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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-003 アトロポス神との出会い


 オリガン家の所領にあるテンベの町は、オリガン村から1本道を東に歩いて半日程の距離にある。

 町の発展は、南の漁村で作られた干魚を王国内に広く運ぶ行商人の働きが大きいようだ。

 王国にはオリガン家の所領にある漁村以外に2つの漁村があるようだが、オリガン家の漁村が一番大きいらしい。

 テンベの町は、干魚を運ぶ行商人達でいつも賑わっている。


 数日おきに王都に向かう荷馬車が出ているから、それを利用させて貰うつもりだ。御者も駄賃欲しさに旅人を歓迎してくれるらしい。


 のんびりとテンベに続く道を歩く。

 これからは自由の一言だ。解放感で足の疲れなど気にならない。


 昼時になると、遠くに見えていたオリガン村の教会の尖塔も見えなくなってしまった。

 防衛上の理由から町ではなく村に館を構えたらしいのだが、村の人口を2千人以内に抑えるという初代当主の教えをいまだに守っている。

 確かに街道沿いの町は、南北から物資が集まるし、いろんな連中がたむろしているからそれも賢明な選択ではあるのだろう。

 だけど荷馬車がすれ違えるほどの広い道を、町と館間に作ったなら余り効果が無いんじゃないかな。


 やがて、小川に掛かる橋が見えてきた。

 オリガン家の財力なら石橋を作っても良さそうだが、今にも崩れそうな木造の橋だ。

 川幅は20ファイル(6m)ほどで、水面を覗いても底を見ることができなかった。

 これが理由なのかもしれない。軍隊が攻めてきても、この橋を落とせば時間を稼げるということかもしれないな。

 

 先祖の考えに納得したところで、橋のたもとにある木の下で昼食を取ることにした。

 適当に枯れ枝を集めて焚き火を作る。

 兄上に頂いた食器の中には小さな鍋があったし、大きめのカップはたき火で直接温めることもできる。兵士が真鍮製の食器を使うのは、こんなことができるようにとの配慮なのだろう。


 マリアンが持たせてくれた弁当は、厚いハムがパンに挟んだものだった。

 カップに入れたお茶を飲みながら、周囲に目を向ける。

 この景色をいつまでも覚えておこう。俺の故郷なんだから……。 

 マリアンが持たせてくれたワインの小瓶を開けてカップに注ぎ、少しずつ飲みながら今後のことを考え始めた。

 温かな春の日差しを浴びると、眠くなってくる。

 遠くで村人が畑を耕し始めているのが見えた。ここで昼からワインを飲んでいると何となく済まなく感じてしまうな……。


 ふと、野犬の遠吠えで目が覚めた。

やはり、寝込んでしまったようだ。改めてお茶をカップに注いでとりあえず頭をはっきりさせる。

やはり1人では寂しいものだ。

 野犬の遠吠えに驚いて、目が覚めるぐらいだからなぁ。

 あまり道草を食わずに、砦に向かうことにしよう。


 俺はオリガン家の次男でレオニードと名を付けられ、両親や兄姉と仲良く暮らしてきた。だけど俺にはもう1つの記憶がある。

『怜音・織家』レオン・オルガと読むらしいが、母上でさえ俺が書いた文字が読めなかったらしい。


「それは文字かしら? この館にはそんな文字を描いた本は無かったはずだけど……」


 俺が書いた文字を見て母上が呟いていたぐらいだ。

 12歳を過ぎたころから、もう1つの記憶が少しずつ浮かんできた。

 この世界とはかなり違った世界のようだが、その記憶と一緒に俺の意識が少しずつ変わっていくのを感じることができた。

 今、ここにいるのは、この世界で生まれたレオニードなんだろうか? それとも怜音なんだろうか?


