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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-028 食料を引き取りに行こう


 春分が近づいてきたが、村はまだ雪の中だ。

 春分の日に食料を運んできてくれるようにと、商人に頼んであるからそろそろ出かけないといけない。

 明日は出発ということから、朝から指揮所は賑やかだ。


「荷馬車は3台、ロバは5頭です。麓では雪はないかもしれませんが、とりあえず荷馬車の車輪にソリを付けました」

「俺とナナちゃんにエクドラさん、それとエルドさんが小隊毎参加してくれる。俺の部隊から1個分隊を出すから、戦力的には問題ないと思う。敵を見掛けたなら、隠れて逃げれば良いだけだ。それに、まだ雪があるから魔族の脅威は無いんじゃないかな」


 荷が多ければ兵士に持たせた魔法の袋も使えるだろう。

 穀物の袋が2つ入るとしても、80袋を持ってくることができる。馬車2台分になるんじゃないかな。

 荷馬車1台分は俺達の野営道具が載っている。

 まだまだ夜は底冷えする。ロバだって簡単なテントの中で休ませることになるだろう。


 「目的地まで3日だけど、余裕をもって5日前に出掛ける。春分の日に商人と合流できない場合は、その場で2日待つつもりだ。やってこない場合は、別途対策を考えるけど、それは戻ってきてからでも大丈夫だろう。

 早ければ10日後、遅くとも12日後には村に戻るよ」

「魔族の危険はないでしょうけど、お気を付けて……」


 翌日。早めに朝食を済ませると、直ぐに砦を発つ。

 2個分隊を先頭に、その後に3台の荷馬車が続く。荷馬車の後ろには俺とエルドさんが後ろに3個分隊を引き連れて歩くことになる。

 荷馬車の世話は後方の分隊が行うようだ。

 俺は後方の先頭を歩くことにした。

 ナナちゃんは俺の従者なんだけど、俺の前を行く荷馬車の荷台に乗っている。

 雪がまだ残る荒野だからなぁ。何度も転ぶよりは安心できる。

 結構寒いから、毛布に包まっているというより潜り込んでいるかんじだ。たまに顔を出して、俺が歩く姿を見て笑みを浮かべている。


「全員がこの長い杖を持つということになりましたが、確かに安心ですね。結構雪が深い場所があります」

「長時間歩く時には、杖を使うのが基本だと聞いたことがあるよ。杖は3本目の足になるということだった。

 だけど、この杖はもう1つ使い道があるんだ。戦闘時には、出発前に渡した短剣を縛り付けて槍にする。

 安物の短剣だけど、一応は鉄製だからね。突いても投げても叩いても使えるはずだよ」


「槍ですか……。それでこの長さなんですね。先端に切り込みが入っていたので不思議に思っていたのです」

「惜しくない槍というところだね。軽装歩兵なら一応槍の使い方も練習してるはずだ。期待してるよ」


 エルドさんが笑みを浮かべて何度も頷いている。「これが槍ねぇ……」なんて言っているところを見ると、あまり役立たないように思えるのかもしれない。でも短剣だから、突くだけでなく切ることも出来るはずだ。

 使う機会がないに越したことはないけど、使う機会があったなら結構使い出のある槍だと見直してくれるに違いない。


 春分が近いから日差しは結構強い。

 全員が雪眼鏡を付けているが、細いスリット越しに見る景色は案外まぶしく感じる。

 休憩は、なるべく日陰を探した方が良さそうだな。


 昼食は平たく焼いたパンが1枚と干し肉のスープだ。

 夕食も同じものになるのだろうが、あたたかなスープはそれだけでご馳走に思えてしまう。

 凍えた手足を焚火で温め、再び行軍を開始する。

 

 夕暮れ前にテントを張り、焚火を作る。

 雑木林の中だから、風も強くはない。食後は、カップ半分のワインが出てきた。

 お湯で割ってホットワインにして飲む。

 結構体が温まるんだよなぁ。ナナちゃんが飲みたそうに俺を見てるんだけど、さすがにナナちゃんには早いんじゃないかな。


 俺のテントはナナちゃんと2人だから、小さな物を用意してもらった。他のテントは数人が寝泊まりできる大きなものだから、ナナちゃんも間違えることはないだろう。

 夜の見張りは、軽装歩兵の連中が行ってくれる。

 俺も付き合おうとしたのだが、却下されてしまった。ありがたく厚意に甘んじよう。


 道が悪いし、雪が残ってるからかなり時間が掛かるかと思っていたが、雪が良い具合に道をなだらかにしてくれている感じだな。

 約束の地に到着したのは、3日目の昼過ぎだった。


「まだ砦の残骸が残ってますね。魔族の連中が焼いたようですけど……」

「あれだと、俺達は全員戦死扱いになっているかもしれないな。そう思い込んでいてくれると助かるんだが……」


 船で渡ってきた岸辺に立って、対岸の砦を眺める。

 1年ぐらい暮らしていたからだろうか。皆もじっと砦の残骸を見ている。


「あの砦で暮らしてた時は魚が食べられたにゃ。今度の村では食べられないのかにゃ?」

「上流だからねぇ。また違った魚がいるかもしれないよ。戻ったら試してみようか?」


 俺の提案に、ナナちゃんだけでなく、近くにいた連中も嬉しそうな表情をしている。そんなに食べたいのかなぁ。

 雪がまだ残っているけど、ひょっとしたら何か釣れるかもしれないな。

 バッグから釣り竿を取り出して、釣りを始める。

 しばらくはここで待つことになるだろうから、のんびりと釣りをするのも良いかもしれない。


「早速始めましたね? 私も持ってきたんですよ」


 俺の隣にやってきたのはエルドさんだった。犬族なんだけど、釣り好きなんだよね。

 

