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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-296 通りを埋め尽くして押し寄せてくる


 グラムさんに、Eラインの中央部に石火矢を撃ち込むと連絡する。

 帰ってきた返事は、「少し待て!」という指示だった。

 東西に両軍とも色々と考えているのだろう。城壁に弓兵を配置するのだろうか? それとも、カタパルトを移動しているのかもしれない。

 魔族の反撃が始まっても、カタパルトならちょっとした障害として使う事も可能だろう。


 後方から荷車の音がする。どうやら新型石火矢が到着したみたいだな。

 振り返ると、移動柵を2台に荷車に載せて運んで来ている。発射台を取り付けたから、確かにその方が都合が良いことは確かだ。

 でもよく運んで来れたな。感心してしまう。


「荷車の石火矢は通りの先を狙って欲しい。水平発射なら魔族が押し寄せてきても何とかなる。新型の方は、Eラインを狙ってくれ。弾着結果はエクドラル王国の攻城櫓から教えて貰えば、次発を魔族の大軍の真ん中に落とせるだろう」


「了解です。直ぐに発射しますか?」

「東西の部隊が魔族に対して部隊を展開中だ。終了次第連絡があるから、連絡が来次第発射してくれ」


 光通信機を持った少年達には、俺達の後方で通信の確認をお願いしておく。

 一応、クロスボウは持っているんだけど、後ろに置いておいた方が俺達も安心だからね。

 ナナちゃんが束ねているみたいだから、前には出てこないだろう。


 急に静かになった。

 俺達が停止したから、瓦礫跡に隠れている魔族達も襲ってこなくなった。

 たまに爆弾の炸裂音が聞こえて来るのは、俺達の攻撃が継続していると魔族達に思わせるために違いない。


「中々準備が整わんな」

「たぶんカタパルトを移動してるんじゃないですか。あれなら通常の爆弾を150ユーデ程飛ばすことが出来ますからね。これより大きいですから、心強いですよ」


 宮殿攻撃用の爆弾を1箱分残して、あるだけ爆弾を運んできたらしい。

 さっそく前列のトラ族兵士達に配りに出掛けた。

 両手に小型爆弾を持つ兵士の姿に、ティーナさんが笑みを浮かべている。

 魔族がやってきたなら、一緒になって投げるんだろうな。

 俺の隣にいるなんてことは、全く考えていないに違いない。俺も前にでないといけないだろうな。ティーナさんが怪我をして、俺が無傷だなんてことになったら兄上から厳しい叱責を受けるに違いない。


 それにしても、だいぶ時間が掛かり過ぎる。

 爆弾用に準備してある松明でパイプに火を点けてナナちゃんに顔を向けると、俺の視線に気が付いて首を横に振っている。

 連絡は、まだのようだ。


「遅いな! 父上は何事も素早くと言っていたが、これではなぁ……」


 ティーナさんが、だんだんといらだってきたようだ。

 兵士の中にもイラついている素振りがみえる。臨戦態勢で長らく待たせるのは士気を損ねると聞いたことがある。

 ここは、士気を高めるためにも、何発か石火矢を撃ち込んでみるか。

 グラムさんの了解を得ようと、ナナちゃん話をしようとした時だった。

 ナナちゃんが攻城櫓に視線を向けているのに気が付いた。櫓の上からチカチカと光が瞬いている。

 やっと来たか! 

 ティーナさんも気が付いたらしく、俺のところに走って来る。

 ナナちゃんが渡してくれた通信メモをティーナさんが俺の肩越しに覗いている。

 通信の内容は……。


『魔族の攻撃を跳ね返す。西からG2区域へ発射する爆弾を炸裂を合図に、中央の部隊はEラインの魔族を攻撃せよ。襲って来る魔族を全力で阻止せよ。各部隊の奮励を期待する』


 要するに防衛線となるよう仕向けるということだな。

 それなら策を強化しておくか!

