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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
298/384

E-297 十字路を1つずつ 


 銃撃を受けた魔族の死体が積み重なって、それ自体が壁のようにも見える。

 それでも次から次へと魔族が押し寄せて来るんだから困ったものだ。

 石火矢の水平発射が魔族の死体を吹き飛ばし始めたところで、やや角度を上げて後方に飛ぶようにしたようだ。

 最初は前列の兵士達が、たまに近づいて来る魔族を数人で相手にしていたのだが今では全員が短槍を振るっている。


「放炎筒を使え!」


 小隊長の声が聞こえてくると、紅蓮の火柱が前方に向かって放たれた。

 左右に小さく振り続けると、さすがの魔族も炎の中に飛び込むようなことはしないようだ。

 ドォン! と後方に短い火柱が伸びると、放炎筒を抱えていた兵士が筒を放り投げて兵士に後ろに後退して行った。

 すかさず次に兵士が放炎筒を魔族に向ける。


 後方から石火矢の炸裂で追い立てられた魔族が放炎筒で足止めされているから、押されて炎の中に押し出される魔族が続出している。

 鋭い断末魔を上げる魔族で、通りは阿鼻叫喚の状況に陥ってしまったようだ。


「中々放炎筒は使えるな。さらに量産すべきだろう」


「あれだけ密集してますからね。あの死体の山の北側は通りを魔族が埋めているようですよ。まだまだやって来るでしょう」


 この状況だと、ライフルやクロスボウより弓の方が良い働きをしてくれる。

 後方から弓兵が一斉に放つ矢は、弧を描いて目の前の山を越えて後方に飛んでいく。密集しているから8割方当たるんじゃないかな。散髪的に放たれる爆裂矢も魔族にとっては脅威に違いない。


 ふいに上着の裾がクイクイと引かれる。見るとナナちゃんが俺を見上げていた。

 なんだろうと少し屈んでナナちゃんに顔を近付ける。


「櫓から連絡にゃ。『魔族が北に移動しつつあり』と言ってるにゃ」

「ありがとう。かなり煩いからなぁ。連絡が来たらよろしく頼むよ」


 笑みを浮かべて頷くと、ナナちゃんが後ろに下がって行った。

 ここは攻城櫓を見ることが出来ないから、あの位置で連絡を取り合ってるんだな。伝令の少年達が数人クロスボウを構えているけど、彼らがボルトを発射する機会はないんじゃないか。

 爆弾を入れてきた木箱を荷台から下ろして、その上に立つと大声を上げる。


「聞け! 魔族は敗退しつつあり。我等の攻撃に恐れをなしたようだ。進軍の準備だ。爆弾をあの山に仕掛け、少し後ろに下がれ!」

「「「オオォォ!!」」」


 蛮声が耳に響く。

 野原では無いんだから、そこまで大声を出すことはないと思うんだけどなぁ……。


 放炎筒を背負った兵士が一旦下がり銃兵が銃を構える中、数人の兵士が爆弾を抱えて死体の山に向かった。

 あれを何とかしないと、荷車や移動柵を移動出来ない。


「案外早く諦めたようだな。だがまだまだ魔族の数は多いはずだ」

「その為に、ほら……、石火矢をEラインに向けて放ってるんです。散発的ですが集結出来ない状況になっているでしょう。そこに魔族が引き上げていくんですからかなりの混乱を引き起こしますよ。俺達もカタパルトを持ってくるべきだったと反省しているところです」


 飛距離は150ユーデほどだが、密集した状況下で後方に退くんだから攻撃してきた時よりも足は遅くなるはずだ。さらに密集しているはずだからカタパルトが打ち出す爆弾で面白いように魔族を倒せるだろう。


「袋のネズミ状態ということか……。なら、ユリアン!」


 ユリアンさんを呼んで、2人で密談している。

 聞いてみたいけど、女性同士の話に耳をそばだてるというのもなぁ……。


「了解しました。20個ほど分けて貰いましたから、マーベルの兵士なら問題なく使えるでしょう」

「トラ族兵士なら50ユーデ以上は確実だ。その上、数ユーデは転がるからな」


 うんうんと2人が頷いて、ユリアンさんは前線に兵士のところに走って行った。

 首を傾げて見ていると、前方から轟音と爆風が御押し寄せてくる。

 そういえば爆弾を仕掛けたんだよな。

 前を見ると、堤防にように積み重なっていた魔族の死体の中央が吹き飛んでいた。ちょっとグロい光景だが、前に進むんだから仕方がないところだ。ナナちゃん達がショックを受けなけれ良いんだけど……。

 再び木箱に乗り大声を上げる。


「前進だ! 次の通りまで一気に移動する。両側の建物に火を点けるんだぞ!」


 後ろに顔を向けて手招きするとナナちゃんが走ってきた。


「これから前に進むけど、東西はどうなってるのかグラムさんに聞いてくれないかな」

「今のところ、阻止線を維持していると連絡があったけど、再度聞いてみるにゃ」


 変化なし、ということで俺に伝えなかったんだろう。

 そうなると、俺達だけが突出してしまいかねない。後方警戒が必要になりそうだ。


 さて、誰に任せるかだな……。

 周囲を見渡すと、ヴァイスさん達の姿が見えた。城壁から降りて来たみたいだな。東西の城壁にはソロぞれの軍隊の弓兵がいるだろうし、南の城壁からでは既に矢は届かないから下りてきたんだろう。

