表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
32/384

E-032 魚を獲るのではなく育ててみようか


「それでは、我々にも報酬を戴けると?」

「それほどの額ではないし、作物の半分を戴くことになってしまう。見掛けは税率5割だが、村の自給ができるまでは、申し訳ないが我慢して欲しい」


「もったいないお言葉……。作物は全て納めることに致しましょう。収穫した作物で私共が食つなぐことなど不可能です。それに、耕作地の分配ができるまでには何年か必要でしょう。それまでは全て村に収めることにしましょう」


 開拓民代表のマクランさんが頭を下げてくれた。

 自給自足ができて、作物を商人に売り渡せるようになるまでは、どの王国も税を徴収することはないそうだ。

 場合によっては、開拓を行った世代が50歳を超えるまでは税を全額免除することもあるらしい。

 その後は継続的に税収が増えるのだから、多くても10年程度なら税の免除は王国にとっては問題とならないのだろう。

 その代わり、開拓を始めてから自給自足が成り立つまでの期間の援助は全くないそうだ。

 開拓を行うにも資金がいるということになるのだろうが、少なくとも3年は食いつないでいく資金が必要になるだろう。

 開拓の合間に、狩りをしたり炭を焼いたり……、子供達は薬草を摘んで食料を手に入れていたらしい。

 その暮らしを考えるなら、ここでの暮らしは毎日の食事が出るだけでもありがたいということになるんだろうな。


「肥料も手に入れて頂きましたが、できれば家畜を手に入れて欲しいところです。鶏や山羊は食料にもなりますが、糞も落ち葉と一緒にすることで良い肥料にすることができます。それに山羊を放牧することで開墾跡地の下草を刈る手間が省けるのです」


 一石二鳥どころの話ではないな。多目的に使えるし、卵や山羊のミルクもパン作りに使えそうだ。ある程度の数を手に入れたなら、チーズ作りもできるんじゃないか。


「夏至に商人達が村を訪ねてきたら、交渉してみてください。できれば銀貨20枚の範囲で纏めるようお願いします」

「それでしたら、親山羊に子山羊が10頭以上手に入ります。鶏も20羽を超えるでしょう。了解しました。飼育小屋は我等で作ります」


 交渉は担当のエクドラさんに任せよう。

 話が纏まらないときに、俺達が出張れば良い。


「牧畜も始めるんですか?」

「牧畜というよりは、開墾の手伝いができる家畜ということになるんだろうね。俺が住んでいた村でも、畑のあぜ道の草取りは山羊の仕事だったし、子供達が毎朝卵を小屋から運んでいたよ」


 さすがに放牧までは考えていない。だけど山羊なら数十頭ぐらい欲しいところだ。チーズ作りを本格化するならそれぐらいは必要なんじゃないかな。


「できれば魚をもっと獲れないでしょうか?」


 ネコ族だけあってレイニーさんの願いは切実だな。だけど、案外難しいのが魚の養殖らしい。

 村でもやってなかったからなぁ……。

 俺のもう1つの記憶にある世界では盛んにやっていたようだけど、養殖に適した魚を見付けることから始めないといけないようだし、なんといっても養魚場が必要になる。

 この辺りは川の上流部に近いから、陸封されたサケの親戚がいるかもしれないな。

 少し川に下りて試し釣りをしてみるか。

               ・

               ・

               ・

 釣りに行くと言ったら、ナナちゃん以外にエルドさんと弓兵を率いるヴァイスさんまで同行することになってしまった。

 釣るのは俺とエルドさんだけなんだが、同行者が20人ほどいるのは考えてしまう。

 エルドさんは釣りが好きみたいだし、ヴァイスさん達は俺達の獲物が目的なんだろう。

 弓兵のお姉さんたちが持つバスケットには全員の弁当が入っているらしいから、ナナちゃんはピクニック気分でご機嫌な足取りで俺の後ろを付いてきている。


「中流では浮き釣りですが、ここは流れが速そうですね」

「とりあえずやってみようよ。何か釣れるかもしれないし」


 河原の石を退けると、カゲロウの幼虫が直ぐに見つかる。

 釣り針にチョン掛けして大きな石の近くに仕掛けを投げると、直ぐに当たりが出た。

 水中に浮きが吸い込まれたところで釣り竿を持った手首を返すと、ぐいぐいと竿が引かれる。

 何が掛かったんだろう?

 川下に移動しながら岸辺に引き寄せ、最後はごぼう抜きだ。

 すぐにナナちゃんが飛んで行って、魚を両手で掴んで俺の見せてくれた。

 30cmに満たない魚だけど、中流域では見かけない魚だ。近寄ってきたナナちゃんの持つ魚から釣り針を外したところで、魚を調べてみる。


「釣れましたね。なんという魚でしょうか?」

「名前は分からないけど、これってサケの親戚だね。ほら、ここに小さなヒレがあるだろう? サケの種類の特徴なんだ」

 