「まだ早い気はするんですが、やってみないとわかりませんからね」


 ハムをちぎって餌にする。

 もう少し暖かくなれば河原の石を持ち上げると虫がいるんだが、この季節だから望むべくもない。

 

 とりあえず適当に流れに仕掛けを振り込んで、川の流れで下流に移動する浮きを眺める。

 竿いっぱいに仕掛けが伸びたら、竿を上げて上流に仕掛けを投入する。

 何度か繰り返していると、浮きに当たりが出てきた。

 魚が寄ってきたのかな?

 ちょっと期待してしまうな。思わず笑みが浮かんでくる。

 

 突然浮きが水中に引き込まれた。竿を持つ左手を返すと竿にぐいぐいと魚の引きが伝わってくる。

 かなり大きいんじゃないか?

 下流に移動しながら岸辺に近づけて、最後は一気に河原にごぼう抜きにした。

 パタパタと騒いでいる魚に、ナナちゃんがそうっと近づくと、矢を魚に『エイ!』と突き刺した。

 途端におとなしくなったから、あれで仕留めたということになるんだろう。

 

 ネコ族のお姉さんに頭を撫でられて喜んでいるようだけど、焚火に持っていったようだ。ちょっと焼くには大きすぎる気がするんだけどなぁ……。


「川マスですね。上流部にいると聞いたことがあるんですが、水が冷たいこの季節には降りてくるんでしょうね。あれを見たらやる気が出ます」


 そう言って、エルドさんが少し上流に移動して竿を出す。

 1匹だけではなぁ……。せめて、数匹釣れれば良いんだけど。


 夕暮れまでに釣れた川マスは4匹だった。それ以外にも小さな魚が釣れたけど、これはナナちゃん達が焚火で焼いて美味しく頂いてしまったから、何匹釣れたのか誰にもわからない。10匹は超えていたように思えるんだけどねぇ。


 夕食に出た平たいパンには、川マスの身を解してバターで炒めたものが挟まれていた。

 塩味が良い具合だ。お代わりをしたいんだけど、釣れたのが4匹だけだったからなぁ。

 ナナちゃんが笑みを浮かべてパンを食べているのを見ると、明日も頑張ろうかという気分になってしまう。


 食後は、カップに半分ほどのワインが出た。

 量は少ないけれど、獣人族は酒にそれほど強くはないし、俺だって強くはない。

 これで十分に酔えるんだよね。

 焚火を囲んで談笑していると、夜がすぐに更けていく。


 翌日目が覚めると、川に行って冷たい水で顔を洗う。

 すでに、エルドさんが釣りを始めているようだ。昨日よりも少し上流で竿を振っている。

 始めるにしても、食後で十分だろう。昨日より数が出れば良いんだが……。


「エルド隊長は暗い内から始めたにゃ。レオン殿はまだやらないのかにゃ?」

「朝食を済ませてからにするよ。それに周辺の状況も確認しておかないと……」


 残念そうな顔をしてるけど、俺達は釣りに来たわけではない。

 分隊長達を焚火に呼び寄せて、周辺の状況確認の役割分担を伝える。

 危険はないと思うが、用心に越したことはない。


「焚火の煙は遠くからでも確認できると思いますが、このまま焚いて良いのでしょうか?」

「いくつも焚火を作るなら、大軍の襲来と思うかもしれない。でも1つなら、猟師だって作るはずだ。不審に思うなら物見を派遣するだろうけど、騎馬兵が数騎というところだろうね。交戦することになっても1個分隊は弓が使えるからね。どうにでもできるよ」


 俺直属の銃兵も1個分隊いるのだ。5人ずつ交互に撃てば接近することはできないだろう。

 それに焚火の煙は、約束した商人に俺達が来ていることを知らせることも出来る。

 半信半疑で付き合う商人もいるに違いない。煙を見たなら、俺達が約束を違えないことが分かって安心してくれるだろう。


 河原に出て釣りをしながら1日を過ごす。

 昨日は2人だけだったけど、川下にも1人竿を出しているようだ。

 昨日の夕食を思い出して、思わず唾を飲み込む。

 

 小さな魚が釣れたので、獲物を受け取りに来たナナちゃんに渡していると、ネコ族のお姉さんが走ってきた。

 何かあったのかな? 竿を担いでお姉さんのところに歩いていくと、俺の前で立ち止まり息を整えている。


「何かあったのか?」

「ハァハァ……、荷馬車が何台もやってきました。先を歩く数人は武装しています」


 約束通りやってきたようだ。向こうもこの場所に到着するのを約束の前日としていたんだろうな。

 相手を待たせないというのは、商人の心がけの基本らしいけど、それを行うのはなかなか難しいと聞いたことがある。


「やってきたらテントに案内して欲しい。武装しているのはレンジャー達だろう。彼らには焚火の傍が良いだろうな。残ったワインを少しご馳走してあげれば十分だ」


 釣り竿をたたむ様子を見て、岸辺で焚火を囲んでいたネコ族のお姉さん達ががっかりした表情をしている。

 竿を貸してあげようとしたんだけど、釣るのは好きじゃないようだ。釣れた魚を炙って食べるのは大好きなんだけどなぁ。


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