 なら丁度良い。

 ヴァイスさんのところに歩いていくと、直ぐに俺に気付いてくれた。


「何にゃ? どこかの屋根から援護するのかにゃ?」


「それも面白そうですけど、もっと大事な事を頼みたいんです」

「うんうん……」


 この場所を確保して欲しいというと、直ぐに俺の思惑を理解してくれた。


「クロスボウ兵を1個分隊貰うにゃ。広場から柵を運んで来れば、分隊程度の魔族なら問題なさそうにゃ。大勢で来るなら伝令を走らせるにゃ」


 東西の部隊が頑張っているなら、移動してくるとしてもそれほど多くは無いはずだ。

「よろしくお願いします」と再度頼み込んで、ナナちゃん達を呼び寄せると移動を始めた荷車の後を追う。


 魔族の死体の山を抜けた荷車が再び石火矢の水平発射を行った。

 100ユーデ程先の通りを埋める魔族が石火矢の炸裂で吹き飛ぶと、俺達に向かって武器を振り上げて襲って来る。

 銃声が轟き魔族が一掃されると、再び石火矢が放たれた。


 そんな中、松明を持った数人のトラ族の連中が魔族に向かって駆け出した。

 かなり近付いたが、魔族は先を争って北に向かっているからなぁ。

 トラ族の兵士が紐の付いた爆弾を取り出すと、導火線に火を点ける。

 その場で大きく輪を描くように振り回して魔族に中に放り込んだ。急いでその場を後にする兵士の後ろから大きな爆発が起こる。

 辺りに火の粉を散らしていたから、市販火薬を使った爆弾に違いない。

 なるほど、あんな飛ばし方もあるんだな。


「かなり飛ぶんですね」

「ちょっとした工夫だ。レオン殿が感心していたと報告してあげよう」


まるで自分が考えたかのように笑みを浮かべている。

 多分遊び半分で考えたんだろうけど、結果はあの通りだからなぁ。

 俺達も西の尾根で使えるんじゃないか。小型の爆弾に付けても良さそうに思える。


「さて次の十字路だ。ここで両側が揃うのを待つのか?」

「そうです。まだ東西共に先ほどの通りから前進してませんからね。時間がありますから、石火矢の攻撃を続けましょう」


 石火矢の射程は旧型とはいえカタパルトよりは長い。

 打ち込めばそれだけ魔族が減るんだから出し惜しみをせずに、使い切るつもりで発射していく。


 かなり魔族が遠ざかったところで、兵士達に付近の建物へ火を放つように指示を出した。

 南風だから、此方には煙も来ない。

 魔族も燃え盛る炎に向かって来ることはないから、安心して見てられる。


 エニルが走り寄って、要した旧型石火矢が無くなったことを伝えてくれた。もったいないけど、通常型を使うか。

 

「通常型を使ってくれ。炸薬量が多いから、1度に2本放てば十分だろう。とはいえ、この煙で通りの見通しが悪いからなぁ。準備だけしておけば十分だろう。だけど攻めて来た何ら俺の指示を待たずに発射してくれよ!」


「了解です」と答えて後方に伝令を出したようだ。南門から通常型を運ばせるのかな?

 伝令の走り去る姿を見てると、ボニールで荷馬車を曳いてくる少年達に気が付いた。

 なんだろうと考えていると、俺達の後方に荷馬車を止めてカップと大きな水筒を持って数人が走ってきた。


「お茶を用意しました。どうぞ飲んでください」


「ありがとう」と言って受け取ると、俺のすぐ脇に背負い籠を置いてあちこちの兵士にお茶を渡している。

 どうやらこの背負い籠はカップの回収籠ってことなんだろう。

 中々気が付く連中だな。


「この状況下でお茶が飲めるのは、マーベル国軍だけだろうな。エクドラルでは腰の水筒で我慢するしかなさそうだ」

「軍属の小母さん達も食料運搬用の荷馬車にクロスボウを下げてましたよ。マーベル国は住民全員が戦えるということなんでしょうね」


「何分寡兵ですからね。後方で隠れていて欲しい老人まで槍を持ち出すんですから困ってしまいます」

「卑下することはあるまい。それだけ戦力に幅があるのだ。マーベル国の戦力は兵士の数では決まらんということだろう」


 お茶が入ると気持ちも緩む。

 いつも緊張していると体が持たないからなぁ。ちょっとした息抜きは士気を維持するためにも有効に違いない。


「連絡が入ったにゃ。もう直ぐ、同じ十字路に並ぶと言ってたにゃ」

「了解した。たぶん俺達同様に、先の建物に火を点けるはずだ。もうしばらくは此処から動かない方が良いだろうな。そうだ! ヴァイスさんを呼んでくれないか」


 ナナちゃんが頷くと、南に向かって駆け出して行った。

 次の行動を行うのだろうと、ティーナさんは俺の近くにやってきた。

 地図を広げて、現在とを確認すると、まだまだ先は長そうだ。この方法で押していくとなれば、Eラインに到達するのは明日になってしまうだろう。


「なにかあったのかにゃ?」

「なにもありませんよ。現状は通りの両側が火事ですからね。しばらくは休憩です。ヴァイスさん達には南の十字路で監視を行って貰っているんですが、部隊を分けて少し監視範囲を広げて貰えませんか? どこに魔族が潜んでいるか分からない状況です。地上だけに魔族が待ち構えているとも思えません」

「いくつか班を作るにゃ。任せるにゃ!」


 これで少しは安心できる。動かない監視部隊を動き回る監視部隊にすれば、それだけ魔族を発見できる機会が増えるはずだ。

 魔族が現れない可能性の方が高いけど、東西の部隊も後方には注意しているに違いない。

 


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