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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-299 魔族の姿が見えない


 東のフイフイ砲から放たれた2発の爆弾の炸裂を合図に俺達は次の通りに向かって前進する。

 後方の警戒をエルドリア王国軍が引き受けてくれたから、ヴァイスさんも銃兵の後方に部隊を配置しているようだ。

 爆裂矢を持っているから期待させて貰おう。

 風が少し強くなってきたようだ。北への延焼が続いているのも俺達にとっては好都合。通りに全く魔族の姿が見えない。


「移動柵を配置したなら、北側の建物に松明を投げ込め! 燻っているぐらいなら魔族が潜んでいるかもしれん」


 俺の号令でトラ族の兵士が近くの建物に松明を投げ込み始めた。

 下火になった日が再び燃え上がる。


「出て来んな……。やはり向こうの塀の奥に逃げ込んだとみるべきだろう」

「油断はできませんよ。再び爆弾を降らせるようですから、反応見ることにしましょう」


 出てきても、小隊ほどの数ならなんとでもなる。

 何時飛び出してきても良いように銃兵達が銃を構えているようだ。


 2時間ほど経ったろうか。再び前進の指示が来る。

 後4回これを繰り返すことになるのだが、貴族街もこんな形で進むことになるのだろう。

 だいぶ叩いてはいるんだが……。


 明け方近くになると、すぐ目の前に貴族街と庶民街を隔てる壁があるだけになった。

 ほとんどの建物が屋根まで崩れているのだが、運よく屋根が残った建物にヴァイスさんが上って塀の北側を偵察してきてくれた。


「魔族がいないにゃ。魔族の死体まで消えてるにゃ。たっぷり石火矢を放ったから死体が無いのはおかしいにゃ!」

「さらに北に移動したということか? だが北の城壁に門は無いはずだ。これで完全に包囲したことになるんじゃないか」


「まだ分かりませんよ。魔族の大物の姿をまだ見てませんからね。魔族が2個大隊を越えるなら、絶対にオーガやトロルがいるはずです」

「確かにそうだったな。西の尾根では柵近くまでやって来た。となると……、何か別の場所にいるということにならないか?」


 王都の地図を広げて、大型の魔族が隠れられるような場所を探す。

 東西の城壁の上は、味方の弓兵達が占領しているはずだ。最初はかなりのコボルト弓兵がいたんだが、城壁の上で矢合わせをしているという話も聞かないんだよなぁ。銃兵達がだいぶ倒したらしいが、それでも魔族1個小隊程度だろう。2個大隊の魔族ならば中隊規模のコボルト弓兵がいるはずだ。

 王都の建物に潜んでいることも考えられるけど、建物に火を放って飛び出してくるのはゴブリン達だけだ。


「本当に、王都の出入り口は東西と南だけなんでしょうか? 王族達の緊急脱出口があるように思えるのですが?」

「考えられるけど、それなら魔族が来たに逃走する姿を東西の攻城櫓の上から見られるんじゃないかな? ……でも、ひょっとしたら……」


 王都の火災の煙に隠れての逃走、ということも考えられそうだ。

 一時は1つ先の十字路でさえ煙で見えなかったからなぁ。


「でも、逃走をしていると仮定しても、オーガやトロル達が人間用に作られた抜け道を通れるでしょうか? あの大きさですよ?」

「魔族が地上に現れるのは、良い兵士を得るための間引きとレオン殿は言ったことがある。これが間引きではないのか? オーガやトロルの個体差はそれほどないはずだ。コボルトやゴブリン達のような数を伴う連中こそ、戦で生き残った兵士は死んでいったものよりも抜きんでていたことになるはずだ」


 大型の魔族は、間引くことも無いということか!

 となれば、どこかに残っているはずなんだが……。


「案外宮殿の裏手辺りかもしれませんよ。小さな林が作られていますし、他に建物がありませんから、火の手を逃れる事も出来るでしょう」

「建物の中では無いと?」

「それこそ建物が炎上したら終わりです。魔族と言えども、それぐらいの知恵はあると思いますが?」


 ユリアンさんの言葉に、小さく頷いた。

 となると、最後は脱出できなかったゴブリン達とオーガ等の大型魔族との戦になりそうだ。


「死兵相手ということですか……」

「そうなるでしょうね。たとえ魔族であっても、死にもの狂いで向かってきますよ」


 怪我では済まないだろうな……。

 いったいどれだけの死者が出るか想像すらできない。

 だが基本戦術はこれまでと同じだ。魔族を近付けさせない。

 その為には……。

 急いで小隊長達を集めることにした。

 残った小型爆弾、放炎筒、それに石火矢と銃弾や矢がどれほどあるのか。

 確認すると共に、最後の魔族との一戦にどれだけ残して置けるか考えねばなるまい。


 エニル達の話では、残り3割ほどらしい。

 銃弾は2会戦分残っているし、ヴァイスさん達が盛んに矢を放っていたけど回収できた矢もあるとのことだ。爆裂矢も1人5本は残っているし予備も100本はあると答えてくれた。


「個人装備の爆弾はかなり消費しましたが、弓兵や槍兵から譲って貰いましたから全員が1個以上持っています。予備は50個程ありますが、これは最後の戦に取っておくべきでしょう。放炎筒は、十数本というところです」

「今夜で新型石火矢は使いきると思います。残りは通常型が120というところでしょう。半数は、荷車から水平発射に使用したいと思っています」


「とりあえずは何とか切り抜けられそうだな。ヴァイスさんの確認では貴族街との仕切りを作っている低い壁までは魔族の姿が見えないそうだ。さらに壁向こうまで魔族の姿が無いとなれば、少し考えなくてはなるまい……」


