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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-034 招かざる客が来たようだ


「何を作るのかにゃ?」

「これかい? 深皿を作ろうと思ってるんだ。10個ぐらい作れば2、3個は何とかなると思ってるんだ」


「ふ~ん」という感じで俺の作業を見ているナナちゃんも、俺と一緒に粘土を捏ねている。

 ナナちゃんの方が何を作るか気になるんだけどなぁ。

 コップでもないし、ツボでもない。土器作り方はロクロが無いから粘土を長く棒のように伸ばしたものをぐるぐると巻いて形を整えて作っている。


「ナナちゃんは何を作るんだい?」

「これにお花を入れるにゃ。花壇だけでなくてテーブルにも置けるようにしたいにゃ」


 植木鉢ってことかな?

 それならと底に穴を開けて、植木鉢を乗せる浅い皿も一緒に作るように教えてあげた。

 釉薬もないし、焚火で焼こうとしているからどんな代物になるのか分からないけど、水が漏れなければ問題ない。

 防水塗料もあるんだから、最後に塗料を塗っても良さそうだ。


 3日ほど掛けて、10枚の深皿ができたところで天日で乾かす。

 しっかり乾燥させないと割れてしまうらしい。小学校時代の粘土工作がこんなところで役立つとは思わなかったな。


 10日ほど乾燥させたところで、表面に灰を溶かして塗り付けた。

 灰は釉薬になると聞いたことがあるが、釉薬が融ける温度まで焚火の温度を上げられるとは思えない。

 うまく行けば……、という思いだ。


「皆が指揮所の外に並べた物を見ていくんですけど……」

「あれですか? 例の魚を増やそうという計画の1つです。深皿が出来なかったら、木製の皿を作って貰おうと思っています」


 レイニーさんも気になっていたに違いない。俺の言葉にキョトンと下顔をしているから、どのように使うかまでは分からないんだろうな。

 

「偵察隊が持ってきた河原のたまり水は、あのままでよろしいのですか?」

「今のところは、あれで十分です。あの中にいる生物を増やしてるんですが、そいつらがどれほど増えるか、寿命はどれぐらいかが分からないんですよねぇ」


「何もいないですよ。水がだいぶ緑になってますけど……」


 緑は植物性プランクトンのはずだ。それを食べる動物性プランクトンを増やすことが必要なんだけどね。


「ちゃんといるんです……。やはり見ないと信じられないようですね」


 獣人族の人達は現実主義だからなぁ。宗教に染まらないのは良いことなんだけど、そんな獣人族の人達に一生懸命神の教えを説いている神官さんには、ご苦労様としかいえない。

 その苦労があってのことか、神を祭る祝日には教会に軍属の小母さんばかりでなく兵士達も詰め掛けているようだ。


「これで見ると分かりますよ。使い方はナナちゃんに教えてありますから」


 ドワーフ族の工房を率いている親方は、髭の中に顔があるという感じの人物だ。ガラハウという名前らしいが、いつも親方と呼ばれている。

その親方に頼み込んで作って貰った顕微鏡を、バッグから取り出してレイニーさんに渡した。凸レンズ2枚で作った顕微鏡は倍率が50倍にも満たないが、ミジンコの形が分かるから十分に使える。

 それにしても、レンズがあった方に驚いた。種類は少なかったけど、物を大きくしてみることができるからこの世界では子供の玩具として扱われているらしい。老人が使うものだと言っていたのは、老眼鏡ということでこの世界で使われていたのだろう。だがレンズを組み合わせるという発想は無かったらしい。

 ついでに望遠鏡も作って貰うことになったが、凸レンズだけではなく凹レンズも使うんだよな。商人が運んできたレンズをいくつか組み合わせて数個を作れば監視に役立つはずだ。


