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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-340 倍の魔族が侵攻してきたら


 夏の盛りのある日。

 養魚場の魚を選別する作業を子供達が行うようだ。さすがに網を使うからエルドさん達が手伝ってあげるみたいだな。

 なぜこの時期にと最初は疑問に思っていたんだけど、子供達の水遊びを兼ねているようだ。

 ヴァイスさんもその話を聞いて笑みを浮かべていたのは、生育不良の魚を貰えると思っているに違いない。

 良く育っている魚と、そうでない魚を選り分けて池を変えるだけなんだけどね。

 マクランさんが荷車に桶を沢山積んで行くと言っていたのは、池の底の泥を肥料として貰うつもりらしい。

 1つの池の水を抜いて、洗った後に3日ほど天日干しをする。雑菌の繁殖を抑制するのだろうが、経験則で皆は知ってるんだろうな。


「レオンは行かないんですか?」

「皆に任せますよ。レイニーさんは出掛けるんでしょう?」

「ちゃんとヴァイスを見てないと、池の傍で焚火を作りかねませんから……」


 諦め顔で、溜息を吐いている。

 その光景が目に浮かぶぐらいだから、すでに始めていそうな気もするなぁ。

 でも、ヴァイスさんを悪く言う人はいないんだよね。

 普段は自由奔放だけど、自分の役目はきちんとこなす人だからなぁ。まぁ、俺達の良いムードメーカーであることは確かだ。


「グラムさん達が調べた過去の魔族との交戦記録を地図に落とした写しをいただきました。それを見た時に感じたのが、昔と最近では魔族の侵出点の位置が変わったようにも思えます。今まで通りに魔族が俺達を襲うとは限りませんので、少しその辺りを此処で考えますよ」


「まるで違った場所から襲ってくると?」


 部屋を出ようとしたレイニーさんが足を止めて、俺の傍の椅子に腰を下ろした。一緒に地図を睨んでいるんだけど、それでは分からないと思うんだよなぁ。


「あくまで俺の個人的な推測ですが、地下世界に住む魔族の統一が目前ではないかと考えています」

「魔族にも平和が来るということですか?」

「それで満足出来れば良いんですが、その矛先を地上世界の俺達に向けられるとかなり厄介ですよ」


 レイニーさんが驚きの声を片手で抑えている。

 そうなるよなぁ。少なくとも今までの2倍にはなるはずだ。場合によっては数倍になる可能性だって考えられる。

 何とか魔族2個大隊を阻止している状況だから、魔族4個大隊の襲撃なんて想像したくないんだが……。


「あり得るのですか?」

「個人的には、可能性は高いと思っています。どうやって阻止するか、じっくりと考えますよ」


「獣人族は、現状で物事を判断する人が多いんです。レオンがこの国にいることは神の助けに思えてなりません」

「褒めてもダメですよ。自分の限界を知っているつもりです。なるべくオリガン家の名を汚さぬよう出来の良くない頭を絞っているんですからね」


 そんな俺の言葉に笑みを浮かべると、手を振って指揮所を出て行った。

 卑下することは無いと言ってくれてるのかな?

 現状では、なす術もないことに呆然としている状態なんだけどね。


 久しぶりにコーヒーを作りパイプに火を点ける。

 先ずは、マーベル共和国に対する魔族の脅威の方角から考えてみよう。

 北は山腹崩壊を起こした山肌が急峻な崖を作っている。

 かなりの急斜面だから、ネコ族の連中ですら上るのは無理だろう。低いところでも数十ユーデの高さがあるから、そこを下りることはさすがの魔族にも出来ないだろう。

 東は滝の裏手を通る道があるんだが、濡れた細い道だ。大部隊が攻め入るには困難だから滝の東にある広場が魔族で溢れかえることになる。そこを砲撃すれば容易に魔族の襲撃を頓挫させるのは今と同じに考えられるな。

 南方向から攻め入るならば、西の尾根を大きく迂回してエクドラル王国の砦を落とさない限り不可能だろう。エクドラル王国の戦力は俺達の10倍を超えているだろうからな。阻止できなくとも、半減することは可能だろう。南の城壁と空堀で足止めするなら2個大隊程度に減った魔族なら容易に対処できるはずだ。

 そうなると……、やはり鬼門は西になりそうだな。


コーヒーカップに改めてコーヒーを注いで黒板に向かう。

 右端に上から下に直線を引き、終点に〇を描く。そこから左斜めに線を延長してもう1つ丸を描いた。最後の丸から横に点線を引いて、丸を描く。

 丸の横に名を書いておく。直線の終端は南の見張り台。その先も見張り台だけど、名前を付けた方が良いのかな? 元々は見張り台とする計画だったけど、長城計画で、あの見張り台は砦機能を持たせつつある。

 将来、砦の東は大規模な開拓地になる予定だから、『開拓砦』とでも名を付けておこう。その内に、誰かが良い名を付けてくれるだろう。


 少し後ろに下がって、黒板を見る。

 向かい側の尾根も描いておいた方が良いな。かつての魔族との戦いでは、更にもう1つ向こうの尾根に魔族が集結していたことがあったから、その尾根も描いておこう。尾根との距離も書き込んだところで、後ろに下がりコーヒーカップを手に取った。


 2つ向こうの尾根の近辺に魔族の侵出点がありそうだが、さすがにそこまでは分からない。

 レンジャーに頼めば探ってくれるかもしれないけど、かなり危険な依頼になりかねない。とりあえずは、この辺りと考えておけば十分だ。


 2つ先の尾根との距離は、およそ1ミラル。そこから一気に西の柵を攻略するのはさすがの魔族でも行わないようだ。一気に谷を2つ越えねばならないからね。体力のある魔族でさえも息切れするということなんだろう。

