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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-031 面倒な連中が来る前に


 夏至に備えて、宿舎を3棟増築した。1棟は倉庫兼用だが、商人達がこの村まで来てくれるなら宿舎ぐらいは準備しておかねばなるまい。

 黄銅鉱は工房の連中が採掘してくれるし、砂金の方は定期的に1個小隊を採取に向かわせている。

 金貨の半分は銀貨にしてくれと頼んでおいたから、夏至には嗜好品を買う連中も出てくるだろう。

 その前に、各自の給与をどれぐらいにするのかを、レイニーさんに悩んでもらわないとな。


 ヴァイスさんは部下に弓の練習をさせているようだし、エルドさん率いる軽装歩兵は新たな装備であるウーメラを使った投槍の練習に余念がない。

 初めて投げるのを見せた時には、その威力に驚いていたからなぁ。

 オーガでも数本突き差すことができるなら、軽装歩兵で仕留めることも可能だろう。

 槍兵は、投石具を使って投石を少年達に交じって練習しているようだ。

 槍が使える距離まで、じっと待つことはないとダレルさんが言っていたけど、確かにその通りだ。

 

 残ったのは銃兵達だけど、練習で消費するカートリッジが半端じゃないのが問題だ。

 月に3発だけ許したんだが、それだけでもかなりの数になってしまう。

 春分に用意してもらったカートリッジの数を倍にしてくれるよう頼んではみたが、こればっかりはどれぐらい準備できるかちょっと気になるところだ。

 銃が使えないときはクロスボウを使うと言っていたけど、弾道が似ているのだろうか? どっちつかずになっても困ってしまうんだが……。


「レイニーさんは銃を撃ってみましたか?」

「2発ほど撃ちました。結構衝撃があるんですね」


「猟にも使えるように、少し銃身が長いんです。短いともっと衝撃が来ますよ。それで結果は?」

「20ユーデの距離なら、的に当てることができましたが、中心は無理でした」


 ある程度の素質はあるんだろうな。

 銃兵に交じって、練習を続けるべきだと進言しておく。


「今のところ、魔族の姿は全くありませんが、来るのでしょうか?」

「魔族より、面倒な相手が来ると思います。砂金が取れるとなれば、その場所を奪いに来るのは間違いありません。でも、王都からはかなり離れているようですから、来るとすれば下級貴族あたりでしょうね」


 あわよくば自分のものにしようと、王宮が動く前にやってくるんじゃないかな? 欲に目が眩んだ連中だから、貴族の中でも一番厄介な相手だ。

 上級貴族のように長い歴史を持っているような貴族は、それなりに根回しをしっかりとしてくるんだろうけど、貴族の名を持つだけの貴族はそうではない。

 所領を持たないから、王国より与えられる報酬だけで細々と暮らすのが多いようだが、中には貴族であるということを鼻にかけて、わがままし放題という連中もいるらしい。

 俺が準爵という貴族の仲間入りをしていても、軍務に付くように手を回してくれたのは、そんな連中と関わらないようにとの父上の配慮もあるに違いない。

 とりあえずは追い返せば良いだろう。

 国王の代理でもあれば、話を聞くぐらいの事はしないといけないだろうけどね。


「爵位の低い貴族なら、2個分隊を揃えることも出来ないでしょう。固く門を閉じていればそれで十分だと考えてはいるんですが」

「でも再びやってくると思いますが?」


「間違いなく来るでしょう。でも、向こうから攻撃してきたならこっちも迎撃が出来ますよ。さすがに俺達を滅ぼせという王宮の指示は受けているとは思えません」


 そんな連中だけど、被害を受ければ王宮に泣きつくのは目に見えている。

 本格的な交渉は、そこからになるだろう。


「交渉は、レオンに一任してよろしいのでしょう?」

「話は俺が進めますけど、隣にはいてくださいよ。この村の初代村長であり、俺達の中隊長なんですからね」


 ナナちゃんは隣にいられるかな?

 従者なんだから傍にいて欲しいけど、まだ小さいからなぁ……。

               ・

               ・

               ・

 俺達兵士以外の農民達は、森を切り開いた場所をさっそく耕し始めた。

 晩秋に集めた落ち葉が一冬でかなり良い肥料になったようだ。そんな落ち葉と、薪にならない小枝を焼いた灰を荒地に鋤き込んでいる。

 何を最初に育てるんだろう? さすがにライムギは撒かないだろうと思うんだけどね。


「ここにいたにゃ! レイニー隊長が呼んでるにゃ」


 畑仕事を眺めていた俺の元に、ナナちゃんが走り込んできた。

 さすが従者ってことかな?