『レオニードであり、怜音でもあるのです』

 

 突然の声に、剣を握りしめて前を見る。

 日頃の訓練の賜物で、素早く身を守るための反応が出来たようだ。

 チロチロと燃える焚き火の向こうに、淡い光に包まれた女性が腰を下ろしていた。


「貴方は?」

『アトロポス……。貴方を見守っている存在の一人です。事故死したはずなのに、貴方の糸は世界から切れなかった。こんなことは初めてなので、事故死した貴方の魂をこの世界に導いたのです。

 ですが、貴方の魂はこの世界で輪廻転生を繰り返していませんから、生憎と魔法は使えません。貴方の姉の贈り物に感謝することですね』


 俺が魔法を使えないという理由は、俺の魂がこの世界の部外者だということにあるようだ。

 バングルを使うことで魔法が使える。姉上には感謝しかないな。


「まあ、それは諦めましょう。幸いに弓の腕はそれなりです。弓兵としてこの国を守ろうと考えています」

『どうかしら? 短弓の有効射程が短いのは貴方も知っているはず』


 確かに短い。飛距離は150ユーデ(135m)以上あるのだが、革鎧を着た相手では有効射程は80ユーデ(72m)ほどになってしまうだろう。


『このまま砦に向かえば、1年も経たぬ内にその命を散らしてしまいかねません。私の頼みを聞いてくれるなら、貴方の能力を上げてあげましょう』


 取引ということなんだろうか? この世界に転生させてくれただけでもありがたいと思っていたところだ。

 それに頼みがあるなら聞いてあげるのが、オリガン家の矜持でもある。


「俺に出来る範囲であれば……」


 俺の言葉に、アトロポスと名乗った女性が笑みを浮かべる。


『この子をお願いできますか? 魔族との戦で里を滅ぼされた、ケットシー族最後の1人です』


 女性の後ろから、小さな子供が恐る恐る顔を出した。

 女の子じゃないか。だけど俺は北の守りに向かう途中だ。小さな女の子を連れて行くことなど無理だと思うんだが?


「保護してあげたいのは山々ですが、軍に小さな女の子を連れて行くなど……」

『全て上手く行きますよ。その加護をその子は持っています。まだ幼子ですが、妖精族ですから長じては貴方のお姉様を凌ぐ魔導師となるでしょう』


 思いがけない言葉に、思わず女の子の顔を見てしまった。どう見てもネコ族の戦災孤児にしか見えないんだけどねぇ。


『町で、従者に仕立てなさい。小さな荷物を持たせれば十分です』

「貴族であることを上手く使えと?」


 ニコリと笑って頷いている。


 軍に志願する貴族の子弟には従者が認められている。

 兄上の話しでは、身の回りのことも満足にできないような連中もいるらしい。

 そんな連中が軍にいるのなら、従者も必要だろう。

 兄上には、貴族の子弟が従者として付いているらしいが、どちらかと言うと個人指導をしているんじゃないかな?


 俺も貴族の子弟であり、準爵の地位を頂いている。

 従者を連れていてもおかしくはないか……。世間的にはオリガン家の落ちこぼれとして名が売れている。生活魔法を使うための従者であるなら、この子でも十分に務まるに違いない。

 それに、辺境の砦ということもある。獣人族の部隊もあるらしいから、見た目はネコ族の少女が目立つことは無いはずだ。


 女の子においでおいでと手招きすると、とことこと歩いてきて俺の隣に腰を下ろした。


『約束通りに……』


 俺の周りに光のカーテンが輪を描く。

 ゆっくりと輪が縮んで俺の中に吸い込まれる。


『身体能力が2割増しです。ところで貴方は、自分の能力の1つに気が付いていますね?』

「矢が狙い通りに当たるってことですか? その原因は、これにあると思っているんですけど……」

 

 燃えた焚き木が1本、焚き火から空中に浮かんだ。

 こんな魔法は聞いたことも無い。誰にも話さずにいた俺の特技だ。


『サイコキネシスという超能力です。世界を渡るときに得たものなのでしょう。訓練次第で自在に操れるようになりますよ。最後に、私からの恩寵ですが、エルフ並の寿命を送りましょう。嵐が来ても自分を見失わないでください。それでは……』