 しばらくすると、バタバタと足音を立てて2人が帰ってきた。

 そんなに慌てることはないと思うんだけど……。


「あれは何なんですか? 小さな虫がたくさんいましたけど」

「あの虫を増やしてるんです。魚が最初から大きければ良いんですけど、卵から孵ったばかりの稚魚はかなり小さいですからね。そいつらに食べさせるための餌なんです」


「ふ~ん」という感じで俺を見てるけど、理解していないだろうな。

 とりあえず、あの水を捨てないでくれればいい。

 池の傍に作ったログハウスは少し日当たりが悪いのが難点だ。

 それで指揮所の前に3つの水がめを置いて養殖を始めたんだけどね。


「最初から、池で育てるわけではないんですね?」

「この間作った皿で最初は育てるつもりです。ログハウス内に5つ準備していますから、この秋が楽しみです」


 冬の期間は、斜めに日が差すからログハウスの外でもミジンコの養殖はできるだろう。

 水がめを入れる簡単な箱はすでに作ってあるし、箱の蓋はガラスを使っている。小さなコンロをログハウスの中に置けば暖かくできるだろう。


 それにしても、魚を増やすことに頑張って欲しいと、他の仕事をさせて貰えないんだよなぁ。

 やはり魚は皆が欲しがるのかもしれない。

 農家の少年2人が俺を手伝ってくれているから、指示を出すだけでほとんど指揮所のお守をしているようなものだ。

 お守といえば、レイニーさんも同じなんだよなぁ。

 村の総責任者だからね。


「矢は3会戦分に500本の予備ですから、当座はこれで十分です。ボルトの方も3会戦分に予備が300。小石は門近くに小山を作りましたし、小石を入れた竹かごが5個はあります。裏の岩山からいくらでも運べますからこれで十分でしょう。問題は銃弾です」


 どうにか2会戦分というところらしい。クロスボウよりも次弾装填に時間が掛かるし、数発撃てばバレルの掃除だからねぇ。

 だが、石弓よりも強力な兵器だ。さらに銃弾のカートリッジを増やさねばなるまい。


「射撃練習を1か月に3発にしても、1個小隊に近い数ですからねぇ……。300発を購入しても、半数は訓練で消費されてしまいます。一応、火薬を直に使うやり方も教えました。個人装備として火薬のフラスコを持たせることで、実質は3会戦分になるんじゃないかと思います」

「ですが、それでは装填時間がさらに長くなってしまいます」


 こればっかりは、商人に運んでもらうカートリッジを期待するしかなさそうだ。

 次は500発を発注したらしいんだが、それまでに大きな争いが起きないことを祈るしかなさそうだな。


「食料は十分にありますから、半年は籠城できますよ。力攻めをする魔族となれば覚悟は必要でしょうが、とりあえずは招かざる客対応と王都からの使者でしょうからね。それほど矢も銃弾も浪費はしないはずです」

「道を整備したのは、失策だったかも……」


「道があればこそ、攻め手を門に誘導することができるんです。門の周囲は堅固に作ってありますが西の耕作地の方はそれほどではありません。道をたどってくる軍ほどありがたいことはないですよ」


 道を整備はしたが、森の中を真っ直ぐに通したわけではない。微妙にうねっているから、実際よりも森が深いと思うんじゃないかな。

 村の門から森まではおよそ200ユーデだが、これは長弓の飛距離でもある。この世界の弓は短弓だから、致命傷を与えられるのは100ユーデに満たない。

 バリスタは長弓並みの飛距離を得られるから、敵が森を抜ければこちらの攻撃範囲に入ることになる。


「バリスタは少し小さくなったようですけど?」

「あれで十分です。弦を引くにはロクロを使うことになりましたが、少し短い投槍を発射できますからね」


 その投槍は1基当たり30本も用意してある。しかも穂先は石器なんだよね。

 何度か試射したんだが、森の大木に半分ほど食い込んでいたからなぁ。プレートアーマーを着ていたとしても貫通するんじゃないか。


「招かざる客なら銃弾を数発撃てば逃げかえるだろうし、王宮からの使者なら会見をして帰って貰えば十分でしょう。周囲を2個小隊で囲んでいれば、大人しくしていると思いますよ」

