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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
299/384

E-298 グラムさんが状況視察にやってきた


 建物に火を放ちながら前進するのは魔族の不意打ちを防ぐには有効だが、いかんせん通りの両側で燃えているからなぁ。

 残り火の放つ熱で俺達の前進がかなり遅くなる。

 部隊の安全を図るには一番良いと思っていたが、このままでは魔族を王都から追い出すのはかなりの時間を要するだろう。

 一度俺達に向かって進撃した魔族は、貴族街に逃げ込んだようだ。

 現在は貴族街の東西から爆弾をフイフイ砲で撃ち込み、中央部分に石火矢を放っている。


「もっと早くに決着が付くと思っていたのだが……」

「自然鎮火に任せてますから、どうしても遅くなってしまいます。夏で良かったですよ。これが冬であったら、此方に煙がやってきます」

「確かに凄い煙だ。貴族街もかなり破壊が進んでいるに違いない」


 後方から大砲の音が聞こえなくなったから、砲弾が尽きたのだろう。

 残った遠距離攻撃手段は、新型と通常型の石火矢だけになる。幸い通常型はまだ沢山あるとエニルが教えてくれたから、王宮の破壊にも使えそうだな。


「次の通りに移動するのは、もう少し経ってからでしょうね。兵も食事を交代で取らせています」

「父上は慎重だからなぁ……。周りが騒いでも、ジッと前を見ているに違いない」


 想像できるな。短槍を地に着いて前方を睨んでいるに違いない。

 やはり総指揮官ともなれば、それぐらいの器量であってほしい。無言で立っているだけで、グラムさんは存在感を周囲に放っているのだろう。


「やはり俺は指揮官には向いていませんね。どちらかというと指揮官の隣にいる存在になりたいです」

「その考えを、いつも母上が笑っているぞ。能力はあるのだが性格で損をしている典型だとも言っていた。おかげでエクドラルは戦乱に巻き込まれずに済むともな」


「確かに性格と言って良いかどうか分かりませんが、自分でも損な性格だと思っています。でも今さら変えられるものでもなさそうですし、戦をするよりはのんびりと朝寝を楽しみたいのが本音ですよ」


 俺の言葉に、ユリアンさんも一緒になって笑っているんだよなぁ。

 トラ族なら危機に飛び込むような性格が好まれるんだろうけどね。そんなトラ族の中ではグラムさんが異質に思える時もある。

 長い軍隊生活で、考え方が変わったのかもしれないな。


 ハムを挟んだ黒パンをお茶で流し込む。

 簡単な食事だけど、戦の最中だからね。それよりもグラムさんや兄上達は、ちゃんと食べているのだろうか?

 水筒の水だけで2日戦った、なんてグラムさんが昔語りをしてくれたことがあるけど、俺には無理だろうなぁ。


 日が落ちても近場で建物が燃えているから周囲が明るい。

 松明が必要ないほどだ。それでも何か所かに松明を灯しているのは、万が一にも魔族が反転した時の備えということになる。

 Eラインまでの通りには魔族が見えないとの状況報告があったけれど、油断は禁物だ。

 食事が済んだところで、伝令の少年に分隊単位で休ませるよう小隊長達に伝えて貰う。

 

「通りはあの状態です。魔族も攻めるのは躊躇するでしょう。ティーナさん達も休まれてはどうですか?」

「下火になってきたなら、再び出てくるかもしれんな。だが、まだ休むには早すぎる」


 石火矢を放つ荷車から少し離れて、木箱に盾を乗せてテーブルにする。

 椅子は瓦礫の中からベンチを誰かが見つけてくれたようだ。2つあるからテーブルの両側に置いて俺達が腰を下ろした。

 ナナちゃんが俺の隣に座ったところを見ると、通信を伝令の少年達に任せてきたんだろう。

 王都の地図を広げて、レンガの破片で重しをする。


「貴族街にはかなり石火矢を撃ち込んでいます。それなりに燃えているようですから魔族の安全圏は宮殿ぐらいなんでしょうけど、それも一部で火の手を上げているという話ですから、こんな殲滅戦をせずに、さっさと先に進むのも手ではあるんですが……」

「建物に潜んでいるかもしれない魔族をどうするかということだな。一軒一軒調べないと、王都が再び魔族の巣窟になりかねない。だが、王都の建物は数があるからなぁ」

「それで全て燃やすということになるんですね。ここまで陣を移動しましたが、住民を見ておりません。やはり……」


 魔族の食料になったということになるんだろう。共食いをするような連中だからなぁ。おかげで放火を行う際に躊躇わずに済むことも確かだ。

 再びこの王都で暮らそうなんて人達はいないだろうから、ブリガンディ王国の王都は廃墟になってしまうに違いない。

 だが利用価値はある。

 魔族の進軍は北からになる。魔族の進軍を阻止するために俺達は長城作りを行っているのだが、長城作りの1番の課題は資材の調達だ。

 兄上達が長城作りをすることになるなら、この王都は資材の宝庫に見えるだろう。


「ここまで派手に燃やしていると、貴族や王族達の財産が灰になってしまいます。それは諦めるしかないんですが、王宮には宝物庫もあるでしょう。それを燃やしてしまうのは残念です」

