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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-284 王都に籠っているなら都合が良い


 グラムさんが副官を伴って帰宅したのは、夕食を頂いた後だった。

 俺とティーナさんだけを私室に呼び、小さなテーブルを囲んでの会談が始まる。

 ナナちゃんはデオーラさんやメイドさん達とゲームを楽しむらしい。

 

 ワインのカップが副官によって運ばれたところで、「両国の更なる友好を!」とカップを掲げる。

 簡単な挨拶を交わしたところで、グラムさんがワインのカップをテーブルに戻して話を始めた。

「さすがにそこまでは……、と考えていたのだが。やはりレオン殿の危惧が現実になった。王都の北の堀から流れ出る用水路は血で染まっているそうだ。薄れることはないとの事だから、日々虐殺が横行しているということだろう」

「魔族は共食いまでしますからね。彼らにしてみれば人間の存在など狩りの獲物に過ぎないのでしょう」


 俺の言葉に、小さく頷いている。

 やはり住民を食べているということなんだろうな。


「さすがに王都周辺には偵察部隊を送ることも出来ない。貴族連合の連絡では王都を襲った魔族はやはり2個大隊を越えているとの事であった。王国軍同士であるなら、城攻めは防衛側の数倍を要する。だが、フイフイ砲を使った城攻めでは同等の戦力であるなら攻略可能であることが図上演習で分かっている。とはいえ……」


 さすがに魔族軍も無傷で攻略できたわけでは無いだろう。戦力がどうにか2個大隊以下となったとしても、依然として2万近い魔族だからなぁ。

 10倍を超える魔族と戦わねばならない。


「王子殿下より緊急の軍事援助を本国に依頼したのだが、どれほど増援を送ってくれるか甚だ心もとない限りでもある」


 んっ! 少し増えるということか?

 たとえ1個中隊でも、ありがたい話だ。


「グラム殿は連合軍を組織するおつもりですか?」

「連合軍とならざるを得ない状況だ。旧サドリナス領と貴族連合より1個大隊。東の王国より2個中隊。それにマーベル国より1個中隊だったな……。上手く運べば、本国よりの増援と貴族連合からの民兵も加わるだろう。総数は3個大隊を越える程度だ。これで勝利を得ねばならない」


 予想より少し多いようだ。多い分には全く困らないけど、それでも十倍を超える敵になるんだよなぁ。

 今までは防戦をすることで何とか多勢を押し返してきたんだが、今度は反対の立場になる。本来なら魔族側が圧倒的に有利となるんだが……。


「貴族連合はフイフイ砲を作ったのでしょうか?」

「各貴族領共に2、3台を作ったらしい。話を聞く限りでは我が王国のフイフイ砲よりは小型のようだな。飛距離も300ユーデを少し超える程度らしい」


 それでも300ユーデ程飛ぶなら、矢の届かない場所から城壁内に爆弾を投げ込める。グラムさんのその後の話を聞くと、エクドラル軍と同じような爆弾の製造もおこなっているらしい。

 なら、十分に勝機はあるんじゃないかな。


「王都の3方向から爆弾と石火矢を放つことで魔族を翻弄し、その後城壁を越えて魔族と戦うという流れになろうかと。最初にどれだけ王都に爆弾を放てるかでその後の流れを有利に出来るかと推測します」

「城壁近くはフイフイ砲で爆弾を放り、中心部には石火矢を放つということだな?」

「それに恐れをなして、北に去ってくれれば有難いんですが……」


 俺の言葉がグラムさんのツボにはまったのだろう。

 大笑いをしながら空になったカップにワインを注いでいる。


「ワハハハ……。あまり笑わせんでくれ。さすがにそれは無いだろうが、そうならざるを得ない状況に追い込むということだな。それなら我等トラ族でなくとも魔族を狩れるに違いない。エルバン、それで新型フイフイ砲は数が揃えられるのか?」


 新型だと! 思わず、グラムさんに視線を向けてしまった。

 

「5台は確実です。攻撃時期を何時にするかで、もう何台か追加できるはずです。爆弾は現状で500個ですが、1カ月程余裕があるならさらに100個以上を追加できるでしょう」

「本国からも少しは融通して貰えるだろう。レオン殿、貴族連合も爆弾を100個程度は準備しているはずだ。これで何とかできぬか?」


 さすがに東の王国までは、爆弾とフイフイ砲の技術は伝わっていないようだ。

 爆弾だけで千個近い数になるのだろうが、王都の城壁は1.5コルム四方にも及ぶ。中心部を狙えるのが石火矢だけになる……、やはり新型石火矢も用意しないといけないのだろうか……。

                ・

                ・

                ・

 グラムさんの私室で、何度も王都攻略について話し合う。

 城壁に近づけば矢が降り注ぐだろうから、矢の届かぬ距離を想定して100ユーデ程城壁から距離を取っての攻撃になる。


「フイフイ砲の射程はおよそ350ユーデ。腕木を伸ばした新型なら400ユーデを越える。王都の東西から攻撃すれば、城壁から300ユーデまで爆弾を降らせられるのだが……」