 俺達に微笑みながら、アトロポスと名乗った女性は光の粉をまき散らすようにして消えて行った。

 女性は、女神と呼ばれる存在だったに違いない。

 土、水、風、火の神を祭る4つの神殿にはそれぞれ女神像があると聞いたけど、アトロポスという名は無かったはずだ。

 この世界の神ではないということなんだろうか? 運命を司る女神のような気がするな……。


 夢でも見ていたように思えるけど、俺の隣には女の子が腰を下ろして焚火を見ている……、10歳は越えてるのかな?


「俺の名はレオン。君は?」

「ナナにゃ。お兄ちゃんはレオンにゃ」


 元気に応えてくれたけど、その後に小さくお腹を鳴らしている。腹ペコなのかな?


「お弁当があるんだけど、食べるかい?」


 魔法の袋から取り出したお弁当を見て、大きく目を見開いている。

「はい!」とナナちゃんに手渡したら、直ぐに開いてパクつき始めた。

 美味しそうに大きなハムが挟まれているパンを食べているから、お茶を入れたカップを傍に置いてあげた。


 ナナねぇ。そう言えば、向こうの世界で飼っていたネコの名前がナナだったことを思い出した。この子の髪と一緒でダークブラウンのきれいな子猫だった。


 ナナちゃんは綿の上下に、バックスキンの丈の長いベストを着ている。幅の広いベルトをその上に付けて、腰に小さな革製のバッグを付けていた。

 従者にするなら武装は必要だろうけど、短剣は持てるだろうか?

 長じては姉さんを凌ぐと言ってたけど、今使える魔法も気になるところだ。


「ナナちゃんは魔法が使えるの?」

「生活魔法が使えるにゃ。それと、【メル】も使えるにゃ!」


 攻撃魔法の【メル】が使えるなら、従者として十分に通用するんじゃないかな。

 オリガン家の落ちこぼれとして、俺の存在は王国内の貴族に知れ渡っているはずだ。

 俺を補完する従者として母上が付けてくれたことにしよう。


 お弁当をきれいに食べたところをみると、かなりお腹が減っていたに違いない。

 宿の食事を楽しみに、そろそろ歩き始めるか。

 町に着いたら、ナナちゃんの個人用の品を揃えてあげよう。

 父上から貰った銀貨があれば大概のものは買えるはずだ。


 焚き火を消して、町に向かって歩き出す。

 ナナちゃんが俺の前をトコトコと歩いて行くんだけど、道端で何かを見付けると立ち止まってジッと眺めている。

 でも直ぐに興味を無くして歩き出すのが、後ろで見ていて微笑ましくなってくるんだよなぁ。

 

 北の砦では、し烈な戦になる時もあるだろう。

 隠れていてくれれば良いんだけど、あの感じだと俺の傍を離れないかもしれない。なるべく目立たない服装にした方が良いだろうな。


※※ 補足 ※※

アトロポス: 

女神らしい。命の糸を管理しているようだ。生物が死んだら糸が切れ、魂は輪廻の旅

にでる。


ケットシー: 

妖精の一種族。ネコ族のような容姿をしているが、潜在的に持つ魔法力はかなり大き

い。


メル: 

火属性魔法で直径10cmほどの火炎弾。30mほど先まで飛ばすことができる。当

たれば砕け散って周囲の可燃物を燃やすことができる。人体に当たった場合は大火傷をすることになるが、即死することはない。


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― 新着の感想 ―
[一言] 転生ものならあらすじかタグにそう書いておいてほしい。ちょっと騙された気分がする。
[気になる点] 純ファンタジーものかと思いきや、まさかの転生もの!? 面倒ごとを引き受ける代わりに能力をもらえるなんてちょっと都合が良すぎではないだろうか。せっかくワクワクしかけていたところに水を差さ…
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