 まだ時間はありそうだ。移動柵の周囲に仕えそうな木材を積み上げるように指示を出す。


「魔族の姿を見たら、直ぐに持ち場人に戻ってくれ。爆弾と放炎筒用の松明も準備しておいてくれよ」

「大丈夫です。既に柵の強化はしております。いよいよですね。明日まで待たされるんじゃないかと思ってました」


 急に元気になってしまった。やはりトラ族は根っからの戦士に違いない。

 次はエニルだな。

 大声でエニルを呼ぶと、直ぐに走ってきた。

 西の爆弾2発が合図だと教えたところで、継続発射が可能かを確認する。


「新型を30発を運んでいます。旧型は60発ですが、更に運びましょうか?」

「なら、Eラインを狙って新型を連続発射だ。半分も放てば動いてくれるだろう。放炎筒もあることだ、それで十分だろう。一応爆弾は持っていてくれよ」

「全員1個を持ってます。銃撃で阻止できると思っているのですが」


 俺もそう思うんだけど、持っているだけでも安心できる。遠くに投げられないなら、トラ族の連中に渡せば良いだろう。


 エニルが部隊に戻っていくと、直ぐに発射台傍に松明を持った砲兵が2人待機した。

 さて、爆弾の炸裂はまだなのかな?

 

 パイプの火が消えたので、再度点けようと近くの松明に向かった時だった。

 ドオォン! という炸裂音が2度聞こえてくる。

 同時に通りの中央から白煙が北に伸びて行った。しばらくして遠くから炸裂音が聞こえてくる。

 

「ナナちゃん、攻城櫓からの信号を見といてくれないか」

「どこの落ちたのか、知らせてくれるのかにゃ? ……信号が来たにゃ。『E7に着弾。塀の北側』にゃ!」


「エニル、そのまま発射してくれ! 魔族の集結地点中央だったぞ!!」


 俺の大声に、エニルが片手を上げて応えてくれた。

 後は継続発射で魔族を炙り出せば良い。

 グラムさんにも伝えておくか。ナナちゃんに『石火矢は魔族の集結地点に着弾。継続発射を実施中』と伝えて貰うことにした。


「最初の石火矢よりも炸裂炎が大きいな」

「新型です。狙いもある程度正確になります。遠くに飛ばすだけなら有翼石火矢が良いんですけどね」

「あれは、使い所が難しいな。一度に沢山放たねばならんからな。今回は南風に助けられたようなものだ」


 風に弱いということは、周知の事実になってしまったかな?

 過ぎた兵器ではあるが大きな欠点があるということで、他国の安心を得ることが出来ればありがたいところだ。


 4回目を発射した時だった。

 ナナちゃんが攻城櫓からの信号を俺の腕を掴んで伝えてくれた。


「魔族が通りに溢れだしたにゃ!」


 思わずナナちゃんの頭をぐりぐりしようとしたのだが、俺の前にティーナさんがナナちゃんの頭をポンポンと撫でるように叩いている。

 笑みを浮かべて俺に頷くと、兵士達に大声を上げた。


「者共、魔族がこちらに逃げ出してきたぞ! 散々待たされたのだ。心して歓迎せねばならん。蛮勇に走るな! 命を惜しめ。さあ、歓迎の宴を始めよう!!」


「「「オオォォ!!!」」」


 ティーナさんの檄に兵士達の蛮声が木霊する。

 ここはマーベル国の担当場所なんだけどなぁ。良いところをティーナさんに取られてしまった感じだ。

 さて、準備をしておくか。

 バッグから矢筒を取りだしベルトに下げる。弓を取りだす前に予備の矢を数本取り出したんだが、これって全て爆裂矢じゃないか! 