「そうなれば良いんですけど……」


「とりあえず、招かざる客は俺の方で動きます。王宮の使者の場合は少し面倒でも、今の内から、宿泊所を囲む部隊を決めておいてくれませんか。実際に待機位置を確認して、柵等を用意しておくべきでしょう」

「そうですね。そちらは私が動きましょう」


 相変わらずレイニーさんは心配性だな。まぁそれだけの重責を負っていることは間違いないんだが……。

 レイニーさんに苦笑いを浮かべて頷くと、パイプを取り出して火を点ける。

 そんな俺に笑みを浮かべたレイニーさんがお茶を淹れようと席を立った時だった。

 小さな足音が近づいてきたかと思ったら、勢いよく扉が開かれた。

 ナナちゃんだ。そんなに急いでどうしたんだろう?


「大変にゃ! 大勢の人達がやってきたにゃ。エルドさんがお兄ちゃんを呼んでくるように言ってたにゃ!」


 ナナちゃんの頭を撫でてあげながらうんうんと頷くと、レイニーさんに顔を向ける。


「どうやら招かざる客が来たようです。俺が相手をしますから、ここにいてください。援軍は必要ないと思いますが、念の為です。……エニルさんに部隊を率いて南門に来るよう伝えてくれないかな? もちろんナナちゃんもだからね」


「分かったにゃ。すぐに伝えるにゃ!」


 凄い勢いでナナちゃんが指揮所から駆け出して行った。

 さて俺も行ってみるか。


 のんびりと南門に歩いていると、エニルさんが2個分隊を率いてやってきた。

 小銃を持たせたかったけど、全員が拳銃なんだよなぁ。短槍を持っているから、傍目では槍兵と思われそうだ。

 ナナちゃんも弓を持っている。腰の矢筒には12本の矢が入っているはずだ。至近距離なら名人級だから頼りにさせて貰おう。


「銃弾は1会戦分ですが、火薬のフラスコと弾丸を別に持っています。装填は持ち場に着いてからですが、遅すぎますか?」

「最初は口喧嘩だからその間に装填して欲しい。俺の合図で第1分隊が威嚇射撃。次の合図で第2分隊が相手を狙ってくれ。それと、相手が先に手を出すことが重要だ。俺が合図をするまでは、身を隠して欲しい」


 矢を射かけてくることは想定済みだ。俺だけが目標になっているなら、矢を放った瞬間に擁壁に隠れれば矢に当たることはない。


 城門に前の広場から、塀の内側に作った石段を登り楼門に上がる。

 簡単な屋根を作ってあるし、周囲は石の擁壁だ。急場しのぎの破壊槌ぐらいでは出城のような構造の楼閣を崩すことは出来ないだろう。

 門の扉は頑丈な板だし、それを破ったとしても城壁にもう1つの門がある。

 力攻めはかなりの犠牲を出すことになるはずだ。


「おお、やってきましたな。あの連中です。それにしてもこの魔道具は便利ですね。まるですぐそばにいるように奴らを見ることができます」

 

 エルドさんが嬉しそうに、森へと続く道に腕を伸ばして教えてくれた。

 各門を守る連中に渡した望遠鏡は、それほど良い品ではないのだが5倍ほどの倍率を得られる。

 自分の望遠鏡を取り出して眺めてみると、馬に乗った人物が3人、槍や弓を持った兵士が10人ほどだ。

 いくつかの貴族が同盟を結んでやってくるかと思っていたが、どうやら相手は1貴族のようだな。

 どのように出てくるか、しばらくは眺めてみるか。

 兵士達を後ろに下がらせて盾の陰で休むように言いつけると、彼らを眺めながらパイプを楽しむことにした。


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