く行かなかったのは、使者のせいだと思っているようだな。


「今度も、誰も姿を見せないでくれよ。とはいえ矢を射かけるぐらいはやりそうだ。広場付近に誰も近づかないよう見張っててくれ。矢が内側に届くかもしれないからね」

「銃の装填を完了しています。最初の合図で頭上に、次の合図で相手を攻撃します」


 小さく頷いて了承を伝える。他の連中は、とりあえずその場で待機ということになる。成り行きを見守ってくれれば良い。

 相手が門の上に登り始めたら、彼らの出番になる。だけど、そこまでするかなぁ?

 まぁ、後ろに控えていてくれるなら、そんな事態になっても問題はないだろう。


 槍を持った2人の兵士が先に立ち、その後ろを3騎が続く。さらに後ろいる兵士は槍を持っているが、弓を背にしている。1個分隊だが、槍と弓を使えるのか……。

 先程より少し離れた位置で立ち止まると、今度は馬に乗った男が大声を上げた。


「カイネルン男爵である。門を開けよ!」


 果たして本人かどうか怪しいな。声が若すぎる。確かに上等の鎧を着ているけど、馬の上で姿勢が安定していない。

 案外、手柄欲しさにやってきた次男三男辺りかもしれない。

 この村を手に入れたら、優雅に暮らせると思っての行動だろう。


「男爵閣下のお声に逆らうのか! 早く門を開けるのだ」


 別な声も聞こえてきた。

 彼らの苛立ちが面白いのだろう。盾の後ろからクスクスと押し殺したような笑い声が聞こえてくる。


「いつまで待たせるのだ! 弓兵、矢を放て!」


 ヒュンと矢を射る音が聞こえてきた。

 タン、タンと板作りの盾に矢が突き立つ。

 何本かは広場にも射込まれたようだ。人を近づけないようにしておいて正解だった。


「次は火矢を放つ! 早く開けておればそれなりの褒美を取らせたのに……、残念だ」


 狭間から様子を伺うと、松明を手にした兵が矢に火を点け始めた。

 槍を地面に突き刺して兵士達が弓を手にしているから、1度に放つ矢の数は10本というところか……。

 

「放て!」


 声と同時にヒューンと音を立てて火矢が降ってくる。

 最初と同じく盾に何本か矢が突き立ったが、あらかじめ濡らしてあった盾は直ぐに燃えることはない。

 見掛けは石造りの塀も、それなりに効果がある。門の内側にも、可燃物は無かったはずだ。


 ゆっくりと右手を上げて、振り下ろす。

 後方から重なった銃声が聞こえてきた。すぐに装填を始めたんだろう。次の射撃は奴らを狙うことになるぞ……。


 銃声に驚いた馬を、懸命になだめている様子がおかしく思える。

 騎馬隊の馬なら、普段から銃声を聞かせて慣れさせているんだが、あの連中が乗っている馬はそんなことはしていないようだな。


「我等を脅す気か! カイネルン男爵なのだぞ」


 名前で相手が怯むと思っているんだろうか? 彼の頭に脳ミソが詰まっているのか疑わしくなってきた。


「良く吠えるやつだな。火矢を放つような連中には、これぐらいの追立は必要だろう。

 まだ帰らんのか? 次に矢を射かけた時には、空ではなくお前らに銃弾を放つぞ!」


 再び擁壁から姿を現して、奴らに大声を上げる。

 さて、ここで大人しく帰ってくれれば良いのだが……。


 突然、馬に隠れた弓兵が矢を射かけてきた。

 うまく避けた俺を褒めてあげたいぐらいだ。まったく、とんだ連中だな。

 素早く右手を上げると、1個分隊の銃兵が盾から姿を現した。

 腕を振り下ろすと、再び銃声が周囲にこだまする。

 バタバタと数人が倒れたのは、普段の練習の成果に違いない。


「よくも攻撃してくれたな! 次は軍を率いてくるぞ」


 精一杯に強がりを言って、部下を置きざりにして森に馬を飛ばしていく。

 あれが南の王国の男爵だとすれば、この王国も結構問題がありそうだ。


「おい! 倒れた奴を担いでいけ。仮にも仲間だろう」

 

 後ずさりしながらこの場を離れようとしている兵士達に声をかける。

 俺達の様子を見ながらも、倒れた仲間を担いで森へ退却してくれた。

 倒れた連中の措置を森でするのだろうが、死人は埋めてくれるだろうか? 道に放り出されても困るから、後日様子を見なければなるまい。


「さて、終わったよ。しばらくはやってこないだろう。あんな連中なら、最初から威嚇射撃をしても問題はない。だけど、丁寧な物腰でやってきたなら、知らせてくれよ」

「了解です。結構面白かったですよ。それにしても、銃声を聞いて暴れるような馬に乗ってくるとは思いませんでした」


「戦を知らないんだろうな。自分の家名で物事が決まるような考えだったんだろう。少しは懲りてくれれば良いんだが、あの手の連中は自分が絶対に正しいと思っているからなぁ」


「俺達が銃を持っていたから、追い返された……。という感じですか? それなら次は銃を揃えてくるんじゃないですか」

「銃の値段はそれなりだ。後ろの連中が持っている銃はそれほど高くはないんだが、銃兵の持っている小銃は結構するんだぞ。それに普段から射撃の訓練をしないと、中々当らないんだ。今回は至近距離だったから数人を倒せたけどね」


 銃を持つハンターもいるだろうが、契約金は高いはずだ。

 一番近い村から7日ほど掛かるこの村に、安い報酬でやってくるハンターはいないだろう。

 歯ぎしりしながら、俺達を恨むことになると俺には思えるんだけどなぁ。


 門を下りて指揮所に戻ると、レイニーさんが沈んだ顔から急に笑みを浮かべて俺を迎えてくれた。

 ナナちゃんが運んでくれたお茶を飲みながら、顛末を報告する。

 いつの間にか数人の小隊長が集まって俺の話を聞いていた。


「上手く行ったということですね。銃声が2度聞こえたので激戦になっていたのかと心配でした」

「一応、想定の範囲です。次は王宮からの使者でしょうね。どんな話を持ち込んでくるか、ちょっと楽しみです」


「王宮の使者でも、あの宿を使わせるのかにゃ?」

「十分だと思うけど? 俺達だって似たような家だし、立派な建物を作るよりは畑の柵を伸ばした方が俺達の為だと思うけどなぁ」


 別に偉い人用の建物は必要ないだろう。来客を泊める家があれば十分だし、食事だって同じ物を食べるんだからなんの問題もないはずだ。

 だけど、集まってきた連中が俺を呆れた表情で見ている。

 俺の考えは、どこかおかしなところがあるんだろうか?


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