 威力はそこそこだけど、それなら矢筒の矢も全て爆裂矢に変えておこう。



「ほう、先ずは弓を使うか」

「たっぷりと矢を用意しています。威力は小さいですけど、一応爆発しますよ」

「期待してるぞ!」


 ティーナさんとユリアンさんが短槍を片手に前に行こうとしてたので、旧型の石火矢を発射できるようにした荷車の近くを守って貰うことにした。

 左右には銃兵がいるし、その前には短槍を持ったトラ族の兵士が北を睨んでいる。

 ティーナさんの鎧姿は目立つからなぁ。

 近くでフォローしてあげないと、魔族がまっしぐらに押し寄せて来そうだ。

 荷車の後方にはナナちゃん達がいる。三角巾を畳んでマスクをしているし、しっかりとゴーグルも付けているから石火矢の噴煙を浴びても大丈夫に違いない。

 それに南風だからなぁ。噴煙は魔族の方に直ぐに流れていくはずだ。


 兵士達が雄叫びを上げ始めた。

 どうやら魔族の大軍がはっきりと見えたに違いない。


「石火矢を水平発射するぞ! 前方を開けろ!!」


 俺の大声で石火矢を乗せた荷車の前方にいた兵士が左右に移動する。

 確かに魔族だ。だが数が多すぎるのも問題だな。

一度に通りに出たのだろう。密集状態での進軍だから、進む速度が速くない。

あれなら、格好の獲物だぞ。思わず笑みが浮かんでしまう。


「石火矢を放て!」


 4本の石火矢が俺の背丈ほどの高さで北に飛んでいく。

 着弾を気にせずに次の石火矢が発射位置に載せられた。


「次弾、発射!」


 エニルの甲高い声が聞こえてきた。

 石火矢の噴射する白煙で通りの先を見通せなくなったが、閃光と炸裂音が聞こえてきたから爆発したことは間違いない。


「魔族の後方に着弾したにゃ! どんどん放てと言ってるにゃ!」


 攻城櫓からは石火矢の炸裂位置が見えたようだ。

 狙い通りってことかな。

 エニルに手を振って、どんどん飛ばせと指示を出す。


「さて、間引きをすると、動きが良くなるようだ。小隊ほどの集団でやって来るぞ!」

「なら狙い通りじゃないですか。エニル! 一斉射撃の準備は出来てるか!」

「次の通りを超えたなら小隊長判断で射撃を開始します!」


 あの十字路が目印ってことか。ならそろそろ始まりそうだ。

 俺の放つ矢なら100ユーデをかるく越える。爆裂矢をつがえると、ナナちゃんが松明を持ってやってきた。

 松明に矢を近付けて、導火線に火を点けると直ぐに魔族に向かって放つ。


「そのままジッとしといてくれよ。矢筒の矢を全て放つからね」

「分かったにゃ。撃ち終えたら予備の矢を荷車に出しとくにゃ」


 俺専用の矢をナナちゃんが持っているのか?

 ありがたい知らせに笑みを浮かべると、どんどん矢を撃ち放った。


 最前列の兵士が短槍を構えた時には、矢筒の矢を全て撃ち終えた時だった。

 既に銃声が何度も通りに木霊している。

 荷車に急いで弓と矢筒を放り込んで、立て掛けておいた短槍を手にティーナさんの横に立つ。


「さすがはマーベルの兵士達だ。前列の槍で相手をしたのは数体だけだぞ」

「どんどん増えるはずですよ。その時には放炎筒が役立つはずです。あれだけ石火矢を撃ち込んでも、通りは魔族で埋まっていると思います」

「爆弾の一斉投擲も見る価値がありそうだ。……また突出してきたぞ!」


 銃撃を免れた魔族に矢が放たれる。その矢も交わした魔族達に襲い掛かるのはクロスボウのボルトだ。

 それでも数が数だからトラ族の前に、武器を振りかざして襲い掛かる。

 だけどゴブリンではねぇ……。

 体格に大きな差があるから、大人が子供を相手にしているように見えてしまう。

 やはり魔族相手に戦うには、相手の数を減らすことが一番だな。


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