「サケなら海から上がったところで網を仕掛けて獲ると聞いたことがありますが、かなり大きい魚ですよ」

「サケは川で育って海に行くんだ。故郷の川に戻って産卵するんだよ。産卵の前に網で捕まえてしまうんだね。だけど捕まえる数より上流に上っていくサケの方が多いはずだ。

 この魚は海に行かない種類なんだ。一生をこの川の上流部で過ごすことになる。

 あまり釣り過ぎると釣れなくなってしまうのが問題だな」


 ナナちゃんが早く焼きたいみたいだから、「もういいよ」と言ってあげた。すぐにお姉さんたちのところに持って行った。捌いて串に差してもらうんだろうな。

 お姉さんたちの眼差しが気になってきたから、そろそろ次を釣ることにしよう。


 昼過ぎまで掛かって、どうにか人数分を釣り上げたところで竿を畳む。

 焚火を囲む連中の中に交じってパイプに火を点けていると、ナナちゃんが串焼きを1本差し出してくれた。


「俺は良いから、ナナちゃんに上げるよ」


 ナナちゃんは嬉しそうにほおばり始めたけど、周りのお姉さん達がうらやまし気にナナちゃんが食べるのを見てるんだよなぁ。

 皆、串焼きを1本食べたはずなんだけどね。


「確かに美味しい魚ですね。皆にも食べさせてあげたいんですが、毎日ここで釣りをするのは無理でしょうか?」

「それは許可できないな。だけど、秋口に思いきり釣りをしてほしいんだ。この魚を育ててみたくないか?」


「「「できるんですか(できるのかにゃ)!!」」」


 皆が一斉に、大声を出した。

 まぁやってみないと分からないけど、やらないと皆で食べるのは無理だろうな。


「結構準備がいるんだ。穴掘りぐらいは手伝ってくれよ」

「穴……、穴というより池ですね。どれぐらいの大きさになるんでしょう?」


 直径10ユーデは欲しいな。できれば2つ作れると良いんだけどね。

 人工授精で稚魚を孵して育てるんだから、ミジンコの養殖や、エサも必要になってくる。

 サケ科の魚は貪食らしいが草食ではなさそうだ。蛹や虫を干して細かくすりつぶすことも必要だろう。

 そういえば、魚も食べるんだよなぁ。干し魚を粉にしても良いかもしれない。

 養魚センターに見学に言った記憶もあるんだが、どんな餌を食べさせていたのかまでは覚えていないんだよね。

               ・

               ・

               ・

「魚を増やすと聞きましたが?」

「あれ? レイニーさんの耳にも入ってるの」


 ネコ族の魚に対する思い入れというか、執着心は凄いな。思わず感心してしまった。


「やってみようとは思ってるんだけど、うまく行かない確率の方が高いよ。でも失敗したら、子供達の水遊びの場ができるから無駄にはならないと思うんだけどね」


 夏は水浴びができるし、冬は氷滑りが楽しめそうだ。

 

「1個小隊で足りますか! 皆が参加したがっていますが、さすがに1個小隊が割り振れる限度になります」


 飲んでいたお茶を噴き出しそうになった。

 気管に少し入ったに違いない。かなり喉が痛いから咳をしながら、恨めし気にレイニーさんを見る。


「少し多いように思えるんですが? 10人もいれば十分だと思ってますよ」

「早目に作れば、それだけ多くの魚が得られるのではと……」


 簡単じゃないんだけどなぁ。

 だけど、そういうことなら早めに養魚池を作ることができそうだ。


「場所と池の形を考えますから、少し待ってください。場合によっては柵内の空き地を使いたいんですが、それは許可願います」


 うんうんと頷いてくれた。案外レイニーさんが一番食べたがっているようにも思えるな。明日にでも場所を探してみよう。

 人数が多いなら、池は3つぐらい作れそうだ。

 待てよ……、孵化したばかりの稚魚を育てる場所は、外とは行かないだろう。

 大きな桶が欲しいところだし、水の確保もしないといけないんじゃないか?

 そんな稚魚に与える餌も問題だ。

 考えただけでも、これはちょっとと思えてきたけど……。目を輝かせて俺を見ているレイニーさんを見ると、止めようとも言えないところが辛いところだ。


「頑張ってはみますけど、上手く行かなくともがっかりしないでくださいよ」

「大丈夫です。レオンさんなら絶対にできますから!」


 レイニーさんの過大な期待を一身に浴びた状態で、必要な品物をメモにかき出すことから始めることにした。

 木桶よりは焼き物の深皿のような品が良いのかもしれないな。

 卵を取り出して受精させるための細かな網も欲しいところだ。付加した魚を育てるのは……、しばらくはお腹の栄養で何とかなるはずだから、少し大きくなった時に何を食べさせるかということになる。

 配合飼料は買えないからなぁ……。メダカの餌でもあれば良いんだろうけどね。

 自然の稚魚は何を食べるんだろう?

 川の流れが速いから、中流域まで流されるに違いない。

 となると動物性プランクトン辺りということになるのだろう。ミジンコはこの世界にもいるんだろうか?

 かなり小さい微生物を養殖することになりそうだな。動物性プランクトンが食べるのは植物性プランクトンということになるんだろうから、それも養殖の対象になりそうだ。


「1年で上手く行くとはとても思えません……。少しずつ改良して育てる努力をすることになりそうです」

「灌漑用の池に魚を放すということは農村で良くあることだと聞いたことがあります。でもレオン様は、こんな澄んだ水に棲む魚を育てるんでしょう? 美味しい魚ですから村の全員が期待していると思いますよ」


 なるほど、魚を大きくして食べるのは、この世界でも例があるってことだな。

 だけど中流域でなら、水中にすむ微生物の数も多いだろうし、エサとなる水生昆虫も多いに違いない。

 それに池に放流するのは、ある程度大きくなってからだろう。

 俺達は、その前の幼魚から育てることになるんだからね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