「了解だ!」と言って、頭を撫でてあげる。


 畑と村の境界には、低い丸太塀が巡らせている。頑丈な柵は、作っている途中のようだ。

 俺の身長ほどの丸太の塀では、ちょっと防衛的には難があり過ぎるからなぁ。柵で補強したところで、じっくりと高い塀を作り上げていこう。


 ナナちゃんの先導で、指揮所に向かうとレイニーさんが村の地図と壁に張った作業計画の進捗表を眺めていた。

 兵士達は、南と東の塀の工事をしているはずだ。昨日の打ち合わせでは、特に問題は無かったはずなんだが……。


「済みません。呼び出してしまって。実は……」


 レイニーさんが俺に掛けるように言った後で、要件を切り出した。

 どうやら、南の門に付いて相談したかったらしい。


「あんなに頑丈に作るとは思いませんでした。門と言ったら、塀と一体に作るのが一般的ですけど、あの門は塀から張り出しています。あれで役に立つんでしょうか?」

「城の作り方の基本は、いかに防御力を上げるかが重要です。どこに作るか、どんな構造にするか、水の確保をどうするか……。

 それを加味して城壁を作るんですが、防御は攻撃を加えることでも上げることができるんです」


 塀から台形に南に突出した形だからなぁ。突出した長さは10ユーデ以上ある。

 石造りの2階建てだが、1階は2重の門があるだけだ。2階は、正面だけでなく、左右に狭間を設けてある。これで塀に取り付く敵を側面から攻撃できる。

 屋上は、胸の高さまで石を積み上げ、大型のクロスボウであるバリスタを設けてある。

 かなり頑丈な門は、門の破壊を断念させて塀を攻撃するように仕向けるためだ。


「兵達が、これを作るよりも塀を強化すべきだろうと話していたんです」

「ある意味見掛け倒しに見えますけど、それなりの効果はありますよ。あれを見て、真正面から門を攻撃しようとは敵側も考えないと思います。左右の塀に攻撃が分散しますし、塀の方にも色々と細工をしていますよ」


 塀の周囲は狭いけど空堀を掘ってある。深さは腰にも達しない深さだが、空堀を作ることで丸太塀を高くすることができるのだ。

 梯子を掛けるにしても、それだけ長いものを準備しなければならない。

 梯子が長くなれば、それだけ持ち運びが不便だし、上るにも一気に駆け上ることなどできるものではない。弓と槍の餌食ということになる。

 さらに、塀から森に向かって100ユーデほどの距離を伐採したが、切り株は残っているし、ところどころに落とし穴を掘ってある。

 さすがに落とし穴の中に尖った杭を埋めることはしなかったが、敵の攻撃速度を鈍らせることはできるだろう。

 それだけ、矢や銃弾を浴びる時間が長くなるはずだ。


「森の中を通る道は、そのまま城門に繋げることで良かったのですか?」

「道があるなら、道に沿って歩きたくなるのが人間です。空堀に作った橋は、いざという時には城門側に引き上げられます。空堀を埋めないことには破壊槌さえ使えません。それに橋の周辺だけは深く掘ってあるから、簡単に埋めることはできないでしょう」


 そうは言ったが、それを簡単に行う手段もあることはあるのだ。

 死兵を次々に城門に繰り出して、死兵の体で空堀を埋める。冬なら死体が氷付くだろうから、破壊槌を運ぶことが可能になる。

 まぁ、そんな戦法を王国の軍隊が使うとは思えないが、魔族ならやりかねない。

 征服した種族の命はかなり軽いらしい。それにゴブリンならいくらでも集まるだろう。


 魔族の偵察部隊ぐらいならなんとでもなりそうだが、もう少し防衛力を上げねば本隊を食い止めることは難しく思える。

 ある程度、敵の攻撃を誘導できないだろうか?

 それが可能ならば、砦にいた時に作って貰った小型の大砲が役に立つんだが。


「でも、東の城門は石塀と一体なんですよね?」

「あっちは、そもそも攻撃側が不利なんです。大軍を一気に押し寄せることができません。滝の裏側を通るとしても兵士4人が並んで歩くことなど不可能ですし、荷車も無理でしょう。

 城門から滝を超えた先に、小さな広場があるようだけど、そこまでの距離は俺がどうにか矢を飛ばせる距離です。こちらの城門を見ることは出来ても攻撃するのは無理かと。

 東も石垣で塀を作ってありますから、1個分隊でも防衛できると思いますよ」


「そうなると、西が問題ですね……」

「北は急峻の岩壁ですから、あれを下りてくるとは考えられませんが、一応柵は二重に作ってあります。

 レイニーさんの言われる通り、確かに西は問題です。砦の塀は低い丸太塀ですからね。その先に畑を作りましたから、あまり踏み荒らされるようでも困ります。

 南の森を抜ける道からは、森が畑を隠してはいるんですが、多重の柵で足止めを行い弓と銃で対処するしかありません。農民達に石弓や投石具の練習をさせているのは、自分達が耕した畑を荒らされないように、防衛を行うためなんです」


 こじんまりした村と森の奥に作った畑を目指したんだが、だいぶ違ってしまったな。

 村も俺の想定より2倍に膨らんでしまったし、畑にはまだ切り株がごろごろしている。

 皆で、頑張って引っこ抜いているようだけど、乾燥させて薪にするしかないんだろうか?


「ところで、銅鉱石や砂金の売値の分配案は纏まりましたか?」

「食事と住処は共同ですから、嗜好品や衣服を揃えるぐらいでしょう。砂金が金貨5枚になるなら、成人を過ぎた全員一律に銀貨を2枚支給できるでしょう。子供達もいろいろと手伝ってくれましたから、8歳以上の子供達には大銅貨1枚を支給します。

 そこで1つ相談なんですが……、投石具を使える子供達12人には銅貨を10枚追加しても良いでしょうか?」


 一律で考えているようだけど、兵士と民兵についての割り増しは必要だろう。

 食堂からお弁当を運ぶ子供達にも何らかの報酬を出すことになるだろうが、それは戦が終わってからでも良いはずだ。

 村の中にわだかまりを作らないように、皆の了承を得ておく必要があるかもしれないな。レイニーさんの考えを元に、今夜の集まりで相談すれば良いだろう。


 俺の案を説明すると、安心したように表情を和ませる。

 共同体だから、常に同一の給与ということではやる気をなくすに違いない。

 各自の仕事を明確にし、その上で動員をかける場合にはそれなりの対価を与えるということにすればいいだろう。

 農民の作った作物は無償で良いと言ってくれたけど、市価の半値程度で買い込んでも良さそうだ。少しずつ農家の収入が増えるなら何時かは援助が必要なくなる。

 農業の生産性はこの村の将来にも結び付くからなぁ。

 優遇策を取って、振興を図らねばならない。


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