「中央部には届きませんね。爆弾の被害は王都のおよそ3割に満たないと思います」


 グラムさんの呟きを聞いて、副官が冷静に数字を告げる。

 やはり有翼石火矢と言うことになるんだろうな。さすがに新型は使いたくないところだ。

 いや、混ぜて放てばそれほど目立たないかもしれないな。同じように羽を付ければ少し太い石火矢だからね。


「有翼石火矢を使いましょう。あれなら遠くまで飛ぶんですが、目標からはだいぶ逸れてしまうでしょう。でも、王都は大きいですから外れたとしても王都のどこかに落ちるはずです」

「そうしてくれるか……。数はいかほど用意できるのだ?」

「数十というところですね。頑張っても100には届かないと思います」


 グラムさんが王宮に大きな丸を描いた。

 王宮は大きいからなぁ。1割ぐらいは当たるかもしれない。


「我等のフイフイ砲より射程が長いのだ。王都の中心部の攻撃を任せたいと思うが?」

「良いでしょう。ですが、マーベル共和国の予備をかき集めても500前後ですよ。攻撃範囲の広さから言って、かなりの魔族が残っているかと思います」


「少なくとも攻城櫓で城壁を越えることは可能だろう。攻城櫓にカタパルトを設けて、そこから爆弾を放っても良さそうだ。飛距離は200程度だが、フイフイ砲のようにただ爆弾を放つのではなく、目標を狙う事も出来るだろう。小型の爆弾も揃っている。上手く使えば白兵戦前に打撃を与える事もできそうだ」


 俺達の攻撃目標が定まったので、光通信機でマーベル共和国に有翼石火矢の増産を依頼しておく。

 ガラハウさんの事だから、100発近い有翼石火矢なら1カ月程度で作ってくれるんじゃないかな。


 ブリガンディ王国の王都の地図を開きながら、攻略方法を考える日々が続く。

 そんなある日のこと、グラムさんが関係国との教義の日取りが決まったことを教えてくれた。

 2日後の午後に政庁の会議室で行うとの事だ。貴族連合からの出席者は、予想通り兄上のようだ。副官1人を連れて来るらしい。


「明日にはこの館を訪れるとの事だ。東の王国からの出席者には、迎賓館を使って貰うつもりでいる」

「東の王国とはまだ腹を割った話が出来ないということですか……。間にブリガンディ王国がありましたからね。迎賓館なら向こうも悪い気にはならないでしょう」


 翌日の午後、兄上が馬車で館に到着した。

 姉上の結婚式以来だが、赤銅色に日焼けした兄上は精悍な武将そのものだ。


「マーベルからはレオンが来たのだな。とんだ事態になってしまったが、いまさらの話だ。王都陥落時に逃走できた者達もかなりいたようだが、貴族連合に逃れてきた者はいない。さすがに自分達のしてきたことを棚に上げることは出来ないと思っているのだろう」

「レイデル川にも部隊を張り付けているのですが、王都から難を逃れる者を見付けるより先に魔族の大軍を見付けてしまいました。その1報は兄上にも届いたと思っています」


「ああ、あれは衝撃的な通報だったぞ。直ぐに連合の主だった者達が集まり対策会議を開いたぐらいだからな。フイフイ砲やバリスタ、カタパルトの製造も始まったばかりだったが、直ぐに街道沿いに並べたほどだった」


 俺達の話をグラムさんが頷きながら聞いている。

 素早い行動を聞いて、さすがはオリガンと思っているに違いない。


「だが連中は王都を攻略した後、その門を固く閉じている。近付けば城壁から矢が飛んでくるからなぁ。各城壁に弓兵を1個小隊は配置しているようだ」

「あえて門から出るようなことはないと?」

「寡兵なのは知っているだろうが、まったく出てこんぞ。今のところ、我等は遠巻きに見るだけだ」


 やはり王都を魔族の拠点とするつもりなんだろう。

 大きいからなぁ。十分に魔族軍を収容できるだろうし当座の食料にも事書かない状況に違いない。

 とはいえ、王都の住民を食べ尽くす前に食料の補給をせねばなるまい。

 その時には、王都の門を開いて3方に軍を進めるのだろう。

 

「持って3月……」

「父上も同じことを言っていたぞ。少なくとも2カ月後には王都を攻略せねばなるまい」

「それについては、こんな戦を考えている……」


 グラムさんがテーブルにブリガンディ王国の王都の地図を広げて、軍の配置を兄上に説明を始めた。

 俺も知っていることだから、パイプを楽しみながら地図の上をすべるように動くグラムさんの指を眺める。


「なるほど……。確かに3割程度に被害を与えられるでしょう。中心部はマーベル国に任せるのですね?」

「マーベル国の兵器は我等の兵器を越えるようだ。とはいえ、寡兵であることも確か。最終的な北への魔族の追い上げは我等で頑張るしかあるまい」


 グラムさんの言葉に、兄上が笑みを浮かべて頷いている。

 自分の能力を思う存分使う場が出来たということかな?

 怪我でもしたら大変だと思うんだけどなぁ。


「東の王国もそれほど多くの軍を出すことは出来ないでしょう。東の城壁沿いにバリスタを並べて、火矢を撃ちこむぐらいは任せたいですね」

「小型の爆弾ならバリスタのボルトに括り付けられるに違いない。100個程進呈するつもりだ」


 爆弾がさらに拡散していく。

 品質的にはそれほど良くないから、俺達の爆弾を越えることはないだろう。

 火薬の調合の見直しは行わないのだろうか?

 比率を少し変えるだけで威力が増すのだが、それは教えないでおこう。


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