「全て燃やせるとも思わんな。金貨や銀貨は解けてしまうかもしれんが、地金として商会が買い取ってくれるかもしれん。宝石は火で炙られるとどうなるのだろう? 案外残っているかもしれんぞ」

「王都で見つかった財宝は3つの軍で等分と聞いています。でもグラム殿は半分は貴族連合に渡すと言っておりました。長城の足しになればとの事です」


 それは俺も考えねばならないな。俺の一存で良いものかどうか考えてしまうけど、光通信で確認を取っておいた方が良いだろう。

 まだ見ぬお宝なんだから、あまり期待しないでおこう。


 近くの松明でパイプに火を点ける。

 木箱の上に立って通りの北を眺めてみると、だいぶ下火になってきたようだ。

 グラムさんが次の通りまでの進軍を命じるのは案外早いかもしれないな。


 テーブルに戻ると、再び地図に目を向ける。

 Eラインにまではまだ十字路が4つもある。Eラインに到達するのは明日1日掛かるんじゃないか。

 そうなると、貴族街の破壊をさらに進めておくべきなのだろうか?

 ジッと地図を睨んでいると、伝令が走ってきた。

 息を調え、大声で報告を始める。


「報告します。総司令が間もなくここを訪れるとの事です!」

「了解だ。引き続き光通信に目を向けておいてくれ。今夜中には次の通りへの進軍指示が来るはずだ」

「了解しました!」


 伝令の少年が後方に走っていく。

 ちゃんと交代で休んでいるんだろうか? 興奮して眠れないのかもしれないけどね。


「父上が来ると?」

「状況視察ということでしょう。光通信で状況把握は密に行っていると思いますが、やはり現場を見るのが一番ですからね。ナナちゃん、お茶の準備をしておいてくれないかな」

「分かったにゃ。近くの焚火で沸かしておくにゃ」


 俺の隣から立ち上がって、トコトコと荷車に走って行った。水の運搬容器が置いてあるのかな?

 一服を終えてパイプを仕舞っていると、後方から1個分隊ほどの兵士が歩いて来る。

 全員トラ族だから、多分グラムさんに違いない。

 席を立って出迎えることにした。


「ご苦労。状況は聞いているが2時間程したら次の十字路に向けて軍を動かしたい。問題は無いか?」

「兵士を休ませているところです。かなり下火になってきましたから、俺も進軍には賛成なんですが……」


 地下や下水道に潜んでいる魔族が出てこないとも限らない。そうなると後方が心配になると告げた。


「レオン殿の進言、ワシも気になっておった。マーベル軍が後方監視をしていたのを見て、副官と唸ってしまったぞ。2個小隊を分隊編成で後方の監視をしよう。マーベル国の後方監視部隊は引き上げて貰っても構わん。その対応が出来てからで進軍をしよう。東の部隊も安心できるに違いない」


「ありがとうございます。そうそう、紐付きの爆弾を使わせて貰いました。トラ族兵士に持たせるとカタパルト並みに使えます」

「沢山あるぞ。後で50個程送ろう。レオン殿のお墨付きともなれば考案した兵士に褒賞をせねばならんな」

「我が軍にも考える兵士がいるということですね。やはり現場の声が一番に思えます」


 笑みを浮かべたグラムさんが、副官と顔を見合わせて頷いている。

 ナナちゃんからお茶のカップを受け取り嬉しそうに飲んでいると、突然厳しい目をティーナさんに向けた。


「ティーナ、まったく鎧が汚れていないのはどういうわけだ? まさか後方にいたのではあるまいな」

「中々前に出して貰えぬ。出ても我等のところまでやってきた魔族は2個小隊にも満たぬ。銃の一斉射撃でバタバタと魔族が倒れていくのだからな」

「数体は倒しました。前線のトラ族兵士が、私達の前に来るまでに倒してしまうのです」


「後ろの魔族の山を見た時には、さぞかし凄惨な戦場になっていたと思っていたのだが……。ティーナ、我が軽装歩兵に銃を持たせれば同じことが出来ると思うか?」

「あの山の半分も倒せれば上出来かと……。素早い火薬と銃弾の装填が出来るように工夫された銃を使っています。しかも100ユーデ先を狙えるのですから、我等の銃ではそこまで出来るとは思えません。ですが実験的に部隊を作るのは賛成です。銃を撃ち終えれば軽装歩兵として動けるのですから」


 確かにその通りなんだけど、軍で採用している銃は拳銃より少し長い銃身を持ってるんだよなぁ。次弾装填に時間が結構掛かるのが問題だ。三段撃ちを教えてあげようかな。そうすれば次々と敵軍に銃弾を浴びせることが出来るだろう。


「作るんでしたら、面白い戦術を教えますよ。弓と銃ではかなり用兵が異なりますからね」

「楽しみだ。さて、お茶をありがとう。次は東の部隊に行ってみるつもりだ。早ければ部隊の前進は2時間後に行う。10分前に光通信で連絡するぞ。進軍はカタパルトで放つ爆弾2発だ」

「了解です。早速準備に入ります」


 全員が椅子から立ち上がると、騎士の礼を取る。

 トラ族の兵士を引き連れてグラムさんが後方に去って行った。

 さて、準備を始めるか。

 伝令の少年を手招きして小隊長達を集めて貰う。

 一度、ここまで前進したからなぁ。小隊長達も要領は分かっているだろう。


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