 可能性としては2つある。1つは今までの戦で魔族を壊滅出来たという事。もう1つは更に北の王宮に潜んでいること。

 前者は魔族の死体の数を推定しても数が合わない。城壁を越える前後に爆弾や石火矢を撃ち込んだが、建物の被害は著しいが魔族の死体が無い。最初の通りでの戦で魔族の死体の山を築いてはいるが、その数は3軍合わせて千を超える程度でしかない。


「魔族は共食いをするから、死体の数が少ないのは理解できるんだが、それにしても少なすぎる。2万を超える数なんだが……。となると、考えられるのは石火矢や砲弾を直接浴びない場所に隠れているということになる。場所はこの辺りだろう。王宮南の宮殿が丁度壁になるはずだ。更に、万が一の場合に国王達が王宮を抜け出す抜け道があるに違いない。それほど広くはない通路だろうから、大勢で逃げるには時間m御掛かるだろうし、オーガ達が通れるとも限らない。最後は死にもの狂いで襲って来るぞ!」


「それこそ、我等兵士の望むところです。まだ短槍しか使っていませんからなぁ。長剣を使わずに帰ったならガイネル隊長に何を言われるか……」


 最後は大笑いをしている。トラ族の連中は血気盛んなようだ。

 ヴァイスさん達も、目を輝かせているんだから困ったものだ。長剣を引っ提げて前に向おうとするティーナさんを必死で抑える自分の姿が目に浮かぶ。


「現在は、そんな状況だ。さすがに夜間にあの塀を越えるのは無謀だろう。明日の明け方が勝負になりそうだ。たっぷりと松明を用意しておいてくれ。貴族街もやることは今までと同じだからな」

「了解です。ですが直ぐに火を放つのですか? 蓄財しているようにも思えるのですが?」


「それは今回参加した4つの軍で等分するとのことだ。館の中を探索するなど時間の無駄でしかない。最後に掘り起こせば済むことだからね」


 あまり納得はしていないようだけど、下手にお宝探しをしようものなら火事に巻き込まれかねないからなぁ。

 各隊長達には、部下の手綱をしっかりと握っておいてもらいたい。


「俺の話は、ここまでだ。日が上ればあの塀を越えるぞ。今の内に少しでも体を休めておいてくれ」


 小隊長達が戻っていく。

 ナナちゃんも休ませないと……。隣にいないので周囲を眺めてみると、荷車の上で横になっていた。さて、俺も少しは休もうか。

 テーブルに体を預けたのは覚えているんだが……。


 ユサユサと体を揺すられて目が覚めた。

 その場で立ち上がると、強張った体を治すように大きく伸びをする。

 バキバキと体のあちこちから音がするんだよなぁ。


「さっき、連絡があったにゃ。『1時間後に進軍開始』にゃ」

「10分前にも連絡してくれるんだろう?」


 俺の問いに、ナナちゃんがウンウンと頷いてくれた。なら、お茶を飲む時間ぐらいはありそうだ。

 ナナちゃんに頼むと直ぐにカップに淹れて持って来てくれた。

 固いビスケットのような携帯食をお茶で流し込んでいると、ティーナさん達がやってきた。

 挨拶をしたところベンチに腰を下ろし、ナナちゃんからお茶のカップを受け取っている。


「全く、戦場なのだから朝は早く起きるものだぞ。まだ10分前の連絡は来ぬが、マーベル国軍は既に準備出来ているようだ。士気も高い」

「こればっかりは性格なんで、どうしようもないんです。そうなると俺だけ遅れている気がしますが、短槍は石火矢を放つ荷車に積んでありますし、長剣は背負ったままです。弓と矢筒を出せば良いだけですからね。お茶を飲んで一服するぐらいの時間はあると思いますよ」


 進軍の準備中なら周囲のざわめきが聞こえるはずだ。それが一切ないと言うことは、全軍が何時でも進軍できる状況にあるということだろう。

 ビスケットを食べ終えたところで席を立ち、お茶のカップを持って通りの先にある塀を眺める。

 不気味に静まり返っているなぁ。

 塀までの距離はおよそ100ユーデほどだ。

 通りの周りの家は焼け落ちた残骸が燻っている。これなら問題は無さそうの思えるんだが……。

 お茶の残りを一息に飲んで、カップをテーブルに置く。

 最前線のトラ族兵士のところに行くと、塀の手前で爆弾を数個投げ込むように指示を出す。

 塀の直ぐ後ろに魔族が隠れているなら、何らかの反応が出るはずだ。

 

 帰る途中の松明でパイプに火を点けると、再びテーブルに戻ろうとしたんだが、綺麗に片付けられていた。

 矢筒を取り出し腰に付けると、矢を確認する。半数が爆裂矢だな。弓を取り出して俺の準備が終わる。


「矢の数だけ魔族を倒せるのだからなぁ。弓兵をもっと訓練させたくなるぞ」

「それは止めておいた方が良いですよ。遠くに飛ばす練習の方が効果があります。大勢で一斉に矢を放てば敵を面で制圧できるんですからね。俺は飛び出してくる魔族を倒しているだけですよ」


 その役目はクロスボウ兵が担いつつある。

 銃兵で敵の動きを止められるなら、弓兵は爆裂矢を使って後方攪乱に用いたいところだ。

 


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