 1つ先の尾根の緩斜面で体力を戻し、鯨波のように一気に谷を下りて西の尾根に攻め上る。これが魔族の基本戦略だ。


 2つ先の尾根で魔族が集結中に、石火矢2型を打ち込んだことがある。

 かなり大騒ぎを起こしていたが、結局は西の柵に攻め入ってきた。

 あの時に撃ち込んだ石火矢はそれほど多くない。20発程だったからね。

 100発を一気に撃ち込んだなら、更に命中精度の高い3型を打ち込んだなら……。

 その後の選択肢は3つになるな。

 1つ目は、撤退するということになるけど、人間の軍隊ではないからねぇ。8割ほど削減が出来たならその選択もあるかもしれないが、2型改を100発撃ち込んだとしても無理な数字だ。

 2つ目は、侵攻進路を変えるということも考えられる。

 強力な防衛陣に向かって進むのは、魔族だって嫌がるに違いない。マーベルではなく南の旧サドリナス領内に向かう可能性は無くはない。

 3つ目は、当初の目的通りに西の尾根を攻略してマーベルに攻め入るという選択になる。

 続々と谷を下りてくる魔族に対して石火矢を放ち続けることになるだろうし、谷に向かって爆弾やあの失敗作の爆弾を投げることになる。

 硫黄ガスの効果はかなり高いけど、風次第だからなぁ。やはり爆弾の数ということになるだろう。

 尾根を上がって来る魔族には弓やクロスボウ、それに銃撃で対処することになる。ちょっとした補給の遅れが、白兵戦の場を作り出しそうだ。


 テーブルに背を預けて、パイプを咥える。

 さすがに、1つ目は無さそうだな。

 2つ目と3つ目では、3つ目の方が可能性としては高そうだ。特に、魔族の王国が統一したとなれば、当初は軍事国家の形態をとるに違いない。あらかじめ決められた計画に沿った戦をしなければ、例え勝利したとしても指揮官は厳罰を受けるだろう。

 となれば、俺達が対処しなければならないのは、3つ目の事態と言うことになる。


「やはり、ある程度の正確さと正しい距離を知る手立てということだろうな……」


 つい呟きが大きくなる。

 黒板に描いて、それを口に出すことで認識が深まる。

 仮に、今までやって来た魔族の最大規模は約3個大隊だった。この2倍を想定される魔族軍として考えてみよう。

 6個大隊だから魔族軍の数は6万になる。

 1個小隊100体の魔族が野営する広さを50ユーデ四方と想定すれば、野営に必要な総面積は奥行50ユーデ、横幅は30000ユーデ、およそ20ミラルになる勘定だ。

 そんなに長くはならないだろうから、奥行きが深い野営になるはずだ。奥行きが1個中隊規模の500ユーデなら、2ミラル程度に収まるだろう。それでもかなりの広さだな。奥行半ミラル、横2ミラルほどの大きさを想定すれば良いだろう。


 その野営地に2型改を打ち込むとすれば、石火矢の被害半径である程度の打撃量を推定できそうだ。

 奥行750ユーデ、横3000ユーデになるから、総面積は2.3百万平方ユーデ。

 石火矢は着弾地点から半径15ユーデほどの敵に効果を及ぼすことから、被害面積はおよそ700ユーデ四方になる。

 簡単な割り算で出た石火矢の総数は3.3千本だ……。

 用意できる石火矢はせいぜい200本前後だからなぁ。何とも情けない効果になってしまう。それでも計算では1割弱は倒せるということになるけど、こんなに倒せるとも思えないな。

 野営地が広がっている場合は、あまり効果が出ないということが分かれば十分だ。 


 野営地よりも密集した状態の1つ目は、攻撃前に部隊を勢揃いさせた時だろう。

 軍隊もそうだけど、魔族も部隊を並べるんだよなぁ。

 その時の密集度はかなり高くなる。1体が立つ面積を1ユーデ四方と知れば、1個小隊は10ユーデ四方だ。中隊規模なら奥行が100ユーデになる。横は60中隊になるから600ユーデとなるな。

 総面積は多めに見積もっても10万ユーデ四方と言うところだろう。石火矢の被害半径を考慮すれば142発で全滅させることができるんだが、総都合よく満遍なく当たるとも思えない。だが、これなら石火矢の数を使えばかなり効果的であることは間違いないだろう。

 既に200発を運んでいるということだが、更に数を増した方が良さそうだ。


 最後は谷底だな。一番密集する場所でもある。

 ここは爆弾を降らせることで対処するしかないんだが、その爆弾をどれほど用意するかが一番悩むところでもある。

 爆弾を放るのはカタパルトで行うが、そのカタパルトの数が問題だろう。

 南北に伸びた尾根の要所に兵士の屯所や待機所が作られており、そこに置かれたカタパルトは多くて5台ぐらいだからね。出来れば数を増して置きたいところだな。


 潮が満ちるように尾根を登って来る魔族に爆弾や爆裂矢を放っているが、爆裂矢は数を相手には使わない方が良いだろいう。やはり小型爆弾を使う方が効果的だ。

 ブリガンディ王都でエクドラル王国軍が使っていた柄の付いた爆弾は、球状の爆弾を手で投げるよりも遠方に届くとヴァイスさんが言ってたな。

 あれを模擬したものを沢山作るのも1つの方法だろう。谷には届かなくとも、上り始めた魔族の密集箇所には届くんじゃないかな?


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